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グローバル・ロジスティクス

第277号中国内陸部展開の課題(2013年10月10日発行)

執筆者  吉本 隆一
(オフイス・ロン代表)

 執筆者略歴 ▼
  • 略 歴
    • 1980年法政大学大学院博士課程経済学単位終了。経済理論・財政論
    • 1983年から2005年まで(財)日本システム開発研究所。
    • 2005年から2013年2月定年退職まで日本ロジスティクスシステム協会、主幹研究員
    主な研究開発実績
    • 国際輸送システムの調査研究(基盤整備、パフォーマンス分析、国際陸送制度)
    • 物流情報システムの標準化・調査研究・技術開発(ITS、AIDC、輸配送システム等)
    • 公共事業整備に伴う社会経済的影響評価
    • 立体道路整備、道路一体型物流施設整備等の複合的事業手法開発
    • 物流拠点整備・共同配送等、物流効率化・高度化事業手法の調査研究等

 

目次

はじめに

  中国の経済成長は、2000年以降の10年間に年率15%の伸びを示し、5年間でGDPが倍増する急成長を遂げた。そのまま推移していれば、2020年頃には、臨海部大都市の中間管理層の人件費が、我が国と大差ない水準まで上昇し、世界の工場としての競争力を喪失すると予想される。他方、中国臨海部での生産コスト面でのメリットが低下するにつれて、ここ数年間は、東南アジアや中国内陸等、周辺地域への工場移転と物流網の再編成が顕著になっている。そこで、本稿では、中国内陸部へ展開する場合の輸送網構築上の課題を検討する。

1.内陸部への輸送事例にみる課題

  ジェトロ(日本貿易振興機構)は、2009年に中国成都への試験輸送を行っている。同事例をもとに中国内陸部への輸送上の課題を検討する。

(1)概要
輸送の概要は、以下のとおりである。
1)輸送期間:2009年12月17日~2010年2月5日
2)荷姿:20フィート、ドライコンテナ1本
3)輸送品目:鮭フレーク、牛乳、レトルトかゆ、味噌、なめこたけ
4)輸送区間:東京→成都

図1 荷姿(20フィート、ドライコンテナ1本)

品目:鮭フレーク、牛乳、レトルトかゆ、味噌、なめこたけ

(2)所要時間
  輸送時間は、以下のようになっている。総輸送時間は、東京での12月17日のパレット搬入から1月29日の成都の倉庫搬入まで42日間を要している。このうち船舶やトラックでの輸送時間は15日間(36%)、残り27日間(64%)は、輸出入手続きや船舶の積み替え等に要した時間である。成都での輸入手続きの終了・配送完了までを入れると51日間を要し、輸送時間割合は30%まで低下する。
1)東京出荷(4日間)
・2009年12月17日、東京上屋へのパレット搬入、コンテナ詰め、輸出手続き
・2009年12月21日(月)、大井出港
2)東京→上海(外航海運輸送3日間):東京・上海間は約1,900km
3)上海、外航船から河川船への積み替え(8日間)
・2009年12月24日、上海入港、・2010年1月2日、河川船へ積み替え
河川船は、重慶までの場合、積載能力1500トン級であり、一般に、船舶の運航管理の都合に加えて、季節によって長江の水位や三峡ダム閘門待ち等に伴う調整が必要になる。
4)上海→重慶(河川水運輸送11日間):上海・重慶間は約2,500km
・逆方向の下りの場合は約9日間程度を要する。
・2010年1月2日、上海出港、2010年1月13日、重慶入港
5)重慶、陸送への積み替え(6日間)
・成都への陸送の保税転送手続きに書類不備があり時間を要す。
・2010年1月13日、重慶入港、2010年1月19日、重慶出発
6)重慶→成都(道路輸送1日):重慶・成都間は陸路約340km
・2010年1月19日、重慶出発、2010年1月20日、成都到着
7)成都での倉庫への搬入・配送・輸入手続き(9日間)
・2010年1月20日、成都到着、2010年1月29日、成都倉庫搬入
・1月15日から事前輸入検疫手続きを実施。牛乳の検疫許可がないため、最終的に牛乳を廃棄処分した。最終的な配送完了は2月5日である。

