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第273号 コンテナラウンドユースによる国際物流コストの削減(2013年8月8日発行)

執筆者 久保田 精一
(JILS総合研究所 副主任研究員)

 執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1971年熊本県生まれ。
    • 東京大学教養学部教養学科卒。
    • (財)日本システム開発研究所(シンクタンク)等を経て、現職。
    • 物流コストやロジスティクスの指標管理等、物流や地域開発等のテーマでの自主研究、委託研究、コンサルティング等を主に実施。

 

目次

  サプライチェーンのグローバル化の進展に伴い、国際物流コストの効率化を重要な課題として捉えている荷主企業が増えている。今回はその中でも特に注目されている「コンテナラウンドユース」について概要を述べる。

1.輸出入物流のコスト構成

  海上コンテナによる輸出入物流のコストは、主に、①相手国における内陸輸送、通関、港湾荷役等のコスト、②国際海上運賃、③国内における内陸輸送、通関、港湾荷役等のコストから構成される。
  従来はこのうち、国際海上コンテナの運賃の占める比率が高かったが、日本の最大の貿易相手国がアメリカから中国に交代するなど、主たる貿易相手国が輸送距離の短い近隣のアジア諸国となったことや、近年、世界経済の減速に伴い海運市況が低迷していることなどから、海上運賃が総コストに占める割合は相対的に下がってきている。
  そのため、国際海上運賃を国内輸送等のコストが上回ることが多く、なかでも、輸送距離が短く、かつ海上運賃の安い日中や日韓間の主要港間での輸出入の場合には、国内輸送等のコストが数倍程度大きくなることもある。
  このようなことから、国際物流コストの管理においては、国内で発生する諸コストの削減が重要な意味を持つことになる。国内で発生するコストとしては、上記のとおり、内陸輸送、通関、港湾荷役等のコストが挙げられるが、絶対額として大きいのは内陸輸送のコストである。国際海上コンテナの内陸輸送を「ドレージ輸送」と言うが、そのため、ドレージ輸送のコスト削減策として、コンテナの往復輸送を実現する「コンテナラウンドユース」への関心が高まっているのである。

2.ラウンドユースによるコスト削減効果

  一般的なトラック輸送では、貨物を積載した実車距離に応じて運賃が請求される(距離制運賃の場合)。これに対し、ドレージ輸送の場合は、実入りのコンテナを輸送した距離だけでなく、空になったコンテナを輸送した距離も運賃計算の対象となる。コンテナは一般的には船会社の所有物であり、空になったとはいっても、トラック会社が他社の貨物輸送等に流用することはできないためであり、旧運輸省時代に定められたタリフでも、空コンテナの輸送分の距離も加算するように定められている。
  一方で荷主からすると、復路分のコストも負担していることとなり、割高感が生じる原因となっている(ただし、ドレージコスト自体は原価ギリギリの水準まで下落しており、トラック会社が過大な利潤を得ているということではない)。そのため、輸入貨物と輸出貨物のコンテナ輸送をマッチングし、空荷輸送を無くす「コンテナラウンドユース」により、運賃負担額を削減する取り組みへの期待が高まっている。
  さて、コンテナラウンドユースによるコスト効果は、下図のとおり、端的には片道分の運賃の削減である。図から明らかなように、港湾と荷主との距離が遠く、荷主同士(輸入側と輸出側)の距離が近いほどコスト削減効果が大きい。輸入者と輸出者が近接しており、荷役(バンニング、デバンニング)の所要時間が十分に短い場合などには、輸送コストをほぼ半減することもあり得る(ただし、荷主でのバンニング・デバンニングの合計所要時間が一定限度を超える場合には、待機料金等の費用が発生し、また、輸出入者が離れている場合には、その間の輸送コストが発生するため、コストが半減するケースはまれである)。
  また、空コンテナの回送が削減されるため、CO2排出量の大幅な削減にもつながる。これが荷主の関心を集める理由の一つである。

