ロジスティクス・レビュー

第325号 荷主に求められる物流コンプライアンス(前編)(2015年10月8日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

目次

はじめに

  あらゆる企業において、コンプライアンス経営が最重要とされている。法令を順守するということは、企業にとって最低限の義務である。
  ところが、物流・ロジスティクスにおいては、荷主である企業のコンプライアンス度は、本業に比べて著しく低いと言わざるを得ない(最近のT社のように、本業でも著しく低い例もある)。「交通安全・労働災害などは、受託した物流事業者側の責任で、発注する側には責任がない」と思っているのではなかろうか。
  現在、公正取引委員会(以下、「公取委」という)・国土交通省(以下、「国交省」という)・警察庁・厚生労働省(以下、「厚労省」という)など諸官庁では、物流という分野において、減らない優越的地位の濫用行為、交通事故、労災事故などの背景には、荷主のコンプライアンス意識の欠如があるのではないかと、さまざまな対策を取りつつある。
  ここでは、最近の「荷主の物流コンプライアンス」に関する動向を説明して、荷主企業・業界の物流コンプライアンスの取り組みを促すこととしたい。

1.独禁法の物流特殊指定

(1)独禁法と下請法
  2004(平成16)年4月から、運送や保管サービスについても下請法(下請代金支払遅延等防止法)の対象となったが、その際に、荷主の物流事業者に対する優越的地位の濫用防止のため、独禁法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)に基づき指定した「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(物流特殊指定)がある。
  つまり、物流事業者同士の場合は下請法が、荷主と物流事業者の間は、独禁法の物流特殊指定が適用される。

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(2)禁止行為
  独禁法の物流特殊指定と下請法で禁止されているのは、図2に掲げる「支払遅延」「支払代金の減額」「買いたたき」「購入強制」「経済的利益の強制」などである。図2の「親事業者」を「荷主」と読み替えられたい。荷主には、ほとんどの場合「物流子会社」も含まれる。

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(3)物流特殊指定の運用状況
  公取委は優越的地位の濫用に対応するため、「優越的地位の濫用タスクフォース」を設置し、大幅に注意措置件数を増やしている。とくに物流取引に対する注意は多く、2011年は52件中9件と、全業種の中で2番目に多い結果となった。行為類型としては、減額(5件)、購入・利用強制(2件)、協賛金等の負担の要請(2件)であった。
  荷主企業2社に対し、「優越的地位の濫用」として同法に違反する恐れがある行為を行ったとして、社名を公表・警告しており、処罰が厳重化する傾向が見られる。
  直近の2014年では、「優越的地位の濫用」全体で49件という、同タスクフォースからの注意件数のうち、物流取引は1件(「減額」と「取引対価の一方的決定=買い叩き」の重複事案)と減少しているものの、引き続き発生している。具体的事例は、以下の通りである。

食料品卸売業Q社は、配送業務の委託代金の決定に当たり、原油高等を考慮して物流事業者との間で十分な協議を行うことなく、委託代金を定めていた(下線は筆者)。


  それ以外の事例については、参考文献に掲げた「独禁法の違反事件の処理状況」の過年度分を参照されたい。

2. 公取委の「物流取引」実態調査

  公取委では、物流特殊指定の後に、2006年と2014年の二度にわたり、荷主と物流事業者の取引実態の調査を行った。
  とくに後者の調査結果は、公取委のホームページにも掲出されるとともに、各地で荷主を対象とした研修会が開催されている。

(1)公取委「荷主と物流事業者との取引について」調査概要
  調査方法や調査結果の概要については、誌面の都合もあるので、以下のURLを参照されたい。
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h27/mar/150311.html
  書面調査に回答した物流事業者のうち、主要な荷主から受けた行為について具体的に回答した25名を対象に、公取委のヒアリングが実施された。

(2)調査結果の評価
  「荷主及び物流事業者の概要」「荷主と物流事業者との取引の状況」などは、報告書をご覧いただくとして、

①書面交付及び支払方法の状況
では、書面を交付していないと回答した荷主が18.9%いる。

②代金の支払方法
では、荷主の約2割が主要な物流事業者に対し手形による支払を行っていると回答し、120日を超えるサイトの手形で支払っている荷主も一定数見受けられる(下請法では、120日を超えるサイトの手形は問題となり得る)。

