ロジスティクス・レビュー

第388号 在庫管理と経営戦略 第2回(前編) (2018年5月22日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

目次

  荷主から見た「在庫管理と経営戦略」の連載が、2017年2月9日(第357号)からスタートした(はずであった)。
  その後、「特別積合せ運送」「軽トラック」「卸売市場」などトレンディなテーマに寄り道してしまった。第1回から既に1年以上経過してしまったが、改めて連載を続けようと思う。
  第1回では、
「1.在庫管理でコスト削減~JILS物流コスト調査から」
「2.経営における在庫管理の重要性」
「3.在庫削減によるCCC短縮」
「4.在庫が企業を食い潰す」
「5.在庫管理の事例」
を説明した。詳しくは、バックナンバーでご覧頂きたい。
  第2回以降は、もう少し各論について述べたい。一部、第1回と重複する部分があるかもしれないが、ご容赦願いたい。

1.はじめに

(1)現場改善のテーマ

  現場改善のテーマとしては、図表1のようにP・Q・C・D・S・Mが挙げられる。テーマ選択の順序がこの通りでないことは言うまでもない。
  物流については、Dとして取り上げられることが多い。在庫管理もDに含まれる。
  サービスは、強いて言えばQ(サービス品質)であろう。

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  製造業における不祥事などもあり、最近では、これにコンプライアンスが追加されることが多い。コンプライアンスは“C”で始まるので、コストと混同してしまう。そこで、L(Law)として、追加されている。
  建設機械メーカーでV字改革を成し遂げた元社長は、「経営で最重要なのは、SとL」と断言している。CやDが、決して万能の経営改善・現場改善テーマではない。筆者が訪問した大手石油メーカーでも「グループ安全理念」として、「わたしたちは、すべての事業活動において、『安全』と『コンプライアンス』を優先します」と、各所に掲示していた。
  しかし、これらは、バラバラではなく、みんな繋がっており、この中の一つが悪いとすべてに影響を与える、という傾向がある。
  在庫管理においても、筆者は「過剰在庫の発生」「不動在庫の発生」「欠品の発生」を、後述のように「在庫三悪」と言っているが、それらは一連の事象であり、在庫管理にとどまらず、「生産性の低下」「品質の低下」「コストの上昇」「納期の遅延」などに影響を与えていることが多い。

(2)ロジスティクスと在庫管理

  ロジスティクスとは、言うまでもなく販売・生産と物流を統合して、全体最適化を目指そうという考え方で、「調達物流」「社内物流」「販売物流」、さらに、「静脈物流」を一貫して、マネジメントしようということである。
  従来の狭い範囲の販売物流だけなく、顧客を起点として、購買・生産、そして販売や物流といった、企業活動の全てに働きかけて行くのがロジスティクスである。
  企業の枠を超えて、原材料から最終の顧客までの、一本の長いルートにおいてマネジメントを行うのがサプライチェーン・マネジメント(SCM)であり、その媒介になるものが「在庫」である。
  手前味噌ではないが、「在庫」を通じて一気通貫で管理して行こう、「在庫」によって、生産・販売・物流を動かして行くのが、ロジスティクス・SCMの考え方と言って良い。SCMという川上から川下への流路の中を、商品が滞ることなく流れていくには、商品を過不足の無い状態に維持する「在庫管理」の機能が、重要である。
  物流・ロジスティクス・SCMの関係・構成を、筆者なりに考えて図示したのが、図表2である。

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  図表の下方には、物流の6機能が描かれており、それが物流からロジスティクス、そしてSCMへと上に向かって発展していく。SCMの基礎にはロジスティクスが、ロジスティクスの基礎には物流がある。逆に言えば、SCMやロジスティクスを構築するには、その足腰である物流の各機能を鍛えておかねばならない。

  在庫管理の基礎のうち、「在庫管理の重要性と狙い」については、第1回で述べたので、第2回では、「在庫管理の基本」について述べることにする。
  残念ながら、読者の期待する「在庫削減の具体策」は、もうちょっと先に譲りたい。

