ロジスティクス・レビュー

第340号 またも繰り返された災害救援ロジスティクスの不備:単なる物流問題に非ず (2016年5月24日発行)

執筆者  野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)
    執筆者略歴 ▼

  • Corporate Profile
    主な経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部
    • 1985年 物流子会社出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役)
    • 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)
    • 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立
           現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、
           (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    活動領域
       食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる
      :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊
       特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい
    私のモットー
    • 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている
    • ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う
    • 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない
    • 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる
    保有資格
    • 運行管理者
    • 第一種衛生管理者
    • 物流技術管理士

目次

1.熊本地震で過去の教訓は活かされたのか:災害救援ロジスティクス

  またしても大災害が発生し、その救援活動が難航している。阪神淡路そして東日本大震災と、その活動レベルは進歩しているのか。巨大自然災害だからある程度止むを得ないとしても、ライフラインの切断・通信困難・救援物資の送付ミスマッチ等々、毎度同じ繰り返しでは関係する領域に近い者としては誠に不甲斐ない思いである。そして今回は大きな地震の後に、更に本震というかつてない打撃にも見舞われた。だがその救援・修復活動、そして危機管理の在り方等について、過去の教訓が余り活かされていないように見える。九州地方では地震の確率が低いという安心感で、不意を突かれたかもしれないが。
  まず人命救助が優先されるべきことは当然だが、続いて救援物資をプッシュ型で被災地へ送り込み、そして避難施設を用意する等の初動対応は何とか展開された。しかし避難所が不足し、人々の生活環境は充分には確保されなかった。車で寝泊まりした結果、エコノミークラス症候群に見舞われる人も続発した。大規模な地滑りにより進行を阻まれたという要因もあった。避難所においてノロウイルスも発生した。そして状況を把握し、早くプル型の運営に移行させるという点も課題である。他地方自治体からの専門人材派遣による協力体制は機能した。
  突発事態とはいえ、事前の備えや訓練はどこまで行われていただろうか。机上計画だけではなく、具体的シミュレーションや参加型の訓練も重要である。そして最高指揮官としての首相が翌日に現地へ飛ぶという意向が示されたが、これは本震の発生で取り止めとなった。対策本部がまずやるべきことは情報を収集し、災害救援のロジスティクスを組立て実行することだ。それを指揮する最高責任者が不在となっては、計画進行が遅滞する恐れがある。東日本では原発事故という更なる非常事態があって最高指揮官が動いたとも考えられるが、いずれにしても情報把握に基づき計画を立て、統制しなければならない。これはロジスティクスの活動そのものである。

2.ロジスティクスは単なる物流に非ず:情報収集~計画・統制が基本

  救援物資が思うように運べないという物流上の課題が必ずクローズアップされるが、それはロジスティクスの一要素であり、もっと上位概念を持ち全体を動かさなければならない。ロジスティクスは兵站活動であり、前線がどこに展開し何をどの位必要としているかをまず見極める必要がある。そのためには情報収集が基本となり、それを基に計画を立て物資を供給していく。企業活動においては需給管理がそれに相当し、需要予測と在庫把握が情報収集の基本である。その結果で必要な生産を行い、商品を市場に配分していく。つまり情報把握による計画と統制がその要諦である。情報収集はもちろんリアルタイム性が問われる。
  そして極少化された在庫で最大目的を達成するためには日常業務リスクが発生し、これを的確にヘッジしておかなければならない。一般的にはQC活動を初めとする改善活動を行い、事前の手当てをしておく。ここでもデータ収集が基本であり、改善への手掛かりとなる。それでも異常事態は発生し、それにどう対処し短時間で修復させるかが危機管理である。前者は参加型の活動で行う必要があり、後者は経営としてのトップダウンである。ロジスティクスにはこのような活動が不可欠であり、物理的な機能としての物流はそのごく一部に過ぎない。そしてロジスティクスは企業内の全体最適を目指す活動であるが、その範囲内だけでは不充分であり企業間連携が問われていく。これがサプライチェーン・ロジスティクスと呼ばれる、企業間最適化の活動である。
  災害救援活動における情報とはまず被害状況の把握であり、人命救助活動が優先されるべきことは既に述べた。次に避難所の位置・避難者数、そして必要としている物資や量等である。もちろん通信手段が途絶している可能性が高いので、そのリカバリー策が用意されていなければならない。輸送手段は陸路が切断されている場合は、海・空を利用せざるを得ない。東日本の場合は主に津波被害だったので、空港滑走路のガレキを除去すれば大型輸送機が利用できた。これには米軍パラシュート部隊が活躍した。港湾設備は破壊され大型船の接岸は不可能となり、小型船が機能した。

