ロジスティクス・レビュー

第287号 THC(ターミナル・ハンドリング・チャージ)をめぐる課題(2014年3月6日発行)

執筆者  吉本 隆一
(オフイス・ロン代表)
    執筆者略歴 ▼

  • 略 歴
    • 1980年法政大学大学院博士課程経済学単位終了。経済理論・財政論
    • 1983年から2005年まで(財)日本システム開発研究所。
    • 2005年から2013年2月定年退職まで日本ロジスティクスシステム協会、主幹研究員
    主な研究開発実績
    • 国際輸送システムの調査研究(基盤整備、パフォーマンス分析、国際陸送制度)
    • 物流情報システムの標準化・調査研究・技術開発(ITS、AIDC、輸配送システム等)
    • 公共事業整備に伴う社会経済的影響評価
    • 立体道路整備、道路一体型物流施設整備等の複合的事業手法開発
    • 物流拠点整備・共同配送等、物流効率化・高度化事業手法の調査研究等

目次

はじめに

  国際物流のドアツードアコストを検討するにあたって、分かりにくい費目の一つにTHC(ターミナル・ハンドリング・チャージ)がある。一般にコンテナの海上運賃は想定的に安いのでTHCの影響は大きい。シンガポールとタイ・レムチャバン港間の20フィートドライコンテナの例をみると、海上運賃450ドルに対して、両港湾のTHC合計だけで240ドルと運賃の半分の水準になる。
  THCの問題は、実際の港湾荷役費用とする説明とCAF(為替調整)やEAF(燃費調整)と同様に海上運賃のサーチャージの一部とする説明が混在していることある。ここでは、このTHC問題について論点を整理しておく。

1 外航海運の運賃と競争政策

  外航海運の運賃については、同盟運賃が形骸化して以降、協定運賃やアライアンス運賃等があるものの、基本的にはガイドライン的性格にとどまっているとされている。同盟運賃時代には、独禁法の適用除外とされていたが、同盟運賃制度の形骸化と各国の競争政策の見直しに伴い、適用除外を廃止する動きが見られるようになった。
  昨年2013年12月に、米国連邦海事委員会(The Federal Maritime Committee)は、海運法(the Shipping Act)違反として、RORO船について、K-LINEに110万ドル、NYKに123万ドルの課徴金を課したと発表されている。RORO船運賃については、公正取引委員会が、2012年9月に船社への立ち入り調査を行っている。
  我が国では、現時点の状況が確認できないが、公正取引委員会による見直し提案に対して、国土交通省による適用除外継続という保留措置が続いているようである。
  外航海運に対する特殊指定見直しは、過去1999年と2006年に実施され、交通政策審議会国際海上輸送部会の2006年12月の答申では、EUの動向をふまえるため、継続審議案件のままになっている。
  2006年6月の新外航海運政策研究会「今後の外航外運政策」によれば、「安定した外航海運サービスの提供及び事業の合理化・効率化は、自主的な船社間協定を基礎とした船社間の国際的な協調・連携によって支えられてきており、このような船社間協定については、我が国も含め国際的に独占禁止法の適用除外制度が認められてきた。特に、我が国では船社間協定と荷主との自主的な協議が有効に機能しており荷主からも船社間協定に対して一定の評価を受けている。今後とも、独占禁止法適用除外制度の運用に当たっては、荷主の利益を不当に害することのないよう適正な運用を図ることが特に重要」とされており、適用除外とされている。
  他方、「海運サービスは、WTOのサービス協定の中で交渉が妥結していない唯一の分野であり、そのため各国の自由化約束が十分なされておらず、かつ、各国が海運サービスに関し最恵国待遇の義務も負う必要がないため、一方的制裁等差別的な措置を禁止することができない」状態にある。
  一方では、今年2014年から、日本のTHC(ターミナル・ハンドリング・チャージ)が改訂され、40フィートドライコンテナで、1本37,000円が45,000円に、8,000円、22.9%の増額となっている。ちなみに「日本の五大港に実勢を精査して」2010年2月に37,000円に増額される前は、16,500円とその半額以下であった。

2 THC設定の経緯

  日本荷主協会の元常務理事、平野一憲氏の説明によると以下のような経緯があった。
「THCとは、コンテナ・ヤードにおける取扱費用のことだが、もともとコンテナの基本運賃の中に含まれていた。欧州海運同盟は、1990年から適用する新タリフ体系において、運賃の透明化、簡素化を理由に、基本運賃からTHCを外出しにして、サーチャージとして課徴することを提案してきた」(平野一徳、「国際物流の構造改革」、2002年12月15日刊、(株)文芸社刊、pp.131-132)。
  日本荷主協会がTHC導入に反対したので、当初は日本のみTHC設定を除外されていたようである。
  東南アジア域内の動向をみると、THCは、海上運賃とは別のチャージとして、FEFC(Far Eastern Freight Conference)が、1990年に香港・欧州航路の全コンテナ輸送に適用し、同年には、ANZESC(Australian & New Zealand Eastern Shipping Conference)もそれに従った。
  1991年には、ANERA(Asia North America Eastbound Agreement)もその全コンテナ輸送に適用し、アジア域内を含めて全域に広がり、船社にとって一般的な付加料金となり年を追って漸次値上げされてきた。

