ロジスティクス・レビュー

第342号 物流と鮮度管理を考える。(2016年6月21日発行)

執筆者  髙野 潔
(有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長)
    執筆者略歴 ▼

  • 職歴・履歴
    • 日産自動車株式会社(33年間)
    • (出向)株式会社バンテック(7年間)
    • (起業)有限会社KRS物流システム研究所(平成11年~)
    組織・履歴
    • 神奈川流通サービス協同組合・物流システム研究所所長(5年間)
    • 株式会社湘南エスディ-・物流顧問(5年間)
    • 株式会社カサイ経営・客員研究員(7年間)
    • 物流学会・正会員(8年間)
    • 物流学会・ロジ懇話会事務局(5年間)
    • 日本情報システムユーザー協会・個人正会員(JUAS-ISC)(9年間)
    • 日本情報システムコンサルタント協会(JISCA:東商会員)正会員・理事(平成25年~)
    委嘱(受託)・履歴
    • 通産省(現・経済産業省) 荷姿分科会委員・委嘱(1年間)
    • 運輸省(現・国土交通省)輸送分科会委員・委嘱(1年間)
    • 中小企業基盤整備機構  物流効率化アドバイザー・委嘱(8年間)
    • 中小企業ベンチャー総合支援センター 新事業開拓支援専門員・委嘱(6年間)
    • 中小企業基盤整備機構  企業連携支援アドバイザー・委嘱(6年間)
    • 中小企業大学校(関西校) 非常勤講師・委嘱(4年間)
    • 海外技術者研修協会 [AOTS]関西研修センター 非常勤講師・委嘱(2年間)
    • 座間市観光協会・事務局長(2年間)
    • 座間市・都市計画審議会委員(2年間)
    著書・講師・履歴
    • 日本のロジスティクス (共著:日本ロジスティクスシステム協会)
    • 物流共同化実践マニアル (共著:日本ロジスティクスシステム協会・日本能率協会)
    • 図解 なるほど!これでわかった よくわかるこれからの物流 (共著:同文館)
    • 雑誌掲載:配送効率化・共同物流で大手に対抗(日経情報ストラテジー)
    • 雑誌掲載:情報化相談室回答担当者(日経情報ストラテジー)
    • 雑誌掲載:卸の物流協業化・KRS共同物流センター事業(流通ネットワーキング)
    • 雑誌掲載:現場が求めるリテールサポート・ドラックストア-編(流通ネットワーキング)
    • その他  :執筆実績多数
    • 講師(セミナー、人材育成、物流教育・etc):実績多数

目次

1.はじめに。

  昨年、これからの生鮮品物流を考える機会に巡り合いました。海外からの高級マンゴーの輸入を空輸から船便に変えると共に鮮度維持、コスト削減などを研究している方から物流と鮮度に関わる意見交流を求められました。世の中に鮮度管理のことなど、まったく考えていない人はいないと思いますが、生鮮品などは、適切な鮮度維持をしないと結果として商品価値の劣化に繋がることを今更ながら認識した次第です。私も過去に温度管理・鮮度管理として、某生協の生鮮品三温度体管理、菓子食品の温度管理(チョコレート類のブルーム現象防止)、キムチ製造・卸業の物流倉庫の移転に伴う保冷と物流改善、冷凍マグロの入出庫、在庫管理、流通加工などのシステム開発、及び配送システム(仕組み)の構築に関わる機会に恵まれ、そのどれをとっても温度管理・鮮度管理が必須条件であることを体験しました。さらに、前述のマンゴーの海外からの輸入に関する鮮度管理を考える時、鮮度管理の技術革新が輸出入のキーワードになるものと認識しました。生鮮品は、収穫から消費者に届けるまで、市場向けの選別作業、包装・流通加工作業、空路、海路、陸地における長い輸送や作業を適切な温湿度の環境下で対応できる輸送作業手段のもとでのコストバランスを確保した鮮度管理物流が今後の日本の食品輸出入のポイントと痛感しました。

2.TPPは、生鮮品を海外に出していくチャンス!