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3.善意の救援物資が送られても荷捌きできない:何でも送ればいい訳ではない

  全国から善意の救援物資が送られてもその荷捌きが追い付かず、活かされないまま廃棄されるという光景も東日本と同じだった。まず集積場所としてのデポをどこに設置し、どう仕分けして輸送手段を確保するかという判断は、かなりの専門知識を必要とする。非常時の対応について自治体と物流業界の連携が取られていたのかは甚だ疑問であり、物流業界の存在感も見えなかった。これをボランティアの力に頼るのは酷というものだ。自治体の側にもこのようなシステムを組立てる人材は皆無であろう。それこそアウトソーシングすることを決断すべきだった。
  物流業界側も日頃の荷主からの値下げ攻勢や人手不足で疲弊し切っており、それどころではなかったかもしれない。しかしロジスティクス・インフラを支えるという社会的責任があり、非常時の対応は不可欠の要素であったはずだ。東日本の時は鉄道貨物輸送が、迂回ルートを使って大活躍した。上越線から日本海側を北上し、被災地に燃料を届けた。末端配送と被災者の安否確認には、郵便や宅配便が機能した。情報システム面では衛星通信を介して、カーナビ・システムが通行実績のあるルートを表示し有効だった。しかし今回の大災害の中で物流業界の顔が余り見えなかった。
  企業がロジスティクスをアウトソーシングするようになり、ノンアセット型の3PLと呼ばれる代行事業者がその窓口となり、実務を遂行する物流事業者はいわゆるコンポーネント・サービスに陥っていることにも構造的な問題がある。ノンアセット型の事業者は情報システムが主な経営資源であり、倉庫やトラックはアウトソーシングという業務構造である。いざという時にアセットを持たない経営は、致命傷を受ける恐れがある。筆者はかつて実事業の経験から、中間型の2.5PLを提案してきた。ある程度のアセットを持つ事業構造でなければ、危機管理もスムーズにはいかない。まずは各企業のBCPにロジスティクスがどこまで組み込まれているかが問題だ。

4.インフラが切断された場合の代替え手段は:危機管理の一環

  阪神淡路の経験では関西地区の道路渋滞で関東からの供給を日本海側経由とし、広島まで内航海運を利用し陸路で繋ぎ関西に入る方法も有効だった。東日本で活躍した鉄道貨物輸送は、新幹線の開通で信越線はもう通じておらず唯一上越線経由が生きていた。ところが新潟から郡山に向かう磐越西線では橋梁の重量制限があり、列車編成を変えなければならないというリスクも発生した。九州でも民営化された路線があり、貨物輸送の制約はあるだろう。陸路の迂回路が不可能であれば、海・空に頼るしかない。
  通常では使い勝手のいいトラックのみに頼り、いざという時に代替手段とはいってもそう簡単にいくはずがない。モーダルシフトは環境対応面だけではなく、危機管理対応の一環として輸送手段ミックスを実践しておかなければならない。新幹線延伸が大優先の鉄道網も、このような事態になるとマヒしてしまうことが明らかになった。在来線を放棄して民営化や廃線とすることについても、ここまでの事態は想定していなかっただろう。九州全土の迂回路が確保できていることが、大前提のはずだ。船舶についても水深の浅い有明海では、別の工夫が必要かもしれない。
  停電に伴うインフラ機能停止についても、リカバリー策が重要である。マテハンシステム等はもちろん地震では作動不可能になるリスクが高く、停電時の復旧策も含め設計上の配慮が必要となる。ましてや低温系では温度維持が難しくなり、被害は一段と拡大する。大都市部では通常でも過負荷による停電の可能性があり、電源車両の派遣を契約しているケースもある。しかし長時間の対応や道路被害があればそれも不可能だが、考えておくべき選択肢の一つではある。コンピューター用の非常電源程度では焼け石に水である。

