ロジスティクス・レビュー

第364号 グローバル・ロジスティクスの落とし穴(2017年5月23日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

目次

1.はじめに

  まず、お断りしておきたいのは、筆者は、外国語は「読めず・書けず・話せず」という三重苦であるとともに、海外勤務経験もないということである。
  ところが何の因果か、経済団体の「輸出入手続きの簡素化・効率化」WGやら、国交省の「国際コンテナ戦略港湾・国際バルク戦略港湾」委員会に、数年間巻き込まれてしまった。
  お蔭様で、経産省・厚労省・国交省・財務省・総務省・農水省(五十音順)等の、輸出入手続きに関係する各省庁とも、意見や情報を交換することができた。また、日本貿易会・日本機械輸出組合・JETRO(アジア経済研究所)等からも多くの情報を得ることができた。
  そして、極東ロシアを含む北東アジア・東南アジア・アメリカなどを回るうちに、見よう見まね・門前の小僧で、何となく「何か変だ」と思うようになった。どうも、「変だ」と思うことが、「落とし穴」のように感じられる。
  そこで、今回は、拙い知識とKY(危険予知)の嗅覚で得た、幾つかのグローバル・ロジスティクスの「落とし穴」を探りたいと思う。

2.目の前にあるグローバル・ロジスティクス

(1)缶コーヒーのグローバル・ロジスティクス

  ワンダでもボスでも良いが、自販機に小銭を入れる(最近はスイカでタッチする)と、缶コーヒーが転がり出る。しかし、「自販機の向こう側がどうなっているか、考えてみたことはあるだろうか?少なくとも物流~ロジスティクス~SCMに関心があるのなら考えて欲しい」と、大学での講義で学生に問い掛けているのが図1である。

図1 缶コーヒーのグローバル・ロジスティクス(筆者作成)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

①南米・インドネシア・アフリカ等のコーヒー農園で、コーヒー豆が収穫される。
②集荷業者がミルクラン(コーヒーランと言うべきか)で農園を回って、コーヒー豆を集めて来る。
③集められたコーヒー豆は、産地国の輸出業者(日系商社のこともある)が、欧米諸国や日本向けに品種・等級等を選別する。
④コーヒー豆は通気の良い麻袋(ドンゴロス)に詰められ、コンテナに積んで積出し港から日本に向けて送られる。
⑤船会社にもよるが、首都圏であれば、東京港・横浜港がメインで、輸入貨物は東京港が多い。東京港に輸入されるコンテナの約1割は、動物検疫・植物検疫が必要であり、後述するように、通関よりも検疫がボトルネックになっている。
  近畿圏では、UCCなどの珈琲専門商社があり、神戸港に荷揚げされ、これまた専門倉庫業者の川西倉庫などで保管されることが多い。
⑥検疫・通関等の輸入手続きは、多くは輸入商社が行うが、食品については総合商社ばかりでなく、専門商社が取り扱うことも多い。
⑦検疫・通関等の輸入手続き終わったコーヒー豆は、コンテナヤードから搬出されて加工業者(焙煎業者)にコンテナ輸送される。例えば、AGF社の焙煎工場は群馬県太田市にある。焙煎後の豆滓(産業廃棄物)の処理等を考慮すれば、都会地よりも郊外立地が有利かも知れない。
⑧焙煎後のコーヒーは、パッカーという缶詰業者(瓶詰めならボトラー)に送られて、缶コーヒーになる。
  以前は、製缶メーカーからパッカーまで空き缶が輸送されていた。PETボトル詰めも同様に空ボトルが輸送されていた。しかし、空き缶・空ボトルは文字通り空気を運ぶことになる。今は、パッカーに接して、あるいは近隣に製缶プラントを設置して輸送コストを削減している。PETボトルはプリフォームと言って、親指大の部材を瓶詰めの前工程で膨らませ(成型し)ている。
  原材料で最も重いのは水である。そこで水を運ぶ距離を最小化するため、パッカーは採水地あるいは良質な水源を持つ河川流域に立地することが多い。筆者が生まれた山梨県北杜市等が好例である。「六甲の水」も、最初は六甲で採水して、タンクローリーで奈良に運んで詰めていたが、さすがに輸送コストが掛かるので、兵庫にプラントを建てた。
⑨パッカーで詰められた最終製品のうち、自販機ルートで売られる分は、自販機ベンダー(多くは飲料メーカー子会社)に送られる。自販機では、120~130円で売れるので、メーカー・ベンダーにとって高収益部門である。商業施設や鉄道駅構内の「売れ筋」は、ショバ代も高く、自販機の陣取り合戦や飲料メーカーの再編、コンビニカフェの台頭等、最近は安泰ではないようである。
  ということで、自販機を巡回して缶コーヒーを補充しているベンダーのお兄さん(缶コーヒーの段ボールは重いので、年寄りは少ない)も、立派に、目の前のグローバル・ロジスティクスに組み込まれている。