  日本のTPP(環太平洋経済連携協定)交渉で最大の焦点といわれているのが農業分野です。仮に日本がTPPに参加して関税が撤廃されると海外の安い農林水産品が大量に国内市場に流入し、日本の農業が大打撃を受けるという見方があります。影響が大きいとみているのは、関税率が高いコメ(778%)、バター(360%)、砂糖(328%)、小麦(252%)などです。日本政府は農業を保護するためにコメ、麦、牛・豚肉などを関税撤廃の例外扱いができるよう交渉で求めていく方針です。一方で影響の小さい農産品もあります。例えば、トウモロコシや大豆は無税、リンゴなどの関税率は5~15%程度です。また、葉物野菜(レタスやホウレンソウなど)は、長時間の輸送で鮮度が落ちてしまうので、国産品が有利になると言われています。TPP参加でもう1つ懸念されているのが食料自給率です。
  政府試算では、カロリーベースで39%から27%程度に低下するそうですが、食料の大半を輸入に頼るようになると、海外で食料価格が高騰した時、品薄になった時に、調達が難しくなり、食料不足になると心配する人もいます。日本の農産物の品質の良さは、国際的に定評があります。TPP参加を機に、農地の集約や大規模化を進め、生産性を高め、農業の競争力強化を図り、日本の農産物の得意分野の生産量を増やせば、農産物を海外に輸出していくチャンスだという意見も出ています。これからの輸出入には、ローコストで長時間、保持可能な鮮度技術の開発が不可欠と考えます。

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3.生鮮品には、生命力があります。

  鮮度とは、新鮮さの度合いです。一般には収穫時が最高で、時間の経過とともに劣化します。鮮度が最高の時が品質も最高となり、完熟した旬の生鮮品をその場で食するこれに勝る「鮮度」はもちろんありません。生鮮品の生産地が遠く(特に海外)になれば、なるほど、鮮度管理は、難しくなります。物流や流通、温度管理革命をもたらすことによって、以前にもまして、鮮度の高い生鮮品が手に入れられるようになってきています。生鮮品には、大きな特徴があります。呼吸もすれば、水分も蒸発します。収穫された生鮮品が市場に出て食卓に並ぶまでの鮮度とは、生鮮品のもっている「生命力」なのです。
  呼吸は、空気中の酸素を取り入れて、内部の糖類や有機酸を燃焼してエネルギーを作り出し、二酸化炭素を放出する生命活動をしているのです。収穫後は、時間が経つほど蓄積していた養分を消耗します。その分、甘みや酸味は低下します。栄養的にも減少します。そして、根からの水分補給が行われないのに水分が蒸発するのでしおれてしまいます。同様に収穫後も細胞は呼吸促進や葉緑素の分解、成熟促進などに必要なエチレンガスなどの成熟ホルモンを作り続けています。そして、生命力が低下することによって免疫力が下がり、微生物の繁殖を招き、カビたり腐ったりするのです。従って、長距離輸送の場合、この生鮮品の鮮度(生命力)を店頭・食卓までどのように維持するのかが最も重要な課題です。現在、生鮮品の鮮度に対する対応は、大きく分けると二つあるそうです。一つは「技術」によって成しえるもの、もう一つは、生態環境を整え、生鮮品の生命力を引き出すものです。これらの二つを掘り下げていくことで、生鮮品の鮮度維持と生鮮品の物流活動の方向性が見えてくるのではないかと考えています。

