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マーケティング

第289号 物流ハードの常識を変える:顧客品質要求にどう応えるか、物流HACCP-物流はロジスティクスに舵を切ったのか-(2014年4月3日発行)

執筆者  野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)

 執筆者略歴 ▼
  • Corporate Profile
    主な経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部
    • 1985年 物流子会社出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役)
    • 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)
    • 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立
      現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、
      (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    活動領域
      食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる
      :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊
      特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい
    私のモットー
    • 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている
    • ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う
    • 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない
    • 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる
    保有資格
    • 運行管理者
    • 第一種衛生管理者
    • 物流技術管理士

 

目次

1.夏場の異常高温への対策:倉庫業法等の陳腐化

  猛暑で外気温が40℃を超えるような状況では、庫内温度が50℃近くまで上昇する危険性がある。加工食品は保管条件がフリーとは言っても、これでは物性変化を起こすだろう。医薬品や日用雑貨品等の管理においても同じである。従来型の倉庫は自然に空気を循環させるベンチレーターが設置されている程度で、強制換気用のファン装備は充分ではないはずだ。倉庫ハードの仕様を定める倉庫業法・建築基準法等では強度・設備設計が主たるもので、品質維持については不充分である。唯一の例外は営業冷蔵倉庫で、ここでは生ものを扱い流通加工することもあるので、衛生管理について地元保健所の許可が必要となっている。
(営業冷蔵倉庫における付随規定)

  • 食品衛生法関連:保健所への許可申請➝食品衛生責任者の配置
    一般的衛生管理事項の遵守➝HACCP*の前提  *:文末参照
  • 検疫法関連:動物検疫、植物検査、他輸入検査➝検査官への対応、検査場所の確保

  商品によっては、流通過程における温度履歴管理が求められる場合もある。温度以外では保管場所の直射日光・照明強度等も問題になる。流通型倉庫では作業上充分な採光・照明が必要となるが、逆にこれが商品に与える影響も考慮しなければならないこともある。日本酒・ワイン等の光に敏感な商品への配慮である。食品・医薬品・日雑品等の、いわゆるコモデティー商品では一括物流として同時に流通されることも多くなり、非食品でも食品に準じた品質・衛生管理が求められることは言うまでもない。
  また倉庫や輸送手段等の単体ハード毎の管理が行われていても、その結節点における管理が欠落しては意味がない。店舗バックヤードも含め、クオリティー・チェーンとも言うべき管理連鎖が必要になる。これはSCMの重要概念の一つでもあるはずだ。

2.開放型物流システムを密閉型に:品質維持~セキュリティー確保

  低温物流では温度維持のため密閉型の運営が前提となるが、それでも結節点ではオープンになりがちで、温度維持や品質管理に支障を来しているのが実状である。中国における日本向け冷凍食品の製造工場で、工場の保管倉庫内で農薬が人為的に混入された事件は未だ記憶に新しいが、セキュリティー確保も含めるとこの問題は常温系でも重要である。最近国内においても類似事件が発生した。

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  常温倉庫でも、外部と遮断するドックシェルターを装着している事例がある。これは外部からの異物混入を少しでも防止し、侵入者を食い止める狙いもある。低温系では衛生管理の観点から、ドライバーの庫内への入口を制限しそこに靴洗い場を設け、手洗いが行われないとドアが開かない構造とした例もある。現在の物流作業では、ドライバーが土足のまま自由に出入りすることが前提になっているが、これは衛生管理上好ましいことではない。このようなバリアーを設けることで作業効率はもちろん低下するが、これをリカバリーする方策を別な仕事も含めて考えていくしかない。
  問題なのは移動体としての輸送手段である。コンテナ扉を開けなければ作業出来ず、これは積卸しを極力短時間で行い、その場を離れる時は必ず扉を閉めるという基本動作の徹底が必要になる。低温車輌の場合は、積卸時に冷却機エンジンを停止させなければならない。これが守られていないケースを町で良く見掛ける。昨今低温宅配便の温度管理が問題になっているが、常温系とは根本的に違うことを肝に銘じるべきである。

3.物流HACCPの顧客要求:ISO22000へ包含(食品系)

  生鮮食品では在庫を持たない流通として、極めて難易度の高いロジスティクス運用を行っている。その前提は製造された商品の微生物検査判定結果を待たずに先行出荷させ、異常が判明した場合はその流通を止めるというトレーサビリティーである。原材料や製造工程の衛生管理を厳密に行い、流通も含めた各工程管理が完璧に行われることでこれは成立し、万が一その一角がどこかで崩れれば全体が機能不全に陥ることになる。その最たる業態が外食・中食産業であり、基本的な要求は物流HACCPである。それは元々製造工程における衛生管理の認証であるが、これを流通過程にも求めるものである。
(HACCPの考え方を物流工程にも求める)

