ロジスティクス・レビュー

第326号 荷主に求められる物流コンプライアンス(中編)(2015年10月20日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

目次

前号(2015年10月8日発行 第325号)より

1. はじめに

  国土交通省(以下、「国交省」という)は、毎年のように、「輸送の安全を確保するための省令」を改正している。貨物自動車運送事業者に対しては、2013年10月から「安全管理体制の強化」を図り、監査を効率的・効果的にし、罰則が強化された。
  また、荷主・元請事業者等に対しては、運送条件など書面化の推進に関する省令・告示の公布、ガイドラインの公表等がなされ、2014年4月1日から施行された。荷主勧告制度の運用強化についても、同じく2014年4月1日から施行された。
  幸い、書面化推進ガイドライン、荷主勧告制度とも罰則規定はないので、従来のままという荷主もあろう。
  しかし、書面化推進ガイドラインについては、前編で述べたとおり、公取委も「物流取引内容の明確化、書面化」を打ち出しており、書面化を推進しなければ優越的地位の濫用を疑われかねない状況にあるといえよう。

2. 書面化推進ガイドライン

(1)書面化されていないことに伴うトラブル事例
  ガイドライン作りを進めた国交省の検討会では、トラック運送事業者から以下のような事例が報告された。

口頭による運送依頼の取引慣行化により、「運賃」「支払期日」「支払方法」等基本事項が不明確になっている。
契約書がないので、責任の範囲が曖昧な状況となっている。
契約が書面化されても基本契約に関するものが中心となり、運賃等重要な契約事項は書面化されていない事例が多い。
口頭契約先の荷主の仕事では、手待ち時間の発生、附帯作業の要求が多い。
個建て方式の契約で、1個の荷物の大きさを決めてなかったため、5個の荷物を1個に束ね1個分の荷物の運賃に減額された。
体裁だけ整えただけの契約書が多く、詳細な条件が明記されていないため、最低限の必要項目を網羅した契約書のひな形的なものを作成してはどうか。

(2)ガイドラインの内容
  曖昧な口頭連絡をなくし、安全運行、適正取引の観点から書面化するべき必要最低限の事項を記載し、拘束時間違反や手待ち時間改善のため、運送内容や料金を記載、付帯業務内容や料金も提示する内容となっている(図1・図2)

図1 運送引受書の発出
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図2 運送引受書のフロー
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  本来、このような項目は、運送契約書や覚書、運送状等において明示されるべきものであるが、(1)-①のような取引慣行として口頭で済まされているのが実態であった。
  そこで、国交省としては、不特定多数の荷主とトラック運送事業者の間で適用される「標準貨物自動車運送約款」(以下、「運送約款」という)を改正して、2014年4月から施行した。
  従来の運送約款では荷主が発出する運送状について「運送事業者側の請求があった場合に運送状を提出しなければならない」とされ、運送事業者からの求めがなければ発出しなくてもよいという位置づけとなっていたが、これを「事業者が不要とした場合を除いて提出する」として、荷主側からの書面を明確に求めることに改正された。
  荷主には、利用運送事業者(元請運送事業者)や物流子会社も含まれるが、元請運送事業者と下請運送事業者間においては、既に「下請法」の規定により書面の交付義務が定められている。
  ただし、下請法では不交付イコール違反となり、罰則が適用されるが、荷主に適用される運送約款は法令ではないため「罰則規定」はなく、努力義務に終わっている。
  書面化推進ガイドラインが導入されて約1年が経過し、2015年2月に全日本トラック協会(全ト協)から書面化実施率等のアンケート結果が公表された(図2)。アンケートによれば、トラック運送事業者が「書面化が困難」だと考えている項目は、「運賃、燃油サーチャージ」が最も多く、次いで「有料道路利用料・付帯業務料・車両留置料」「付帯業務内容」「積み込み開始日時・場所・取り卸し終了日時・場所などの運送日時」が続いている。

図3 トラック運送業における書面化に関するアンケート結果(概要)
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  改正された運送約款には、車両留置料として「車両が貨物の発地または着地に到着後、荷送人または荷受人の責により留置された時間(貨物の積み込みまたは取り下ろしの時間を含む)に応じて、当店が別に定める車両留置料を収受する」とある。つまり、納入先(荷受人)の都合による手待ち時間についても、料金収受できることになる。車両留置料を一方的に支払わないことは、前編の1-(3)で紹介したように「取引対価の一方的な決定=買い叩き」即ち、優越的地位の濫用行為にも相当しかねない。
  上記アンケートでは「真荷主に対し運送事業法で厳しく取り締まる必要がある」という、トラック運送事業者からの切実な声も寄せられている。このような状態が改善されなければ、2項で紹介する「荷主勧告制度」も発動されかねないし、前編で説明した独禁法の適用も視野に入って来ざるを得ないのではなかろうか。

(3)国交省の対応
  国交省では輸送の安全を確保するため、トラック運送事業者に適宜監査を行っている。また、貨物自動車運送適正化事業実施機関(各都道府県トラック協会が指定されている)も、トラック運送事業者の指導や安全性評価事業(Gマークの認定)などを行っている。それら監査・指導の場合には、必ず書面化の推進状況(逆に言えば、荷主の書面交付状況)をチェックしている。
  これらが積み重なれば、荷主ごとの書面交付状況のデータベース(ブラックリスト)化も時間の問題であろう。

