ロジスティクス・レビュー

第339号 ものづくりシステムの新潮流(2016年5月12日発行)

執筆者  吉本 隆一
(オフイス・ロン代表)
    執筆者略歴 ▼

  • 略 歴
    • 1980年法政大学大学院博士課程経済学単位終了。経済理論・財政論
    • 1983年から2005年まで(財)日本システム開発研究所。
    • 2005年から2013年2月定年退職まで日本ロジスティクスシステム協会、主幹研究員
    主な研究開発実績
    • 国際輸送システムの調査研究(基盤整備、パフォーマンス分析、国際陸送制度)
    • 物流情報システムの標準化・調査研究・技術開発(ITS、AIDC、輸配送システム等)
    • 公共事業整備に伴う社会経済的影響評価
    • 立体道路整備、道路一体型物流施設整備等の複合的事業手法開発
    • 物流拠点整備・共同配送等、物流効率化・高度化事業手法の調査研究等

目次

はじめに

  我が国の国際競争力の源泉は、「ものづくり」にあるとされてきた。しかし、近年の環境変化にともなう日本的経営力の低下に対する危機感が高まってきているように思われる。こうした状況の下、教育分野では、生産に関わる科学と技術の再融合によって現場力強化を図る試みも行われている。同時に、単なる日本企業の欧米化によるグローバル対応ではなく、現場力を含む日本的経営力を生かしたグローバルな視野でのマネジメントを再構築する動きも見られるようになってきた。
  ここでは、ものづくりに関わる情報システムについて、日本の製造業の長所を生かした新しい取り組みを紹介する。その要素技術には、ものづくりだけでなく、サプライチェーン全体に適用可能な役割が感じられる。いずれの取り組みも、「新潮流」とは題したものの二十年以上の現場経験から生み出された地に足の着いたノウハウである。

1 ものづくりシステムの課題

  戦後、高度成長期までの期間は、事務機械化、自動化と省力化、合理化と標準化が上位目標であり、従前の情報システムは、規格品の量産には適合し、効果的に機能してきた。
  しかし、消費需要が一巡し、多品種少量生産の時代になると、多様性、仕様変更、付帯サービス提供への対応が必要とされるようになり、リードタイムが短縮し、迅速性が重要になってくると、従前の情報システムでは、コードの複雑化や基幹系情報システムの機能不全による生産トラブルが多くなり、その改善が必要とされるようになってきた。
  ものづくり情報システムの基本的な流れは、市場へ供給する製品の種類と数量を策定する生産計画に始まり、部品構成表および在庫をふまえた資材所要量計画(MRP)や設備能力所要量計画(CRP)の作成を行い、生産を実施する時間的日程を作成する生産スケジューリングをふまえた生産指示が行われ、生産計画と実績の差異を修正する進捗管理を行うといった活動から構成されている(図1参照)。

図1 生産管理情報の基本的な流れ

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  このうち、多品種化に伴う課題の一例が、部品表の管理に見られる。かつての親子関係構造の部品表を利用する場合には、部品を設計変更すると、その部品を使用する親品目も仕様が変わる。このため親品目に設計変更番号を付して、新しい設計変更番号に基づく構成データを作る必要があり、製品の機能差が分からない詳細レベルでの設計変更や構成データの作成が頻発する。リードタイムが短くなると構成データ更新が終了しないうちに次の設計変更が発生し修正が混乱し、部品データ管理に振り回されて、肝心の生産がおろそかになるという本末転倒の状況が発生する。
  設計変更には、顧客ニーズへの対応、生産性向上やコストダウンのための改善改良がある。多品種化・多仕様化が進むと、優先すべき生産順位などの工程管理・負担調整問題も発生する。販売部門では、納期競争に対応するため受注見通しに基づく先行生産依頼が行われ、顧客との調整の結果、仕様変更が発生すると、先行手配した製品と仕様が異なり、中間製品や部品、材料に不要品が発生し在庫が増加するという問題も生じていた。
  ERPパッケージソフトに基づき、仕様が確定し、生産指示を行い、量産可能な標準品を販売するように対応すると、在庫は減少し、生産調整の負担は軽減するが、納期が遅くなり、顧客ニーズに製品仕様が適合しないため売れ行きが減少し、倒産するという問題も発生していた。
  また、構成品目の調達計画の作成方法には、MRP・ERPではタイムバケット方式が用いられるが、タイムバケット方式は規格品大量生産向きのシステムであり、所要量計画は負荷調整が難しく、調達・生産リードタイムが伸びるという問題があった。
  さらに、ソフトウエアの増加に伴って、相互の関係が複雑になり、その変更も含めた保守管理が問題になってきた。かくして、業務の改善・改良に伴って現場が変化していく状況に対応することのできる新たなソフトウエアが必要とされるようになってきた。

