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ロジスティクスと経営のための情報源 /Webマガジン

ロジスティクス

第309号 ロジスティクスを推進する母体はどこか:企業~行政~他機関―物流はロジスティクスに舵を切ったのか― (2015年2月5日発行)

執筆者  野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)

 執筆者略歴 ▼
  • Corporate Profile
    主な経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部
    • 1985年 物流子会社出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役)
    • 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)
    • 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立
      現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、
      (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    活動領域
      食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる
      :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊
      特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい
    私のモットー
    • 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている
    • ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う
    • 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない
    • 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる
    保有資格
    • 運行管理者
    • 第一種衛生管理者
    • 物流技術管理士

 

目次


 

1.意識改革と強いリーダーシップが必要:本来は荷主企業であるべき

  ロジスティクスは物流管理レベルとは次元が異なり、需給管理をコアとした経営戦略そのものであることは、もはや論を待たないだろう。しかし広範囲な概念であり、安直に成果が得られるものではなく、単に物流コスト削減程度に留まっているのが実状である。

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  マーケティングとロジスティクスはどのようなビジネスモデルにおいても車の両輪であり、どちらが上位・下位という概念ではない。従ってその推進はビジネス主体者の責任であり、顧客・市場起点でシステムを設計し、運営していくものである。コア管理が充分に行われればアウトソーシングも可能だが、丸投げに近いのが実態であろう。経営としてそのマネジメント力が低下している。

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  一方で社会的インフラを活用し異種企業との連携へと進めるという意味では、公正な商取引としての条件整備も必要になる。それは行政の役割であり、第三者としての各種推進機関が支援すべき課題でもある。何よりロジスティクスは物流とは同じではないという、強い意識を持って推進していかなければならない。そしてSCMの目的は決してコストダウンだけではなく、品質・環境・セキュリティー対応等が含まれるべきである。

2.行政に横串機能がない:主管官庁はどこか

  経産省が各企業のロジスティクス推進を支援し、国交省はインフラ整備と倉庫・運輸業界をはじめとする物流業界を主管し、両省で「物流施策大綱」を策定し実行している。しかしロジスティクスはさらなる広範囲に関連し、関係省庁間の横串機能が必要になるが、それをこの2省が担っているようにも見えない。

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  緊急災害対応では防衛省や、今後のTPP関連等では外務省とも関係が出てくるかもしれない。これだけ多岐にまたがるので縦割り行政ではその推進・条件整備も難しく、一本化した組織も必要になるのではないか。
  各省庁に連なる業界団体や、他の機関をどうリードするかも問われる。それが単なる上位下達機関であれば存在する意味が薄れる。そして物流だけではなく、ロジスティクスを推進するという概念合わせが極めて重要である。

3.ロジスティクス推進団体の機能が弱い:もはや物流ではない

  物流システム化を推進する団体が以前には2つあった。これを20年以上前に統合し、ロジスティクスの推進団体として今では公益法人に位置付けされている。リーマンショック前頃までは、いわゆる荷主企業が会員として多数を占めリードしていた。しかし物流の外注化が進んで自社内に物流部門も置かなくなって退会が目立ち、物流子会社も含め今や物流事業者が多数を占めるようになった。もちろん卸・小売等の流通を支える事業者の参画は少ない。関連する機関との連携も余りなく、3PLはまた別な組織である。一方これら物流関連機関に横串を刺す団体もある。

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  荷主がロジスティクスレベルまでを簡単にアウトソーシングし、この団体から抜けていくこと自体がまず問題であり、経営が物流と同程度にしか見ていないと思わざるを得ない。そして百歩譲って物流事業者がそれをリードするというなら、そのような政策が必要であろう。物流システムがロジスティクスのインフラを支えているにもかかわらず、そのステータスが上がらないというのは、物流事業経営の革新性にも問題があるのだろう。
  団体が行っている資格認定事業も相変わらず物流技術管理士であり、ロジスティクス技術管理士ではない。韓国のそれは合格率が30%程の厳しい関門になっているが、我国においてはほぼ全員合格である。運行管理者は国家資格だが、上位概念であるロジスティクスでは未だそこまで認められていない。そして前述した企業や行政に対するロジスティクスへの提言活動は、充分に行われているのだろうか。活動の実態を見る限り営利セミナーが中心であり、とてもそのようには見えない。

4.ロジスティクスの学会は強力な支援組織に成り得るか:フィールド・サイエンス

  ロジスティクス推進に関する学会は2つあり、並行して活動が行われている。その中の1つについて会員構成を見てみると半数近くが大学教授等の学者層であり、以下物流事業者・コンサル・システム会社となっており、ロジスティクスを推進すべき荷主企業等は極めて少数である。卸・小売等の流通関連に至ってはほとんど参画がない。それよりもコンサルやシステム関連企業が多いということは、未だ概念合わせのレベルに留まっているのだろうか。
  それは本来フィールド・サイエンスであり、実践が伴わなければなければ意味がない。情報システムやシミュレーション等の机上学問も重要だが、何より現実のビジネスの世界で何が起こっており、その展開を阻むものは何かを専門かつ客観的な立場で見て、是正策を見出すことが期待される。世の中にロジスティクスの概念を定着させていくのも、重要な使命ではないか。マーケティングと対をなす概念のはずであり、その風下に立つことは断じて阻止してもらいたい。
  何年か前の学会年次大会基本スローガンに、「物流業者・・・」という表現があったので、これは事業者とすべきではないかとクレームを付けたが、そのままで開催された。決して事業者側の立場ではないが、ロジスティクス理論の先頭に立つ人々の現場への思いが垣間見えるような気がした。

5.東日本大震災でロジスティクスは一体何ができたのか:米軍支援作戦の意味は

  ロジスティクスの要諦は情報を駆使した計画と統制であり、まず情報を収集しそれを指揮官が判断し処置する。その前提としての計画が重要であることは言うまでもない。大災害の復旧でもロジスティクスの概念と実践が重要であり、東日本大震災ではその体制が問われたはずだ。最高指揮官は首相であり、災害対策本部が設置され各種指令が発せられた。だが首相がまず原発の被災現場に飛び、そして当該企業に直接乗り込んで指揮したしたことが後に問題となったが、果たして指揮官に情報が的確に上がっていたのかどうか。
  支援してくれた米軍は横田基地を指令本部とし、別な任務に就いていた空母を現地に急派し前進基地とした。その艦載機が原発からの放射漏れという重要情報をキャッチし、我国にもたらした。そして被災した仙台空港にパラシュート部隊が降下し、いち早く大型輸送機の離着陸を可能にした。これらは明らかに、軍事作戦に準じたロジスティクスであった。一方我国の鉄道貨物輸送も上越線や磐越西線を迂回して被災地に燃料を届けたが、果たしてロジスティクスという概念でどこまで全体との連携が図られ、実践されたのだろうか。災害支援は物資供給に必要な補給路の確保だけではなく、情報をどう的確に把握するかという戦いでもあったはずだ。
  政府全体にとって、ロジスティクス概念は未だ縁が薄いものになっているだろう。しかしこれからの経済再生や災害対応にとって、もはや不可欠の戦略であることを共有化する必要がある。BCPとても同様である。そして物流システムや事業者がライフラインを支えていることも。

以上



(C)2015 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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