4.生鮮品の温度維持管理

  生鮮品の劣化現象が起こるのは、酵素反応です。その反応は、温度で起こります。温度の制御なくして品質保持を効果的に行うことは難しいと言われています。生鮮品の鮮度が劣化する率は、温度上昇に対して数倍も進むそうです。低温下では消化酵素の働きが抑えられ、生鮮品の生命活動も低下し、微生物の活動も弱まります。従って、生鮮品の生きていける(鮮度保持)温度にすれば、細胞を休眠させることもできます。生鮮品の遠距離の流通・物流に欠かせない技術となっているのが、低温処理技術です。低温処理は、生鮮品の鮮度(品質)保持に対する効果が高く、安定している技術です。この技術の基本は、生鮮品の呼吸や微生物の増殖など、生命活動を不活化させることにあります。低温処理することにより、有用成分の低下や蒸散によるしおれが少なくなるだけでなく、呼吸熱に起因する蒸れや腐敗も起こらなくなります。そのため収穫された生鮮品は、出荷前に適正温度まで冷却、予冷されているケースが多く、卸売市場を通り小売店(スーパーなど)に納品される大部分の生鮮品は、徹底的に低温管理されています。また生鮮品の最適湿度は90~95%と言われ、90~95%よりも高いと結露してしまい、水の付着した部分から傷みが始まります。このように高品質の生鮮品を提供するための鮮度保持の技術は、低温管理の他、湿度管理、熱制御フィルムなどの包装、エチレンガス除去技術などが、収穫後や収穫後の流通加工、流通の段階で生鮮品の特性に合わせてさまざまな形で取り入れられています。

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5.生鮮品の鮮度保持技術

  生鮮品は、収穫後も生きています。適切な温度管理をしてやらないと結果として商品価値の劣化に繋がります。収穫後、消費者に届けるまでの選別作業、包装・流通加工作業、空路、海路、陸地の輸送を適切な温湿度の管理下と長距離輸送の環境変化にも対応できる輸送手段、コストバランスのもとで行う必要があります。生鮮品の種別、品目によって適正な温湿度は異なります。輸入生鮮品は、生産地から消費地までの流通段階で劣化を防ぐ方策が必須条件です。 従って、生鮮品の品質劣化を防ぐため、費用対効果を意識しながら、生産地から消費地に生鮮品の品質劣化をきたさないようにあらゆる手立てを講じているのが現実です。生鮮品の鮮度保持は、陸路~空路~陸路、または陸路~海路~陸路の環境に適した荷づくりを前提にした一気通関型(生産地~消費地)の輸配送が肝要と考えます。そこで、例えば、温度管理として、強制通風冷却、差圧通風冷却、真空冷却などがあるそうです。さらに窒素や二酸化炭素などガスを使用し、生鮮品の呼吸環境を管理する CA(Controlled Atmosphere)貯蔵を組み合わせることもできるそうです。

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  ドライコンテナ、冷蔵コンテナなど、生鮮品に合わせた適切なコンテナに積み込むことは、最低限必要です。さらに、活性化を促進するエチレンガスを吸収する特殊コンテナも開発されています。 生鮮品の容器包装は、生鮮品の特性、輸送時間や輸送経路、さらには流通形態等に応じた包装材などを選択することが肝要です。容器内に空気が循環することでカビや腐敗の発生を抑えることができます。商品の特性や状態・条件によって、発泡スチロール箱(夏場のチョコレート配送に有効でした。)に保冷剤を入れるなど、水分の蒸発を抑える容器の選択、乾燥を促進する材質の容器を使用するなどを検討する必要があります。取り組むに当たり、生産地から消費地までの諸条件(取り扱い物量、輸送距離、商品価格&コスト・バランス、商品特性や条件など)でコスト、品質、サービスなどの総合的な判断が求められています。さらに、日本の流通技術は、生産から計測、品質(鮮度)保持輸送と世界最先端を誇っているそうです。この技術の基本は、生鮮品の呼吸や水分の蒸発、ホルモンの発生などの生命活動を押さえることで鮮度を保つ技術だそうです。生鮮品を仮死状態にすることで鮮度を保つ技術があるとのことです。この技術は、遠方の生産地で収穫した生鮮品をそのまま鮮度を維持したままいくつもの流通経路(工程)を経て消費地に届けます。その一つの技術として真空予冷があります。生鮮品を一気に冷やすことにより、生鮮品の成長を休眠させることで劣化を遅くするのです。一気に冷やすので時間も手間も余りかけずに日持ちするので遠方に流通させる業者には欠かすことのできない方式です。また、生鮮野菜には、賞味期限の表示が無いのが普通です。これは、加工食品と違い生鮮野菜は見た目で鮮度の判別、判断ができるからとのことでした。次にオゾン冷水という特殊な装置を通した水に野菜を浸すことで、野菜の腐敗を遅らせることが可能なシステムがあります。この技術は、鮮魚でも使用されているそうです。その有効性は大いに着目されています。医療分野の消毒対策にも使用されている技術ということです。その技術に対する価格面での投資対効果で普及するかどうかの分岐点になると言われています。