(2)銅線のグローバル・ロジスティクス

  今度は、銅線の輸出である。これは、冒頭の経済団体のWGで、輸出組合から伺った話である。

図2 銅線のグローバル・ロジスティクス(筆者作成)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  従来は、工場の敷地内に、原料倉庫~生産ラインがあり、一国内で完結していたのが、遠隔の国外に原料倉庫・協力工場・生産ライン・製品倉庫が広がって、その度に「国境」を越えねばならず「税関」という怖いお役人が見張っている。当然、輸出入手続や通関と言う煩雑なことが生じ、関税という「通行料」を取られる(わが国の場合は、「輸出立国」なので、輸出関税は掛からない)。

①南米チリの銅山で、銅鉱石を産出する。世界最大の銅鉱山はエスコンディーダである。日本は銅鉱石の約半分をチリに依存している。バスパライソ等の港から、専用の鉱石運搬船で日本に運ばれる。
②輸入された銅鉱石は、DOWAなど日本の金属精錬会社で精練され、電線メーカーで銅線に加工される。それは、日本の精錬技術・金属加工技術が世界一であり、高純度の銅線を製造できるからである。
③製造された銅線は、日本から中国に輸出され、中国でコイルに巻かれてモーターとなる。日本でモーターを組み立てるよりも、中国の労働力を利用した方が廉価に生産できるからである。
  最近は、中国・タイの労働費が上昇して、「チャイナプラス1」あるいは、「タイプラス1」として、ベトナムその他のASEAN諸国に生産工場がシフトしつつある。
④中国で生産されたモーターは、再び、コンテナ船で太平洋を渡ってメキシコに送られる。
⑤中国から届いたモーターは、メキシコの部品メーカーで、ドア・モーターとして乗用車のドアに組み付けられる。中国では、ドアを生産しないのは、ドアは嵩張るので海上運賃が高くなるためである。
⑥メキシコで生産された乗用車のドアは、米国との国境を越えて、米国内の自動車工場に届けられ、完成車となって米国内で販売される。NAFTA(北米自由貿易協定)により、米国・メキシコの国境通過は無関税であるが、トランプ大統領は米国製造業を保護するため、メキシコとの国境に壁を築くほか、NAFTAも見直そうとしている。

  さて、ここからが筆者が想定する「落とし穴」である。

3.一筋縄では行かないASEAN

(1)国情の違いと軍隊の影

  わが国では今や、中国よりもASEAN(東南アジア諸国連合)に対する関心が強い。
  ASEANは、50年前に反共を目的として、5か国で結成された政治的な連合である。したがって、カンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナムのCLMV諸国は、後から参加している。日本では、ASEANと一括りにするが、成立の経緯は、ASEAN各国に色濃く影を落としている。
  2015年に、EUに倣ってAEC(アジア経済共同体)が結成されたが、まだ完全な域内自由貿易体制にはなっていない。
  わが国の自衛隊は、自衛隊の装備品を製造するメーカーや基地のある地方自治体は別として、日本経済全体にほとんど影響力を有していない。しかし、海外各国とくに新興国に行くと、軍隊が経済に大きな影響力を持っている。例えば、中国の某総合物流企業(「〇〇集団」等の名称)は、人民解放軍が経営の実権を持っている。タイのレムチャバン港は、元々は軍港であり、ポートオーソリティやコンテナふ頭会社はタイ海軍の影響下にある。
  新興国ばかりではない。アメリカの海運会社、APLやシーランドは新興国の船社に買収されたが、船舶そのものは今でもアメリカ海軍直結の無線装置が搭載されていて、アメリカに有事が発生すれば、大統領が徴用できる仕組みとなっている。「第2次朝鮮戦争」が勃発すれば、すぐに徴用されるであろう。
  ことほど左様に、国際物流は海も空も軍隊の影響が大きい。わが国の企業が、国民同様に平和ボケしているのである。
  この国情の違いや軍隊の影を見落とすと、生産・物流に影響が出かねない。

