ロジスティクス・レビュー

第362号 ドライバー不足解消・労働環境改善に向けたトラック大型化の課題(2017年4月18日発行)

執筆者 久保田 精一
(ロジスティクスコンサルタント)
    執筆者略歴 ▼

  • 著者略歴等
    • 熊本県出身
    • 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒
    • 1995~1996年 国土交通省系独立行政法人
    • 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所)
      産業振興、物流等の調査業務を担当
    • 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
      物流コスト、物流システム機器等の調査業務を担当
    • 2015年7月 独立

目次

1.はじめに

  3月末に政府「働き方改革実現会議」の実行計画が公表された。焦点となる残業時間の上限規制については、運送業(ドライバー)は猶予期間を与えられる形となったが、猶予期間が終了する5年後には月80時間相当の規制が導入する方向が示されている。
  運送業(と建設等)の一部職種を例外扱いするこのような経緯には様々な批判が出ているが、内容についての是非は措くとしても、運送業、荷主ともに今後規制への対応を迫られることは確実である。

図表1 働き方改革に伴う運送業(ドライバー)の残業時間規制
*画像をClickすると拡大画像が見られます。
資料:報道による

  労働時間の規制への対応が特に困難なのは長距離運送である。長距離輸送は本来、鉄道や海運にシフトする、あるいは長期的には自動運転を導入することなども検討の俎上に上るが、当面の実現可能性、キャパシティ、物流コスト負担力等の点ではいずれも難がある。産業界の実情を色々と考慮すると、幹線輸送車両を大型化するとともに、中継輸送等を組み合わせることで労働時間の適正化を図ることが最も有望と考えられる。
  大型化は一人のドライバーが輸送できる貨物量が増加するために生産性や給与の増加にもつながる。よってトラック業界にとっても大型化の推進は合理的である。
  他方、統計からみると輸送ロットは依然として縮小傾向が続いている。大型化を可能とする規制緩和自体が進み初めてからかなりの年月が経過しているが、関係者の努力にも係わらず期待するほどの効果が顕在化していないとも言える。これを踏まえ、本項では大型化に掛かる過去の経緯と今後の課題を整理する。

2.これまでの経緯

  トラックの大型化に関連する規制緩和は、海上コンテナのドレージ輸送対応等、グローバル物流に対応するため、ある意味で現状追認的に実施されてきた。下表では大型化に係わる近年の主要な動きを整理したが、平成27年度までに行われた規制緩和の多くがグローバル物流への対応が主眼であることが分かる(ただし平成28年度に行われたダブル連結トラックの実証実験など、今後はドライバー不足対策へと力点が移り変わると予測される)。
 このような経緯から、長期的な計画のもと法制度の全面的な見直しを行うことはできず、既存の法制度を前提としつつ、例外を順次追加する手法が取られてきた。具体的には、主として道路法の例外(特殊車両通行許可)や道路運送車両法の例外(基準緩和認定)として実現されてきた事項が多い。


図表2 トラックの大型化に掛かる近年の主な動き

■バラ積みフルトレーラ等5車種の全長緩和(平成25年11月) 左記トレーラの全長を21mに緩和するものであり、当初構造改革特区で認定実施された「長大フルトレーラ連結車による輸送効率化事業」を全国展開するとの政府方針に伴い、「分割可能な貨物を輸送する車両の長さに係る規定等の見直し」が行われた。

■大型車誘導区間の設定および審査の一元化(平成26年10月) 高速道路、直轄国道、港湾との連絡道路等を「大型車両の通行を誘導すべき経路」として国土交通大臣が指定し、当該大型車誘導区間のみを通行する場合は、個別の道路管理者との協議が不要となり国が一元的に審査・許可を行うこととした。
これにより審査・許可の簡易化を図った。
■車両の大型化に対応した許可基準の見直し(平成27年5~6月) 下記の制度改正がほぼ同時に実施された(保安基準の改正を含む)。
・バン型等特例8車種に係わる車両制限令を改訂し、連結全長を17mから18mに緩和することにより、45フィート国際海上コンテナへの対応を図った。
・バン型等セミトレーラ連結車の駆動軸重の許可基準について、11.5tに統一することにより、国際海上コンテナと国内  コンテナとの基準を一本化した。
・バン型等セミトレーラ連結車の駆動軸重等の引き上げによって、バン型等セミトレーラと国際海上コンテナの、車両総重量の規制の統一化(36トン)を図った。 等
■特車ゴールド制度(平成28年1月25日) ETC2.0装着車両に対する大型車誘導区間の一括申請・自由走行・更新手続きの自動化等。
特例8車種のトレーラについて大型車誘導区間を通行する場合に限り自由に経路を選択可能となった。
■ダブル連結トラックの実証実験(平成28年11月) 主として新東名区間において、フルトレーラ連結車等の実証実験を行うにあたって、特車許可における車両全長を25mに緩和(実験車両に限定した特例通達の発出)。ただし、執筆時点で実験に参加している車両はいずれも21mの旧許可基準内。


