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グローバル・ロジスティクス

第262号海外企業の中国進出事例 (後編)(2013年2月26日発行)

執筆者 吉本 隆一
(公益社団法人 日本ロジスティクスシステム協会(JILS)
JILS総合研究所 所長 主幹研究員)

 執筆者略歴 ▼
  • 略 歴
    • 1980年法政大学大学院博士課程経済学単位終了。経済理論・財政論、PPBSを専攻。
    • 1983年から2005年まで(財)日本システム開発研究所。
    • 2005年から現職。
    主な研究開発実績
    • 国際輸送システムの調査研究(基盤整備、パフォーマンス分析、国際陸送制度)
    • 物流情報システムの標準化・調査研究・技術開発(ITS、AIDC、輸配送システム等)
    • 公共事業整備に伴う社会経済的影響評価
    • 立体道路整備、道路一体型物流施設整備等の複合的事業手法開発
    • 物流拠点整備・共同配送等、物流効率化・高度化事業手法の調査研究

 

前編(2013年02月14日発行 第261号)より
*今回は2回に分けて掲載いたします。

目次

4 巨大な国際物流市場規模

1)国際3PL市場規模

  グローバル展開では、米軍や多国籍軍の国際展開を支える物流事業者や極地輸送などの専門的輸送を得意とする国内とは別世界の事業者も存在する。内外企業の3PL事業規模について正確な統計はないが、参考数値を紹介すると、表1と表2のようになっている。
  表1は国内3PL市場であり、約1.3兆円の市場規模である。他方、表2は国際3PL市場であり、21兆円と16倍の市場規模(日本は国際規模の6.2%)であり、上位10社に日本企業の名前はない。


2)世界貿易規模

  また、図1に見られるように、世界の貿易規模(輸出総額)は2008年で16兆ドルであり、日本の輸出総額は、その4.9%にとどまっており、3PLの市場規模シェアと同様の数値である。この輸出総額に占める航空・海運サービスのシェアからみると、国際物流市場は、40兆円~60兆円程度の規模があると見込まれる。
  日本の輸出総額シェアは、1986年の10.6%をピークに低下し続けている。他方、日本企業の海外での活動は著しく進展しており、日本の輸出入規模は低下しているものの、世界貿易における日本企業の活動規模が低下したわけではない。
  つまり、日本の物流事業者が日本企業を支援する場合においても、単に、日本の輸出入だけでなく、中国やアジアと欧米との間の物流をも含めた海外各国間の輸出入を支援する必要があるし、経済連携や自由貿易圏の役割も対日本だけでなく、広く各国相互間の物流や生産・流通への影響の観点から把握しておく必要がある。
  キヤノンの2009年実績だけをみても、日本発の海上物流量、40ftコンテナ、34,700本に対して、アジア発は46,300本と1.3倍であり、アジア域内の1万本を加えると、56,300本、1.6倍規模のコンテナが日本以外で動いている(資料:資料:財務省研究会、キヤノン、生産ロジスティクス本部、2010年2月18日)。日産自動車やエプソンの国際物流動向をみても同様の傾向にある。
  このことは、日本の物流事業者にとって、極めて大きな市場規模があることを示していると共に、人材育成にあたっては、日本の通関や輸出入実務にとどまらず、広く国際条約の枠組みや世界各国の貿易実務の常識的な考え方にも注意を払う必要があることを示している。

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3)中国市場の急成長

  中国市場は、ようやく急速な成長期を脱しつつあるものの、まだ成熟期にはほど遠い。図2のように、2010年までのGDPは年率15%、5年間で倍増する急速度で成長してきた。

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  この結果、中国の国内消費市場も急速に成長し、かつて手の届かなかった乗用車などの高額商品需要も拡大してきた。ただし、中国統計局のデータによれば、2009年の商品販売額は、日本の135兆円に対して、1元=12円で換算して、中国は189兆円規模であり、まだ膨大な潜在需要がある。他方、資源・エネルギーによる制約も厳しくなっている。
  同様に、人件費も図3のように、大都市部を中心に急速に高騰しており、中間管理職クラスは10年もすれば日本の賃金水準と同様に近くなると見込まれるし、一般作業工員でも、15年から20年で同様の傾向に近づくと見込まれる。

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  この結果、人件費のコスト削減を主たる立地要因とした企業の中国進出メリットは減少し、さらに人件費の安価なラオス、ミャンマー、バングラディシュなどの周辺国に展開するか、国内生産に回帰することになるだろう。
  国際的な生産・流通ネットワークは、複雑な相互依存関係を示すようになっている。グローバルサプライチェーン全体の中での日本の物流事業者の役割も再検討する時期に来ているように思われる。メイド・イン・ジャパンを争う時代は過ぎ、多くの製品は、メイド・イン・グローバルになっている。人材育成でも、そういったサプライチェーンの時代のノウハウが必要とされている。
  同様に、社会経済環境の変化は、日本の国内事情にも当てはまる。石井次郎・松田健著『中国・広東省でやる気向上~女子行員が大先生』(2004、重化学工業通信社刊)に見られるように、中国の従業員の人材教育だけでなく、すでに2000年頃には、日本の若者の人材育成の見直しが必要な状況に入っている。
  人材育成は、時間のかかる課題である。このため、企業戦略としても中長期的な企業戦略の下で、現地事情や国内労働市場動向をふまえた判断が必要となり、真の意味でのグローバル人材育成にあたっては、どこの国に進出してもたくましく生き抜いていける基礎的ノウハウと応用力が必要になると考えられる。

以上


(C)2013 Ryuichi Yoshimoto & Sakata Warehouse, Inc.

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