ロジスティクス・レビュー

第36号物流ABC普及元年~なぜ、いまABCかを改めて考える~(2003年07月18日発行)

執筆者 湯浅 和夫
株式会社 湯浅コンサルティング 代表取締役社長
    執筆者略歴 ▼

  • 略歴
    • 1946年 3月 埼玉県生まれ
    • 1969年 3月 早稲田大学第一商学部卒業
    • 1971年 3月 同大学大学院商学研究科修士課程修了。専攻は「管理会計」
    • 1971年 4月 株式会社日通総合研究所に入社
    • 1993年 4月 同社経営コンサルティング部企業物流研究室長
    • 1996年 4月 同社経営コンサルティング部長
    • 1999年 6月 同社取締役
    • 2001年 6月 同社常務取締役(経営コンサルティング部・情報システム部担当)
    • 2004年 5月 株式会社湯浅コンサルティング設立 代表取締役社長に就任
      現在に至る。
    委員・所属団体等
    • 株式会社日通総合研究所 顧問
    • 社団法人 日本施設園芸協会「野菜産地流通システム検討委員会」
    • 社団法人 全日本トラック協会「物流経営士資格認定委員会」
    • 財団法人 中部トラック総合研修センター「カリキュラム検討・資格認定委員会」
    • 全日本運輸産業労働組合連合会「21世紀物流フォーラム」
    • 社団法人 日本ロジスティクスシステム協会「調査・情報委員会」等委員
    • 東京商船大学 客員教授
    • 日本物流学会 理事
    • 財団法人ふるさと情報センター 評議員
    主な著書
    • 「物流管理入門」日本能率協会
    • 「多品種少量物流への挑戦」同友館
    • 「物流マネジメント革命」ビジネス社
    • 「90分でわかる物流の仕組み」かんき出版
    • 「手にとるようにIT物流がわかる本」かんき出版
    • 「これからの物流がわかる本」PHP研究所
    • 「現代物流システム論」(共著)有斐
    • 「物流管理ハンドブック」(共著)PHP研究
    • 「物流ABC導入の手順」(編著)かんき出版 *CD-R付き

目次

1.物流ABCソフトの無償配布が始まった

 すでにご存知の方も少なくないと思われるが、今年の4月、中小企業庁がホームページで物流ABCの算定ソフト及びその解説書を公開した。いずれも無償でダウンロードできるようになっており、中小企業庁によると、大きな関心を呼び、問い合わせも多いと言う。これにより物流ABC普及の基盤が整ったと言ってよい。

 この算定ソフトは、識者により構成された検討委員会の論議を経てつくられたものであるが、算定ソフト及び解説書の作成など実務レベルでの業務は当社が受託して行ったものである。算定ソフトは「エクセル」をベースに作成されており、パソコンがあれば誰でも使うことができるという点に大きな特徴がある。もちろん、この算定ソフトは、単なる体験版ではなく、実際の導入・活用に使える本格的なものである。

 筆者は、物流ABCの活用が物流管理の進展にとって有効に機能するとの強い思いから、その普及活動に力を入れてきたが、その普及がもうひとつ進まない理由に算定のためのソフトの不在があると実感していた。物流ABCがどんなものかがわかっても、また、それをやってみたいと思っても、実際に導入するにあたっては、それを展開できるソフトが不可欠である。しかし、そんなソフトを作るのは面倒だということで、「物流ABCを使いたいけど使えない」という状態にあった企業が少なくない。

 その壁を中小企業庁が算定ソフトの無償配布という形で打ち破ったことは画期的なことである。物流ABC導入の最大の阻害要因が取り除かれたからである。その意味で、今年は「物流ABC普及元年」と言ってよい。

 もし、読者で物流ABCに興味がおありの方がおられたら、是非、中小企業庁のホームページ(http://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/buturyuu_ABC.htm)からダウンロードして使ってみていただきたい。

2.物流ABCはこれまで見えなかった世界を見せてくれる

 さて、それでは本論に入るが、ここでは物流ABCの計算方法について話をするつもりはない。それについては過去に、ここのバックナンバー(序論第3号,第5号)でも取り上げられているし、中小企業庁の解説書をご覧いただければわかるからである。

 そこで、ここでは、なぜ物流ABCが物流管理において有効なのかというテーマで話したい。物流ABCは、その計算方法よりもその活用についての理解の方が重要だと思われるからである。みなさんが、この拙文を読み終わったとき、物流ABCを使ってみたいという強い衝動にかられることを筆者は願っている。そのような強い思いがあれば、その後の物流ABCの導入はたやすいことである。