2.在庫管理の基本

(1)在庫管理のPDCA

  在庫管理も他のカイゼン同様に、PDCAのサイクルを回す。具体的には、以下の通りである。

①P(Plan)で「在庫基準」(適正在庫量・安全在庫・発注量・発注サイクルなど)を設定する。詳細は後述するが、自社は在庫にどのくらいの費用を掛けることができるかという、財務的な「在庫投資」の許容度・限界からも制約される。
  さらには、総資産に占める棚卸資産の比率、在庫期間、在庫回転率等のKPIを、業界平均やライバル企業と比較するベンチマーキングも有効である(KPIを把握していないというのは、論外である)。

②D(Do)で、それを運用する。具体的には、発注や入庫・検収、そして保管・ピッキング・出庫のそれぞれの作業を、確実に行う。言うは易く行うは難しである。
(注) 入荷と入庫、出荷と出庫の違いはご承知と思う。ここでは、「在庫管理」がテーマなので、「入庫」「出庫」という用語を用いることにする。

③C(Check)では、その結果(できばえ)を確認する。つまり、在庫調査「棚卸」である。これは、会社の財務会計上でも重要な業務である。
  そして、次のカイゼン行動に移る。

④A(Action)では、「リードタイム」「発注サイクル」「ロットサイズ」などを見直し、次のP(Plan)に結び付ける。

  このPDCAのサイクルが巧く回っていれば、何の問題もない。

(2)入庫・出庫・在庫の概念

  D(Do)における「入庫・出庫」が、「在庫管理」の基本業務である。
  倉庫は、言ってみれば水を一時蓄える「水槽」で、上の蛇口をひねると、水が出て水槽に溜まる。上の蛇口から「入庫」して来る。
  下の蛇口を開けると、水槽の水は流れ出て行く。これが「出庫」である。
  水槽に溜まっている水が「在庫」である。
  「在庫」が多すぎて水槽が溢れそうになれば、別の水槽を用意する、つまり外部に倉庫を借りなくてはならない。
  逆に、水槽の水がカラになれば「欠品」である。
  ここで、重要なのは、「下の蛇口(ユーザーの需要)は、社内の誰にもコントロールできない」ということである。どんなワンマン、カリスマ経営者であってもユーザーの需要・欲求は支配できない。また、ライバル企業・商品があるので、供給に需要を合わせることもできない。
  ダイエーの故・中内氏は、下の蛇口である消費者の欲求(ユーザーの需要)を起点に、メーカーの価格支配・供給統制に対して、「流通革命」を挑んだ。その後も、GMS・CVS・DSなどが流通を変革し、今ではアマゾン等のネット通販が流通ばかりか製造まで支配しようとしている。
  「『在庫管理』は、『入庫』の『量』『時期(タイミング)』だけをコントロールすることである」と言ってもよい。

(3)在庫管理の目的

  それでは、在庫管理の目的とは何であろうか?

①「原価(コスト)の引き下げ」
  仕入価格・調達費・保管費用・管理の手間などの低廉化である。ボリューム・ディスカウントということも考えられる。

②「サービスの向上」
  主として、欠品をさせないことである。
  企業としては、まずお客に対するサービスレベルを向上させることによって、「他社より」も競争優位に立つことができる。納期や生産期間の短縮もサービスの向上に大きく影響する。生産期間の短縮については、「流動数曲線」の活用も後述する。

③「運転資金の減少」
  在庫はカネであり、カネが在庫という形に姿を変えて寝ているのであるから、在庫が少なければ、運転資金も少なくてすむ(物流業者が倉庫や物流センターで預かっているモノは、モノでなくて、モノに姿を変えたカネである)。

(4)在庫管理における顧客サービス

  最近では、上述の①~③のうち、②の「サービス向上」が重視されている。いくら、コストや運転資金を節約しても、売れなければ「元も子もない」ことになる。
  在庫にかかわる顧客サービスとしては、以下の項目が挙げられる。

①アベイラビリティとリードタイム
  アベイラビリティ(Availability : 有用性)というのは「利用可能性」、つまり顧客の必要とする商品を在庫しておいて、「すぐ利用できることを保証しよう」ということである。いくらコストパフォーマンスに優れた「高品質・低価格」な商品でも、欲しいときに手に入れられなければ、画に描いた餅である。
  コンビニで欠品を恐れるのは、商品が無ければ、お客はすぐ、よそのコンビニに行ってしまい、戻って来ないからである。「売り逃がし(機会損失)」は、その一品だけでなく、「あの店は欠品している」と店舗のロイヤリティにも響く。
  ネット通販などが「当日配達」で競争しているのも、過度のアベイラビリティ競争と言えよう。
  当日配達と書いたが、顧客サービスにおけるリードタイムとは、「顧客が待ってくれる許容時間」と言っても良い。リードタイムの考え方については後述する。