③代金の支払遅延等の状況
  物流事業者のうち、主要な荷主から,物流事業者に責任がないなど荷主の都合による代金の支払遅延等の不利益を1つ以上受けたと回答した物流事業者は306名(全体の6.6%)であった。
  また、行為類型別にみると、物流事業者に責任がないのに「代金の減額」を受けたと回答した物流事業者が188名(同4.1%)で他の行為類型に比べて特に高い。

④物流事業者が不利益を受け入れた理由
  主要な荷主から、代金の支払遅延等の不利益を1つ以上受けたとの回答のあった物流事業者306名(延べ386事例)に、荷主による当該行為を受け入れた理由を聞いたところ、「今後の取引数量,取引高等に影響があると自社が判断したため」とするものが171事例(44.3%)、「荷主から今後の取引数量,取引高等への影響を示唆されたため」とするものが84事例(21.8%)であった。
  物流事業者の「泣き寝入り」が多いことが、④では示されている。

  調査では、以下のような荷主の行為は「優越的地位の濫用規制上問題となり得るものである」としている。

(3)具体的な事例(抜粋)
①代金の支払遅延に係る具体的な事例
  当社は荷主との間で、支払期日を契約書で定めているところ、当該荷主の顧客からの入金が遅れているという理由で、これまでに何度か支払期日までに代金が支払われないことがあった。

②代金の減額に係る具体的な事例
  当社は荷主から、荷主の経営が厳しいことを理由に値引きを要請されたことがある。また、当該荷主からは、同業他社も値引きに応じており、値引きに応じないと仕事を出さないといったようなことを言われた。当社としては値引きに応じれば年間数百万円もの売上げが減ることになり大変困ったが、当該荷主との取引は当社にとって大きいこともあり値引きに応じざるを得なかった。

③ 買いたたきに係る具体的な事例
  数年前に荷主から、円高による業績不振を理由に運賃の引下げ要請があり、「円高の期間に限定する」ということであったため仕方なく応じていたものの、後に円安になったため、元の運賃に戻してほしいとお願いしたが、「一度引き下げた運賃は戻さない」と言われ交渉ができなかった。

④物品等の購入・利用要請に係る具体的な事例
  当社は、荷主から、20年以上に渡り、年2回の頻度で缶ビールの購入を要請されている。缶ビールは、当該荷主が顧客から購入を要請されたものの一部と思われるが、当社は売上高の大半を当該荷主に依存しており重要な取引先であるため、当該荷主からの要請を断ることができない。

⑤経済上の利益の提供要請に係る具体的な事例
  荷主の商品を当社の倉庫から出庫する際に、無償でラップを巻いて出庫するように要請されている。当該荷主の商品は毎日出庫することになっているところ、ラップを巻く作業の負担は大きく、また、本来、ラップを巻く作業は当社と荷主との契約にないものであるが、今後の取引への影響を考えると断ることができない。

3. 公取委の対応

  調査結果から公取委では、「物品の運送等に係る一部の取引において、荷主による優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為が行われていることが明らかとなった」としている。

(1)取引条件の明確化や書面の交付
  そして、これら優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為は、荷主と物流事業者との間で、あらかじめ取引条件等を定めていなかったり、荷主から物流事業者に対し、取引条件等が記載された書面が交付されていなかったことに起因しているとも考えられることから、「物品の運送等の取引に当たっては,取引条件等の明確化や書面の交付が望まれる」としている(中編の国交省「書面化推進ガイドライン」を参照されたい)。

(2)公取委の3つの取り組み方針
  調査では、公取委としては、以下の3つの取り組み方針を掲げている。

荷主及び物流事業者を対象とする講習会を実施し、調査結果並びに優越的地位の濫用規制及び下請法の内容を説明する(既に、全国各地で実施中。筆者も聴講した)。
荷主及び物流事業者の関係事業者団体に対して、調査結果を示すとともに、荷主及び物流事業者が物品の運送等の委託取引における問題点の解消に向けた自主的な取組(筆者注:物流取引の書面化など)を行えるよう、改めて優越的地位の濫用規制及び下請法の内容を傘下会員に周知徹底するなど、業界における取引の公正化に向けた自主的な取組を要請する。
公取委は、今後とも、物品の運送等の取引実態を注視し、優越的地位の濫用規制又は下請法上問題となるおそれのある行為の把握に努めるとともに、これらの法律に違反する行為に対しては、厳正に対処していく。