図表 コンテナラウンドユースの効果

3.ラウンドユースの主な成立条件

  このようにメリットの大きいラウンドユースであるが、実現を阻む課題も多い。マッチングを進める際には、以下の点について留意が必要である。
①荷主と港湾との地理的条件
  輸出者・輸入者と港湾との距離が短いと、ラウンドするメリットが減殺される。例えば、往復で5万円程度の距離帯であれば、ある程度手間をかけてもラウンド実施によるメリットを得られる、往復2万円の距離帯では、コストメリットを発現するための条件が厳しくなる。
  また、同様に、荷主同士(輸入者と輸主者)の距離が近いことが望ましい。さらに、インランドデポを利用してラウンドユースを実施する際には、インランドデポとの位置関係も重要となる。
②利用船社の一致
  コンテナは船社に帰属するため、往復で同一のコンテナを利用するためには、原則的に輸出で利用する船社と輸入で利用する船社が同じである必要がある。大手メーカーでは、船社との契約は、入札による年単位の契約となっている場合も多く、変更が難しい場合も少なくない。船社と契約する時点で、ラウンドユースの実施可能性を考慮に入れることが必要である。また、船社によってラウンドユースに対する協力姿勢が異なること、利用できるインランドデポの数が限られることなどにも、留意が必要である。
③輸出入のタイミング(時間、曜日、年波動)
  ラウンドユースのコスト効果を最大限に発揮するためには、待機時間をなるべく無くすことが必要である。例えば、午前中に輸入者にてデバンニングを済ませ、休憩を挟んで輸出者に向かい、午後に輸出者でバンニングを行い、夕方のゲートクローズ時間までにコンテナヤードに到着する、といったスケジュールでの運行が考えられる。
  このような運行を可能にするためには、バンニングのタイミングとデバンニングのタイミングが時間単位で合致していなければならない。
  また、同様に、曜日、年波動にも注意が必要である。1年を通じて同じ貨物量であれば良いが、一般的には年度末に出荷量が増えるとった波動性がある。ラウンドを行う相手企業の出荷波動とパターンが異なる場合、マッチングの成功率が低下することになる。
④コンテナの種類・グレード、貨物の種類の一致
  20ft/40ft/ハイキューブといったコンテナのサイズ、食品用といったコンテナのグレード、におい移りといった貨物の相性についても、留意が必要である。
⑤インランドデポの利用可能性
  荷主同士が直接ラウンドユースを行う場合は、輸出入の微妙なタイミングを調整することが難しい。また、コンテナに破損などがあった場合、船社サイドのチェックが入らないため、貨物にダメージが生じた際の責任問題が生じる可能性がある。また、コンテナの洗浄等が必要となった場合も問題である。そのため、インランドデポを介してラウンドユースを実施するケースも多い。しかしながら、インランドデポは、比較的輸出入貨物量の多い北関東地方でも10カ所に満たない程度であるなど、数が限られているのが実態である。また、物流事業者が自社運営するデポや、利用可能な船社が限られているデポもあるため、特定のケースで利用できるデポの数はさらに限られてくる。
  インランドデポまでの輸送距離が長くなると、ラウンドユースのメリットが減殺されてしまうことから、近隣でのデポの利用可能性にも留意することが必要である。
⑥具体的なマッチングの成立
  ラウンドユース実現のためには、上記の問題をクリアできる、条件の合う荷主と実際にマッチングが成立することが必要である。
  近年、中国や東南アジア諸国からの各種雑貨等の輸入が急増しており、多くの地域で輸入超過傾向となっている。そのため、輸入企業は比較的候補が多い。一方、製造業の海外移転が進展していることから、コンテナ単位の貨物を日常的に輸出している企業の数はかなり限られている。数が限られている故に、主要企業をリストアップすることも難しくないとも言える。
  実際にラウンドユースを実施している事例をみると、自治体(港湾管理者)や各種団体が開催している荷主同士の交流会等の場でマッチングする例のほか、フォワーダが相手企業を紹介する例も見られる。フォワーダが同一であれば、ラウンドユース実施に向けた調整も比較的容易であり、また、荷主側の業務負荷増大を避けることもできると思われる。いずれにせよ、求貨求車のようなシステマチックな仕組みは存在しないので、人的ネットワークを介したマッチングが主流であるのが実態である。

図表 ラウンドユースの主な成立条件(要約)

①荷主と港湾との地理的条件 輸出者・輸入者と港湾との距離が一定以上。輸出者と輸入者の距離が一定以下。また、デポを使う場合はデポとの位置関係。
②利用船社の一致 輸出側と輸入側が原則的に同一船社であること。船社の選定時点でラウンドユースの可能性を考慮することが必要。
③輸出入のタイミング(時間、曜日、年波動) 輸入(デバンニング)と輸出(バンニング)の時間的タイミングの合致。曜日や年波動のある程度の一致。
④コンテナの種類・グレード、貨物の種類の一致 40ft/20ft/HQといったコンテナ種類の一致など。
⑤インランドデポの利用可能性 デポを利用することでラウンドユースの可能性が拡がるが、デポの数は限られており利用可能性は限られる。
⑥具体的なマッチングの成立 求貨求車システムのような仕組みは存在しないので、人的ネットワークを介したマッチングが必要。

  

4.最後に

  以上、簡単ながらコンテナラウンドユースの概要を述べた。今後、さらにアジア諸国が発展し、サプライチェーンの水平分業が進展するに伴い、輸出入が増大することが予想される。その際、輸出入物流のコスト削減策の一つとして、ラウンドユースは有望な選択肢の一つである。また、諸外国と比べて脆弱な港湾インフラを補い、港湾オペレーションを効率化するうえでも、有効な施策であると考えられる。
  一方、インランドデポの利便性向上、港湾とインランドデポとの結節改善や荷主同士のマッチングの仕組みの構築など、ラウンドユースを促進するための取り組みも期待されるところである。
※本稿は、筆者の個人的見解を記したものであり、所属する団体の見解・意見を代表するものではない。

以上


(C)2013 Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.

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