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ロジスティクス

第254号 2020年に向けての将来ビジョン(2012年10月16日発行)

執筆者 久保田 精一
(JILS総合研究所 副主任研究員)

 執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1971年熊本県生まれ。
    • 東京大学教養学部教養学科卒。
    • (財)日本システム開発研究所(シンクタンク)等を経て、現職。
    • 物流コストやロジスティクスの指標管理等、物流や地域開発等のテーマでの自主研究、委託研究、コンサルティング等を主に実施。

 

目次

  公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)では、過日、2020年に向けての将来ビジョン「ロジスティクスコンセプト2020」を策定し、公表した。本稿では、本「コンセプト」の策定の経緯や概要について解説する。なお、「コンセプト」はHPからもダウンロードできるので、ここでは、いま、将来ビジョンを策定する意義を含めて(若干の私見を交えながら)解説をさせて頂く。

1.策定の背景

  JILSは1992年6月に設立され、2012年6月に20周年の節目を迎えた。当会では、創立10周年であった2002年に、約10年後となる2010年を想定したロジスティクスの将来像を策定し公表しているが、以降10年を経過し、社会環境が大きく変化していることから、20周年事業の一環として、新たな将来ビジョンを策定するため「ロジスティクス総合調査」を実施することとした(調査委員会の委員長には、成城大学 社会イノベーション学部 教授 杉山武彦氏にご就任いただいた)。この調査の成果として、去る6月に「ロジスティクスコンセプト2020」を策定・発表したものである。

2.ロジスティクスを取り巻く状況の変遷

  ロジスティクスはその時代背景に応じて求められる役割が変遷してきた。「物流」に最初に注目が集まったのは1970年代であるが、当時は高度経済成長による物流量の増大への対応が求められると同時に、石油危機を契機に物価上昇への懸念が強まり、「大量の物量を如何にコストを掛けずに輸送するか」が求められた時代であった。その後、1980年代半ばからは、円高を背景に企業の海外進出が進展すると同時に、貿易の円滑化やグローバル物流の効率化に注目が集まった。また、輸出の増加の副次的影響として国内のサービス市場開放が必要となり、1990年代には、その一環として、物流分野における規制緩和が進んだ。そのような環境変化への対応を図るため、物流事業者等において物流オペレーションの効率化や経営効率化が進められ、物流コストの低下が進んだ。
  2000年代に入ると、ブロードバンドや携帯電話の普及を背景にIT化が進展し(図表-1)、ロジスティクスの分野でも、WMSやTMSの導入といったITの活用や、インターネット通販などの新たな物流への対応が重要なテーマとなった。2000年代の後半になると、中国やアセアンといった新興国の成長や、それを背景とした先進諸国の好況により、輸出入量が爆発的に増加するようになり(図表-2)、グローバル物流の拡大への対応が課題となった。一方で国内に目を転じると、我が国の人口は2004年12月をピークに減少に転じ、国内物流量の減少傾向が一層顕著になった。そしてそれに対応するかのように、物流業界でのM&Aが進展するといった動きが顕在化した。また、2005年には改正省エネ法が施行され、ロジスティクスの環境対応に改めて注目が集まった。
  2000年代後半から2010年前後に掛けては、リーマンショックを契機とした世界不況が到来し、日本の基幹産業である自動車・電機・機械といった製造業の輸出量が急減し、物流・ロジスティクス業界にも多大なダメージを与えた。そして世界不況からやっと回復の道筋が見えだした2011年、東日本大震災が発生し、物流拠点における被災、物流ネットワークの途絶といった多大な影響を生じたことは記憶に新しい。震災は、大規模災害時の事業継続の難しさを浮き彫りにすると同時に、被災地に対する物資の供給の重要性など、生活の基盤としてのロジスティクスの役割を再起錦させるきっかけともなった。
  このように、ロジスティクスは時代とともに求められる役割が変遷してきており、これからの人口減少・低成長の時代に合わせ、どのような発展を目指すべきかが、いま、課題となっている(図表-3)。