(2)CBTAの実現は遅々としている

  ASEANに話を戻すと、ASEANではCBTA(Cross Border Transport Agreement:越境輸送協定)が各国間で締結されているので、「EU同様に国境を意識せず、自由にトラックが走行できる」と思っている、日本企業にも時々お目にかかる。
  ところが、このCBTAが曲者であるうえに、上記の各国の国情・宗教・言語の違い、道路の通行区分(左側通行か右側通行か)や安全基準の違い、あるいは税関職員の個人差等により、一筋縄では行かない。ラオスのトラックは、安全基準上の理由でベトナムにもタイにも行けない。
  このようなことは、ASEANだけではない。中ロ国境では、ロシアのトラックは国境から中国国内に50km入れるが、中国のトラックはロシアに入れない。その理由は、「中国トラックは環境規制のEURO4に適合していないから」と、極東ロシアの役人が訳の分からないこと言っていた。
  このようなことを書くと紙面が足りないし、ASEAN各国間での格差や人種・民族・宗教の偏見などの問題もあるので、詳細はここでは触れない。JETRO・JICAなどの資料を参照されたい。
  いずれにせよ、海外諸国の実情を知らないと、落とし穴で足をすくわれる。

4.不可解な通関制度や原産地証明

(1)税関によって関税が違う

  N社の「抱き枕事件」があった。N社が製造輸入した「抱き枕」が、ある税関では寝装品として低関税だったが、他の税関では「玩具」と判定され高関税が課せられた。信じられないが、HSコードの運用など、税関も各地(あるいは職員)で見解が異なる。得意分野が異なる。そこで、「繊維製品なら、名古屋税関が早く正確な(低率関税で)通関をしてくれる」という「評判」が立つ。各税関で、輸入品目や取扱量が異なるので、どうしても税関ごとに得意・不得意が出るのは経験上しかたない。今後は、申告官署の自由化が拡大する方向にあり、税関選びも必要になるかも知れない。
  検疫も、輸入品の1割が検疫対象となる東京港では、検疫官のマンパワーが足りず日数が掛かるが、検疫件数の少ない博多港ならすぐ終わる。博多港で輸入して、国内輸送した方がトータル輸送日数を短縮できると、博多港ルートで食品を輸入している大手GMSがある。

(2)原産地証明で関税の減免を

  EPA(経済連携協定)・FTA(自由貿易協定)を結ぶと、関税が減免され、輸出品は安く売れ、輸入品は安く仕入れられる。EPAはモノだけでなくサービスも対象としており、わが国の介護業界・家事代行業界(特区に限る)に、フィリピンから多くの人材が来ている(トラックドライバー不足の解消のため、海外からドライバーを呼びたいという希望は、トラック運送業界でも強い)。
  EPA・FTAによる特恵関税のメリットを享受するためには、原産地証明を取得しなければならない。また、一方で、自動車生産などでは、ローカルコンテンツ(海外生産比率)を高めるため、輸出部品の原産地証明の添付(部品の部品が海外製品なら、その分だけ海外生産比率が高まる)を自動車メーカーから求められる。
  原産地証明も世界の流れは、第三者証明(日本では商工会議所)から自己証明に変わりつつある。米国では、ライセンスを保有したフォワーダーの証明で足りる。ただし、日本から輸出した部品等で、自己証明の違反が発見されると、次からは輸入国が輸入許可をせず、輸出できない事態になる。原産地比率には、付加価値・HSコードなど、相手国で原産地性判定の基準が異なるので、自己証明もかなり煩雑となる。
  例えば、2-(2)の例では、中国とすれば「日本から銅線を輸入して、モーターに加工」している。それでは、中国としての原産地比率は、どう判定するか?それがNAFTA向けと、EU向けで判定基準が異なるのか?
  今や、二国間(バイラテラル)・多国間(マルチラテラル)のEPA・FTAが混在してしまっている。これを、スパゲティがボウル(鉢)の中で絡まっているようなことから、「スパゲティ・ボウル」状態という。
  スパゲティを一本一本解きほぐしながら、どこで何を作るか、どう運ぶかを考えなくてはならないのが、グローバル・サプライチェーンである。
  「原産地証明が面倒なので、特恵関税を放棄して、高い関税を払っている輸出入者が大手企業で4割、中小企業では5割以上もいる」とJETRO調査が述べている。関税を減免する方が、運賃叩きよりも価格政策上で有効なことが分かっていない。