図2 輸送時間の構成

(3)輸送費用等
  ジェトロ調査での輸送費用は、総額357,260円である。
  このうち、東京から上海までの外航海運と上海から重慶までの長江河川輸送の総額は、積替中継費用も含めて142,500円である。重慶から成都までのコンテナドレージ費用は、39,000円である。この運賃には重慶までの空コンテナ回送料の16,500円が含まれている。総費用の約半分の合計181,500円が直接的な輸送費部分である。
  このほか、東京でのコンテナ詰めで17,500円、詳細は不明であるが、中継・積替等の輸送関連費用で131,100円、書類手続費用8,350円、保険料3,000円、中国検疫料11,610円、その他費用4,200円となっている。この合計は、175,760円になる。
  これらの費用に対して租税公課の金額も重要であり、商品額 109,740円に対して、関税 24,000円、増値税22,740円の合計税額46,740円が課せられる。

図3 輸送費用の構成(1元15円換算)

水運は、東京→上海の外航海運と上海→重慶の河川輸送の積替・中継を含む運賃
陸運は、空コンテナの回送料を含む運賃である。
輸送関連費用は重慶での費用として計上している。

2.内陸輸送方法の評価

(1)対売上高輸送費比率
  通常10万円の商品輸送に対して、輸送費用約36万円、税金約5万円の合計41万円を負担することは少ないと考えられる。ジェトロの輸送の場合の商品数量はパレット1枚分程度、推測150kg程度なので、20フィートコンテナに満載して15トンの貨物を輸送した場合で考えると、商品金額は約1,100万円となり、関税・増値税は467万円(43%)になる。輸送費用総額は、コンテナ1本で変更が無く36万円であり、商品総額の3%となる。ちなみに、日本の輸出入総額に占める海上・航空運賃総額の割合は4%である。

(2)所要時間の短縮方法と輸送費
1)事務処理時間や待機時間等の短縮
  所要時間のうち、輸出入手続きや積み替え、船舶待ち時間は、輸送時間同様に時間を要している。このため、時間短縮のためには、輸送の段取りに関わる事務処理の並行処理や事前申請によって時間短縮が可能な手法をできるだけ活用し、荷役作業等の効率化を進める工夫が必要である。

2)内陸輸送の時間短縮
  ジェトロの輸送例では、上海・重慶間で河川水運を利用し11日間を要し、積み替えで8日間を要し、合計19日間かかっている。
  所要時間を短縮する場合には陸送を考えることになる。陸路2,150km(河川の場合は2,490km)を平均速度50kmで考えると50時間、3日間程度で輸送することができ、中継2日をみて5日間程度の輸送が可能になる。
  ただし、2010年当時の陸送運賃をみると、上海から重慶までの費用は20フィートコンテナ1本で約29万円とされている。同じ資料では河川輸送の場合4.4万円、積み替え30時間(2日)、輸送5日の合計7日としている。つまり、上海と重慶の間の運賃だけでみると、道路輸送は河川輸送の6.6倍の費用がかかる。
  東京から上海までの海上運賃を10万円とすると、上海から重慶までの陸送費用29万円との合計は39万円になり、東京から重慶までの総費用は、長江河川利用の場合の14万円の倍を要する。
  他方、総所要時間は、通関その他を含めた東京から重慶までの32日間を14日短縮し、18日程度になると見込まれる。これは、2週間の時間短縮が、商品在庫価値14万円の節減(商品金額1100万円の1.27%)に値するかどうかの判断基準に依存することになる。
  このように道路輸送の利用は時間短縮の典型的方法であるが、コストが高くなるため、道路輸送効率化によるコスト削減手法を検討するか、河川水運での待機時間や輸送時間短縮方策を検討することが必要になる。
  長江河川水運の場合は、三峡ダム通過や長江水位の制約があるものの、荷姿に適した船舶の選択と運行方法の改善、外航から河川水運への接続の円滑化を図ることで所要時間の短縮を図る工夫の余地は十分にあり、その面での検討事例もみられるようになっている。

3.現地事業者との連携

  海外への事業展開にあたっては、現地事業者と連携して、輸送システムや輸出入手続きの改善を進める創意工夫を行うことが必要である。中国の場合には、幸いにして物流管理士のテキスト(図4参照、全冊15巻で12,000円程度)も揃っており、検討の枠組みを共通認識することも可能である。

図4 中国物流管理士(国家資格)講座テキスト例
(中国社会保障出版社の例 15冊各冊200頁、全冊約3000頁)

以上



(C)2013 Ryuichi Yoshimoto & Sakata Warehouse, Inc.

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