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第391号 働きやすい職場環境づくりを通じて現場のモチベーション向上につながる取り組みとは ~KPIでセンターの残業削減も徹底~(後編) (2018年7月12日発行)

執筆者  大久保 尚彦
(株式会社きくや美粧堂 サプライチェーン部 部長)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1994年 明治学院大学卒業。 同年、滝川株式会社入社。
    • 2015年、株式会社きくや美粧堂入社。
      物流部門で、2017年の同社East Logistics拡張移転などを担当し、現在に至る。

 

目次

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*サカタグループ2018年2月20日開催 第22回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回「働きやすい職場環境づくりを通じて現場のモチベーション向上につながる取り組みとは ~KPIでセンターの残業削減も徹底~」と題しまして、事例等を交えて講演いただきました「株式会社きくや美粧堂 サプライチェーン部 部長 大久保 尚彦」様の講演内容を計2回に分けて掲載いたします。
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*前号(2018年6月19日発行 第390号)より

5.KPI分析による実践と結果

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  弊社の倉庫では、KPIについて、既存で107項目を取っています。それに加えて季節や年度の目標によって内容を変えたりしています。
  数値化することによって一番何に繋がるかと言うと、もちろん結果が出ると言うこともありますが、社員一人ひとりの目標意識、モチベーションが大きく変わると思います。数値化していないと、「今日の受注が来たな、出荷したな、終わったな」と毎日が流れていくだけ、それが仕事という意識になってしまうと思うんですね。今季の目標としてこうしよう、この部分はこうしよう、この部分はこうしよう、ということを全て数値で表すことによって、その目標に向かって、それぞれのグループなり部門全体が進んでいくということが非常に大事で、それが最終的に良い結果を生んでくるということです。
  KPIの項目は大きく分けると、コストの部分と生産性(各工程の人時生産性、一人当たり1時間でどれだけの数ができるのか)、品質、精度をとっています。また、クレームや不良品の発生率、ミス率、この辺りも取れる部分は全て数値としてとっています。
  あとは作業者の定着率、その作業レベルをとっています。その人が各工程においてどのレベルにいるか、また逆に、「今年この作業についてはレベル3までの人を何人作るか」といった風に、数値で目標設定をしています。細かく説明するとかなり複雑になってしまうので大雑把で申し訳ありませんが、だいたいこういう項目を細かくKPIとして取っています。
  ただ、手作業で数値を取っているところが多いので、これを取り始めて、これにかかる時間というものをかなり費やしているのが事実です。

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  では、このKPIの数値から、具体的にどういうことをしてきたかということについて、この中から8点を発表させていただきます。項目は、VOICEシステムの導入、人時事生産性向上キャンペーン、そして梱包資材最適化プロジェクト、マニュアルの統一化、残業削減への取り組み、定着率アップへの取り組み、オリジナルマテハンの開発、それと美粧ラッピングという8項目になります。

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  まず、VOICEシステムの導入ですが、これは5年くらい前から導入しています。背景としては、多品種少量出荷、小口化していること、それと運送会社さんの36協定の話が出てきて、集荷の時間・出荷するまでの時間が短くなってきていました。そこで、とにかく生産性と精度を向上して、できれば残業も削減していきたいということで、このプロジェクトを発足しました。プロジェクトは若手の育成ということも含めて若いメンバーで構成し、元々のシステムのカスタマイズの部分はこのメンバーを中心に、どうしたら効果が高まるかと言うことを追求していきました。
  結果として、ペーパーレス化、ハンズフリー、それと生産性についてはピッキングでは約30%位アップしています。また作業の平準化がされ、人員のコントロールが非常に楽になったということがあります。あとは紙などを持ち歩かないので、見た目にも倉庫内がスタイリッシュなイメージになりました。音声システムについてはvocollectさんの音声システムを導入していまして、実はその紹介事例の動画で弊社での導入の様子を使っていただいています。

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  次は、人時事生産性向上キャンペーンについて、これはおととしの8、9月に実施しましたが、繁忙月のキャパオーバーと未出荷を防ぎたいということ、それと作業者にも生産性の数値を共有していこうということで実施しました。
  これは、PICとPAC、ピッキングとパック(検品して梱包)の人時生産性について全体の目標値を決めて、日々の数字を常に表示、個人の数値は半年ごとに上位者のみ掲示と表彰を実施しました。表彰については、1位、2位、3位の作業者へはクオカードをプレゼントしました。人時生産性というものを取っているんだよということを、作業している人一人ひとりに意識してもらうように取り組みました。
  結果としては、PICについては、既に音声システムを導入していたので、あまり大きな効果、数字ではありませんが、上昇が見られました。特に上昇したのがPACの方で、前年比較でかなり数値が上昇しました。ただ、PACについては、人によって3倍くらいの差が出ており、先ほどの平準化ということからすると、逆行してしまっているというのが当時の状況でした。ひとつ新たな課題として生まれてきたということです。
  梱包資材最適化プロジェクトは、前期1年間のプロジェクトとして実施してきたのですが、効果が大きく出た項目です。弊社が使っている梱包資材、ダンボールだとかテープだとか緩衝材など、色々なものに関して、コスト、品質、スピード、負荷軽減、サービス、それぞれの角度から、今のきくやにとって一番最適な梱包資材を追求しようということで、目標の数値として、年間1,200万円のコスト削減を掲げてスタートしました。
  アクションとしては、テープだったり、ダンボールも色々な種類のものを試してみたり、また一部ダンボールをやめてオリコンや袋にしたりなど色々なところを変えていきました。結果としては、コスト削減額が4~12月の9ヶ月の時点で2,000万円を超えました。