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6.生鮮品の輸出入物流を考える。

  生鮮品の取り扱い、特に輸入に際しては、従来にも増して食品の安全性の確保を最優先することが重要視されています。生鮮品が生産者から消費者の手に渡るまでの物流を核にした工程全般にわたる総合的管理が必要です。特に、輸出入物流は、取り扱い物量、輸送距離、商品価格(コスト・バランス)、商品特性や条件等によりコスト、品質、サービスなどを総合的に判断し、海路、または空路かを選択、決定します。海路は商品付加価値の低い(単価が安い)、かつ比較的貯蔵期間が長い生鮮品の大量輸送に適しています。通常は20フィートまたは40フィートのドライコンテナや冷蔵コンテナを使いますが、空路は商品付加価値(単価が高い)の高い、鮮度の劣化が早い商品を冷却装置付きコンテナ、パレットなどを使い輸送します。輸入物流も国内物流も基本的な機能に変わりはなく、輸入物流では、商品が海外から送られて来るため、海外での集荷、保管、通関、空輸(又は船便)、国内での陸揚げ、輸入通関等の業務が国内物流に加わります。そこで、海外から国内までのリードタイムと作業条件を加味した生鮮品の鮮度保持を前提にした作業体制、作業荷姿(梱包、搬送、etc)を考慮する必要があります。 輸入物流には、国内物流にはない国際取引としての業務が加わり、これらに対応するシステム(仕組み、情報)などを整える必要があると考えます。輸入が絡む場合は、発注から保管場所に到着するまでの荷物のリードタイムが長くなり、それだけで、在庫量が増加します。また、季節ものなどの取り扱い物量の波動も大きく影響します。在庫計画を立てる上で発注から入荷と航空便、船便の制約から輸送の効率化が国内以上に重要となってきます。即ち、業務のスムーズな遂行とコスト採算のとても難しい局面が出てくると思います。そのような局面を如何に打破するかが成功のポイントになると考えます。さらに、輸入物流と国内物流の基本的な機能が決まった段階で、鮮度保持にどの生鮮品と鮮度技術が適切かを吟味する必要があります。輸出入方式を決定する前に輸出入条件(搬送荷姿、搬送手段、搬送時間、コスト試算、etc)と1ロットあたりの輸出入(取り扱い)物量などを想定、輸出入先と国内の輸配送ルート(出荷先・納品先)までのシミュレーションを実施することが肝要と考えます。

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7.最後に。

  生鮮品(青果物含む)の取り扱い、特に輸入に際しては、従来にも増して食品の安全性の確保を最優先することが重要視されています。生鮮品が生産者から消費者の手に渡るまでの物流を核にした工程全般にわたる総合的管理に責任を持つほか、輸入品においても販売責任が求められます。前述の如く、 輸入物流には、国内物流にはない国際取引としての業務が加わり、これらに対応する仕組み、情報などの体制を整える必要があります。税関による輸入通関手続きでは、生鮮品によっては動植物検疫や検査が必要になり、輸出国の検疫証明書などが求められる場合があります。通関、検査、検疫の手続きには専門的な知識を要するので、新たに輸出入に取り組む場合は、これらの手続きを海運貨物取扱業などの専門業者に委託するのが一般的で、素人には、難しいことを知りました。さらに、輸入生鮮品の物流業務には、鮮度第一で、手間暇がかかり、その難しさを知った次第です。

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以上



(C)2016 Kiyoshi Takano & Sakata Warehouse, Inc.


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