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物流品質

第369号 物流作業改善事例 (2017年8月10日発行)

執筆者 平野 太三
(有限会社SANTA物流コンサルティング 代表取締役社長)
-物流改革コンサルタント Dr.SANTA-

 執筆者略歴 ▼
  • 主な経歴
    • 昭和61年 甲南大学法学部卒業
    • 同年 ユーザックシステム株式会社入社
      物流担当システム営業として100社を超える物流現場分析に携わる。
    • 平成12年 Dr.SANTAのネーミングで物流コンサルティング(物流コスト削減、物流指標の作成、物流サービス向上、物流プロジェクトの運営)を開始。
    • 平成15年にユーザックシステム株式会社を退社後、有限会社SANTA物流コンサルティングを創業。
    • 講演回数年間50回。(講演受講者数10000人突破)
    所属団体
    • 日本物流学会正会員
    主な論文、著作
    • 「3ヶ月で効果が見え始める物流改善【現状把握編】」(㈱プロスパー企画)等
    • 包装タイムス、物流ニッポン、マテリアルフロー等で「Dr.SANTAの物流講座」の連載を行う。

 

目次

1.物流作業改善の視点

①物流作業改善のポイント

  物流改善の大きなテーマとして、「物流人件費の適正化」がある。これを実現するためには、「物流社員比率の適正化」「物流作業効率の向上」「物流作業稼働率の向上」を推進しなければならない。

②物流社員比率の適正化

  物流社員の仕事には物流作業と物流管理がある。物流作業は入荷、ピッキング、出荷検品、梱包、流通加工等がある。物流管理は物流メンバーへの教育、物流作業手順の見直し、倉庫のレイアウト変更、物流システム導入、他部署との調整等がある。物流管理を行うことにより、物流改善を推進することができる。
  しかし、私が物流現場を訪問すると、物流社員が単純な物流作業を行っており、物流管理をほとんど行っていない企業も多い。物流社員はパートよりも人件費が高く、会社が負担している社会保険等を加算すると時給で約2~3倍の格差がある。同一労働、同一賃金が原則のため、社員は何か付加価値がなければならない。社員が単純な物流作業を行っているのであればその原因を分析し、物流作業を標準化することにより物流社員比率を低減させることができる。

③物流作業効率の向上

  物流作業効率を上げるには、色々な無駄を省かなければならない。「待つ無駄」「考える無駄」「探す無駄」「移動する無駄」「取る無駄」である。物流現場では1秒単位の無駄は数えきれないくらい多い。
  それぞれの例をいくつか挙げてみると、「待つ無駄」=「ピッキングリストが出て来るのを待つ」「棚欠品をしておりバックヤードからの補充を待つ」。「考える無駄」=「どの順番でピッキングをするか考える」「梱包する箱サイズを考える」。「探す無駄」=「商品の置き場所を探す」「コンピュータ在庫があっていないため、出荷指示があれば商品が無くても探す」。「移動する無駄」=「棚が横長のためぐるっと回る」「商品を取りに倉庫の端から端まで歩く」。「取る無駄」=「高い場所にあるため台を取りに行く」「商品が奥にあり取りにくい」。
  この様に5つの無駄を順次解決すれば、作業効率は上がる。

④物流稼働率の向上

  物流作業時間の短縮は、作業効率向上だけでは解決できない。企業は物流パートの時給をおさえたいため、できるだけ安い時給で採用をしようとする。しかし、昨今の人不足の問題もあり、低い時給だと物流現場で採用されるパートの質は低下する。また、物流管理者はぎりぎりの人数だと物流変動等による不安があるため、想定した物量よりも多めに人員配置をすることがある。
  パートは本来であればまかされた仕事が終わると次に何をしたら良いかを物流社員に聞けばよいのであるが、頑張っても頑張らなくても時給が同じであれば、ゆっくりと仕事をすることになってしまう。また、聞こうとしても物流社員が仕事を忙しくしていると聞きづらいこともある。そこで「適正人員の配置の検証」と「物流社員によるタイムリーな作業指示」が必要になる。

2.物流作業改善の課題

①企業の物流作業改善の現状

  改善の必要性を感じていても、現実は厳しく物流改善に時間を取れないことも多い。物流メンバーが不足しているため、繁忙期になれば残業で何とか対応している企業も少なくない。その原因は、「社員不足」と「パート不足」のダブルの問題である。
  バブル崩壊後に企業存続をかけて、最低限必要な物流社員まで削減してしまった企業も多い。社員定年後の嘱託社員の力を借りて何とか物流を回しているがその人がやめたら物流がストップしてしまうという話もよく聞く。このままでは駄目だと思ってもなかなか手を打てないのが現状ではないだろうか。
  また、作業効率の把握ができていない問題もある。作業効率を把握していなければ作業効率が悪化してもわからないため、改善の手を打つのが遅れてしまう。把握できているのは唯一物流業務の終了時間だけでは対策はたてづらい。

②暫定的な人の採用

  現物流体制では本当に改善をする時間が無いのであれば、改善を行う時間の確保をしなければならない。物流管理を行うべき物流社員の仕事の洗い出しから開始する。
  不要な仕事をしていないか? 部下の社員に変更する仕事は無いか? パートに依頼する仕事は無いか? よく精査してみる。本当に仕事を振ることができないのであれば、その社員が会社をやめるとその企業の物流は崩壊することになる。この考え方を経営者に理解してもらい、暫定的(最大3か月程度)に派遣社員を入れる。
  物流管理者が1日2~3時間あけることができれば、物流作業改善を推進することにより、物流作業の全体の効率アップが実現できるため、増加人件費は一瞬のうちにペイできる。