3. 国交省の荷主勧告制度

(1)荷主勧告制度の改正
  上記「書面化推進ガイドライン」と同時期に、制度の運用が強化されたのが「荷主勧告制度」である。
  荷主勧告とは、貨物自動車運送事業法により、実運送事業者が行政処分等を受ける場合に、当該処分等に係る違反行為が主に荷主の行為に起因するものであると認められる場合に、当該荷主に対して、再発防止のための勧告を行うものである。
  今回の制度改正では、

荷主勧告の対象とする重点的な類型等を明示する
荷主勧告発動に先駆けて、「協力要請書」の発出を要件としない


等が変わった(図4)。

図4 荷主勧告制度の概要
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(2)荷主勧告の対象となる荷主の行為の重点的な類型
  以下の5類型が掲げられているが、類型4は、着荷主(納品先)での手待ち時間に対しては、発荷主の「荷主管理に係る荷捌き場」とは言えないこともあり、類型の判断が難しい点もあるが、昨今の運転手不足の実態からは、発着を問わず手待ち時間の「改善措置」が望まれるところである。

類型1 非合理的な到着時間の設定
類型2 やむを得ない遅延に対するペナルティの設定
類型3 積込み前に貨物量を増やすような急な依頼
類型4 荷主管理に係る荷捌き場において、手待ち時間を恒常的に発生させているにもかかわらず、事業者の要請に対し通常行われるべき改善措置を行わない場合
類型5 荷主が事業者に対し、違反行為を指示、強要

(3)荷主勧告の調査の端緒
  荷主勧告を行うために調査が行われるが、そのトリガーが以下の通り明示されている。

実運送事業者に対する監査等において、運送契約書等の書類、関係者からの証言等から、当該事業者が行った違反に関し、荷主の主体的な関与の疑いが認められた場合
同一の荷主と取引関係にある複数の実運送事業者について、同一の違反を行った場合
過去3年以内に警告書(警告的内容の協力要請書を含む。)が発出された荷主について、当該荷主の運送依頼により、実運送事業者が同種の違反で行政処分を課された場合
実運送事業者の違反に対し、荷主関係者が共同正犯、教唆犯、強要等で捜査機関が捜査
荷主が、過積載車両の運転の要求等を行ったとして、警察署長が再発防止命令書を発出

(4)一発で荷主勧告
  以前の荷主勧告制度では、「過労運転防止違反」「過積載運行」「最高速度違反」のみが対象となっていた。このうち「過積載」によって勧告(社名公表)を受けた荷主もいたが、これは「協力要請書」(イエローカード)が2回出されたにも関わらず改善されなかったので、3回目の過積載違反(2年間以内に)で「警告書」(レッドカード)が出された。
  今回の改正では、上記3違反行為以外に、類型1~5も対象に加わった。また、イエローカードという手続きを踏まず、一発で荷主勧告書が出されることになった。

(5)荷主勧告制度の運用状況
  制度改正後1年が経過したが、荷主勧告書の発出事例はない。それは、「荷主勧告は、(荷主を所管する)関係省庁に協議の上、荷主名等を公表」するという点にもあるのではなかろうか。農水省・経産省など荷主を所管する省庁が「ウン」と言わなければ、荷主勧告制度は絵に描いた餅でしかない(旧制度でも発出事例はごく少ない)。
  しかし、今や行政が自分の所管する業界・企業のコンプライアンスに目をつぶる時代ではない。そういうことが、企業の不祥事が無くならない要因の一つでもある。物流分野でも、「相互通報制度」が導入されている。公安委員会・労働基準監督署・社会年金機構などは、トラック運送事業者に寄る道交法違反や労基法違反、社会保険未加入などの事案は、所轄の運輸支局に通報し、運輸支局は監査のうえ然るべき行政処分(事業停止、車両の使用停止等)を行い、通報してきた相手に処分結果を報告する。それをしないと、監督行政としての「不作為」責任を問われることになる。
  荷主勧告も同様に、あまり所管業界・企業を庇っていると、国民から情報開示を求められたり、「相互通報制度」のように、国交省から不作為を問われる状況も想定される。とくに、物流コンプライアンスに関しては、安全に直結するだけに、厳しく問われることを荷主も肝に銘ずべきであろう。

4. 国交省の対応 「初の荷主勧告制度の適用」

  と書いてきて、8月10日に中部運輸局から「愛知県のトラック運送事業者に30日間の事業停止命令を行った。(中略)関連する元請運送事業者に対し、荷主勧告制度に基づく協力要請書を発した」と発表された。
http://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/kisya015/jikou20150810.pdf
  過積載を除く違反事案を対象とした協力要請書の発出は同局管内では初めてであり、当該元請事業者に今後改善がみられなかったり、下請事業者が同様の違反を再び引き起こした場合、荷主勧告となる可能性もある。
  本事案の端緒は、相互通報制度に基づく愛知労働局からの労働時間(改善基準告示)違反の通報であり、当然、同運輸局は真荷主名も把握しているので、今後、真荷主と元請事業者の関係についても調査が進むものと思われる。

※次号へつづく


【参考文献】
  • 国交省告示第49号「標準貨物自動車運送約款」(2014年1月22日)
  • 国交省「トラック運送業における書面化推進ガイドライン」(2014年1月22日)
  • 全ト協「トラック運送業における書面化に関するアンケート結果(概要)」(2015年2月)
  • 国交省「荷主勧告制度の概要」(2014年1月22日)
  • 全ト協パンフレット「荷主勧告が発動されやすくなります!」(2014年2月)


(C)2015 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.


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