ロジスティクス・レビュー

第327号 荷主に求められる物流コンプライアンス(後編)(2015年11月5日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

目次

前号(2015年10月20日発行 第326号)より

1. はじめに

  前編・中編と読まれた読者や荷主は、貨物自動車運送事業法(書面化推進・荷主勧告制度)で、どうして「荷主の責任」が問われるのかと疑問に感じた方も多いと思う。輸送の安全確保や運転者の労働時間については、トラック運送事業者に責任があって、荷主にまで及ぶことはおかしいという意見もある。
  トラック運送を取り巻く法律は、実に多岐にわたっているが、簡単にまとめると、まず、トラックを走らせることから、①その上を走る「道路」に関する「道路法」、②走る本体である「車両」に関する「道路運送車両法」、③走らせ方としての「道路交通法」(以下、「道交法」)がある。道路法では、車両の重さ・大きさを制限する「車両制限令」がある。道路運送法では車両の「保安基準」や「車検」などが決められている。そして、道交法では「運転免許」や「最高速度」などが決められている。
  そして、トラック運送事業を営むうえで守らなくてはならないのが「貨物自動車運送事業法」である。
  これから説明する道交法では、荷主であるかトラック運送業者であるかは問わず、「使用者」の責任を問うているのであり、冒頭掲げた荷主勧告制度等も、この荷主の使用者責任を基にしていると思われる。

2. 道交法の使用者責任

(1)自動車使用者の義務等
  道交法第75条では、「自動車の使用者(安全運転管理者等その他自動車の運行を直接管理する地位にある者を含む)は、その者の業務に関し、自動車の運転者に対し、次のいずれかに掲げる行為をすることを命じ、又は自動車の運転者がこれらの行為をすることを容認してはならない」と定められている。
①無免許運転(自動車を当該免許を受けている者以外の者が運転すること)、②最高速度違反による運転、③飲酒運転、④過労運転違反、⑤無資格運転(年齢及び経験期間の制限運転違反)、⑥積載制限違反による運転、⑦自動車の放置行為
  例えば、⑥の過積載については、「荷主は過積載となることを知りながら、積載物を売渡したり引渡してはならない」「これに違反した荷主等が、反復して過積載の要求をする恐れがあると認められる場合、警察署長から過積載の『再発防止命令』が出される」とされている。
  これが、道交法の使用者責任であり、⑥以外の行為にも適用される。そこで、②④⑥などについて、貨物自動車運送事業法に基づく「荷主勧告制度」が導入されているということになる。

(2)広い「使用者責任」の概念
  「使用者責任」は、民法第715条に規定されており、同条第1項では「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う(但し書き略)」とされている。この「他人」は、雇用関係に限定されるわけではない。実質的に指揮命令監督をする関係にあれば、他人を使用しているといえると解されている。つまり、トラック運送事業者の運転者でも指揮命令監督下にあれば、「荷主」にとって被用者となるということである。
  このように、使用者責任の概念は広い。また、その適用については、警察の裁量範囲も大きいと言える。
  過去にも、大手鉄鋼会社の製鉄所長が、過積載運行を下命したと書類送検された事案があった(おそらくは、一度や二度でなく、何度もあるいは何社も、同鉄鋼会社の製品輸送に関して、過積載で摘発されたのではないかと推測される)。
  送検されたからと言って、必ずしも有罪ではない。検察は、100%有罪に持ち込めるという確信がなければ起訴しない。確信がなければ、「不起訴」「起訴猶予」すなわち無罪になる。しかし、書類・身柄が「送検」されれば、とくにニュースバリューのある企業の場合は、マスコミで報道されることになる。結果的に「不起訴」「起訴猶予」となっても、既に「賞味期限切れ」で報道すらされないことが多い。
  したがって、使用者責任を問われて送検されること自体が、会社にとって不利な状況(マスコミ報道)ことになりかねない。

