ロジスティクス・レビュー

第250号『ロジスティクスと危機管理』~BCP策定のポイント~(後編)(2012年8月21日発行)

執筆者 長谷川 雅行
株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

中編(2012年8月9日発行 第249号)より
*サカタグループ2011年11月16日「第18回ワークショップ/セミナー」の講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回は3回に分けて掲載いたします。

目次

6.BCP策定のポイント

 今回お話した各企業のBCP策定のポイントですが、現況を把握した上で、順番としてはこのようになるのではないかと思います。
 まず最初は、従業員、それから物流センター、トラックターミナルにその時間に来ている他社のドライバーさん、あるいは、流通センターの中で働いている下請け会社のパートさん、という方々が自分の会社に大勢います。その方々をどう避難させるのか、避難なのか待機なのかこの辺の見極めも難しくなります。
 というのは、今回の東日本大震災で、幕張エリアもかなり揺れ、かつ長時間揺れました。その時にあるビルのオーナー企業が、「うちのビルは安全ですから中で待機してください」と館内放送で言ったのですが、ある会社では「どうもこれはおかしい。天井がガタガタいって危ない」ということで、その会社だけは「外に出ろ」という指示を出したところ、あとから天井が落ちたということを聞きましたから、その辺の見極めは非常に難しいのです。
 首都直下型地震の時は、今回の震災をうけて、安全上帰宅せずに待機することが鉄則になります。ですから、待機の場所をどうするのかですね。
 それから2番目に発災報告、これは本社でなく事業所ですと、まず本社への第一報で、「こういうことがおきました」、「地震が起きました」、「火災が起きました」、あるいは「近くの石油化学品工場で爆発がおきました」ということをまず連絡して、「安否確認、被災状況については後ほどご報告します」、これが第一報です。
 それから安否確認を行う、安否確認の方法については後ほどお話します。
 次に被害把握ですね。建物や社屋の被害把握、安否確認では「今社内に20人いますが、そのうち外出している3人を除いて、17名については安否が確認とれました」あるいは「車両については何台建物に押しつぶされてつぶれています」とか、「10台中2台は損壊していますが、8台いきています」。そういった被害把握を社内報告の第2報で行うのです。
 そこで今度は従業員全員を集めて、「業務に復帰できるものは復帰の準備をしなさい」と連絡し、それからお客さんや、業者さん、行政、業界団体などへ連絡をとってから業務復旧がはじめてできるということ事です。
 ですから、この「6.BCP策定のポイント」の①から⑥ぐらいまでが初動となります。
 そこから⑦から⑧の段階へいくことにより、だんだん復旧に入っていく。それらについて、だれが、いつ、どこで、当然これについてはあらかじめですが、実行組織としての災害対策本部と役割分担をつくっておく必要があります。

 災害対策本部を設置した時、トップは社長ですが、まず総務・経理対策が必要です。これは安否確認だとか、それから被災した従業員家族への支援です。あるいは情報の問題とか、あるいはこれが一番大事なんですが、お金が必要となります。被災すると、従業員、家族への生活支援、やはり現金を渡さなくてはならない、それからお客さんのところのお見舞いに行くにしても何か持っていかなくてはならない、となればお金がいるわけです。どんどんお金が出て行くわけです。特にトラック運送業者だといつも行くところでないスタンドへ燃料を入れにいくと「現金払いですよ」といわれると、やはりお金がすぐに必要となります。
 一方で荷主さんが被害をうけていると、掛け貸しや、売掛金が滞るからそういう面ではお金をどのくらい用意して、お客さん対策や現場では輸送や保管をどうやって元のレベルまでもどすかという対策が必要です。
 それと実際に現場のキーマンが被災してしまった、いなくなったというときの代行順位が必要です。キーマンがいなかったら何も動かないというのではなくて、その時は「誰が替わりにやるの」ということも決めておくわけです。
 このようなこれまで述べたことを文章化したものがBCPとなるのです。

ポイント1 防災対策 (事前の予防・被害緩和(減災)対策)