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  それと、クリスマス用のダンボールというものを、この時から始めました。これはサービスの部分ですね。初めての試みでしたが、お客さんから「なんだかほっこりした、うれしかった」というようなSNSの投稿を結構たくさん頂き、そういった感覚的な部分で良い評価をいただけたかなと思っています。また、予想していなかった効果ですが、破損がかなり減りました。やはり外装に絵柄を入れるとギフト的なイメージになり、運送途中の荷扱いが良くなるのではないかなと思います。

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  マニュアル統一化プロジェクト、これも前期実施したものですが、今まで各作業のマニュアルが古いものだったり、そのマニュアルがどこにあるか良くわからない等、とにかく散在している、社員が人によって言っていることが違うという声がアルバイトの方からも聞こえるという状況がありました。
  このため作業者それぞれの作業レベルが把握できず、スケジュールを組んだりだとか、業務のトレーニングもうまく計画できないということで、マニュアルの統一化ということを実施しました。これも3~4人くらいを中心に、部内のプロジェクトとして1年間のスケジュールで実施しました。まずは洗い出しから始まり、書式だとか文字、画像の統一などすべて行いました。
  結果としては、9ヶ月程で約450ページの統一したマニュアルを作成できました。12月位に完成したので、1月くらいから作業者へのトレーニング、クロスファンクショントレーニングをスタートすることができました。各作業者のレベルが把握でき、レベルアップを計画的に実施することができました。

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  マニュアルは、文字ばかりを多くせず、絵だったりイメージを重視して作りました。実際のマニュアルの一例ですが、このミルフィーユ梱包というのは、とにかくケーキを箱に入れるように丁寧に入れましょうと意識してもらうために、弊社内で名づけた梱包の仕方です。
  これは商品を重ねる梱包になるので、当然破損する可能性が出てきます。それをミルフィーユを例にとって、崩れないような梱包をしましょうというように、絵やイメージで説明がされています。

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  それと残業削減への取り組みということで、これも1年間の計画として、前年比15%削減を目標にスタートしました。
  この取り組みで大事なことが、KPIをはじめ、色々なデータが事前にあるという前提があることですね。それに基づいて、出荷量の予測だとか人のコントロール・配置ができるということです。データが無いと、人員配置をするにしても、作業をするにしても適当になってしまいます。データに基づいて人員の配置だったり、作業のコントロールをしていくということができるようになって、はじめて15%の削減目標の設定、実行ができました。
  結果としては、その年は前年比25%の削減ができました。また、削減したことによって、作業者の定着率や職場環境への満足度もアップし、色々な相乗効果も出てきています。

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  この取り組みは会社の中でも評価されました。年に1回、全社社員が集まる製作発表会という会議があるのですが、なかなか物流や内勤の部分は表彰されにくい立場にあるなかで、この年は3個表彰を受けることができました。

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  定着率アップへの取組みということで、先ほどの残業削減ともリンクしてるのですが、生産性や品質をアップさせるためには、とにかく定着率を上げたいということがありました。
  これは2年位前からの取り組みですが、アルバイトさんの募集は、周辺に色々な会社さんがありますので、競争になりがちです。時給や福利厚生、あとは最近は、3ヶ月勤務が継続したらいくらのボーナスが出る、入社時に祝い金が出る、のようなことを打ち出して募集してる会社さんが多いと思うのですが、弊社はそういった点で競争に加わらないでおこうと考えました。競争に加わると、何ヶ月か経って、別の良い条件が出たらそっちに移ってしまう、その繰り返しになってしまう。それよりも、とにかく定着してくれる人達をとろうということで、募集の戦略を変えました。
  去年は定着率66.9%という数値でした。まず戦略として、言いにくい環境を打破し、多少不平不満の出る職場環境にしていこう、アルバイトさん達も含め、皆がもっと言い合えるような環境を作っていこうということから、アルバイトさんの表彰制度、グッジョブ表彰というものを実施しています。
  それと、美容商品については興味を持っている女性の方も多いので、仕入先の各メーカーさんに協力していただいて、商品の勉強会だとか体験会を実施しています。レクリエーションとしては、ここのところ、夏は必ずバーベキューを実施しています。あとは、TRCさんの桜祭りという年1回のイベントにも参加しています。去年はワインパーティなども行いました。飲み会が特に多いかなと思いますが、こういったイベントなども実施しています。
  こういった取り組みの結果、現状は今期目標の80%を超える数値で推移しています。また、グッジョブ表彰を行うことによって、ほめる環境が芽生え、それが作業の中での協調性にも繋がっていると感じています。
  また、バーベキューを夏休み前の最後の日に行うことになってから、職場が活気づいたと感じています。夏休み前の期間は2週間分の注文が来たりなど一番忙しい期間なので、以前は途中で帰られてしまったり、最後の日などは皆下を向いて仕事しているような雰囲気だったのですが、バーベキューを行うことになってから、これを楽しみにしてくれていて、残業になっても最後までいてくれてたりだとか、最後の日も皆、活き活きした雰囲気ができていたと感じられます。