5.品質検査・流通加工等の海外移転とバイ・コン

(1)品質検査・流通加工の海外移転

  従来は、食品・衣料品などの品質検査業務(サンプル検査・検針など)や流行加工業務(セット詰め・アイロン掛け・表示ラベル貼付など)は、輸入後に日本で行い、物流業者でも代行するケースが見られた。
  しかし、日本国内の労務コストが高いこと、輸入後に不良品と判明した場合、調達先への返送コスト、国内での廃棄コストが掛かってしまう。あわよくば手直し程度で済んだとしても、国内での手直しコストも高い。
  そこで調達先に、品質検査・流通加工業務を海外移転する例も多い。海外でアイロンまで掛けて、特注のハンガーコンテナ(往復利用なので海上運賃が掛かる)で輸入する例も増えている。
  しかし、品質検査・流通加工をきちんと監督する仕組みを構築しないと、現地の委託先に手抜きされても分からない。
  国内の委託先であれば、抜き打ち訪問チェックも可能だが、海外では何度も脚を運べない。
  例えば、製造ラインと品質検査ラインの間に壁を設けて、従業員が勝手に出入りできないようにする等は、当然の措置である。
  それでも、M社のチキンナゲットのような事件が起こってしまう。
  後は、供給した原料・部品・部材と、できた製品の数合わせも欠かせない。原料・部品・部材(場合によっては製品も)の横流しや、従業員の持ち出し・持ち帰りも無いわけではない(国内の事例は、本レビューの「在庫管理」で触れた)。日本では盗難・窃盗の類いであるが、国民性の違いか、あまり罪悪感がないようである。
  最近、東南アジアからの介護人材が増えているが、「ヘルパーがシャンプーなど小物を持ち帰る」という話を耳にする。新興国では、「たくさん持っている者は、持っていない者に与える」のが当たり前なので、「幾つもあるんだから、1個ぐらい」と平気で言うそうである。(閑話休題)
  そこで、後述するバイヤーズ・コンソリデーション(バイ・コン)と組み合わせて、現地生産・出荷の監督まで商社やフォワーダーに委託する例も多い。

(2)バイヤーズ・コンソリデーション

  「ロジスティクス用語辞典」によれば、バイヤーズ・コンソリデーション(buyers consolidation)とは、「国際調達物流において、個別調達先からの貨物量では1つのコンテナに満たない場合に、フォワーダーがバイヤーに代わって調達国での貨物を集めてコンテナ単位として輸送する方法である。輸送コスト低減、リードタイム短縮、バイヤー側の入庫業務の軽減などのメリットがある」とされている。図3は、アパレル・雑貨の例である。

図3 バイヤーズ・コンソリデーションの例(出所:日本通運ホームページ)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  元々は、フォワーダーではなく、ホームセンターが試行錯誤しながら始めたと言われている。調達先からの建値を、FOB(船上渡し)からFCA(運送人渡し条件=調達国で商社やフォワーダーの倉庫に着荷したとき)とするケースもある。フォワーダーから、着荷の際のダメージ報告や、着荷日時の報告を得るようにすれば、(1)の「現地生産・出荷の監督」を代行させることが可能となる。
  しかし、どのフォワーダーでもバイ・コンができるかと言うと、残念ながらそうではない。集貨・混載というCFS(コンテナフレート・ステーション。LCL貨物をコンテナに積載する場所)機能に加えて、園区等の免税エリアに流通センターを設けて、品質検査・流通加工まで代行してくれるようなフォワーダーは数少ない。
  また、フォワーダーによって、対象業界や取扱品目に得意・不得意もあり、大手フォワーダーよりも小回りの利く専門フォワーダーもいる。フォワーダーの選定にも落とし穴が潜んでいる。

(3)自家通関のリスク

  通関料金が高いから、輸出入件数が多いからと、自家通関を導入する輸出入者が増えている。
  通関業者しか通関業務ができない訳ではない。海外旅行では帰国の際に、課税品があれば、旅行客個人が空港で輸入申告書を記入し関税を支払う(減免される)が、それと同じで、輸出入者自身が通関書類を作成申告することが、「自家通関」である。
  通関業者に払う通関手数料等が不要となる。しかし、書類不備(間違い等を含む)等があれば、従来は通関業者が税関と対応してくれたのが、全て自社で対応しなければならない。間違いに悪意(偽装等)があれば関税法で処罰される。関税法が怖いのは、当該事業所ではなくて会社全体が処罰されることである。
  大手フォワーダーが全国の通関事業所で、業務停止になった例が記憶に新しい。
  自家通関で関税法違反事案を惹起すると、最悪、輸出入を一定期間禁止されてしまいかねない。通関手数料の削減に走って、本来の輸出入を止められてしまっては、元も子もない。
  通関以外のブッキング(船舶の予約)やトラック手配等も、自前でやらねばならない。貿易手続きについては図4・5を参照されたい。他法令該当貨物については、省略する。