図表-1 インターネットの利用者数及び人口普及率の推移

資料:総務省「情報通信白書 平成23年版」

図表-2 輸出入額の推移

出典:日本物流団体連合会「数字で見る物流」
(注)財務省「貿易統計」及び日本銀行「金融経済統計月報」より作成。

図表-3 人口上位20か国の推移(1950,2010,2030,2050年)

*画像をClickすると拡大画像が見られます。
出所:世界の統計2011(総務省統計局)
資料:UN, World Population Prospects: The 2008 Revision

3.10年前の「将来ビジョン」

  前述の通り、10年前の2002年にも将来ビジョン策定のための調査「2002年ロジスティクス総合調査」を実施している。調査報告書は200ページ前後の膨大な内容であるが、報告書の特色となっているのは、「近未来のロジスティクスイメージ」と題し、将来予測を物語調で記載した章である。「近未来のロジスティクスイメージ」では、①ロジスティクスマネジメント、②グローバル化、③IT、④新技術、⑤環境・エネルギー、⑥人材・労働力、⑦物流政策、の7項目について、それぞれ5項目程度のテーマが設定されている。
  ここで記載された将来予測は、下記の例のように、10年後の今から見てかなり正確な予測であると思えるものも多い。
【例示】

出所:JILS「ロジスティクス総合調査報告書」2002年6月

4.予測と現実との比較

  10年前の予測は、上記のとおり基本的には正確であったと言えるが、あえて予測と現実との違いを述べると、次のような点が挙げられる。
①金融危機、震災などが発生
  前回の調査実施時期である2000年頃は、バブル崩壊(1990~92年頃)以降の長期不況から10年を経て、米国を中心とした世界的な好況を背景に国内景気が持ち直し、ニューエコノミー論が台頭するなど比較的楽観的な状況であったためか、予想は楽観的な記述が目立つ。しかし現実には、その後、リーマンショックを契機とした世界同時不況や、東日本大震災などの予想外の事象が起き、物流業界に大きな影響を及ぼした。
②対中国輸出の増大をはじめとしたグローバル化の予想を上回る進展
  グローバル化は当時から強く意識されていたものの、現実はそれを超えて進展した。特に中国の経済発展など新興国の台頭が、グローバル物流の重要性をかつてなく高めており、この点はここ10年間で最大の(予想外の)変化であるとも言える。
③環境規制強化と取り組みの強化
  当時実施したアンケートでは、「トラック輸送が船舶・鉄道等に代替される等、環境に配慮された輸送機関の組み合わせを行うマルチモーダルが普及している」という「将来仮説」に対し、否定的な回答が多数であった。しかしながら実際には、輸送分野を対象とする省エネ法の改正を受け、荷主等においてモーダルシフトへの取り組みが増加するなど、環境調和型環境分野での取り組みは、予想以上に進んでいると言える。

5.「ロジスティクスコンセプト2020」策定に当たって

  さて、今回、新たな将来ビジョン(コンセプト)を改訂した目的は、当会会員企業を中心とした産業界、社会に対して、将来におけるロジスティクスの「あるべき姿」を提示し、そのあるべき姿を実現するための取り組み指針、施策を示すことである。それによって、会員各社およびJILSとして必要な施策への取り組みを促し、あるべき姿に近づけることに多少とも貢献できれば、考えた。
  「あるべき姿」は、上述のような社会環境の変化を踏まえ、人口や物流量といったマクロ条件の将来変化を折り込んで、時代の変化に対応した記述を心がけた。またその際、本調査の一環として実施したアンケート調査で得られた、回答企業の現状認識・課題認識や、将来予想を可能な限り記述に反映した。