2 JFEスチールにおけるITによる業務改革

  こうした状況の下、JFEスチールでは、2002年の旧川鉄と旧NKKの統合を契機として業務改革につながるITの活用を図るために、単なる情報システムの統合ではなく、情報システムの構築を現場利用部門における業務の根本的な見直しから始め、業務内容を情報システム上へ反映させる作業を行い、そのために、オブジェクト指向アプローチを採用した(図2参照)。

図2 従来のシステム開発手順とJFEスチールのアプローチ

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  そこでは、システム化の要求仕様にもとづいてデータ処理のアルゴリズムに沿ったプログラム開発を行うソフトウエア工学手法ではなく、利用部門における業務処理の必要性や課題解決に必要なコミュニケーション手段としての情報システム工学が適用され、業務の実態を記述するための手法が開発・適用され、基幹系システムを構築するという手法が適用された(図3参照)。

図3 実社会の業務モデルと利用者向け情報システムの関係

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  この結果、業務目標に即した情報システムの再構築が行われ、生データの取得・活用、情報共有、情報品質の保証、ビジネスの事実を表現するデータ仕様の構築、マスターデータの「統合機能」の再構築を通じて多様な関係者間の共通認識が可能となり、データの階層構成の整序、マスター、契約、調達供給・現物管理、ビジネス活動制御、サプライチェーン管理にわたる全体最適化のツールを構築することができた。
資料:安保秀雄著、『ITによる業務改革の正攻法、JFEスチールの挑戦』、日経BP刊、2011年

3 オブジェクト型製造プロセス記述方法の特徴

  従来のERPパッケージソフトの世界では、受注仕様が確定した後に、当該製品仕様に対応する所要の部品・資材を組み合わせて所要の加工処理を行う流れを想定していた。しかし、実際には仕様変更やコードの加除修正、現場での改善改良を伴うため、情報システムと実際のものづくりとの間に大きな乖離が発生する。
  このため、新しい実世界のビジネスモデルを記述する方法では、作業仕様そのものに、ものづくりに必要な要素を取り込み、その変更修正を可能とする仕組みを設けている(図4参照)。

図4 製造プロセスにおける記述手法例

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  このような業務記述にもとづいて各種要素を統合することによって、工程の各作業に必要な部品、材料、中間製品を同期化し、作業仕様で組立・溶接などの合流プロセスや作業結果で発生する副産物(プレスや木工処理で発生する端材等)や産業廃棄物も表示することができる。
  この結果、製品や部品の多様性を、用途・使用条件の相違として捉え、その実現方法として部品構成や加工作業仕様を選択し、共通事項の統合管理と個別事項の個別管理が可能になる。また、見込み先行手配を行うための未定の作業仕様も登録可能になり従来型の構成データよりもはるかに少ない作業仕様データで処理できるようになる。
  また、スケジューリングでは、生産資源を準備する時期を生産スケジュールによって見極めるためのシミュレーション機能を活用し、資材供給によって生産計画を裏付けるために製品番号管理とタイムバケット管理を組み合わせることができる。
  このものづくり情報システムでは、製造プロセスの全体にわたる改善を可能にしており、主要項目をピックアップすると、以下のような機能を確保している。

