ロジスティクス・レビュー

第253号物流業界が本当に3PLを目指すなら超経営改革が必要に:ロジ・ビジネスにシフトアップする為の基本点検(物流企業編)(2012年10月5日発行)

執筆者 野口 英雄
ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表取締役
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入所
    • 1975年 同・本社物流部へ異動
    • 1985年 同・物流子会社へ出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックスへ出向(コールドライナー事業担当、取締役)
    • 1991年 日本物流大賞受賞:「高密度共配による配送効率の飛躍的向上」
    • 1994年 同・本社物流部へ復職、96年退職(専任部長)
    • 1996年 昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)、98年退職
    • 1999年 株式会社カサイ経営入社 ~パートナーコンサルタント
    • 2000年 有限会社エルエスオフィス設立
    • 2001年 群馬県立農林大学校非常勤講師
           日本ロジスティクスシステム協会講師
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    保有資格
    • 物流技術管理士(第26期)
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会正会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    主要著書・論文
    • 『低温物流とSCMがロジ・ビジネスの未来を拓く』
      ―鮮度管理システムで顧客サービス競争に勝つ
    • 『低温物流の先進企業事例』
      ―生鮮流通の業態・チャネル別戦略モデル
    • 『低温物流の実務マニュアル』
      ―経営戦略・マネジメントとの連動

目次

1.東日本大震災で頑張った物流業界

  迅速かつ機動的だった米軍の「トモダチ作戦」で空母の出動は良く知られているが、被災した仙台空港にパラシュート部隊が降下して修復に当たったことは余り報道されていない。災害復旧のまず第一は人命救助や食料・日用品・医薬品等の支援であり、陸路・海路が遮断されたとき、空路をいち早く確保した作戦は実に的確だった。大災害を戦争に例えれば、どこに救援の兵站線を築くのかはまさにロジスティクスであり、物資が届くか届かないは物流レベルの話である。
  我が物流業界も良く健闘した。貨物鉄道は逼迫した燃料を、上越線迂回で郡山や盛岡へ必死に輸送した。津波で携帯電話基地局が壊滅した中、GPSを使ったカーナビが走行可能道路の確認に有効だった。これは阪神淡路大震災時の、携帯電話が役に立つという経験を覆した。直後、原発避難区域内への輸送を躊躇したというのは、無防備の状況では酷というものだろう。
  もちろん自衛隊も活躍したが、ロジスティクスでは情報収集と統制が基本であり、その最高指揮官は総理大臣のはずである。政治家や官僚にこれがどこまで理解され、それぞれの行動や責任にどう繋がったのかは不明である。物流という概念は多少持っているとしても、ロジスティクスという省庁横断の概念は未だ不充分と言わざるを得ないだろう。

2.物流業界が苦戦する理由と背景

  震災直後の特別措置として被災地域の高速道路無料化が実施されたが、これを悪用する事業者が続発したというのはこの業界の現状を図らずも露呈した。輸送事業において高速道路通行コストが膨大であり、これが荷主から殆ど収受出来ていないことは認識する。しかしそれなら現政権が政策に掲げた暫定税率廃止・高速道路無料化に、業界として何故反応しなかったのか。以前から事業推進上で死活問題のはずだった。
  収受料金は旧タリフ昭和50年代後半~60年代前半程度水準が未だに罷り通っていて、規制緩和がコスト競争だけで真の品質向上に繋がっていない。一方流通末端では商品通過金額の%という歩率契約が主流になっている。そもそも物流機能は距離・重量・時間等の物理的要素でコストが形成され、商品価額に由来する要素は殆どない。しかも倉庫~輸送を含めた一気通貫設定で、デフレ状況下では誠に不利な契約方式だ。国交省に届け出る事業者の原価計算は、国が定めた範囲とかたちであればそれを省略出来ることになっているが、この歩率というかたちは不可ということになっている。もちろんワンストップサービスとしての原価という考えもない。
  現行実勢の収受料金レベルで、物流企業としての事業再生産コストが賄い切れないのは明らかだ。安全・環境対応等のコストは相対的な競争の中で、認められていないと言ってもいいだろう。稼働日・稼働時間を拡大する為に表面的なコストだけではなく、労働基準法遵守を前提にした付加要員が必要になるが、これも認められるような状況ではない。高いサービスレベルを確保するために、発生しがちになるリスク費用についても同様だ。これらが経済競争の中で粉々になってしまっている。