4. 荷主としての対応策

  下請法は、制定の主旨が「下請事業者の早急な救済」であるため、「資本金による適用基準」と「親事業者の禁止行為」により、一律的に運用され「指導」や「勧告」等が行われる。
  ところが、独禁法(物流特殊指定を含む)では「優越的地位の濫用」についても、事案ごとに個別に判断されることになる。「優越的地位の濫用」に当たるか否かの判断は、①優越的地位にあるか(図3参照)、②正常な商慣習に照らして不当か(公正な競争を阻害するおそれがあるか)、③濫用行為か、という3要素から判断されるので、時間も要することになる。

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  そのようなこともあって、2004年の改正下請法施行から、物流業界における下請法違反事例は多いが、同時に施行された「物流特殊指定」に基づく、独禁法違反事例は少数の警告・注意にとどまっている(上記1-(3)参照)。
  近年の燃料費高騰が、荷主への転嫁が進まないことから、公取委では上記調査を実施したが、そこで分かってきたのは、前項までに説明したような、荷主による「優越的地位の濫用規制上問題となる行為が行われている」ことである。
  上記調査を通じて、公取委では、優越的地位を濫用していると思われる荷主のブラックリストを作成していると見るべきであろう。
  筆者は、2004年の改正下請法の成立以前に、「金型製作、情報ソフト開発、物流サービス」等に対する下請法の適用を検討する中小企業庁の委員会に参画して、物流サービス取引の実態を説明したことがあった。そのときは、適用の導入が見送られたが、その後、公取委に検討の場が移され、国交省等との協議を経て、2004年の施行となった。
  その直前には、「物流サービス取引の実態を知りたい」という要請で公取委に呼ばれたり、公取委が物流現場に来訪した。改正下請法施行前だったので、当方も勉強になると考え、公取委の担当者と積極的に対応し、質問もした。その過程で、「このやり方は、下請け法が施行されると問題になりますよ。今のうちに是正して下さい」などということもあった。
  そのときに実感したのは、公取委は「(審判に見られるように)警察・検察と裁判官を兼ねた強権機構である」「立ち入り検査に来るときは、反面調査を終えて、全て外堀は埋められている」ということであった。
  おそらく、今回の調査によって、優越的地位を濫用していると疑われる荷主は「外堀」を埋められたのではないかというのが、筆者の想定である。
  現在、公取委は「センターフィー」における優越的地位の濫用行為に強い関心を持っている。とくに、「センターを通過せず納入している取引先からも、センターフィーを収受している」事例には激怒していると聞く(流通業者対象の説明会で、公取委自身が、そう述べている)。
  現在、全国各地で行われている「荷主及び物流事業者を対象とする講習会」(上記3-(2)-①)では、幸い、センターフィーのような怒りの表現はないが、毎回必ず「決め台詞」のように、最後に公取委担当者が言うのは、上記の3-(2)-③である。「厳正に対処する」ということは、「(疑わしい荷主は)独禁法で捕まるよ」という警告ではなかろうか。
  荷主は、物流事業者との取引において、上記調査で指摘されたような事例はないか、また、取引内容が契約書・覚書・運送依頼書などで書面化されているか、もう一度チェックして、もし「優越的地位の濫用」と疑われかねない内容があれば、早急に改善すべきであろう。「物流部門の担当者がやったことだ」「会社としては知らなかった」では通らない。

※次号へつづく


【参考文献】
  • 公取委「平成26年独占禁止法違反事件の処理状況について」(2015年5月27日)
  • 公取委「荷主と物流事業者の取引について」(2015年3月11日)
  • 公取委「独禁法」ホームページ
  • 公取委「下請法」ホームページ
  • 公取委パンフレット「優越的地位の濫用~知っておきたい取引ルール」(2011年7月)


(C)2015 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.


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