 これから防災対策とそのポイントについていくつかご説明しますが、まず、防災対策です。「事前にこういうことやっておきなさいよ」ということです。
 まず1番目にやることは、地方自治体が公開しているハザードマップ、「あなたの居るところはこういう危険がありますよ」と出しています、これについて各事業所が危険度を把握することです。
 岐阜県南部の水害の時には、自動車メーカー、部品メーカーさんの運送を請け負っている会社が、鉄砲水の被害にあい、車庫の10t車が流されたということがありましたから、やはりそういった危険度を把握しておく、そして、耐震だとか、浸水だとか、荷崩れ防止、(シュリンクとか、バンド)等の防災対策を実施して置く必要があります。
 それから5S、特に構内・事務所の整理整頓が必要です。現場へいくと忙しいのかどうかわかりませんが、消火器の前に空パレットが積み上げてあり、もし火災が起きたら、その消火器が使えないという時があります。
 それから今言った消火器とか、救急用品、避難、救難機材ですね。
 備蓄として、最低3日分、従来は「外からの救援がこない」ということで、「各家庭で3日分備蓄しなさい」とのことでしたが、先ほどお話したように、首都圏直下型地震ですと、帰宅困難者に対して、帰宅抑制がかかります。そうすると、「各企業でもそれくらいの期間分を備蓄しなさい」ということです。
 たまたま3月11日震災の時、私も帰れなかったのですが、日本通運は災害対策基本法の指定公共機関になっており、防災備蓄が義務付けられていたので、カップめんやおにぎりが支給されました。
 また、通信手段の多重化やデータのバックアップが必要です。データのバックアップというのは、物流企業の場合いろいろなデータを取り扱っています。例えば個人情報、従業員に関する情報、健康保険証の番号だとか、社会保険、荷主さんから預かっている在庫・運送に関する情報などがあります。車については、許認可の台帳ですね、これは運輸支局にもありますが、企業でもバックアップをとっておく、あるいは自賠責の保険証の写し、車検証の写し、これは車に積んでありますが、車が流されてしまうと無くなってしまいますので、コピーをとっておくということが必要です。
 こういったことを、内閣府「事業継続ガイドライン」ではバイタルレコードと言います。バイタルというのは生き残り、レコードは記録です。そういうものをどこかに取っておくということです。
 次にいざという時、事務所や車両、倉庫に被害を受けた場合、物流をどこでやるのかという対策が必要です。この辺を、自社の他の営業所で行うのかあるいは関係会社、荷主さんの場所を借りてやるのか、こういうこともあらかじめ考えておかなければならないということです。

ポイント2 発災後の措置

(1)安否確認

 それから2番目に安否確認ですね。

安否確認カードの例

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

 これが私なりに考えた安否確認カードです。特に出先にいる運転手さんの安否確認がなかなか取れないと思うんですが、こういったカードを普段から持たせることにより、人間いざとなるとあわてますから、発災時に安否確認カードの内容にしたがって行動することで確認できるということです。
 先ほどの171の災害伝言ダイヤル、一応その掛け方もこれに載せてあります。
 このカードには著作権がありますので、みなさんの会社でも工夫して従業員に持たせることが必要かもしれません。

(2)従業員の招集

 発災後の措置については、従業員を集める、通信手段を確保する、それから会社にキーマンを泊まらせる、そうするためには、会社のどこかにスペースを確保し、3月11日は私もオフィスでコートを掛けて寝ましたが、やはり長丁場になるときは、宿泊体制、あるいは先ほど言ったトイレの問題、3日で簡易トイレはだめになりますから、トイレ・食べ物・寝具などを整備する必要があります。
 先ほど代替拠点といいましたが、それをいつから運用を開始するか、それから出口戦略、出口戦略というのは、どういう形で復旧・終結させていくかということです。
 1番目の方法は、被災した営業所、事業所に応援をいれて、どんどん稼働率をあげていくということが一つの方法です。
 2番目は、もう被災した拠点は使えないということで、隣の営業所、あるいは近くの営業所に機能を移してそこに応援をかけてやっていくことです。このデメリットは、受け入れた営業所の仕事が急に増えますから、従業員はみんな疲れてしまいます。そこのところをどうするのかという課題が残ります。
 大手の量販店さんでは、仙台のセンターが稼働できなくなって、関東のセンターから送ることになり、その時にそこの物流事業者さんでは東京の本社からもみんな応援を出して、徹夜で業務を行ったと言っていましたが、そういった対策が必要ということです。
 3番目には、普段から仲良くしている業者さんに協力を依頼し、あるいは荷主さんの場所を借りて業務を再開することなどです。
 4番目は、この辺はBCPではあまり書かれていませんが、早く見極めて、撤退あるいは言い方が良くないかも知れませんが、廃業、これも一つの出口戦略です。
 とことんやってみて、銀行からも復興資金借りてやってきたが、結局だめだったって事では、会社も従業員にとっても最大の悲劇となりますから、どこまでやるかということを見極めながらやるということも必要かと思います。まだ傷が浅いうちに決断することも必要ということです。