  • 外部と内部を遮断:接点では除菌設備
  • 清潔及び汚染エリアに分離:その動線がクロスしないこと(入・出庫)
    不良品置き場等は庫外へ(鳥獣害・防菌対策必要)
  • 設備構築物の耐性:水・油・薬剤・その他
  • 排水性及び空気調和:床面の傾斜、排水口➝洗浄性
    (流通加工エリア)     窓・吸排気口の制約・除菌設備
  • その他:防虫防鼠、網戸、防虫灯、その他

  HACCPは現行のISO22000に包含されたが、食品に限定しこれに関る全業種を対象にしたこの品質管理国際認証を取得して運用することが望ましい。密閉型設備にすることは、前述したようにセキュリティーの確保にも繋がる。
  物流センター内で外装を小分けし、個装単位で仕分けする作業も盛んに行われているが、作業者が素手で商品を掴んでいるのは無神経である。個装は店頭に陳列され、消費者の手に渡るものなので、衛生状態にもっと気を使わなければならない。

4.マテハン・システムは磐石か:災害対策が重要

  東日本大震災の時、首都圏にあるマテハン設備も多大な被害を受けた。特に高層の自動倉庫では商品の落下やスタッカークレーンの停止が多発し、その復旧に2~3ヶ月を要したところもある。在庫はあり輸送状況が回復しても出荷が出来ないという事態に、荷主からのクレームが殺到した。特に冷凍自動倉庫では作業環境が苛酷で、その修復作業に手間取った。落下商品を除去し、棚に残った商品の検品を行い、そのロケーションと情報システムのアドレスを照合するのに膨大な作業を要した。その他では倉庫のスプリンクラーが誤作動し、商品の大量水濡れが発生するという思わぬ事故も発生した。
  少子高齢化や現業要員確保の難しさでマテハン・システムの導入は不可欠であり、その進化は大いに期待されるが現状では未だ不具合が多い。冷凍自動倉庫の経験からは低温環境下でのディバイス類の寿命や、光センサーの乱反射による誤作動等のトラブルも多かった。保管商品とラックのクリアランスの問題もあった。耐震設計についてはラックを建屋と一体型にする場合と、独立型では自治体の認可の見解も異なる。スプリンクラーの設置についても同様であり、冷凍環境では設置が不可能なので外側に放水銃を設置した事例もある。いずれにしても精密機械としての耐震設計・防災技術、ハードとソフトのインターフェースも課題が多い。
  もう一つ重要な課題は停電対策である。大都市における停電の可能性は高く、災害時以外でも考えておかなければならない。特に低温物流では搬送システムが停止すると商品の劣化に繋がり、ある程度のリカバリー用の電源は必要になる。コンピューターの短時間バックアップは意図されているが、動力用の電源は皆無と言っていいだろう。保険会社と契約し、非常時に電源車輌の派遣を行うようにした事例もある。

5.マネジメントの責任:物流5Sから7Sへ

  物流インフラをどう整えるかはマネジメントの責任である。もちろんそれを使いこなす活用側の課題も多く、設計段階でこれらをどこまで反映出来るかが重要である。まずは5Sが基本となるが、それを単に指示するだけでは片手落ちであり、ハード整備も進めなければ中々徹底出来ない。そして食品事業領域では7Sが必要と言われており、プラスすべきは洗浄と殺菌の2Sである。物流センターで使用する樹脂パレットやリサイクル容器は一定期間毎の洗浄が不可欠であり、もちろんレンタルを利用する方法もあるが、これは重要な管理事項となる。流通加工を行う場合には、殺菌が必要な場合もある。
  機械設備では法定点検や、事故発生時の監督官庁への報告等が義務付けられており、充分な法対応が求められる。スピードリミッターの装着が前提であるはずの大型トラックが、高速道路を80Km以上の猛スピードで疾走するのを見ると、安全の問題にマネジメントが果たしてどこまで関与しているのか首を傾げたくなる。低温倉庫では易燃性物質である断熱材の火災の危険性について、もう一度重視すべきである。韓国では最近低温の大型設備が、これを原因とした火災で全焼した事例を二度見聞した。
  また設備の定期点検・法定点検等は、日常業務運用上極めて重要な問題となる。特に365日・24時間のノンストップ型の運用では、これをどう行うかも困難な課題である。そしてそれにかかるコストも無視できない。これらを含めてマテハン・システムが本当に機能するかどうかの判断が、マネジメントに求められる。場合によっては半自動の方がいい場合もある。それは異常事態発生時の危機管理と併せて考えていく必要がある。
HACCP:Hazard analysis critical control point(危害分析重要管理点管理方式)

以上



(C)2014 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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