(物流業界の苦境)
自責的要因:パッシブ体質、競争飽和状態、社会的地位が低い、マーケットイン意識が
       弱い、産業としての革新性が低い
社会的要因:料金実勢レベルが低い、インフラコストが高い、原価構成が認知されてい
       ない、不公正な商習慣等が是正されていない

3.ロジスティクス・レベルの事業展開:3PLではリスクが大きくなる

  物流業界は3PLが魔法の杖だと思っているのではないか。それは元々米国において既存のトラック業界に対して、貿易に立脚したフォワーダー業界が対抗上編み出したものと言われている。その前提はノンアセット型であり、グローバル視点である。我国ではシステム化した共同配送や、荷主の丸投げを受託する事を3PLと言ったりしている。
  物流とは機能の話であり、その外注化を受託するのは従来から盛んに行われてきた。ロジスティクスでは物流も重要だが、これとは次元の異なる情報を駆使した「計画と統制」、とりわけ需給・在庫管理がコアになる。これは本来荷主の専権業務であるが、今やアウトソーシングする流れとなっている。これを含めて代行するのが3PLであり、情報とは例えば需要予測であり、在庫のリアルタイム把握である。需要予測を荷主がやらずに外部に委託する、在庫確認にしても広域に散在しそのステータスも多岐にわたる。しかしこのレベルに事業をシフトしていかなければ、顧客ニーズに応えることは出来ない。物流機能提供だけではプロダクトアウトになりかねない。
  このようにリスクの大きくなる仕事を受託するには、それなりの条件整備が必要になる。まず業務の責任所在である。例えば欠品した場合、委託側責任か受託側なのか。そしてそのペナルティーは納価か、売価なのか。それによって業務採算は大きく変わってくる。歩率契約の前提条件が、一定範囲内でしか変化しないというのが包括契約だが、そんなことは有り得ない。変化に対応するのが末端流通の目的である。爪の火を灯すようなコスト改善を行い、下手をするとそんな努力が吹き飛んでしまうというのが実状ではないか。

(作業外注からアウトソーシングへ)
2PL:作業外注の受託、荷主自社機能を外部の専門事業者に委託する、コスト変動費
    化・リスク分散を狙う
3PL:荷主ロジスティクスのアウトソーシングを受託する、本来コア業務を荷主が行
    いそれ以外を受託する、財務オフバランス化という経営戦略に基づく

4.業務稼働率と密度を上げ、リスクを最小化する:事業構造改革

  物流業界の圧倒的多数を占める中小事業者が、コンポーネント(機能)・サービスに徹するというならそれで仕方ない。しかしそれではコストだけの競争になる。この状態を脱却したいなら、規模のメリット追求や大幅な経営改革を進めて、顧客支援システムを組立て対等に戦うしかない。ライバルは顧客システムということになる。その為には情報システム基盤と運用力が問われることは言うまでもなく、これが顧客支援機能の目玉になる。
  まずは365日・24時間体制を確立し、設備稼働率を上げる必要がある。単位時間当たりの固定費を下げ、出来るだけ変動費化させる。そして業務集積度を上げる。つまり高密度な共同配送の推進である。最近の傾向として消費財であれば、食品・日雑・医薬等の複合チャネル化への対応であり、場合によっては複数温度帯一括物流システムを構築する。もちろんそれには従来の単一業態・荷主への営業開拓だけでは無理で、幅広いアプローチが必要となり、これは物流業としてのマーケティングということになる。コスト構造を変動費化させる為に、物流業界としてもアウトソーシングは重要で、これは従来のような元請け・下請けの関係ではなく機能分担である。
  広域かつ高機能のシステムを自社単独で構築するには自ずと限界があり、アライアンスやコラボレーションに再度挑戦すべきである。そうしなければ多くなる事業リスクをヘッジすることは出来ない。これは従来からも試みられてきているが、成功している事例は少ない。エリアや機能の分担に確たる利益配分のルールを作りにくい為だが、これだけITが進化してきたので出来ないはずがない。