図4 NACCS(出所:NACCSセンター ホームページ)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

図5 AIR-NACCS(出所:図4に同じ)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

6.国内輸送がカギ

(1)圏央道沿線がベストではない

  倉庫料の高い港頭から倉庫料の安い内陸(圏央道沿線等)へ物流センターを設ける。すると、京浜港から高いドレージ費用(コンテナドレージは、往復運賃が原則)を掛けて内陸まで輸送する。物流センターから、また、港頭地区の需要者に配送すると、国内輸送コストが2倍掛かることになる。
  保管コストと輸送コストをトータルで見て、少々倉庫料が高くても港頭地区に物流センターを配置して、ドレージ費用を引き下げることも検討すべきである。

(2)地方港利用による国内輸送コストの削減

  海上輸送コストと国内陸上輸送コストを比較すれば、後者が高い。そこで、できるだけ国内陸上輸送コストを低減することも重要である。
  東レでは輸出製品を、「松山工場→神戸港→世界各国」というルートで運んでいたのを、松山~釜山航路の開設に伴い、「松山工場→松山港→釜山港→世界各国」という釜山トランシップに切り替えた。リードタイムは延びたが、総輸送コストが低減でき、国内陸上輸送によるCO₂排出量の削減という環境負荷低減にも役立っている。
  セイノーHDでは釜山プラットフォームプロジェクト(PPP)と称して、釜山と日本国内の地方港を直結する輸送サービスを展開している。

図6 セイノーHDのPPP(出所:セイノーHD ホームページ)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

(3)内なる国際化

  荷主の物流所管部門を見ると、国際物流と国内物流の担当部署が異なるケースが多い。例えば、物流部は国内輸送だけ、輸出は国際営業部、輸入は資材購買部などと分かれていて、各部門のノウハウが共有されていない。なかには、輸出入は商社やフォワーダー任せで、物流コスト把握すら不十分な場合がある。
  4-(2)で述べた、原産地証明による関税の減免など、物流コストではないが(取引コストの一つか?)まだまだ「削りしろ」があるように思う。
  そのためには、貿易実務や国際物流について、社内での情報や物流ノウハウの共有化が必要であり、冒頭2-(1)で述べた「自販機ベンダーのお兄さん」ではないが、社員全員がどこかでグローバル・ロジスティクスに繋がっているという意識を持つ、「内なる国際化」が不可欠である。

7.SCRM(サプライチェーン・リスクマネジメント)

  冒頭2-(1)(2)の缶コーヒーや銅線の例を見るまでもなく、サプライチェーンは長くなりつつある。ということは、鎖の数が増えれば、その間に潜むリスクも増えるということである。
  「落とし穴」の最後として、サプライチェーンのリスクについて述べたい。グローバル・ロジスティクスのBCPと言ってよい。

(1)最も弱いリンク・ノード・サプライヤーはどこか

  サプライチェーンは、物理的(物流的と言っても良い)に、数多くのリンク(通路)とノード(結節点)から構成される。リンクとは、陸路・海路・空路であり、トラック・鉄道・船舶・航空機という輸送モードも含まれる(リンク・ノード・モードと分ける場合もある)。ノードとは、トラックターミナル・貨物駅・コンテナターミナルCFS・港湾・インランドデポ・空港などの貨物積替え施設や、倉庫・物流センター・配送センターなどの保管施設を言う。
  それら多くのリンクとノードを経て、原材料・部品・製品(商品)が、サプライヤーからメーカー、卸売業、小売業、そして消費者など最終需要者に運ばれて行く。
  SCRMの第一は、それら多くのリンクとノードのうち、最も脆弱なチェーン(鎖)はどこかを把握することである。
  物理的なリンク・ノードだけでなく、サプライヤーの「脆弱性」も把握しておく必要があることは言うまでもない。
  3-(1)で述べたASEAN等の新興国では、リンク・ノード・サプライヤーの脆弱性が多数ある。

