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第359号 「物流生産性」とは何か -トラック運送を例に-(2017年3月9日発行)

執筆者 久保田 精一
(ロジスティクスコンサルタント)

 執筆者略歴 ▼
  • 著者略歴等
    • 熊本県出身
    • 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒
    • 1995~1996年 国土交通省系独立行政法人
    • 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所)
      産業振興、物流等の調査業務を担当
    • 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
      物流コスト、物流システム機器等の調査業務を担当
    • 2015年7月 独立

 

目次

  サービス業は我が国の国民総生産の7割を占めるまで拡大しているが、諸外国と比べて生産性が低く成長の足かせとなっている。そのため政府(日本経済再生本部)では、サービス産業の労働生産性の伸び率を2020年までに2.0%に向上するという数値目標を掲げて改善に取り組んでいる。国土交通省でもこの流れを受け、物流分野における「生産性革命」を掲げており、特に労働生産性の低いとされるトラック運送業について、生産性を2割程度向上させる目標を掲げて施策を推進しているところである。
  このように政府主導で生産性を巡る議論が進んでいるが、長時間労働・低賃金が問題となっているトラック運送業において、労働生産性の引き上げは労働者の処遇改善にも直結し、産業界としても歓迎すべき流れである。業界を挙げて推進に取り組む事が期待されるところだが、そもそも物流の「生産性」とは何か、現在の課題は何か、トラック運送業を中心に改めて確認しておきたい。

■生産性の定義

  「生産性」とは投入量に対する産出量の比である。この際、「投入量」としては、「労働(労働生産性)」や「資本(資本生産性)」が代表的であり、「産出量」としては付加価値やGDPを用いるケースが多いが、生産額・売上高など中間投入を含む額(gross output)を用いる場合もある(図表1)。
  このうち代表的なものは「労働生産性(付加価値ベース)」である。この場合の定義は、分母を「労働時間(人時)」で把握される投入労働量、分子を付加価値額とすることが多い。

図表1 主要な生産性の算出方法
資料:OECD, Measuring Productivity-OECD Manualより
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  「付加価値」は、企業等が自社の活動で新たに生み出した価値であり、定義的には生産額から中間投入(仕入額等)を除外した差分である。付加価値の算定方法としては、売上高から中間投入に相当する費目を引き算して付加価値を求める「減算方式」と、付加価値に相当する費目を足し合わせて求める「加算方式」とに分かれる(図表2)。実務的には中間投入を網羅的に減算するよりも、限られた付加価値項目を加算する方が容易であるため、加算方式で算定される場合が多いようである。
  加算方式の対象となる費目は、利益・人件費(給与等)・租税公課(利益に課税される法人税等でなく、費用項目としての租税公課である)・金利(または金融費用)・地代(不動産賃借料等を含む場合あり)であり、さらに減価償却費を含めることもある。

図表2 労働生産性の算定方法
資料:筆者作成。なお、付加価値や生産性の定義は多様であり、上図の定義が絶対的なものではない。
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■トラック運送業における付加価値額の特徴

  以上を踏まえ、トラック運送業における付加価値等のデータを確認しよう(注1)。
  物流業は労働集約的であり、総費用に占める人件費の比率が高いが、なかでもトラック運送業は、①他と比べて利益率が低い、②地代等の負担が少ないといった特徴がある。そのため、付加価値額に占める人件費の比率が極めて高い。
  付加価値の額は統計の加工方法によって絶対水準が一定しないが、代表的な数値である経済センサスのデータを引用すると、トラック運送業の付加価値のうち、人件費が75%以上を占めていることが分かる(図表3)。これは、売上から原価(正確には中間投入)を除いた相当部分が人件費として支払われているということであり、付加価値を増やして生産性を改善することと、人件費の時間単価を上げることがほぼイコールとなっていることを意味する。
(注1)以下では、総務省「経済センサス」のデータを元に、加算方式で付加価値を算定している。

図表3 トラック運送業における付加価値の構成
資料:総務省「平成24年経済センサス」より作成。
注:対象は一般貨物自動車運送業(企業等に関する集計)。
  なお、付加価値の算定方法は複数あるため、上記の割合は絶対的なものではない。
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■スケールメリットが働かないトラック運送業界

  ところで一般的に生産性は大企業ほど高いことが知られている。製造業では、大企業と中小企業とで労働生産性が約2倍違うとされる(注2)。トラック運送業においても、従業員数が多いほど従業員1人当たりの付加価値が大きい傾向がある(図表4)。ただしその差は18%程度であり、著しい差がある訳ではない。トラック運送業は貨物が集まるほど効率が高まるから、理論的にはスケールメリットが大いに働く「はず」であるが、付加価値のデータから見るとそれほど明確な傾向は見られない。
  一般にスケールメリットの働く業種では自然独占による寡占化が生じるが(注3)、トラック運送業は(宅配を除いて)小規模が乱立する業界であることからも、スケールメリットの弱さが推察される。路線大手でも多くの車両が実質的に貸切形態で運行しているといった実態から、このような傾向を説明することができるかも知れない。
  いずれにせよ、スケールメリットを発揮することは、路線大手の経営を安定させドライバーの待遇を改善することにつながると思われるから、重要な論点の一つである。
(注2)中小企業白書(2011年版)を参照。
(注3)電力、鉄道などが例として挙げられる。