5.政府・自治体にロジスティクス概念がない:プロとしての人材を確保すべき

  企業活動においてもロジスティクスは単なる物流の延長と考えられており、フルアウトソーシングの流れである。物流コストを変動費化することは必然であるが、アウトソーシングは自らが行うコア管理があって初めて成り立つ。本来アウトソーシングとは、標準化された業務の機能部分のはずだ。標準化された業務とは、改善活動の積み上げによる業務手順がマニュアル化されている状況である。コア管理とは管理基準の設定とメンテナンスであり、これを放棄したのは丸投げである。繰り返すがロジスティクスは情報を駆使した計画と統制であり、経営そのものであり決して外部委託はできないはずだ。物流は機能としての管理であり、外注は以前から行われていた。
  政府や自治体にも災害救援のみならず、ロジスティクスとしての活動がある。環境対応についてもサプライチェーン・ロジスティクスのもう一つ上位概念としてのグリーン・ロジスティクスがあり、例えば環境対応や廃棄物回収・再利用等の課題である。実務はアウトソーシングするとしても、計画や管理はコアになる人材を確保すべきである。ところがそのような部門や人材配置、まして教育等は聞いたことがない。政府においては国際会議等の設営をロジスティクスと呼んでいるが、それは単なる物理的な準備に過ぎない。危機管理としてのロジスティクスを構築し、実行のための訓練をしていかなければいざという時に機能しない。
  そして危機管理に当たっては、指揮命令系統が充分に働かなければならない。これもマニュアルに示しておくだけでは意味がない。様々なケースをシミュレーションし、定期的なメンテナンスや実施訓練をしておく必要がある。それでも実際に起きるケースは様々であり、想定外の事態は発生する。そして官民連携が重要になることは言うまでもない。日頃からロジスティクスに関係する業界との概念合わせをしておくべきだ。民間のインフラがどこまで活用できるかを事前に協定しておく必要もある。コア管理を自治体が行い、実務は民間企業に委託し、機動的な対応ができるようにしておく。

6.物流~ロジスティクスの社会的ステータスを上げる:社会インフラでもある

  企業活動において、マーケティングとロジスティクスは車の両輪である。前者が顧客への需要の創造活動とすれば、後者はそれを具体的な商品として市場へ供給する仕組みである。ところが企業は前者がコアで、後者はアウトソーシングできると考えている。物流とロジスティクスは明らかに次元が異なり、単なる外注といった程度では運営できないはずだ。だから物流事業者へのコスト低減要求ばかりとなり、物流事業者の方もコストヘッジが経営の軸となり、企業や業界としてのステータスも上がらない。これでは必要な人材も集まらない。これをもっと価値あるものにして、社会インフラを支えていかなければならない。食品分野であれば衛生管理やセキュリティー確保が重要になり、密閉型システムが必要になる。
  物流業界も単なるコンポーネント・サービスだけでは価格競争に巻き込まれるだけで、何の付加価値も付けられない。これを物流からロジスティクスのレベルに引き上げるのが3PLという業態だが、とてもリスクが大きく問題が発生した場合の責任所在が証明できなければ、全て物流事業者側の負担になってしまう。そして不公正な商習慣によるリスクも発生する。例えば小売業は店着バイイングが前提であり、物流センターへの納品段階ではなくそれが各店舗に納品された時点で責任移転という方法を採っている。商品がセンターに納品されても、未だ在庫所有権は小売業に渡っていない。そして小売業はベンダー側からセンターフィーを収受し、差益を得ている。このような条件整備が行われなければ、リスクの高いロジスティクスのレベルでの業務遂行は難しい。
  大災害が発生した場合の救援~復旧活動は公共機関の仕事とされ自衛隊・警察・消防等の出動となるが、ここに民間の力を併用していけばもっと迅速かつ合目的な体制が取れるのではないか。その中で物流業界やその他関連業界の持つ力が発揮できるはずだ。阪神淡路の時、未だガレキの残る中で辛うじて小型トラックにより各避難所に冷凍食品を届けた事業経験がある。自治体から特別な通行許可証を得て、渋滞道路もすり抜けることができた。冷凍食品は熱源さえあれば直ぐ食べられるので、まさに災害時必需品であった。

以上



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