(3)過積載運行における荷主の使用者責任
  過積載運行の事案で、運転者・事業者・荷主が、どうなるかを振り返ってみたい。

運転者
まず、自動車検査証の提示が求められる(標記トン数の確認)。次に、重量測定が行われるが、これには受認義務がある(拒否できない)。そこで、過積載が現認される。過積載が判明すれば、 過積載を解消するための応急措置(荷物の現場取卸し、警察官による通行指示)を取り、違反点数及び反則金が通告される(キップが切られて、免許証が汚れる)。場合によっては、民事訴訟で損害賠償責任(道路や橋梁を傷めた等)を問われる。
事業者
道交法(公安委員会)では、自動車の使用制限が課せられる(とくに過積載の下命・容認など)
さらに、貨物自動車運送事業法では、運行管理者の資格取消や車両の使用停止処分、事業の一時停止等の行政処分が行われる。
過積載運行が原因で、人的被害や物損が生じれば、当然、損害賠償責任(使用者責任)も問われる。
荷主
上述のように、道交法では「再発防止命令」(違反すると、6ヶ月以下の懲役または10万円以下の罰金)。貨物自動車運送事業法では「荷主勧告」(罰則なし。社名公表)
※荷主勧告制度については、中編を参照。

3. 荷役災害防止通達

(1)荷役災害防止通達とガイドライン
  荷役災害防止通達とは、2011年6月2日に厚労省労働基準局長から出された通達「陸上貨物運送事業の荷役作業における労働災害防止対策の推進について」の略称である。
  平成26年の労働災害(死亡災害と休業4日以上の災害)の発生状況(厚労省・確定値)では、陸上貨物運送業(トラック運送業)では、14,210人が被災しており、全産業の1 割強を占めている。
(注:トラック運送業のことを、各法律・統計では「道路貨物運送業」「陸上貨物運送業」「貨物自動車運送事業」等という場合があるが、以下、「トラック運送業」とする)
  そのうち、約7 割が荷役作業時に発生(以下、「荷役災害」という)しており、さらにそのうち「墜落・転落」災害が3 割強と最も多くなっている。
  また、荷役災害の7割弱が荷主・配送先の構内で発生しており、全体の半分が「荷主・配送先での荷役災害」であるといえる(図1・図2))。荷主の構内で荷役災害が発生したときは、貨物の輸送を発注する側の荷主等にも責任が発生する可能性がある。

図1 陸運業の労働災害発生状況(平成23年)

(出所:厚生労働省)

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図2 荷役作業中の災害事例

(出所:厚労省パンフレット「荷主の皆さまへ 自社構内での荷役作業の安全確保にご協力ください」)

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  そこで、荷役災害の防止を目的として、荷役通達が発出され、その後、2013年にトラック運送業者と荷主・配送先・元請事業者等が実施すべき対策をまとめた「陸王貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」(以下、荷役ガイドラインが策定・交付された。荷役ガイドラインの目的は、「陸運事業者のみならず、荷主等が積極的に関与することにより、自主的な安全衛生活動の一層の推進を図る」ことである。
  ただし、荷役災害防止通達・荷役ガイドラインとも罰則規定はない。

(2)荷役災害における荷主等の法的責任
  荷主にとっては、トラック運転者は直接雇用する労働者ではないので、労働安全衛生法(労安法)等に基づく責任はない。しかし、元請事業者が安全配慮義務違反として民法の債務不履行義務違反を問われた判例もあり、荷主構内での荷役災害でも、荷主の責任が問われる可能性がある。
  さらには、民法の不法行為責任が考えられる。不法行為責任は雇用関係の有無にかかわらず発生する(上記2-(2)参照)。
  荷主構内での積み込み作業中に、トラック運転者が被災して、荷主の不法行為責任を認めた判決も出されている(東京地裁1996年7月31日)。

(3)荷主の荷役災害防止対策
  荷役ガイドラインでは、トラック運送事業者と荷主・配送先等の関係者が、協力して取り組む項目を掲げている。紙面の都合で省略するが、ぜひ、一読して荷主構内での荷役作業の改善に役立てられたい。