1) 計画中心型生産情報システム:製品構造と製造方法の登録、引き合い・見積・契約、統合生産計画、資材供給計画、作業指示・購入依頼、加工・購入実績把握、生産スケジューリング
2) 多様性を扱う統合工程部品表:技術・技能のデータ表現、作業仕様データ、プロセスと作業手順、製品の構造と製造方法(作業仕様データ+プロセスデータ)、用途・使用条件に基づく構成や加工仕様、見積作成(費用・価格、納期、受注生産設計プロセス)
3) 統合生産計画:階層型計画の統合(工程内作業管理、荷揃と資材供給、短期資材調達、勤務スケジュール、設備保全、長期原材料調達)、生産指示、調達、不透明な予定仕様の段階的細分化
4) 資材供給による生産計画裏付け:完全ヒモ付け型供給計画(製品番号管理型、統合工程部品表の引用)、余剰品引当、仕様未定時の先行手配、受注生産時の供給計画、量産品のタイムバケット型供給計画
5) 納期を守るための資源割当:作業量・生産能力差分にみる負荷把握と調整、ボトルネック工程の負荷調整、生産指示の日程調整、シミュレーション分析(模擬実行)
6) 働く人の連携を可能にする生産活動制御
作業指示・資材払い出し実績把握、タイムフェンスと作業許可、購買発注と納品検収、ユーザー側情報開示による気配り納入(納入タイムフェンス設定)、自律生産、座席予約
7) 生産以外の業務プロセス:部品表+工程表+業務プロセス(使用・運転、点検・整備・修理、リサイクル・廃棄、クレーム処理)

資料:手島歩三著、『「気配り生産」システム』、日刊工業社、1994年、手島歩三、平野健次編著、『ものづくりマネジメントと情報技術(MASP: Manufacturing Architecture for Series Products)』、静岡学術出版、2014年

4 現場ナマ情報の共有による経営革新

  激変するグローバル環境の下で、迅速で柔軟な対応が必要であるといわれている。しかし、下準備なしで迅速性だけ求めると焦って空回りするばかりである。現場と経営戦略の同期化を図るための現場系ITシステム構築の新しい手法として、FOA(Flow Oriented Approach)と呼ばれる手法がある。ここには、単に現場を「見える化」するだけでなく、手順の決まっていない未解決分野への対応やイノベーションの促進を図る活用の仕組みも含まれている。かつて、小集団活動や現場改善の活動と別世界にあった情報システムの見直しである。
  この手法のコアとなる要素技術は、情報短冊(CTM: Con Text Message)による情報収集・分析・活用にある。わかりやすい例示として、ものづくり現場におけるトラブル感知の事例にみる情報短冊の構成をみると、大きく、生データの記述とその解析や判断に必要となる背景データ、説明データから構成されている。
  ある資材の異常温度発生という事象に対して、資材や設備の仕様といった背景データに加えて、直ちに設備の稼働を停止し関係部署に連絡するというアクション情報や、今後の発生予防や保全に必要な原因と対策を策定するために必要な説明データまでが情報短冊に加えられている。こういった非要件定義型の情報短冊のメリットは、固定されたフォーマットでのチェックリストではなく、必要なデータ要素を適宜加除修正できる柔軟性にある。

図5 情報短冊の構成要素

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  最近は、ビッグデータの活用が話題になっているが、分析に必要な所要データの検討はまだ初期段階にあり、情報短冊は所要項目作成の参考になる。
  また、実際的な課題としては、インターネットの普及に伴う情報の洪水に翻弄されているか、貴重な情報が経営者の脇を素通りしていることに気がつかないという課題の方が重要である。このため、単なる生データの生成・共有だけでは無意味であり、必要な時に必要な人に対して、必要な所要情報の所在と判断方法に必要なキー情報が伝わることが重要である。
  そこでは、組織階層に応じて、現場担当者が活用するための問題分析・解決用データ、管理層における管理目標とのギャップ要因とその対策に必要な情報、経営者がその戦略・方針・環境変化への対応判断に必要なマクロ型の情報との連携・加工の同期化に関わる具体的手法が重要になる。このためには、データを集約した一覧表や時系列表、主要管理指標や経営指標の一覧表を活用する手法が提案されている。
資料:奥雅春著、『現場ナマ情報のグローバル共有戦略』、日経BP社、2013年

おわりに

  どのような情報も、それを積極的に活用する姿勢と問題意識がなければ価値がない。企業組織を支える各層のスタッフの意識や行動の変化を必要とする。また、近年の情報処理速度・能力の飛躍的向上に伴って、かつての利用制約を克服することが可能になっている面も多い。紹介した事例は、いずれも現場や利用者を起点として業務に必要な情報システムを構築するという基本に立ち返って新しい仕組みづくりを提案している例である。こういった手法を積極的に活用してサプライチェーン全体を改善する新しい取り組みが生まれてくることを期待したい。

以上



(C)2016 Ryuichi Yoshimoto & Sakata Warehouse, Inc.


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