 言うまでもなく、物流ABCは新しい原価計算である。もともとABCは製造原価の間接費の配賦計算に使われていたが、これを物流管理に適する形にアレンジしたものを物流ABCと呼んでいる。それでは、この原価計算がなぜ物流管理に有効なのであろうか。みなさんは、どうお考えになられるであろうか。

 その答は、一言に尽きる。それは「これまで物流管理において見えなかった世界が数字で見えるようになる」ということである。見えなければ手の打ちようがないが、見えれば手が打てる。たったこれだけのことであるが、これが物流管理を一変させる。それでは、なぜ物流ABCを使うと、見えなかった世界が見えるようになるのであろうか。まず、ここから話しをしていきたい。

 ABCは、Activity-Based Costingの略称で、日本語で「活動基準原価計算」と訳されていることはご存知のことと思われる。物流ABCが物流管理に役立つポイントは、当然この名称の中にある。それは、物流にかかわるコストを「活動(アクティビティ)」に集めるという点である。

 こういうと、「なんだ、そんなことか」と思われる方も少なくないかもしれないが、実は、これまで、このような形での原価計算は物流の世界では行われたことはない。みなさんの経験ではいかがであろうか。試しに自社の物流センターをどこか思い出していただきたい。みなさんは、そのセンターで、たとえば検品で月間いくらのコストがかかっているか、梱包作業でいくらかかっているか、さらにセンター内のすべての活動にそれぞれいくらかかっているかわかりますか。また、ダンボール1個の梱包作業にいくらかかるか、ピッキングで1ケースピッキングするのにいくらかかっているかわかりますか。

 恐らく、このような活動ごとのコストをつかんでいる企業は少ないと思われる。もちろん、特定の活動について作業時間を測定し、その時間を人件費に換算するなどして断片的に求めたことはあるかもしれないが、すべての活動についてコストを把握し、それをもとに物流コストの削減を進めるというアプローチはやったことがないと思われる。

 これまで物流コストというと、支払運賃がいくら、支払保管料がいくらというレベルでしかとらえていないという企業が少なくないというのが実態である。社内で行っている物流のコストについては人件費を把握している、あるいは物流施設にかかわる固定費の一部を把握しているというのが実態と言えよう。この程度の物流コストの把握だと、実際問題として物流の管理には使えない。せいぜい、これらのコストを予算と比較し、差異分析をやるという程度の使い方にとどまらざるをえない。言うまでもなく、この程度の分析では物流コストの削減に直接結びつくほどの効果は得られない。

 ところが、コストを活動レベルでとらえると、状況は一変する。物流コストを減らすために何をすればよいのかが具体的に見えてくる。これまで見えなかったところがコストというフィルターを通して鮮明に見えてくるのである。

 具体的に何が見えてくるかというと、まず、物流活動における「無駄」が見えてくる。それから、物流コストを増減させている「原因」が見えてくる。さらに、物流コストについての社内の「責任帰属」が見えてくる。 無駄が見えれば、それを排除することでコスト削減が可能になる。コストを上げている原因が見えれば、その原因を取り除くことでコスト削減が可能になる。また、物流コスト発生についての責任が明らかになれば、その責任を負うべき部門がコスト削減に取り組めばよいということで実効ある取組みができるようになる。

 いかがであろうか。これが物流管理におけるABCの役立ちである。これまでの原価計算では決してできないところである。

3.なぜ「活動」にコストを集めると、いろいろ見えてくるのか

 さて、それでは、活動にコストを集めると、なぜこのようないろいろなことが見えてくるのであろうか。この説明は必要ないかもしれない。あまりにも自明なことだからである。

 物流ABCは、物流施設ごとに導入するが、物流施設における無駄は、よく知られているように、大別すると二つある。一つが、不必要な在庫を持つことから発生する大きな無駄である。売れもしない在庫を持つことでスペースに無駄が出るし、作業効率にも悪影響を与える。この無駄は物流ABCなど使う必要はない。在庫管理を行えばよいだけである。もう一つの無駄が、活動のやり方に潜在する無駄である。この無駄の排除のためにはピッキングや梱包などという活動の中にある無駄を探すことがまず必要である。これが見つかれば後はそれを排除するだけでよい。この無駄の発見という点で物流ABCは役に立つ。活動に原価を集めるという計算過程で無駄を簡単につかむことができるからである。

