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マーケティング

第316号 買い物弱者のための宅配サービスと物流-中:事例編(移動販売、買い物代行) (2015年5月26日発行)

執筆者 浜崎 章洋
(大阪産業大学 経営学部商学科 教授)

 執筆者略歴 ▼
  • (略歴)
    • 1969年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。
    • タキイ種苗、日本ロジスティクスシステム協会、コンサルティング会社設立を経て現職。
    • 日本物流学会理事。大阪市立大学、立命館大学、龍谷大学の非常勤講師。
    • 2004年度、2013年度日本物流学会賞、第12回鉄道貨物振興奨励賞特別賞受賞。
    (著書)
    • 「ロジスティクスの基礎知識」(海事プレス社)
    • 「ロジスティクス・オペレーション2級」(共著、社会保険研究所)
    • 「Logistics Now 2005」(共著、輸送経済新聞社)など

 

目次


 

前号(2015年05月14日発行 第315号)より

本稿では、買い物弱者対策の事例として、移動販売と買い物代行を紹介する。

【移動販売とは】

  買い物弱者対策として、移動販売が注目されている。筆者が子どものころ、朝は魚屋が、夕方は豆腐屋がリヤカーに商品を積んで町内を自転車で行商にきていたものだ。行商も移動販売のひとつであるが、本稿ではトラックやバスを改装し商品を積載して販売している移動販売車の事例について紹介する。移動販売車は、軽トラックや小型トラック等を改装した小型(以下、小型車と表す)、中型トラックやマイクロバスを改装した中型(中型車と表す)が一般的である。積み込む商品アイテム数は、小型車は400~500アイテム、中型車は700~900アイテムで、一アイテムあたり1~3個として商品点数は小型車で約1000個、中型車で2000個程度である。
  中型車の場合、買い物客が車内に入って買い物できるが、小型車の場合はトラックの荷台をあけ野外で買い物をする。移動販売車を運営しているのは、地元のスーパーが移動販売事業として行っている場合や、移動販売専門でやっているケースがある。
  販売地域にもよるが、一般的には小型車で日商6万円、中型車で10万円が損益分岐点と言われている。アイテム数や商品点数を考えると、この日商はハードルが高いと思われる。採算が厳しい理由として、①移動販売車への初期投資 ②人件費、燃料費など日々の運営費 ③生鮮品等の廃棄ロス が発生することと、一日の売上高や利益額が大きく伸びないことにある。
  過疎地や山間部の高齢者など福祉的な視点で移動販売車による販売が必要な地域も多々あるが、民間企業による事業採算ベースでは厳しく参入をためらう小売業もある。そこで、経済産業省は移動販売車購入時の初期投資額の2/3を補助する等、買物弱者対策に資する事業の支援を行う予定である(平成26年度補正予算:2億円程度)。ちなみに、改造費を含む移動販売車の価格は、軽トラックで約400万円、中型トラックで1500万円くらいである。
  高知県の中堅スーパーA社は、過疎化のすすむ山間部や福祉施設等へ移動販売車を運行し販売している。1985年に8台でスタートし、現在は6台が巡航、30年近い歴史を有している。車両は日産のマイクロバスを改造し、発電機も備え、冷凍・冷蔵のショーケースを設置している。高知県は、県内34市町村のうち27市町村が過疎化しているという全国でも過疎化が進んでいる県である。A社の移動販売車は、このうち13市町村に展開している。
  当初、ライバルの食品スーパー数社も移動販売車に参入したというが、数年のうちに撤退した。A社の移動販売も採算ベースでは赤字で撤退も考えたが、社員の要望も強く継続した。さて、A社の移動販売車の品揃えは、700~800品目で、加工食品やコーヒーなどの常温の一般食品、豆腐や牛乳などの日配品、菓子・パン、惣菜、そして肉・魚などの生鮮品などである。季節モノとしては、春秋には野菜の種子、盆や彼岸の時期はローソクや線香なども販売している。6台がそれぞれ月~土の5日間、毎日異なるコースを走るため(一部週2回販売するコース有り)、コースは30~35程度あり、1コースあたり約30ポイントあり、一ポイントあたり平均15分くらい滞在している。一日の走行距離はコースによっても異なるが、90~130kmくらい。
  移動販売事業の責任者で、ご自身も一販売員として週3回活躍する方にお話しを伺ったところ、コースやポイントの設定が難しいという。入院や介護施設入居などにより、利用者の状況が変わるため、一度設定したコースやポイントも見直しが必要になってくる。また、移動販売車は介護等の福祉施設にも立ち寄っている。施設の入居者はお菓子や菓子パンなどのおやつ類を購入される。外出が困難な入居者の方々は買い物をすること自体が楽しみになっているという。
  キャプテンと呼ばれる移動販売車の販売員の仕事は、その日のルートに適した商品選定、積み込み、運転、接客・レジ販売と帰社後の精算などである。定番品だけでなく、季節品、また前回訪問時にお客様から予約された商品なども積み込む。正月前などは、正月用品などの予約をたくさん受けるという。一台あたりの一カ月間の売上は240~290万円程度だが、正月前などは一日で40万円くらい売れるとこもある。キャプテンの仕事は忙しく大変ではあるが、「待ってくれているお客様がおられる。」、「お客様が楽しそうに買い物されている姿をみると自分も楽しくなる。」など、とてもやりがいがあるとキャプテンたちは言う。
  さて、30年近い移動販売の歴史があるA社の移動販売車であるが、そのほとんどは赤字事業であった。「お客様がおられる以上、やめるわけにはいかない」と続けてきた。近年は、責任者やキャプテンの方々によるルートやポイントの見直し、生鮮品の廃棄ロス削減に地道に取り組んだ結果、黒字化している。「儲からないからやめるのではなく、どうすれば儲けられるかを考える」ことが移動販売を継続する心構えだと言う。