②配送の信頼性
  冒頭のQ・C・D…の”D”Deliveryであり、ロジスティクスの7Rである。
  Right Product(正しい物を)
  Right Quantity(正しい数だけ)
  Right Place(正しい場所に)
  Right Time(正しい納期に)
  Right Quality(よい品質を維持しながら)
  Right Price(なるべく安い運賃で=Reasonable)
  Right Impression(よい印象でお届けすること)

③受注ロットサイズ、納入時間の指定
  小ロットの受注にどこまで対応するか、また、ジャストインタイムに納品してほしいという要求も多い。

④在庫管理システムの柔軟度
  例外的な特別受注や、緊急納品といった要求に、どの程度対応するかということである。

⑤在庫情報の提供
  顧客からの在庫に関する問合せに対して速やかに回答できるということである。最近は、ネットで商品在庫をオープンにしている企業もある。
  オムニチャネルの場合は、店舗在庫・ネット在庫の両方の在庫情報を把握・提供することがキモになる。

  顧客からサービスレベルを向上してほしいという要望も強い。問題はそれによって、諸コストがアップしてしまうことである。
  サービスレベルとコストは「トレードオフ(二律背反)」(板書する)の関係、つまり、「こちらを立てれば、あちらが立たず」という関係にある。
  顧客サービスは、重要な経営戦略ではありますが、いくらお客さんの要求だからといって、過剰なサービスによって、利益を食ってしまうようでは、そのサービスは見直す必要があると思う。

(5)アイテム(品目)とSKU

  ここで、アイテムとSKUについて説明したい。
  アイテム(Item)とは「品目」のことで、売上区分の品目を言う。例えば、「ミネラル・ウォーター」あるいは「烏龍茶」などが、一般的にはアイテムである。
  一方、SKUというのは、Stock Keeping Unitのことで「在庫管理単位」を指す。単品管理はSKU管理で、アイテム管理ではない。
  ミネラル・ウォーターや烏龍茶には、同一アイテムでも内容量によって、350㎖、500㎖、1ℓ、2ℓなどがあるが、これがSKUである。実際にはアイテムとSKUを明確に区分せず、SKUを「アイテム」と呼んで管理する場合が多い。
  衣料品、例えば靴下などでは、色(黒・紺・茶・灰)・サイズ(24~28cmまで、0.5cm刻み)・柄(縦縞・格子縞・無地)・入り数(3足1セット、10足入り)など、在庫する単位は細かく区分されているが、これがSKUである。
  食料品・飲料品などでも、製造ロット(製造日)がSKUになっている例が多い。ビールも鮮度を重視して、10日(旬)単位で管理されている。
  従来は、受入商品の日付が逆転(前に入荷したものより古い日付の商品が届く)すると、WMSの入荷システムで弾かれて荷受拒否となる。それでは、余りに鮮度志向が強すぎると、賞味期限表示を「年月日」から「年月」に移行して、食品ロスを減らそうという動きが出てきたのは、資源の有効利用という点からも望ましい。

(6)リードタイム

  「リードタイム」とは、受注から納品まで、どの位時間がかかるかということで、リードタイムの短縮要請に応えなければならない。
  リードタイムについて、JISでは以下の二つの定義がある。

①リードタイム(lead time)
  発注してから納品されるまでの時間。調達期間ともいう(素材が準備されてから完成品に至るまでの期間)。もし、納品時に検収を行い、良品しか受入れないとすると、「検収に必要な期間」もリードタイムに加える必要がある。

②生産リードタイム(production lead time)
  生産の着手時期から完了時期にいたるまでの期間。一般的には、「原材料」を生産工程に投入してから、「製品」としてラインオフするまでの期間を言う。
  原材料の調達期間は、「調達リードタイム」と言うが、多くの企業では「生産リードタイム」に比べて、「調達リードタイム」の改善は遅れていると言って良い。
  ①のリードタイム日数は、次の納品(入荷)までに、何日(回)の出荷があるかという日(回)数が、実務上はたいへん重要になる。ここを間違うと、納品(入荷)の前に出荷が行われ、「欠品」という事態が発生してしまう。

※後編(次号)へつづく


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