※上記についてはすべて改正時点の情報であり、現時点の情報は国交省HP等で確認のこと。また個別の特車許可申請については許可されない場合や条件が付される場合がある。

3.米国の事例

  ところでトラックの大型化は欧米など先進諸国でも共通の政策的な焦点となっており、各国でそれぞれ推進されている。諸外国の動向は我が国の将来的な展開を考慮するうえで参考になると思われることから、ここでは米国の動向を参考例として紹介する(情報は2017年3月時点)。

  米国の大型トラック輸送を担う主要な道路網は、連邦レベルで経路が指定された「全国ハイウェイシステム(National Highway System)」であり、これは大型トラック輸送の75%を担っているとされる(注1)。当該ハイウェイ網においてトレーラで2連運行する際の通行規制は、トレーラ等の総重量で8万ポンド(約36トン)、車長は28フィートと規定される(28フィートのダブル連結運行)。一方、これは日本でも同様だが、容積勝ちの貨物が増えることによって、28フィートトレーラでは総重量の制限を大きく下回るケースが増え、輸送効率の低下が課題となっている。
  これを受けて運送業界や荷主団体は、33フィートサイズのダブル連結トレーラの導入を訴えている。これは車両の全長で83フィートに相当し(図表3)、日本国内で推進されているダブル連結トラックとほぼ同規模である。なお33フィートトレーラの導入によって積載容積が18.6%増大することになる。
  この規制緩和を実現するための法案はたびたび提出され、2015年にはいったん可決される観測が高まったが結局実現せず(注2)、業界は新大統領の下での成立をねらっているところである(注3)。
  なお、ここでの論点はあくまでも連邦レベルでの規制緩和であり、現状の規制の下でも33フィートのダブル連結トレーラが通行できるルートは多数存在する。

図表3 28フィート、33フィート2連トレーラの仕様
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

資料:Americans For Modern Transportation “Twin 33 Foot Truck Trailers:Making U.S. Freight Transport Safer And More Efficient”
注1:http://www.rice.or.jp/archive/pdf/2004/US-highway.pdf
注2:例えば下記報道を参照。

http://www.americanshipper.com/main/news/effort-to-allow-33foot-tandem-trailers-defeated-in-62187.aspx

注3:例えば下記報道を参照。
FedEx, Amazon Lead Twin 33s Advocacy Group

http://www.ttnews.com/articles/basetemplate.aspx?storyid=44535

  車両の大型化に対しては、大手事業者、荷主の他にトラック業界団体(例えば全米トラック連盟=ATA)も賛成の方向であるが、これまで規制緩和が実現しない背景には、ドライバーや地域等での根強い反対がある。
  トラック大型化に反対するある団体が一般市民に対して2015年に実施した調査によると、回答者の76%はトラックの更なる大型化に反対であり、賛成とする回答者は15%しかいなかったという(注4)。なお反対する主たる理由は安全性の問題である。具体的には大型化によって制動距離が増し、事故が誘発されるといった可能性が指摘されている。
  安全上の懸念からドライバー団体等には反対意見が強く、例えば日本のJAFに相当するアメリカ自動車協会(American Automobile Association)は2013年の時点でトラックの大型化に反対する声明を出している(注5)。
  また、若干反対の論旨が異なるが、強い政治力で知られるトラック労組(チームスター)も反対の立場とされる(注2の記事参照)。大型化に対しては連邦運輸省などの研究機関からも安全性の懸念を指摘する結果が示されていることもあって、地方自治体レベルで反対の声明が出されているものも見られる。
  これらの根強い反対の動きを受けて、推進側の荷主・事業者は議会への働きかけを強めるとともに、安全性の懸念に対し論理的な反論を進めている。また先進技術の利用によって、事故のリスクを削減できることも強調している(図表4)。

  日本と同様にドライバー不足が深刻化している状況であるうえ、アマゾン、フェデックス等の大手事業者が推進に力を入れていることから、いずれ規制緩和が実現するのではないかと予想されるが、自動車社会である米国においては、何よりもドライバーの懸念を解消することが必要とされるだろう。

図表4 安全性を高めるテクノロジーの例
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資料:図表3と同じ。

注4:以下報道による。
Poll shows 76 percent oppose increases in truck size and weight

http://www.landlinemag.com/Story.aspx?StoryID=28508

注5:http://newsroom.aaa.com/2013/10/aaa-continues-to-oppose-any-change-in-truck-size-or-weight-limits/