 物流ABCの計算上の特徴は、活動(アクティビティ)ごとに「単価×処理量」という計算でコストを把握する点に特徴がある。この計算構造が物流管理への役立ちに有効に機能するのである。

 ここで「単価」というのは、活動ごとに1単位処理するのにかかるコストである。これをアクティビティ単価というが、この単価の設定が物流ABCの有効性の根源である。たとえば、ケースピッキング単価というのは、ケースピッキングを1ケースするのにいくらかかるということを意味する。この単価を計算するベースには1ケース処理するためにかかっている「時間」が存在する。活動における無駄は、この時間を使うことで見つけるのである。その無駄を排除すれば単価は下がる。これが、効率化と言われるものである。

 この単価は、当然、物流部門が責任を負うべきコストである。物流部門が取り組んでいる物流拠点集約や作業システムの導入、共同化などはすべてこの単価を下げるために行っているものである。

 活動別の単価とともに重要な数値が「処理量」である。これは、活動ごとに一定期間でどれくらいの量を処理したかという数値である。たとえば、ケースピッキングを月間1万ケース行った場合、この1万ケースが処理量である。ここまで言えば、すぐにおわかりになると思うが、アクティビティ単価に月間処理量を掛ければ、月間の活動別のコストが算出されるのである。そして、すべての活動の月間コストをトータルすれば、その物流施設の月間コストが出る。物流ABCは、このような構造になっている。

 さて、ある月に物流施設のコストが前月と比べて上昇してしまったと仮定すると、その原因はどこにあるのであろうか。みなさんは、このような場合、これまでどのように原因を分析し、対策を立てていたであろうか。

 物流ABCにおいては、原因分析は簡単である。原因は二つしかない。単価が上がったか、処理量が増えたかである。物流施設におけるコスト上昇の原因はこれしかない。ここで責任区分という視点でみると、コスト上昇の責任も明白である。単価が上がった場合、それは物流部門の責任である。ところが、処理量が増えたことでコストが上がった場合、それは物流部門の責任ではない。物流部門では、処理量については責任を負えないからである。たとえば、保管する量が増えたとか返品の量が増えたとか、あるいはバラのピッキングが増えたという処理量の変化は売り方、つくり方、仕入れ方によるもので、物流部門は関係しない。

 つまり、物流施設のコスト変動の原因は、単価か処理量かという二つに絞り込まれるのである。ここが物流管理において重要なところである。仮に単価を半年間とか固定しておけば、その間の物流施設のコストの変化はすべて処理量に原因があることになる。どのような活動の処理量の変化がコストを変化させたのかが簡単にわかるので、その後の対策が立てやすくなる。その処理量の変化は許容しえるものななのか、どの部門の責任なのかなどが一目瞭然となるからである。このように、物流ABCは、物流コスト上昇の原因と責任を同時に示すことになるのである。

 これまで、物流施設のコストは、すべて物流部門の責任だと位置づけられていたところが少なくなかったというのが実態であろう。ところが、本来、物流部門が責任を負えない原因により発生しているものなのに、それが「物流の現場で発生している」からという単純な理由で物流部門の責任にされていたというケースが少なくない。これでは、本来の物流管理などできるはずがない。

 物流管理の第一歩は、物流コストについて物流部門が責任を負うべき領域と他の部門が負うべき領域とを区分することにある。これができないと物流管理は先に進まない。

 ところが、これまで、この物流コストについての責任区分はできなかった。できないから、いわれなき責任まで物流部門が負わされていたのである。これが、もう一段の物流コスト削減ができなかった理由である。その意味では、物流ABCは、コスト削減余地を端的に示すことができる。

4.まずやってみることが理解の第一歩

 これまで物流ABCの有効性について、絞り込んだ形で話しをしてきた。物流ABCというと、物流サービス別コストや顧客別物流コストの算定への役立ちが有名であるが、これについてはご存知の方も多いと思われるので、あえてふれなかった。

 筆者が、ここでみなさんに是非お伝えしたいのは、算定ソフトを使って、とにかくご自身で物流ABCをやってみていただきたいと言うことである。物流ABCは技法であり、やってみないことにはその有効性は実感としてはわからない。やってみて、「これは使える」と実感できたら、本格的に導入していただきたい。筆者としては、この拙文が物流ABC普及の一石となることを切に望み、結びとしたい

以上



(C)2003 Kazuo Yuasa & Sakata Warehouse, Inc.


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