(3)関係先との対応

 発災後の関係先との対応です。荷主さんも被災してしまうと、当面物流業者は仕事が無くなるわけです。その時に市町村等の仕事、緊急支援物資の仕事を請けようということも一つの方法です。市町村等へ、「手伝うことありませんか」、と連絡し仕事を得るということです。
 当然、トラック協会などの業界団体は、指定地方公共機関として会員であるトラック業者さんが緊急支援物資の輸送を行うようになっています。
 それから荷主さんのところへ応援をだすとか、関係先、よくお付き合いしている業者さんが、被災すればそちらへ応援にいきますが、それ以外に救援の受け入れというのがあるのです。
 自分のところは被害を受けていない、そこに倉庫が残っている、センターが残っていると、「○○運送さん、お宅のセンターを物資の受け入れ拠点にしてください、なんとかお願いします」という救援要請が出てくるので、そういうことも対応しなくてはならないのです。
 その時は先ほど救援のところで述べたように、在庫管理から配送管理まですべてを実施するのです。もちろん仕事で行うわけですから対価はあるのですが、そういったことが必要になるのです。

(4)地域との連携

 地域との連携、これは時々あるのですが、自分の会社のことだけを考えていると、企業にとってマイナスイメージとなります。
 実は、中越沖地震の時に部品メーカー「リケン」さんという自動車エンジンのピストンリング製造会社の工場が被災して、取引先である自動車メーカーの生産システムの一番元のネックだったので、トヨタさん、日産さんなど自動車メーカーが、全部で数百人規模の応援をだして早期復旧を実現したのです。
 それはそれでよかったんですが、その時に、後からリケンさんが反省したのは、柏崎のような地方都市に数百人の人がくる、来てもらってありがたいのですが、この人たちも食料品や日用品を買うと、地域の商店から食料品や日用品が消えてしまうということで、地域住民から「リケンさんは自分の会社さえ復興すればいいのか」ということを言われたということです。
 「これはやっぱりまずい、今後は地域のことも考えたい」ということをリケンさんはおっしゃっています。
 同じようなことが、トラック業者さんですと、お客さんからいろいろ言われて、車を走らせる、まだ片付かない被災地の混んでるところを走らせるとやっぱり「あの会社はなんだ」ということになるとまずいということです。
 先ほど述べた地域への施設提供だとか、地域活動への参加、9月29日に東京で大々的な防災訓練がありましたが、こういったイベントに、積極的に参加していくということも必要だと思います。

ポイント3 復旧対策

(1)燃料確保

 それから燃料確保、これはロジスティクス・レビュー(物流業から見た「災害とロジスティクス」 http://www.sakata.co.jp/jp/logistics-222/)に書きましたが、トラック運送業は車両、運転手、燃料があればなんとかなるのです。倉庫業ではフォークリフト、施設と作業者が必要です。いずれにしても、災害時にフォークリフトやトラックを動かす燃料や電気の確保が必要です。
 燃料の確保では、インタンク、自社で自家用の燃料タンクを持っていること、ただしこれは市町村に危険物の保管場所の設置申請が必要ですし、危険物取扱主任者も必要であり、また年一回の設備点検も必要となります。それにインタンクができても、停電するとポンプが吸い上げませんので、手動ポンプも準備しておく必要があります。
 電気の確保では、自家発電機、市販のガソリン発電機があります。ガソリン発電機は災害時ガソリンが確保できない可能性があるため、軽油を使ったトラックから電気をとる方法もあります。この場合インバーターにより電気を交流に変換します。定格出力が280ワット時、400ワット時などがありますから、しっかりしたインバーターを買うと、パソコンや簡単な照明くらいの電源はとれます。
 次に通勤手段の確保ですが、マイカーへの相乗りもいいですが、ガソリンが確保できなかったら、軽油で動く、ディーゼルエンジンのマイクロバスという手段もあります。ただし、インフルエンザや風邪が流行っている季節には、新型インフルエンザなんかですと、逆に、ここで一緒になることによって感染機会がふえますので、そのときは臨機応変に通勤手段を確保する必要があります。