【行政による買い物代行】

  愛媛県松島市役所では、「高齢者いきいき支援事業」として、配食サービス、デイサービス、緊急通報体制整備、徘徊高齢者家族支援サービスなど、さまざまな高齢者福祉に取り組んでいる。その一環として、関連団体である公益社団法人松山市シルバー人材センター(以下、シルバーセンター)を活用して、離島部における高齢者の買い物支援を行っている。
  松山市から伊予鉄道で約20分、高浜港に到着する。高浜港は、松山市の離島へフェリーや高速船が行き来する拠点である。シルバーセンターでは、中島地区の離島3島(中島、睦月島、野怱那)の高齢者向けに買い物代行サービスを実施している。これらの島々の高齢化率は50%を越えている。また、そのうち独居高齢者は全島民の五分の一を占めている。
  同サービスの対象は、地区に居住する65歳以上の方で、利用者は一人あたり週二回まで、一回の利用料は200円である。利用者はシルバーセンターの買物支援事業に登録した後、買い物代行の担当者(60代前半の女性2名)へ電話等で欲しい商品を連絡する。シルバーセンターの担当者は、中島にあるスーパー等で必要な商品を購入し、フェリーで島間を行き来し、手押し台車などを利用して利用者へ商品を配達する。登録者数は約100名で、年間延約1600回利用されている。さて、お気づきのように、一回の利用料が200円で年間1600回の利用ということは、シルバーセンターにおける同事業の収入は年間32万円程度である。この金額では、配達員の人件費どころか、フェリー代にもならない。松山市では、シルバーセンターへ補助金を交付している。今後は、中島地区の他の離島3島(怒和島、二神島、津和地島)でも同サービスを実施する予定である。

【買い物される商品は】

  本稿で紹介した移動販売や買い物代行の主な利用者は高齢者である。買い物している様子や注文された商品を見ていると、以外なことに、食パン、調理パン、菓子パンなどのパン類の割合が多い。高齢者だから御飯に味噌汁、焼き魚といった和食を好むと先入観を持っていた。パン類をたくさん購入する理由を聞いたところ、「一回分の食事の準備が楽だから」ということであった。確かに和食だと、御飯を炊くのに時間がかかるし、味噌汁やおかず類の準備も必要だろう。食パンだと1~2分でトーストにできるし、菓子パンや調理パンだと袋を開けるだけで良い。そして、牛乳やジュースなどをコップに入れたら、栄養価はともかくとして、それだけで一回分の食事になる。
  魚が豊富にある沿岸部や離島でも魚製品が売られている。地元では獲れない魚(例えば四国だと鮭やホッケなど)が購入される。また、盆や正月など、子どもや孫の帰省時には寿司や刺身の盛り合わせが人気という。
  これまで、離島や山間部などで調査を行ってきたが、これらの地域にお住まいの高齢者は、街中に住まれている高齢者よりも、お元気な方々が多いようだ。自然に囲まれた環境において畑仕事などで日々身体を動かしておられるからだろう。しかし、買い物が不便な地域は医療機関が近隣にないことが多く、急病の際などの不安を住民の皆様はお持ちである。
(本稿は、日本ボランタリーチェーン協会機関誌『ボランタリーチェーン』に連載中の「高齢化社会を迎え、流通業は買い物弱者対策にどう取り組むべきか!」の原稿を加筆修正、再構成したものである)

※次号へつづく


(C)2015 Akihiro Hamasaki & Sakata Warehouse, Inc.

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