図3 荷主等の独自の実施事項

(出所:図2に同じ)

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トラック運送事業者・荷主等の共通する実施事項(抄)
・安全衛生管理体制の確立等
・荷役作業における労働災害防止措置
・荷役作業の安全衛生教育の実施
・トラック運送事業者と荷主等の連絡調整(役割分担の明確化等)
荷主等の独自の実施事項(抄)
・トラック運転者に荷役作業を行わせる場合の措置(十分な休憩確保、着時刻の談良化への配慮等)
・トラック運送事業者間で業務請負を行う場合の措置(元請・下請け間の連絡・調整等)

  重要なのは、共同作業等の場合の役割分担や、作業手順を明確にする安全作業手順書等の作成である。
  さらに、荷主のフォークリフトをトラック運転者が運転して、貨物を積卸す場合が少なくないが、荷役事故や貨物事故が発生した場合、その責任が問題となる。そこで、ガイドラインでは「フォークリフトによる労働災害の防止対策」として、以下のようなことが示されている。

陸運事業者の労働者にフォークリフトを貸与する場合は、最大荷重に合った資格を有していることを確認すること。
所有するフォークリフトの定期自主検査を実施すること。
陸運事業者に対し、作業計画の作成に必要な情報を提供すること。
荷主等の労働者が運転するフォークリフトにより、陸運事業者の労働者が被災することを防止するため、荷主等の労働者にフォークリフトによる荷役作業に関し、必要な安全教育を行うこと。
荷主等の管理する施設において、構内におけるフォークリフト使用のルール(制限速度、安全通路等)を定め、労働者の見やすい場所に掲示すること。
荷主等の管理する施設において、構内制限速度の掲示、通路の死角部分へのミラー設置等を行うとともに、フォークリフトの運転者にこれらを周知すること。
荷主等の管理する施設において、フォークリフトの走行場所と歩行通路を区分すること。

4. おわりに

  労働契約法第5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と、使用者の安全配慮義務を定めている。同法には罰則規定が定められていないため、2011年3月の東日本大震災をはじめとして、労働者やその遺族から数多くの「安全配慮義務違反」の訴えが起こされている。
  使用者の安全配慮義務は、雇用する労働者だけでなく、管理責任のある施設内における他社従業員(来客や請負の作業者など)にも生ずると思われる。例えば、上記の震災のような場合には、当然、施設内にいる人々には、労働者であるか否かを問わず、安全を確保しなければならない。流通業であれば、来店客の安全確保は、従業員のそれに優先すべく、つね日頃から訓練を重ねている。
  使用者(施設管理者)は、災害だけでなく、日常業務においても、自社施設内で仕事をしている他社従業員(例えば、トラック運転者)の安全に配慮しなくてはならないのではないか。
  厚労省が、2項で述べて来たような「荷役災害防止」について、荷主等にも実施事項を定めているのは、そのためであろう。
  厚労省では、各地で荷主向けのセミナーを開催して、荷役災害防止通達・荷役ガイドラインの周知徹底を図っているが、トラック運送事業者の参加に比べて荷主の参加が少ないことに、荷主のコンプライアンス意識が低いのではないかと感じている。
  また、荷役災害防止通達・荷役ガイドライン以降の、トラック運送業における労働災害の発生状況を見ても、残念ながら、荷主・配送先での荷役災害の減少という、目立った効果が生じていない。
  このような状況が続けば、厚労省としても次の手(例えば、労安法を改正して、「自社施設内での安全配慮義務の法制化」=罰則規定)もあり得るのではなかろうか。

以上


【参考文献】
  • 道路交通法「第4章 運転者及び使用者の義務 第3節 使用者の義務(第74条-第75条の2の2)」
  • 厚労省通達「陸上貨物運送事業の荷役作業における労働災害防止対策の推進について」(2011年6月2日)
  • 厚労省「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」(2013年3月25日)
  • 厚労省パンフレット「荷主の皆さまへ 自社構内での荷役作業の安全確保にご協力ください」(2011年7月)


(C)2015 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.


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