4.国内における大型化の課題

  米国と比べると、国内では大型化に対する反対意見はほとんど聞かれない。国内では、現状でも許容されているフルトレーラ連結車の運行もほとんど見かけないなど、大型化がかけ声ほど進んでいないことが背景にあり、実務上の問題によって大型化が進まないことの方が懸念材料とも言える。とはいえ、今後大型化が進展するに従って様々な問題が生じると予想される。特に道路交通の安全確保に対する感覚は、日本では米国以上にシビアであり、上述のような先進技術の活用など、安全性を確保するための努力を今後一層推進する必要があるだろう。
  その他、筆者の私見であるが大型化を推進する上での課題をいくつか記す。

(1)規制の全体的な方向性について

  前述の通りこれまでのトラックの大型化対応は、主に道路法の例外(特殊車両通行許可)や道路運送車両法の例外(基準緩和認定等)を通じて実現されて来た。
  一方、特殊車両通行許可は、原則的に2年ごと、経路ごとの申請が必要であることから、申請の手間は小さくない。また申請の手数料自体は大幅に軽減されているものの、多くの事業者は行政書士等の専門家に申請を依頼していると見られ、申請のコスト負担も小さくない。
  企業の実務的ニーズから言えば、いま以上に大型化を進めることよりも、海上コンテナなどニーズが明確な規模の車両について、申請が無くても運行可能にする等の方向での規制緩和の方が、メリットが大きいと感じられる。例えば重さ指定道路・高さ指定道路は、一般的な車両制限を一定程度超えた車両が運行できるが、このように申請不要でも運行できるルートを限定的に認めていく方向性は検討の余地があるのではないか。なお制度面での見直しを行う場合には、例えば、都市計画上の幹線街路は重さ指定でない一方、平行する補助幹線街路が重さ指定道路となっているといったように、都市計画的観点からの問題点も指摘できる。

図表5 重さ指定・高さ指定道路と特車許可との関連
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注6:上図は概要であるうえ制度は変更される場合があるので、正確には国交省HP等で確認のこと。

(2)特車申請等

  特車申請等の制度は近年、大きく改善されて来たことは疑いがないが、実務上、色々な問題点が指摘されていることも事実である。
  近年、特車申請の件数が激増しているが、これは、かつて無許可での運行が横行していたものが、行政当局の取り締まり強化、厳罰化の動きによって、適法に申請する事業者が増えたことによるものと見られる(注7)。そして申請件数が増加した結果として、申請許可の遅延が発生している(注8)。これは適時に許可を受ける必要のある運送業にとって課題である。
  また、トラクター、シャーシと経路をワンセットとして申請する仕組みであることから、中継輸送等で他の事業者の所有するシャーシを利用するなど、今後利用が拡大すると思われる場面で、機動的に許可を得るのが難しいという課題もある(シャーシとトレーラの組み合わせは事業法の規制上も問題が存在する)。
  なお当局による過去の摘発実績を見ると、悪質な重量超過運行の多くは建設重機の運搬車両である。固定的ルートを定期運行する性質の強い海上コンテナ等の輸送車両と、特定の地点にスポット的に輸送する建機の運搬車両を同じルールで管理していることも、上記のように制度運用が混乱する要因となっていると感じられる。

注7:例えば以下の文献での記述。
 宇都宮国道事務所「特殊車両の通行許可制度と現状の問題点とその改善策の検討」
注8:国道事務所によっては許可に2-3ヶ月要する場合があるとの注意喚起を行っている等。

(3)免許制度

  トレーラを運転するには牽引免許が必要だが、トレーラのドライバーは他の車種以上に高齢化が進み、ドライバー不足が深刻化している。大型化の推進と併せて、ドライバーの育成が必要と考えられる。

(4)インフラ

  大型化のニーズが強いのは長距離運行である。一方、長距離運行において改善基準告示等の規制を遵守するには、適時に休憩・休息を入れながら運行する必要がある。現在実施中のダブル連結トラックの実証実験では、既存のPAを利用してドライバーを交代する中継輸送が実施されていることから、今後、SA、PAの一部でダブル連結トレーラ等が安全に駐車できるようなインフラ整備が進む可能性はあるだろう。一方、これら大型トラックの運行がより普及し、一般化する場合には、一般の乗用車等が利用する既存のSA、PAを利用するのではなく、例えばスマートインターを設置するなどして専用の拠点を整備する必要も出てくるだろう。その際、トラック業界としては、官民連携によるインフラ整備を訴えかけていく必要があるだろう。

  本稿は概括的な整理に留まるが、ドライバーの労働環境を改善し、人手不足を解消するためには、荷主、事業者団体等の道路ユーザサイドで、実用上のニーズのある大型化の方向性が打ち出され、それに応じた制度改正やインフラ整備等が進められることが必要である。そのための議論が関係者によって深められることが望まれる。

以上



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