6.ロジスティクスコンセプト2020の解説

(1)全体構成
  「ロジスティクスコンセプト2020」の構成は、その前半で「あるべき姿」を記述し、後半で「あるべき姿」を実現するための「ロジスティクスの指針」を記述した。さらに、あるべき姿は総論としての「前文」と、各論(下図①~⑤)とに分けて記述した。
以下では、この「あるべき姿」の記述について解説する。なお、「あるべき姿」の全文はJILSホームページ(http://www.logistics.or.jp/propulsion/)に掲載している。

図表-4 「ロジスティクスコンセプト2020」の全体構成

(2)あるべき姿(前文・総論)の解説
  前文の冒頭では、ロジスティクスを巡る環境変化を整理した。

  「大量生産社会の終焉」といった、上記のような社会構造の変化を整理したうえで、このような変化を背景として、「モノを大量に運ぶこと=ロジスティクスの価値」といった従来の見方が転換し、これからは、コストやエネルギー消費など、「(ムダに)モノを移動させることによるマイナス面」がより顕在化してくることを予想した。この基本認識に立つと、「ロジスティクスを物流管理の延長で語る時代」からの転換することが、いま求められているといえるであろう。
  現実的にも、新興国の成長・工業化が進むにつれて国内の産業空洞化が進んでいることは否定しがたく、今後も物流量は減少を続ける可能性が高いであろう。そのような環境下で、ロジスティクスが発展を続けるため、情報通信等の新たな成長分野を取り込んだサービスを展開することが必要であることにも言及した。

  さらに、産業構造や社会構造が変化すると、ロジスティクスのあり方自体も当然変化を求められる。そこで、今後のロジスティクスの望ましい姿として、以下のようなキーワードを挙げた。

(3)あるべき姿(各論)の解説
  (2)で述べた「総論」に対し、具体的な論点を5点に整理し、「各論」として記述している。本項の全体はかなりのボリュームであるので、以下は大意のみを記載する。
①ロジスティクスの統合管理へ
  ロジスティクスとは、需要に応じて調達、生産、販売、物流や回収・廃棄等の活動を同期化させるためのマネジメントであると言えるが、理念的にはともかく、実態がなかなか伴っていないのが現実である。しかしながら、「統合管理」の実現がロジスティクスの最大の課題であることに、これからも変わりがない。
②企業や国家の壁を越える
  モノが企業や国境を越えて行き来する時代に、企業内の最適化だけで不十分であることは明らかである。サプライチェーンの効率化のための企業間の連携と同時に、国内と海外のシームレス化のため、国内のビジネスプロセスの改善などを進める必要がある。
③暮らしに安心と信頼を提供する
  産業構造の変革は、従来はどちらかと言えば「産業を支える機能」として認識されて来たロジスティクスを、より生活に密着した性格へ、即ち消費者起点のロジスティクスへと変化させている。そのため、これからは、BtoCといった複雑な物流を運用する技術が求められるほか、消費者の「安心・信頼」といった「社会的価値」がより重要になってくる。
④環境を将来世代に引き継ぐ
  ロジスティクスの環境に関わる側面も、引き続き重要である。これからは単に、物流に関わるエネルギー消費を減らすといった狭い視点だけでなく、工業社会における、動脈物流に重きを置いた生産者起点でのロジスティクスを、循環型ロジスティクスへと転換するといった、広い視点で取り組むことが重要である。
⑤人材の価値を高める
  ロジスティクスにおける「全体最適」という難しい方程式を解くカギは、「人材」であることは疑いがない。ロジスティクスにおける人材難が指摘されて久しいが、これからも、優れた人材が優れたロジスティクスへの近道であることには変わりないであろう。

7.最後に

以上、JILSが策定した「ロジスティクスコンセプト2020」について、策定の背景・主旨と概要を述べた。なお、「コンセプト」の全文はJILSホームページ(http://www.logistics.or.jp/propulsion/)からもダウンロードできるので、ご関心のある方は参照いただき、今後の各社の取り組みの参考としていただければ幸いである。
  なお、本稿の内容は、筆者の個人的見解であり、JILSとしての見解を述べたものではないことをご了承いただきたい。

以上


(C)2012 Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.

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