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グローバル・ロジスティクス

第328号 中国における外資系物流事業者の事業戦略(2015年11月17日発行)

執筆者  吉本 隆一
(オフイス・ロン代表)

 執筆者略歴 ▼
  • 略 歴
    • 1980年法政大学大学院博士課程経済学単位終了。経済理論・財政論
    • 1983年から2005年まで(財)日本システム開発研究所。
    • 2005年から2013年2月定年退職まで日本ロジスティクスシステム協会、主幹研究員
    主な研究開発実績
    • 国際輸送システムの調査研究(基盤整備、パフォーマンス分析、国際陸送制度)
    • 物流情報システムの標準化・調査研究・技術開発(ITS、AIDC、輸配送システム等)
    • 公共事業整備に伴う社会経済的影響評価
    • 立体道路整備、道路一体型物流施設整備等の複合的事業手法開発
    • 物流拠点整備・共同配送等、物流効率化・高度化事業手法の調査研究等

 

目次


 

はじめに

  わが国の物流事業者のグローバル展開にあたって、外資系大手物流事業者の事業展開手法が話題になることが多い。しかし、外資系大手事業者にとって特殊な事業手法があるわけではなく、その時々の多様な制約の下で、明確な事業戦略に基づいて淡々となすべき事をやっている。ローマの道は一日にしてならず、である。本稿ではその状況の一端を紹介する。

1 エクスプレス便市場の展開状況

  中国における外資系大手物流事業者であるDHL、FedEx、UPSおよびTNTの動向は、エクスプレス便と呼ばれる書類や小口貨物を中心とした国際航空貨物輸送市場における事業展開が中心となる。エクスプレス便は、わが国の宅配便であるが、中国では企業間物流を中心に始まり、欧米の市場調査資料ではEMS(国際スピード郵便)を含めている。
  外資系大手物流事業者の活発な動向は話題性が高いものの、中国における物流市場の中心は、製造業の生産財物流であって、海運による輸出入物流量が極めて多く、最近は消費財物流も急増しているものの、国際エクスプレス便市場は物量、金額共に物流全体の中のごく一部の市場であることに留意する必要がある。
  中国のエクスプレス便市場の展開状況をみると、1980の中国郵政(国営企業)による国際EMSサービス開始に始まる。外資の参入まで、中国郵政の独占的市場であり、外資との競争でシェアは低下したというものの、EMSの取扱件数は1990年の300万件程度が、2000年には1.1億件、2005年の2.29億件まで2桁違いの規模に成長している。
  外資系大手の中国市場参入は1980年代に行われた。その後、事業展開準備期の1990年代、WTO加盟後の規制緩和による再編が進んだ2000年代前半、市場の成長と現地企業の成長が進んだ2000年代後半、そして今日に至る電子商取引の急速な成長等の市場環境の変化に伴う再編期に分けることができる。以下に、外資系各社の中国市場参入当初の動向を概観しておく。