図表4 従業者数規模によるトラック運送業の付加価値(一人当たり)の違い
資料:総務省「平成24年経済センサス」より作成。
対象は一般貨物自動車運送業(企業等に関する集計)。
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■付加価値を高め生産性を向上するための方策

  さて、付加価値を引き上げる方策として、どのようなものが考えられるであろうか。
  代表的な取り組みとして挙げられるのは、共同化や大型化など「輸送効率の向上」、待機時間削減など「輸送条件の改善」、道路・建物など「インフラ・施設改善」などである。国の「物流生産性革命」の資料でも、概ね、このような施策が挙げられている(図表5)。
  このような取り組みのうち、現状で特に効果が期待できる対策は「車両の大型化」である。諸外国を見ても、例えば米国では規制緩和による運賃低下のマイナス効果を減殺するために、戦略的に大型化を進め、一定の成果を収めたことが知られている。このような実例からも効果が期待でき、実際、表に挙げた国の施策方針においても、大型化の促進が強く打ち出されていることが分かる。
  荷待ちや再配達の削減といった「輸送条件改善」も、大きなテーマである。
  こまめな指定時間納品や再配達といった高度な物流サービスは本来、それによって付加価値を生み、高い運賃料金を収受できることが前提である。しかしながら実態がそうなっていないということは、サービスが特別に料金を取れるほどの付加価値を生んでいないと(少なくとも荷主からは)認識されているということである。ただし、態度の大きい顧客のワガママに応えながら、適正料金をいかに収受するか、というのは日本のサービス業全体に共通する課題とも言える。

図表5 トラック運送の生産性改善のための取り組み施策例
資料:国土交通省生産性革命本部(第2回会合)資料「国土交通省生産性革命プロジェクト(第2弾)」資料を元に整理
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■輸送自体の生産性向上には限界も

  以上のような生産性向上策はぜひ促進すべきであるものの、看過すべきでない根本的な問題は、「モノをA地点からB地点へと移動させる」という輸送行為自体は、原理的に大きな付加価値を生まないということである。残念ながら輸送機能単体での付加価値を高めるのは、自ずと限界があると思われる。もちろん、自動運転などの技術革新が実現すれば前提が大きく変わるが、遠い将来の話である。
  これを踏まえ、輸送が低付加価値であるなら、低付加価値なサービスとして成り立つ仕組みを考える、というのも一つの方向性である。
  ドライバー不足が生じている要因として、輸送自体の付加価値が低い結果、他業界と比べて賃金水準の低いということが挙げられるが、一方で重要なポイントは、低賃金にも関わらず、長時間労働や丁寧な作業など過剰な労働が期待されているということである。小売や飲食など他業界を見ても明らかなとおり、付加価値を生まない作業は、アルバイトなど不熟練あるいは半熟練労働者(Semi-Skilled Worker)にゆだねる代わりに、「労働負荷を下げる」、「働き方の自由度を高める」、「仕事自体を楽しいものにする」といった賃金以外のメリットを提供することでバランスを取ることがあり得るのである。
  トラック運送業において女性や高齢者に労働参画してもらう議論が盛んであるが、その場合も同様であり、例えば子育てを終えた女性が就労を再開するとして、いきなり長時間のトラック運行に従事させることが現実的でないことは、常識で考えれば分かることである。そのような潜在的な労働者が関与できる機会が現状では少ないことが問題と言える。
  いずれにせよ、トラック運送業において生産性を議論するうえで、高付加価値を指向すべき領域とそれ以外とを分けて考えることは避けられないと思われる。

■付加価値を高めるベクトルの一つは高次化・高機能化

  では逆に高付加価値を指向する場合に、どのようなシナリオが考えられるであろうか。代表的な方向性は、図表6に示すような、高次化・高機能化するベクトルでの取り組みである。
  図示するとおり、輸送単体では付加価値を生まない場合にも、保管や流通加工などを統合的に運営することで付加価値を生むことが可能である。
  また、JITのように、「適時に納品することで在庫を減らす」など、物流を調達や生産と統合化し、輸送行為から派生する他の付加価値を生み出すこともより高次な高機能化の例と言える。
  この場合、付加価値を生んでいるのは実輸送ではなく、コンサルティングやコーディネート等の管理運営レベルの機能であるとの批判もあるかも知れないが、トラック運送業が収益を上げて労働者の労働条件を改善するには、このようなベクトルでの取り組みは不可避であると思われる。

図表6 付加価値を高めるベクトルの一つは高次化・高機能化
資料:筆者作成
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  なお、輸送経済新聞において、トラック運送業の生産性に関する連載を月1回程度執筆していますので、ご関心のある方はぜひご参照ください。

以上


(C)2017 Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.

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