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  それとオリジナルマテハンの開発ということで、自社の倉庫に合ったマテハンを作っていきたい、それと現状で女性が全体の70%を占めていたり、年配の方も増えていますので、そういう人たちでも使いやすいもの、そして生産性の向上であったり、安全性、作業負荷、この辺りをキーワードとして開発をしていきたいと考えました。今までいくつか開発した中で、今回は2つ紹介させていただきます。

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  まずピッキング用カートの3SlimCART(スリームカート)です。通常、倉庫のピッキングカートというのは、大きい台車の上についているような、女性にとっては少しごついものが多いと思います。女性向けのカートと考えたとき、ショッピング用のカートは皆さん使い慣れているので、それを改造してなんとか作りたいということで、3段式の、また、通路が狭いので、スリムなカートというものを作りました。ショッピングカートを改造しているので、収納もスペースをとらず、なにしろ軽く、使いやすいというのが一番の利点だと思います。
  それと右側がチャージ(棚詰め)用の台車です。これはバネ式のレベラーがついています。皆さんも普段感じていらっしゃるかと思いますが、倉庫作業で一番辛いのは、棚の下のものを取るときの腰の負担かと思います。この台車はレベラー()がついていることで、その負担がありません。
  更にその台車に脚立と、棚詰め作業で出る空きダンボールを収納できるマチをつけました。これは3日くらいずっと考えてネーミングしたのですが、脚立の「きゃ」、台車の「しゃ」、スプリングの「りん」で、「きゃしゃりん」、華奢な女性でも凛とした姿で仕事が出来ますよという意味で「華奢凛」とつけています。名前を付けることによって、結構皆愛着を感じてくれるため、興味を持ったりだとか、大切に使ってくれることを狙い名前をつけました。
  最後に、美粧ラッピングについては、物流の5大機能、6大機能の中の物流加工について、物流加工で付加価値を創造していく取り組みです。

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  我々はサロンさんがお客様なので、我々の物流を進化させることによって、美容室の収益向上に貢献したいというのが私の一番のポリシーです。これを会社の中で言ったところ、そこまでは言い過ぎだといわれてしまいましたが、昔から、産業をはじめ、古今東西、経済、国、町も、物流の進化があって初めて繁栄すると思っています。そして美容の業界も、もちろん進化はしていますが、より進化させることによって、最終的には美容室の収益、売上に貢献できることをしていきたいということの一つとして、この美粧ラッピングをスタートしました。

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  ギフト商品は美容室に限らず需要が上向きなので、ギフト用のボックスやラッピングサービスをしています。オリジナルのボックスを作って、そのなかに商品をラッピングした状態で納入させていただくという流れです。
  昨年の12月に第1弾をスタートしましたが、結果は今一つ目標としていた結果までは至らず、「・・・」といったところでした。ただ、関心を示す美容室さんも非常に多かったので、今後この部分に関しては期待して力を入れていきたいと考えています。

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  取り組みの紹介は以上になります。今後の課題ということで、色々あると思いますが、まず先ほどの宅配の件です。既に進めていますが、運送会社さんの分散化というか、選択肢を増やしているところです。配送は自社でも実施しつつある部分もありますが、色々なパターン、色々な時期に対応するには、まだまだ運送会社さんに頼らなければならないので、そういった形で構築しています。また、言うよりなかなか難しいことですが、顧客への運賃請求も徐々にできればと考えています。
  それとサプライチェーン化ということで、サカタさんの楽々倉庫の件もあると思いますが、業界全体の中でサプライチェーン化することによって、ディーラーもメーカーもサロンさんも色々なメリットが出せるのではないかと考えています。色々考えていることはありますが、やはり自分の会社だけではないこと、実践するには時間や費用がかかるので、徐々に進めていきたいと考えています。
  それと雇用や働き方の部分ですね。先ほどの定着率を更にアップさせるため、とにかく働きやすい環境を作り、長く働いてくれる人をどれだけ作るかということをより追求していきたいと考えています。今は外国人の方はいないのですが、今後機会があれば働ける方を採用して、チャレンジしていきたいと思います。誰でも出来る作業・安全性の確保、ということを一つ一つの作業で取り進めて、色々な人が働ける職場を作っていきたい、あわせて福利厚生の充実もはかっていきたいと考えています。
  最後にロボット化ということで、労働者不足の時代になっていきますので、先ほどの搬送ロボットをはじめ、今後徐々に慣れていきながら弊社の倉庫の中で活用できる部分を見出して導入していきたいと考えています。これが今後の課題になります。
  以上です。ご清聴ありがとうございました。

以上



(C)2018 Naohiko Okubo & Sakata Warehouse, Inc.

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