ロジスティクス・レビュー

第31号在庫管理から在庫政策へ-在庫管理という言葉についての問題提起-(2003年05月06日発行)

執筆者 浜崎 章洋
社団法人日本ロジスティクスシステム協会 関西支部 プログラムディレクター
    執筆者略歴 ▼

  • プロフィール
    • 1991年 立命館大学経済学部卒業後、ニュージーランドで有機農法を学ぶ。
    • 1992年 タキイ種苗入社、海外営業部にて欧州・アフリカ・南アジア担当。
    • 1998年 JILS入職
    • 2001年 MBA取得(マネジメントシステム専攻)
    • 現在  社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)関西支部 プログラムディレクター。

目次

はじめに

 在庫管理という言葉からイメージすることはなにか。筆者がお付き合いすることの多い物流部門の担当者や物流会社の社員にとっては、帳簿と現品が過不足なく適正な状態で管理されているかという「現品管理」、あるいは倉庫に効率よく保管されているかという「保管管理」という意味で使われることが多いようである。一方、メーカーや流通関係の営業担当者にとって、在庫管理は物流部門や製造部門の仕事であって、在庫の関心は受注した商品が欠品せず出荷できるのかという程度のようである。

 また、製造部門や購買部門においては、過剰在庫や欠品といった在庫管理の問題は需要の変動が要因であって、予測できなかった販売やマーケティング部門にその責任があり、自分たちは最も経済的かつ効率的な生産ロットや購買ロットを実行しているという考えの方が多いと思われる。

 このように、所属する部門や立場によって、「在庫管理」という言葉から受けるイメージに違いがあり、その概念も役割も曖昧であるにも関わらず、「在庫管理をどうするか」という議論が社内で行われているとすれば、どのような成果が期待できるのであろうか。

 誰もが共通の認識を持ち、その役割を理解できる「在庫管理」に代わる言葉が必要ではないだろうかというのが本稿を執筆したきっかけである。

1.混乱の原因についての推測

 日常業務において、我々が意識せずに使っている「在庫管理」は、ご承知の通り英語ではStock Control と Inventory management という2つの言葉で使い分けられている。
 前者のStock Control は「在庫品を管理する」、Inventory management は、「棚卸資産を管理する」という意味である。どちらも同じような意味と思われるかもしれないが、日本語の「管理」という言葉には大きく2つの意味があるのをご存知だろうか。

 辞書で「管理」を調べてみると、

  ①仕事や活動などを、責任を持ってうまく進めていくこと
  ②物や建物などを、いつも良い状態に保つこと

などと説明している。

 Stock control(在庫品の管理)はの意味、在庫品をいつも良い状態に保つ=原材料、部品や製商品を適切な環境で効率的に過不足ない状態に保っていることであり、物流部門や物流会社が使っている「保管管理・現品管理」と同義である。

 一方、Inventory management (棚卸資産の管理)はの意味、棚卸資産を責任を持ってうまく進めていくこと=原材料、仕掛品、完成品などの棚卸資産の配置と数量について、責任を持って最適化するという意味である。  「在庫管理」という言葉の意味が、業種や立場によって温度差があるという混乱を招いた原因は、「管理」という言葉にあるのではないかというのが筆者の推測である。

 よって、本稿では、混乱を避けるために、欠品と在庫の陳腐化を最小限にするInventory Management に該当する棚卸資産を最適化する施策を「在庫政策」と名付け、物流現場で使われる「保管管理・現品管理」と区別することとする。

2.「在庫政策」が企業経営に与えるインパクト

 さて、「在庫政策」が企業経営に与えるインパクトについて調査した先行研究[1][2]をレビューし、在庫政策の重要性について説明する。これらの研究は、社団法人日本ロジスティクスシステム協会と東京工業大学社会理工学研究科 経営工学専攻が共同開発したSCMロジスティクス・スコアカード(SCM logistics scorecard,以下LSC)を活用している[3]。LSCは自社の業務や意思決定の方法や実績について、顧客起点のサプライチェーンマネジメント(SCM)を意識したうえで、ロジスティクスの視点から診断する自己診断シートである。LSCとこれらの先行研究についての詳しい説明は割愛し、LSCを活用した研究結果から在庫に関する部分を簡単に解説する。嵐田[2]の研究結果から、LSCのうち在庫に関連する下記のからの項目のレベルの高い企業は、ROA(Return On Asset)や一株あたりのキャッシュフローが高いといったことが実証されている。(どちらも1999年度の経営管理指標)

 ①SCMの計画(受注から配車まで)精度と調整能力
 ②ジャストインタイム・フロア・レディ*1の実践
 ③在庫回転率とキャッシュツーキャッシュ*2
 ④トータル在庫の把握と機会損失
 ⑤在庫・進捗情報管理(トラッキング情報)精度とその情報の共有