5.業務改革でマネジメント力を磨く:経営実務力向上

  サプライチェーン・マネジメント(SCM)では、原材料調達~製造~流通~回収・廃棄に至る一貫した管理が必要になり、各領域の業務を受託する物流事業者の責任は重大である。基本的には消費者に向けた安全安心の担保やセキュリティーの確保、具体的には業務品質管理ということになる。とりわけ東日本大震災でも明らかになった危機管理が必須となる。危機管理とは異常事態が発生した時の迅速修復だが、それは日常業務におけるリスク対策が行われていなければ充分に機能しない。
  日常業務におけるリスク対策とは、予め想定されるリスクに対し事前に手を打っておくということだが、QC活動そのものである。それはQCサークル等の小集団活動だけではなく、トップダウンとしての活動の両面が必要になる。そうしなければ時間ばかりが掛かってしまう。この2つの側面を組み合わせたマネジメントが業務改革である。物流業界はややもすればパッシブ体質と言われるが、これを打破して自律的な工程管理を行う産業にならなければ、リスク対策にもならず顧客の信頼も得られない。
  QCを行うことについて、改善の手掛かりになる日常の不具合データが取れない・活動時間が取れない・管理者のリーダーシップが取れないという、いわゆる3ない状態を脱却出来なければ業務改革等は絵に描いた餅になる。5S活動等も単なるスローガンではなく、上位目的に繋がっているかどうかを見直した方がいい。

(QC活動の2つの側面)
維持的側面:目標値を決めてそれを維持する活動、QCサークル・5S等の小集団活動
      によるボトムアップ、手掛かりデータを取ることは一人でも出来る、IT
      を使うことで簡単になった
打破的側面:現状を打破する、仕事の仕組みを変える、プロジェクトチームを組んで
      トップダウンで行う、期限を決めて行う

6.荷主との交渉力を高める:コンペへの対応

  荷主は3PLに業務委託する場合、提案書を横並びさせてコストの低い方を選択すればいいという、事業者にとっては誠に残酷なことになる。もちろんあらゆる産業において競争は熾烈であり、原価が保証されるということもない。荷主側の評価としてはコストもさることながら、実務遂行能力や情報システム力が重要要素になる。その基盤は前述した業務改革や、業務標準化に他ならない。
  顧客志向の業務提案をするには、まずどのようなマーケティングを展開しているかを良く見ることである。顧客業務においてはマーケティングとロジスティクスが密接な関係を持っていて、後者は分かったとしても前者が白紙状態では目的を外すことになる。さらにその最終顧客へのリテイルサポートをどのように組み立てているかも重要だ。マーケティングだけではなく、ロジスティクスにおいてもそれを支援することは出来る。例えば店内作業省力化に繋がる納品方法、店内で発生するゴミの抑制・回収等である。もちろんこれらは無料サービスということではない。
  ロジスティクス・ビジネスとしては、当然採算が確保出来る業務設計をしなければならない。前提が歩率契約であれば尚更である。収受料金が変動的であれば、支払い料金も変動的にならざるを得ない。これがアウトソーシングの関係である。収受料金も契約条件がある範囲を越えたら、変更出来るような条項も必要になる。スタート後一定期間の暫定処置や、契約期間の短縮化が出来れば幸だが、当然これらもコンペの競争条件になる。

(業務提案書作成の重要要素)
対顧客への要素:魅力的な業務品質、顧客のマーケティング・リテイルサポート支援、
        共同化による料金提案、専用システムの設計も
自社の採算確保:包括的歩率契約におけるコスト設計、条件変化への対応、アウトソー
        シング、システム活用(業務標準化のレベルを上げる)

7.物流業界のステータスを上げる

  東日本大震災の時、メディアでは物流・ハブ&スポーク・ロジスティクス・サプライチェーン等の用語が飛び交った。物流やロジスティクスのことを社会的に認知してもらう機会にはなったが、果たしてどこまでその意味するものが正確に理解されていただろうか。現場に飛び込んで直接触れたキャスターもいたが、ただコメントするだけの人もいた。これらは全てフィールドワークであり、現場を知らない人には中々実感出来ないはずだ。
  国交省は物流インフラと物流業界を支援する役所であり、経産省は荷主の企業活動の支援という厳然とした縦割り行政があって、省庁横断のロジスティクス施策というと中々難しい。農水省にしてもロジスティクスは重要である。そしてその推進を阻む商習慣の是正等は公取委ということになる。このような実態に対し、物流業界団体は何故もっと行動を起こさないのか。単なる上位下達機関であるなら、何ら改革には繋がらない。マーケットが縮小する中で細かな業態別に分かれているのもどうか、もっと連携を強化すべきだ。
  大手物流事業者の最新経営戦略を取り上げたあるTV番組を見たが、その内容は殆どが物流レベルの話であった。ロジスティクスはリスクが大きく、ことほどさように簡単ではないということだろうか。もちろん業界リーダーとしてより高いレベルを目指すべきとは言わないが、もっとこの業界のステータスを上げていかないと、汗水流した成果かが得られないと思うからだ。そして物流業界は社会のライフラインを支える責任を負っている。

以上


(C)2012 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.


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