2 外資系大手各社の事業展開状況

(1)DHL
  DHLは、ドイツポストが2002年に買収し、現在ではグループ名をドイツポストDHL(DPDHL)としている(従前はDPWN)。グループの本社はドイツ、ボンにあり、2014年には220ヶ国・地域をカバーし、従業員数約48万人(DHLのみ約32.5万人)、事業収入約560億ユーロを誇る世界最大の物流事業者である。中国における事業は、エクスプレス便、航空・海運、ソリューション事業の3分野に分かれている。
  ドイツポストに買収される前のDHLは米国本社の物流会社であり、1969年のハワイへの航空エクスプレス便の開始以後、世界展開を進め、東欧を含め30ヶ国以上に輸送網を有していた。中国の高い成長可能性を見込み早くに中国市場に参入した。中国への参入は、1981年のシノトランスとの代理店契約に始まり、1986年には合弁企業を設立した。現地企業との代理店契約や合弁方式は、規制緩和以前の外資系物流事業者にとって適用可能な唯一の方式であった。
  また、主たる競合企業のFedExやUPSが中国への自社直行便を開設したのに対して、DHLは、エクスプレス便のサービス競争が、航空輸送自体の迅速性よりも中国の国内陸上配送網に依存すると考えて、既存の商業便を活用する戦略を継続した。他方、ゲートウェイ施設や倉庫、配送センター、情報システムへの投資・整備を積極的に進めた。
(2)FedEx
  FedExは、1973年に設立された米国の航空輸送をコアとする物流事業者であり、ハブアンドスポークシステムの創設者でもある。中国へは、1984年に代理店方式で参入し、1986年にはシノトランスとの合弁企業を設立した。シノトランスとの合弁を1995年に解消した後は、EASとの提携を行い、1999年にはDTWとの提携を行った。その後、外資規制緩和後の2006年にDTWグループの事業部門を4億ドルで買収し自社独自の輸送網を構築した。
  FedExの中国における営業戦略は、中国で事業展開しているFedExの既存の多国籍企業を顧客として事業展開を初め、次いで中国企業へ拡大する戦略をとった。また、FedExは、中国内における既存物流事業者と競合するために、当初から自社配送網の構築に積極的に投資し、1996年には中国への航空輸送権を得た米国初の事業者となり、1995年に整備したフィリピン、スービックのアジアハブ輸送網に連結し、中国を含むアジア圏域の翌日配達網を強化した。
(3)UPS
  UPSは、1907年に、19歳の創業者による自転車書類配送サービスに始まり、陸上輸送網をコアとする米国の物流会社であり、中国には、1988年にシノトランスとの代理店契約を通じて参入した。
  UPSは、1990年代末まで、FedExとは異なり、自社航空輸送網の構築を行わず、香港や上海の航空会社との提携方式を採用し、ステップバイステップの漸進的な事業展開方式を採用した。1996年にはシノトランスとの国際航空貨物輸送に関するフォワーディング会社を合弁で設立し、陸上輸送網の強化を図った。シノトランスとの合弁方式は、主としてDHLとの競合関係を理由に2004年に終了し、自社独自の配送網へシフトした。
(4)TNT
  TNTは、オランダ本社のオランダ郵便をベースとする物流事業者である。中国には、1988年に参入し、外資系他社同様にシノトランスとの合弁会社を設立した。中国のWTO加盟後の規制緩和の動向をふまえて、2003年には15年にわたるシノトランスとの提携関係を終了し、北京のMachplus Worldwide Expressとの新しい合弁会社に移行した。その後、自社直営とフランチャイズ方式の併用による営業網を中国全土に拡大し、2005年以降は国内配送網にも参入した。

3 外資系大手物流事業者の規制緩和以後の動向

  外資系大手4社の国際エクスプレス事業における2001年時点のシェアは、中国のCCSCを含む上位5社合計の売上高でみると、表1のように、DHL、24%、FedEx、10%、UPS、8%、TNT、5%であり、DHL・シノトランスがトップシェアを確保している。
  外資系4社ともに、1990年代から2000年代にかけて、ゲートウェイ施設、倉庫、配送網、営業網の整備を進め、通関とのEDI、顧客による情報入力支援、貨物追跡サービス等の情報化も積極的に進めている。また、中国でのブランドイメージを定着させるための広報宣伝活動も積極的に行っている。

表1 中国における国際エクスプレス事業者上位5社の売上高

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  現地企業との連携については、DHLとその他3社の戦略は大きく分かれた。DHLはシノトランスの株式の5%を取得(2003年)し、その関係を強化した。
  他の大手3社は、それまでの合弁・提携関係を見直し、いずれも自社管理による配送網構築へと転換した。2004年からの物流事業への外資参入に関する規制緩和以後は、各社ともに、自社物流施設の運営や輸送網の整備を一層積極的に展開していった。2013年の航空機台数(保有+リース)は、FedEx、634機、UPS、237機(レンタルを含めると625機)、DHL、234機である。
  他方、中国物流事業者の成長も著しく、輸送費の安い都市内・都市間市場を中心に成長し、2000年代半ばには、その中から大手事業者として安定したブランドを確保した事業者に成長した。2013年の上位10社をみると、郵便のEMS:中国郵政速逓物流をはじめ、SF:順豊速運、STO:申通快逓、YT:圓通快逓、ZTQ:、Yunda:韻達快逓、TTKDEX:天天快逓、HTKY:百世汇通、ZJS:宅急送快運、GTO365:国通快逓があり、書類や小口貨物のドアツードア、デスクツーデスクの輸送サービスを行うようになった。他方、未着・遅延・紛失破損等クレームの急増がみられ、競争の激化に伴う倒産、統廃合も非常に多くなっている。