【注】
 *1 フロア・レディ:情報共有に基づく情物の同期化による待ち時間レス、段取レスの取り組み
 *2 キャッシュツーキャッシュ:現金収支であるキャッシュフローのサイクルタイム。
   売掛金回転日数+在庫回転日数-売掛金回収日数で定義される資金回収のスピード
 

 具体的には、図-1と図-2で示すように、上記の在庫に関する設問のレベルが高い企業はROAや一株あたりのCFが高いということが、図からも理解いただけると思う。

図-1 第2因子とROAの関連についての散布図
(出所)嵐田耕太(2002,3)図3.9


図-2 第2因子と一株あたりのCF(1999年度)の関連についての散布図
(出所)嵐田耕太(2002,3)図3.11

 
 
 上記の①から⑤は、保管管理や現品管理に関するものはなく、製造・販売・物流といった部門を越えトータル在庫を最適化するという「在庫政策」の項目であることがお分かりいただけるであろう。
 以上のことから、在庫政策(嵐田は在庫管理という言葉を使用しているが)が経営に与えるインパクトを理解いただけたと思う。

3.ロジスティクス部門の役割とは

 さて、物流部とロジスティクス部の役割の違いについては諸説さまざまであるが、筆者は図-3で示すように「在庫政策」の責任と権限を与えられているのが、ロジスティクス部門と考えている。

図-3「ロジスティクス部門の役割のイメージ図」(色付部分がロジスティクス部門の役割)

 ロジスティクス部門の役割を理解する際に、寿司屋を想像するとわかりやすい。カウンターに座って注文すると職人がすぐさま美味しい寿司を提供する。ネタの鮮度が品質に重要なインパクトを与える寿司では、前日の売れ残りの鮮度の落ちたネタでは、美味しくない寿司を提供すること、つまり顧客サービスの低下につながる。また、売れ残りのネタを破棄することになれば(不良在庫の処分)、その分だけ利益を圧迫することになる。寿司屋の大将が在庫(仕入れと仕込み)を最適化することにより、新鮮なネタで客が喜ぶだけではなく、ネタの処分損がない分儲けも多くなることが言える。

 ビジネスも同様で、余分な原材料の仕入れ、過剰生産による不良在庫、押し込み販売による期末返品など、自部門の都合(部分最適)が優先されれば、トータルコストが上昇し製品価格に反映され、顧客満足の低下とともに利益を圧迫することになる。

 寿司屋の場合、大将1人が経験に基づいた需要予測と提案営業(今日のおすすめ)により在庫最適化の意思決定をすれば良いが、ビジネスでは購買・生産・販売・物流など部門間の調整が必要になる。これを解決し、会社全体の棚卸資産を最適化することがロジスティクス部門の重要な役割のひとつである「在庫政策」と考えられる。

4.今後の課題

 物流会社がサードパーティーロジスティクス(3PL)のサービスを提供するためには、「在庫政策」が重要なキーワードになると考えられる。荷主の物流業務のうち、輸配送や保管・現品管理といった物流業務や、物流コスト管理や物流サービスの設定など物流管理・物流企画業務だけでなく、受注や調達物流など販売や製造のなかでロジスティクスに関わる部分のサービス提供へと事業領域を拡大し、最終的には荷主の棚卸資産のうち、製品や商品といった完成品の棚卸資産の最適化=「在庫政策」を行うことにより、荷主とのパートナーシップが構築でき、真の3PL企業と呼べるものになるのではないだろうか。

 そのためには、物流会社においても、「在庫政策」の重要性の理解と、そのマネジメント方法を習得する必要があると思われる。

 本稿では、ロジスティクス部門の重要な役割である棚卸資産の最適化について、従来の在庫管理という言葉が巻き起こした混乱について整理したうえで、その重要性について先行研究をレビューしたうえで筆者の意見を述べた。しかしながら、適正な在庫量を保つための具体的な方策や、在庫圧縮[4]の手法については触れていない。これらのテーマについては、今後の重要な研究課題と考えている。
本稿の提案により、各社の経営力が強化されるきっかけとなれば幸いである。

以上


 【主要参考文献】
  • 浜崎章洋「製造業におけるロジスティクスの重要性」(平成13年度神戸大学修士論文)
  • 嵐田耕太「スコアカードを用いたロジスティクスと経営成果の関連分析及びその応用モデルの提案」(平成13年度 東京工業大学修士論文)
  • 圓川隆夫(2001)「組織制約を打ち破るSCMスコアカード」
    『品質管理』(日科技連出版社)2001年8月号,pp32-40.
  • 前田久喜(1998)『在庫圧縮の進め方』(日本能率協会マネジメントセンター)



(C)2003 Akihiro Hamasaki & Sakata Warehouse, Inc.


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