③物流作業効率の把握

  物流業務毎の仕事量と仕事時間を把握しなければ物流作業効率がわからない。しかし、毎日集計するのは大変だと思われている方も多いのではないだろうか。そこで私が推奨しているのは、連続した1週間だけ作業調査を行い、物流作業の問題点をあぶりだす手法である。

図1 物流作業調査
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  物流作業者には、15分単位で作業の申請をしてもらい、作業時間を集計する。物量データも入手すれば現状の作業効率がわかるため、改善目標も設定できる。また、社員が行っている物流作業も把握できるので、物流社員比率への改善にも活用できる。

3.物流作業改善事例

①倉庫レイアウトの見直し

  まずは、倉庫レイアウトの視点でアプローチを行い、物流作業時間を短縮した事例である。私の経験則では現在の倉庫レイアウトが適正で無ければ、改善により20%~50%程度の時間短縮ができると思ってよい。まずは倉庫レイアウトを図面に書いてみて、入荷~棚入れ、ピッキング~梱包の人の動きを検討してみる。「作業動線」「手待ち」「ボトルネックの業務の把握」の視点で問題を掴むのがコツである。

 図2 倉庫レイアウトの問題点を掴む
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  「作業動線」の視点の具体的な考え方は、歩く距離が長くなっているところが無いかチェックする。例えば、ピッキング開始場所と最終梱包場所が離れていないか確認する。また、ピッキング範囲が小さければ小さいほど良い。私は2000カ所を超える物流センターを見てきたが、商品の置き方が同じ商品群、もしくは同じ仕入先で固めておいている場合が圧倒的に多い。
  この場合、売れ筋商品とあまり出ない商品が混在していることになる。そうすると、倉庫全体に万遍なくピッカーが行くことになるため、作業動線が長くなりピッキング時間も増加する。私がお勧めしているのは、ゾーン別在庫配置である。出荷場所に近いところに、ゴールデンエリア(売れ筋商品)、新製品エリア、特売エリア、オンシーズンエリアを配置する。新製品は当初は売れる可能性が高いため、1~2カ月販売経過を見て場所を移動する。また、出荷場所に遠いところに、不動在庫エリア、オフシーズンエリア、過剰分在庫エリア、極小出荷エリアを配置する。
  不動在庫、過剰在庫、極小出荷は企業により定義が違う。この様なエリア配置であれば、倉庫内にピッカーが移動する範囲はかなり少なくなると言えよう。ピッキング時間は恐らく20~30%は向上するが、商品の置き場所の把握が課題となる。その対策として、ロケーション管理を実施するのが望ましい。

図3 ロケーション管理システム
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  ロケーション管理システムのメリットは、商品の置き場所がすぐわかるだけでない。ピッキングの作業動線が短い順に並び替えて出て来るのでピッキング時間が短縮できる。また、ベテランに多い思い込みによるピッキング防止ができるためピッキングミスも少なくなる。
  倉庫レイアウトの話に戻ろう。棚の行き止まりがあればそれを解消することで作業動線は短くなる。また、「手待ち」の視点で見た場合、棚間の通路幅が狭いとすれ違いや追い越しができないためピッキング効率が悪くなることもある。この問題を解消するにはスペースが必要になる。先ほどのエリア管理を思い出して欲しい。あまり出ないエリアは保管効率優先の在庫配置ができるため、通路幅も小さくできる。よく出るエリアは通路幅を確保する。棚幅が違うため見栄えはあまりよくないかもしれないが、見栄えよりも作業効率を優先するため問題は無い。それでも倉庫スペースが不足する場合は、在庫改革を推進することにより、在庫が削減できるため倉庫スペース不足にはならない。
  「ボトルネック業務の把握」は、ピッキングと検品梱包のスピードが同じになっていない場合は改善が必要である。ピッキングの方が早いと、検品梱包待ちの台車に列ができる。逆の場合は検品梱包に手空きができる。それを改善するためには、物流管理と多能工(ピッキングと検品梱包の両方ができる)の育成が必要となる。入荷検品、棚補充、流通加工も同様に考えればよい。ボトルネック業務は物流管理者が現場巡回をすると把握できる。

②ピッキングデータで物流作業の問題点を改善する

  ハンディバーコードピッキングシステム導入の一番の目的は何かと物流管理者に聞くと、誤出荷の防止と答える方が多いが、私はそうは思わない。私は物流作業効率の向上を一番の目的と考える。物流現場にはパートが多いが、仕事が早くても遅くても時給が変わらないのであれば頑張ろうという気にならない。
  10人の物流センターで、インフルエンザの流行のため3人欠勤をしたが、終了時間は変わらなかったという話をよく聞く。これは、いつものスピードで行うと残業になるため、パートが隠している潜在能力を発揮したからこの様なことが起こるのである。ハンディピッキングシステムを導入し、作業効率(1時間当たりのピッキング件数)を可視化すると、早い人と遅い人は2~3倍のスピードの差がでる。このデータをもとに段階的に個人評価制度を導入すれば、早い人は時給が上がる(但し、ルールを守る。ミスもしない等の付加条件が必要)ため、潜在能力を発揮し全体のスピードがアップする。
  一方、それでも遅い人は物流管理者が具体的に指導をすると作業効率がアップする。例えば、「ピッキング中に最短距離で行くと人がいるため遠回りして移動した」「ロケーションピッキングが原則であるのに、商品名で移動して間違いがわかり手戻りが発生した」がそれにあたる。
  この評価制度を導入した後に、ピッカーに問題点を出してもらい(例:ピッキング時に棚欠品が発生、高いところに商品があるため届かない等)対応すると更に効率が良くなる。早くなると時給が高くなり、離職率も少なくなる。
  この様な対応をすることにより、ピッキング効率が倍以上にもなった例が多いのである。

以上



(C)2017 Taizo Hirano & Sakata Warehouse, Inc.

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