4 近年の市場環境の変化と事業再編成の動向

(1) 近年の市場環境の変化
  中国の経済規模は、現在では米国と肩を並べる水準に達した。他方で地域格差が拡大し、中国内の市場開拓の面でも中国中央部や西部の内陸開発が課題になっている。市場経済に対しては、リーマンショック以降、産業間連携を強化する施策や、環境問題や投機性資金に対する新たな経済政策・政府規制の動きが見られる。
  社会的には、所得増に伴ってインターネットショッピングが増加し、産業構造も製造業からサービス業へシフトしつつあり、都市化も進んだ。サービス業はGDPの46%を占めている。インターネットショッピングの件数は2008年の7千万件から2013年の3億件に急増し、取引額は1.84兆元(2008年の14倍)に達し、取引額が小売販売額に占める割合は同時期に、1.3%から7.4%に急増した。ネット人口は総人口の89.6%に達し、そのうち98.3%がモバイル環境にあり、高所得層から中間層への拡大、購入単価や頻度の向上が見られ、消費者物流向けの宅配市場が急速に拡大し、大手小売業も独自のウェブサイトを開設するようになった。
(2) 事業再編成の動向
  近年のエクスプレス便市場の変化を概観すると、以下のようになっている。
1)高い成長率:2013年のエクスプレス便市場は、世界第2位の規模となり(2014には第1位)、取扱件数92億件(日平均250万件)、売上高1,442億元に達した。過去5年間の成長率は年率36%と、依然として高く、2013年には郵便の取扱件数63億件を超えた(表2)。事業運営方法は、外資系4社やEMSやSFによる自社配送網方式と、その他の中国系大手で採用されているフランチャイズ方式がある。

表2 市場規模

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2)市場競争の激化:市場を国営、民営、外資の別にみると、民営企業のシェア拡大が続き、売上高で2007年の23.7%から2013年の67.5%まで急増している。同期間に国営企業のシェアは、50.6%から20.2%に、外資系シェアは、25.7%から12.3%に低下している(表3)。

表3 市場構造の変化

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  同じく市場を、都市内、都市間、国際の別にみると、民営は、2013年の売上高で、都市内の90%、都市間の80%シェアを占め、外資系は、国際輸送に特化しているが、国際市場でも民営24.6%、国営21.9%、外資53.5%と国営・民営のシェアは高くなっている。この市場別の輸送単価をみると、2013の都市内7元/件、都市間12元/件に対し、国際は102元/件と高く、いずれも価格競争による単価の低下が進んでいる。

表4 2013年の市場シェア(%)

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3)消費者物流の拡大:消費者物流の拡大は、国際輸送市場ではなく、現地企業の強い市場領域であった都市間・都市内物流が中心であり、輸送単価の安い国内輸送網における市場競争への対応が今後の成長の成否に関わる事業分野となっている。このため、新たな輸送構造の変化に迅速に対応するために、関連サービス部門も含めた企業のM&Aが多くなっている。
4)生産性向上・コスト削減のための技術革新:競争の激化に伴って、物流技術の革新も進んでおり、自動仕分けや保管システム等のマテハン機器に加えて、センサーの活用による保安・管理、温度・湿度管理の高度化、バーコード、RFID、無線通信、GPSによる追跡管理、TMSやWMS等の計画系システム、営業・決済・物流現場における携帯端末の活用も進んでおり、今後、中国国内物流市場への急速な普及が見込まれる。
  さらに、鉄道事業の民営化が行われ、物流事業の規制緩和の徹底化の動向も見られ、今後、内陸市場への展開も含めた中国物流市場の大きな変化が見込まれている。

おわりに

  わが国の物流事業者は、製造業を中心とした荷主の海外展開に追随し、最初から顧客ありきで事業展開する場合が多かった。このため、相手国市場での一般的な営業展開や、日本以外の荷主企業への提案営業の必要が少なく、日本の荷主企業への営業でさえ限定的な場合が多かった。
  また、外資系大手物流事業者の国際エクスプレス便を中心とする文書や小口貨物分野のように、航空機をはじめ配送センターや営業店舗のように大規模投資を必要とする分野ではなく、生産財の港湾と経済特区内工場との間のコンテナ輸送を中心とする貸切便型の輸送市場が中心であった。
  このため、グローバル展開に必要とされる現地企業との連携や現地人材育成、営業展開は、そのノウハウが無かったというより、外資大手ほどの必要性は少なかった。しかし、グローバル市場への参入には高い成長可能性がある。今後は、市場開拓や現地企業との連携を含めて、新たな事業戦略が必要になるだろう。

以上


【主要な参考資料】

  • Deloitte, China’s Express Sector Development Report 2014, 2014
  • Booz & Co., Express Opportunities in China, 2007
  • ICMR, DHL’s Business Strategy in China, 2004
  • ICMR, FedEx vs. UPS-Competing and Contrasting Strategies in China, 2003


(C)2015 Ryuichi Yoshimoto & Sakata Warehouse, Inc.

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