(2)異常に対する自動警報システムの構築

  サプライチェーンの異常には、多種多様なことがある。
①サプライヤーの生産が遅れ勝ちである。
②在庫や不良品が増えつつある。
③港湾への道路が混雑していて、コンテナターミナルでのカットオフ時刻に間に合わない。
④港湾ストでコンテナ荷役ができない。
⑤食品輸入が増えて、輸入検疫に日数が掛かる。
  等々、考え着くだけでも多くの「異常」が、グローバルなサプライチェーンが長くなればなるほど起こり得る。その各ステージでの異常の有無を、自社で確認することはコストも手間も掛かる。そこで、自動的にアラームが鳴る仕組み、自動警報システムを構築することが望ましい。まさに、BCPの初歩である。
  そのためには、サプライヤーに生産・出荷の状況・在庫・不良品の実績などを逐一報告させる。FAX・メール・Webなど、何でも活用できるものは活用する。
  5-(2)のように、バイヤー・コンソリデーションを導入すれば、商社やフォワーダーに、サプライヤーに生産・出荷の状況・在庫などを監視させることも可能であり、代行を請け負うフォワーダーもある。さらに、調達国での商社やフォワーダーの物流拠点での着荷ダメージや着荷日時を、アラームのトリガーにすることも可能である。

(3)リダンダンシー(複数輸送ルート)の確保

  ロジスティクス・リスク対策としては基本中の基本であるが、輸送ルートを複数設定し、通常時から利用しておくことが必要である。
  自然災害以外にも、港湾スト等による輸送途絶がある。米国西海岸の長期港湾ストでは、自動車生産ラインを止めないため、鋼板類まで、航空輸送が行われた。
  いざという時に代替輸送しようとしても、普段から実績がなければ断られてしまう。
  軽くて高価なものは、少々運賃が高くとも、通常から航空輸送する等、いざという時のリダンダンシーのため、輸送手段・ルートを複線化しておく必要がある。

(4)サプライヤー・物流事業者との連携強化

  サプライチェーンの鎖を強靭化しておくには、サプライヤーや物流事業者との連携を強化しておく必要がある。
  「サプライヤーや物流事業者にとっては、我が社は重要な顧客である」と独りよがりは、良くない。サプライヤーや物流事業者から見れば、他に重要な取引相手が居るかもしれない。
  一旦、大きなリスクが顕在化して輸送障害が発生したときには、自社が後回しにされてしまう。
  海外の縫製会社でよく聞くのは、「日本企業は、大した発注量でも無いのに、日本流を押し付けて、品質・納期の注目が厳しい」と言うことである。ZARAやH&Mのような欧米企業は、品質については厳しいが、多頻度小口発注・短納期での納品など、日本企業のような無理は言わないそうである。最近は、韓国や中国の企業が日本企業のマネをして困るということも聞く。また、横並びで日本企業同士が張り合って、多頻度小口発注・短納期での納品を競争しているとも聞く。
  欧米企業の方が、手を組みやすければ、そちらが優先されてしまう。
  そのようなことを回避するためには、日頃から、サプライヤーや物流事業者と情報交換に努める等の対策が欠かせない。

(5)SCRM全体の見直し(PDCA)

  最後に、一旦構築したSCRM体制も、政治経済等の変化により万全ではなくなってしまう。そこでPDCAのサイクルを回して、常にローリングしておかねばならない。
  例えば、フィリピンでは2014年にマニラ首都圏の渋滞対策として、大型トラック・トレーラの通行制限を実施したが、その煽りで港湾からの国内輸送が滞り、結果的にマニラ港の沖待ちが急増して、輸送日数が増えた。
  このようにリスクは連鎖するので、SCRMも作りっぱなしでは、いざという時には、役立たない。PDCAのサイクルを効果的・効率的に回すためにも、(2)異常時の警告システムの構築が欠かせない。

  最後は、誌面の都合もあって端折ってしまったが、読者の皆さんが自社のグローバル・ロジスティクスをもう一度見直して、強靭なサプライチェーン構築の一助になれば幸いである。

【参考資料】
(1)NACCSセンター・JETRO・日本機械輸出組合・セイノーHD・日本通運の各ホームページ等
(2)「特集 TPPに向けたグローバル化」(日本工業出版、流通ネットワーキング2017年1・2月号)
(3)石原伸志「貿易物流実務マニュアル増補改訂」(成山堂書店、2015年)
(4)日通総合研究所編「ロジスティクス用語辞典」(日経文庫、2007年)
(5)長谷川雅行「グローバル化と日本経済」(共著。勁草書房、2009年)

以上



(C)2017 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.


このページのトップへ戻る