3 船社によるTHC設定をめぐる課題

3-1 日本荷主協会
  平野氏の前掲書によると、欧州荷主協議会は、「外出しによってTHCが透明になり、荷主の管理がしやすいこと、欧州同盟の複合輸送運賃の問題で、海運同盟の独禁法適用除外となる基本運賃はできる限り小さくして、海上部分に絞っておきたいという」理由で、欧州各港におけるTHCの外出しに賛成していた。
  他方、日本荷主協会は、平野氏の前掲書によれば、以下の実務的理由でTHCの外出しに反対していた。

  1. (1)荷主が港湾作業部分であるTHCを管理することは不可能であり、非現実的な理論である。
  2. (2)THCは基本運賃の一部であり、それを分離分割することは簡素化に逆行する。
  3. (3)THCの外出しは基本運賃をできるだけ小さくして、実勢運賃の市況変動部分を少なくしようとする同盟側の意図が見受けられる。
  4. (4)THCが実際上、値引きを要求できない割増料金として、基本運賃とは関係なく独り歩きをし、各港独自のTHCの引き上げが行われるようになる。
  5. (5)貿易契約がFOBの場合、THCは輸出業者、輸入業者のどちらが負担すべきかという、インコタームズとも関連した混乱が生ずる。

  日本荷主協会は、2009年6月に解散し、日本国内でのTHC問題に対するまとまった意見表面の場は見られなくなったようである。

3-2 フィリピン荷主協会
  THCについては東南アジア各国共に、THCがその名称から港湾荷役費用の全てをカバーしているとみられているが、港湾荷役の実作業をしている各国事業者は船社からその費用を受け取っていない、荷主に対する重複課金になっているとする反対意見が強く、各国会議や国際会議の場で、毎年反対表明が行われているようである。荷主サイドでも、学者の一部でも、船社のサーチャージとしてのTHCの高低を各国港湾諸料金の高低やその生産性の高低と勘違いして評価している例が見られる。
  フィリピン荷主協会(PSB:Philippine Shippers’ Bureau)に資料によると、THCについては、2010年にも荷主と協定船社との対話の機会を設けたが、THC問題解決の合意に至っていない。2004年4月のシンガポールにおけるASEAN荷主協議会(FASC:the Federation of ASEAN Shippers’ Councils)とIADA(Intra-Asia Discussion Agreement)との会合以来、定期的な意見公開の場も見られない。
<協定船社(IADA)の見解>
  2004年3月PSB-IADA会議におけてIADAが説明したTHC設定根拠は、以下のように整理されている。

  • (1)コンテナ貨物の海上運送契約におけるFIO条件の場合、コンテナ荷役費用は荷主が負担することになっている。
  • (2)THCは、コンテナ(実入・空)が船舶から降ろされ、再度船積みされるまでの総費用(逆方向の場合も同様)を上限とする船内荷役+ターミナル荷役+その他関連諸費用である。

<荷主(PSB)の見解>
  IADAの説明に対するPSBの意見は、以下のとおりである。

  • (1)ライナータームの下では、コンテナ荷役費用は船社が負担しており、海上運賃に含めるべきである。
  • (2)FIO条件は、一般に、コンテナ船ではなく在来船輸送における荷役に適用されている。
  • (3)船内荷役は、通常、船社が負担し、その海上運賃に含めている。それ以外のコンテナ荷役は、荷主がターミナルオペレーターに支払っている。このため、船社によるTHC徴収は、荷主に重複負担を行わせている。
  • (4)船社が徴収するTHCは、港湾業務に関する課金ではない。従って、港湾関連サービスに含めるべきではない。

4 船社THCの影響

  フィリピン荷主協会(PSB)の2004年調査時の事例では、以下のような影響が指摘されている。

  • (1)荷主が船社に支払ったTHCは40ftコンテナで5,300ペソ、船社がコンテナターミナルオペレーターに支払った金額は4,335ペソでありTHCの方が高いと指摘している。
  • (2)荷主がコンテナターミナルオペレーターに支払ったCT内荷役費用は、輸入5,936ペソ、輸出4,851ペソであり、この部分は船社のTHCと重複負担している可能性が高いと指摘している。
  • (3)船社のTHCは1996年から2004にかけて2倍近く増加しているが、CT荷役費用は50~70%程度しか増加していない。
  • (4)船社のTHCは、フィリピンの荷主のASEAN域内への出荷費用の30%~50%を占めており、その国際競争力を低下させている。

  国際的な生産・流通ネットワークが再編成を求められている時代に、THC問題は、アジア域内の国際物流コストにも大きく影響する基本的要因の一つである。我が国の審議会の指摘にあるように、船社と荷主との密接な協議が行われ、インコタームズ上でも発生費用管理上でも問題のない状況になっているのだろうか。

以上



(C)2014 Ryuichi Yoshimoto & Sakata Warehouse, Inc.


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