ロジスティクス・レビュー

第292号 通販物流-ビジネス成功への必要条件-(中篇)(2014年5月20日発行)

執筆者  浜崎 章洋
(大阪産業大学 経営学部商学科 特任教授)
    執筆者略歴 ▼

  • (略歴)
    • 1969年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。
    • タキイ種苗、日本ロジスティクスシステム協会、コンサルティング会社設立を経て現職。
    • 日本物流学会理事。大阪市立大学、近畿大学、東海大学、龍谷大学の非常勤講師。
    • 2004年度、2013年度日本物流学会賞、第12回鉄道貨物振興奨励賞特別賞受賞。
    (著書)
    • 「ロジスティクスの基礎知識」(海事プレス社)
    • 「ロジスティクス・オペレーション2級」(共著、社会保険研究所)
    • 「Logistics Now 2005」(共著、輸送経済新聞社)など

目次

前篇(2014年05月08日発行 第291号)より

【なぜ、通販企業は物流に無関心か】

  通販企業の経営者や担当者と物流の話していると、ときどき混乱することがある。それは、彼らが「物流」というとき、多くは「配送」を意味するからである。物流は、配送だけでなく、保管や荷役、包装、流通加工なども含まれるが、通販企業の方は、なぜか配送に限定することが多い。
  筆者はこれまで通販会社の経営者や担当者と数多く議論してきた。その結果、通販業界は物流やロジスティクスの重要性を理解していないのではないかと思うようになった。通販会社にとってモノの流れとは、単なる倉庫での出荷作業、宅配便による配送、そして返品という程度のものでしかないようだ。
  商品の企画、販売促進には熱心なのに、多くの通販企業では、それ以降の業務にはなぜか関心が低い。残念なことに、顧客に対する納品について、納期確約や注文充足率という考えが欠如しているように思う。「いつ来るか分からない蕎麦屋の出前」状態なのである。
  なぜ、このようなことになってしまったのか?それは、各通販会社の成長期において、「営業力」や「商品力」が重要な位置を占めていたからだと思われる。その結果、顧客開拓や販売戦略を立てる営業部、商品を決める商品部などの声が大きくなってしまったからではないだろうか。
  筆者がロジスティクスの世界に足を踏み入れたころ、
「商取引は、『商流』と『物流』が自動車の両輪のように構成されている。どちらかの車輪が止まると自動車は動かない。どちらかの車輪が小さい(能力が低い)と車は真っ直ぐに進めない」と教えられた。
  残念ながら、通販業界では、新商品の企画・開発、カタログなどの広告媒体といった『商流』は重視されるが、『物流』は軽視されがちである。受注(電話、はがき、ファックス、Webなど)、物流、在庫適正化などは後方支援の淡々と処理される作業であり、売上を拡大したり、顧客満足度を高めるサービスではないという認識なのであろう。しかしながら、はたして、それは正しい認識と言えるのだろうか。

【通販における物流コスト】

  「売上高物流コスト比率」という言葉をご存知であろう。文字通り、売上高に占める物流コストの比率のことである。例えば、年商100億円の企業の年間の総物流コストが5億円の場合、売上高物流コスト比率は5%である。
  日本ロジスティクスシステム協会の調査によると、日本の全産業の売上高物流コスト比率の平均値は平成24年度(2012年度)で4.72%と言われている。通販業界の売上高物流コスト比率は、同調査によると11.94%である。全産業の平均値に比べ、通販の売上高物流コスト比率が高いのは、消費者向けに宅配便等を利用した小口の配送が多いからと思われる。企業間取引の場合は、トラックの積載効率などを考慮して物流コストの低減に取り組むが、消費者向けの通販の場合、一取引の金額が小さく、その割に配送費や梱包費がかかるため、どうしても売上高物流コストが割高になってしまう。
  通販の市場規模は約5兆9000億円と言われている。このうち、物流コストが11.94%とすると、その総額は7045億円である。通販会社にとっては、この物流コストを削減することにより、自社の利益増加が見込まれる。一方、通販物流を担う物流会社にとっては、大きな市場と言える。

【通販業界の営業利益率は20%未満】

  通販業界の原価や販売管理費、利益の構造を説明したい。あくまでも平均値なので、読者諸賢の企業の実態とは異なるかも知れないが、そこはご容赦願いたい。
  まず、原価率は約44.3%、つまり粗利益率は約55.7%である。例えば、販売価格が千円のものは、原価が443円、いわゆる粗利は557円ということである。次に販売管理費について見てみる。販売管理費のなかでも広告宣伝費の比率が大きく、売上高に対して約22.7%かかっている。先ほどの例であれば、販売価格千円のうち、227円が広告宣伝費ということになる。店舗を持たない通販の場合、広告宣伝費が大きく発生するのは仕方がないであろう。広告宣伝費を削減して売上自体が減少しては本末転倒であるから、広告宣伝費を削減することは難しいと思われる。
  物流コストは、売上高に対して11.94%であるから、販売管理費のうち広告宣伝費と物流コストだけを合計しても34.6%となる。
  営業利益率については平均値が出ていないが、10%未満が25.5%、10~20%が14.3%、20%以上は18.7%という分布になっている(いずれも2011年の調査結果より)。
  これらの数字を基に通販会社の営業利益率を考えてみる。原価率が44.3%、調査結果から把握できる広告宣伝費と物流コストのみを合計した販売管理費が34.6%を引くと22.1%となる。広告宣伝費と物流コスト以外にも販売管理費は発生するから、利益率は20%を下回っていると考えられる。
  本稿では話をシンプルにするために、通販業界の営業利益率を20%と仮定する。さて、営業利益率20%に対して、物流コスト比率が約12%も発生している。
  もし、物流コストを15%削減できると、営業利益は1.8%増加する。営業利益率20%で利益を1.8%増加させるためには、売上を9%もアップしなければならない。市場規模が拡大している通販業界といえども、ライバル企業とは熾烈な競争が繰り広げられていると思う。そのなかで、売上を9%増加させるのは至難の技ではないだろうか。経営効率を高めるためにも、物流の効率化が重要である。


図1 通販業界の原価率、販売管理費、営業利益率について
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

売上を伸ばすためにも、経営効率を高めるためにも、通販企業にとって物流は重要なテーマであると筆者は考える。

※後篇(次号)へつづく



(C)2014 Akihiro Hamasaki & Sakata Warehouse, Inc.


このページのトップへ戻る