(2)資金対策

 最後にお金の問題のお話をします。実際こちらのスライドに記載されているような、こんなことがあるのです。即座にキャッシュが必要になるのです。
 これは理想ですが、2、3ヶ月の手元資金、これがあれば苦労がないということでしょうが、少なくとも1ヶ月分位はないと当面はしのげないのではないかと思います。先ほど言いましたように請求書類やデータについても普段からコピーをとっておくことが必要です。
 資金対策としていざとなったらトラック協会や倉庫協会に相談すると、協会はそういった時の支援策を十分知っていますから、「こういった場合資金を借りられます」あるいは「こういう無利子の融資がありますよ」、ということも教えてくれますので、災害時は相談されてはいかがかと思います。

(3)物流サービス提供の優先順位(案)

 復旧対策時の荷主さんへの物流サービス提供の優先順位についてお話をします。
 一社単独、つまり荷主さん一社専属で業務を行っている企業は仕方ないですが、そうでない場合は、例えば、トラックを10台持っていて半分被災してしまった、それを3日間にどのような優先順位で復旧させるのか、などということがあります。
 これは考え方ですが、一つは売上高の順番に復旧していく方法です。ただ売上高優先でいきますと、先ほど言いましたように、燃料の現金払いが必要とか、いろんな事でコストが上昇します。また復旧に向けた長時間労働でコストが上昇しますから、安い運賃で売上高が高い荷主さんの場合は、収支を締めてみたら利益が残らないことがあります。
 利益貢献度重視でいくと、今度は売上高は大きいが利益率の低いところは切られますから、業務が復旧した時に、早い段階で対応しなかったことについて、切られた荷主にあとからそっぽを向かれることになりかねません。
 そういうときはCSRを重視する。自治体とか業界団体の要請に従うことを優先することです。あるいは地域の荷主を重視し、「地域に恩返しする」とか、「先代からお世話になっていますから」と古くからのお客さんを重視したことを、他の荷主さんに対して手が回らなかったことに対する言い訳としてうまく使ってやっていくことも一つの手かと思います。
 荷主さん自身も被災している場合、「3.CSRを重視する」に記載しているように、当分自治体の支援物資、復興物資を輸送して事業を継続していくというのも一つの手段かと思います。

ポイント4 平時から準備

 最後に、平時から準備することについてお話しをします。
 平時、いつもやっていないことは急には出来ません。会社の前を流れる川が溢れたらどうするのか、裏山が崩れたらどうするのか、高速道路が止まったらどうするのか、感染症や食中毒が発生したらどうするのか等の「想定外」を「想定」するリスクマネジメントが必要なのです。
 例えば今年の夏に、横浜市内の宅配便業者さんが、社員食堂をやっている業者が食中毒を起こして、社員の方が何人か食中毒にかかりました。こういうことも起こりますので、そういうことを常に経営者や運行管理者、衛生管理者は想定し、対策をシュミレーションしながら、それをBCPに書き加えていく、それを身につくまで繰り返す、これが平時から準備する最良の方法ではないかと思います。

BCP策定の参考資料

 最後に、このようなBCP策定の参考資料がありまして、特に、>4.NPO法人事業継続推進機構・東京商工会議所「東京版<中小企業BCPステップアップガイド>」が参考になります。
 こちらには具体的にBCPの雛形まで記載してありますので、今私がこれまでお話したような物流業に即した中身なので、各社の実態に合わせて読み砕いていただいて、皆様方ご自身でBCPを作られれば良いのではないかと思います。
 時間になりましたのでここで終了したいと思います。
 長時間ご清聴いただきありがとうございました。

以上



(C)2012 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.


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