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物流品質

第245号作業効率の良い在庫配置(2012年6月7日発行)

執筆者 平野 太三
(有限会社SANTA物流コンサルティング 代表取締役社長)
-物流改革コンサルタント Dr.SANTA-

 執筆者略歴 ▼
  • 主な経歴
    • 昭和61年 甲南大学法学部卒業
    • 同年 ユーザックシステム株式会社入社
      物流担当システム営業として100社を超える物流現場分析に携わる。
    • 平成12年 Dr.SANTAのネーミングで物流コンサルティング(物流コスト削減、物流指標の作成、物流サービス向上、物流プロジェクトの運営)を開始。
    • 平成15年にユーザックシステム株式会社を退社後、有限会社SANTA物流コンサルティングを創業。
    • 講演回数年間50回。(講演受講者数10000人突破)
    所属団体
    • 日本物流学会正会員
    主な論文、著作
    • 「3ヶ月で効果が見え始める物流改善【現状把握編】」(㈱プロスパー企画)等
    • 包装タイムス、物流ニッポン、マテリアルフロー等で「Dr.SANTAの物流講座」の連載を行う。

 

目次

1.在庫配置のコンセプト

  今回のテーマは作業効率である。作業効率と在庫配置は非常に関係が深い。企業は毎年在庫削減をテーマに掲げてきたが、「アイテム数の縮小」と「在庫金額の削減」が効果的に実現している企業は極めて少ない。在庫が圧縮できなければ、過剰在庫やデッドストックも多く発生し、外部倉庫を極力使わない工夫が必要になる。そして、物流センター内に可能な限り在庫を詰め込む企業が多い。その結果、本来であれば作業エリア(検品、流通加工等)を充分に取らなければならないのに、在庫の置き場所が無いため作業エリアを圧迫してしまう。また、通路や階段にも在庫を置くため、商品の取り出しや移動がスムーズにいかない物流センターも多い。原則論としては「在庫圧縮」から検討に入らなければならないが、今回は現在庫をどの様に配置すれば「高倉庫効率、高作業効率」が実現できるかを論じてみたい。まず、在庫を層別化するところから始める。図1をご覧頂きたい。

図1 在庫配置コンセプト

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

在庫を「①保管効率優先の在庫」「②作業効率優先の在庫」「③保管効率と作業効率のバランスが必要な在庫」に分別する。「保管効率優先の在庫」は、通常の業務では荷動きが非常に少ないアイテムが該当する。例えば、過剰在庫の商品で現在の出荷状況であれば在庫が1年分あったとしよう。この商品を3カ月分と9カ月分に分割する。9カ月分の在庫は約2~3カ月は荷動きがほぼ無いと予想されるため、作業効率を考えずに通路幅をほとんど取らない高積み(パレット4段積み)の在庫配置ができる。この分割基準の3カ月はあくまでも目安(図1では6カ月)であり、1~6カ月の間でシミュレーションをしたら良い。デッドストックも同様に、一部はピッキングエリアに在庫を残し、残りの在庫は保管効率を優先した在庫配置にする。ケース分割(1ケースで1年分の在庫になる出荷極少商品は棚とストックエリアに分割)も考慮して欲しい。
この様な在庫配置ができれば、該当商品の坪数が1/2~1/3に削減することができる。但し、倉庫の高さが5.5m以上あり、パレット4段積みが可能な場合であるため、皆様の物流センターの状況に応じて再計算して欲しい。また、この手順で在庫を分割した場合、「過剰在庫とデッドストックの見える化」の効果もある。経営者、営業、発注担当が物流センターに来た時に、悪い在庫(デッドストック、過剰分在庫)が一目で把握できれる様になり在庫削減に対する意識がより強くなる。デッドストック、過剰在庫が認識できる様な札をつけてれば更に効果的である。仮にこの悪い在庫が200坪分のスペースを占めていた場合は、過剰分月間保管料=坪単価5000円(場所により勿論相場は変わる)×200坪=100万円。在庫削減により、年間1200万円の保管費が削減できる可能性があることがわかる。これは大きな動機付けになると思う。
次に「作業効率が優先の在庫配置」を考えよう。これは「出荷頻度が多い商品」「出荷物量が多い商品」をどの様に在庫配置をするかがポイントになる。ひとつ目の視点は、物流動線の短縮である。ある会社で1アイテム当りのピッキング時間を1秒縮めることができれば年間100万円削減できることがあった。個人によっても変わると思うが1秒で2歩程度移動するため「2歩削減」あるいは「1秒削減」の方法を考えるれば良い。「出荷頻度が多い商品」「出荷物量が多い商品」は1日当りの出荷量が多いため、在庫保有日数(=今の出荷状況で何日分の在庫になるか)を多く取るとストックエリアからの補充は少なくなるが、在庫スペースも広くなる。在庫スペースが広くなればピッキング時間も長くなる。
ひとつの仮説として、在庫を3日程度に圧縮して補充を毎日する方法も考える。万一出荷量が1日当り3日を超えた場合は、1日に数回補充することになる。この考え方は補充時間が増加するが、ピッキング時間が減少する。一般的には売れ筋商品は補充は1回、出荷は何十回発生するため、補充時間の増加よりも出荷時間の短縮の方に効果がある。何故ならば、在庫スペースの縮小ができれば、全アイテムの動線の縮小につながるからである。最初は3日から始めて、在庫保有日数を4日、5日・・・と増やしていった場合に、全体の作業時間(入荷棚入れ、ピッキング、補充等)がどの程度変わるかを検討して欲しい。きっと妥協点がみつかるはずである。
最後に「保管効率と作業効率のバランスが必要な在庫」の在庫配置であるが、前述した同様の手順で在庫保有日数から坪面積を算出し、一番自社にふさわしいレイアウトを考えて欲しい。仮にフロアが分割されている物流センターであれば、いかにして分割フロアを少なくするかがポイントである。よくあるパターンとして、4フロアの物流センターであった場合、在庫配置を見直すことで、2フロアで90~95%のピッキングが完了する事例も多い。在庫保有日数が1日変わるだけでエレベータ移動の時間も増減するため高度な分析が必要になる。

2.現状の物流作業の問題点の整理

  在庫配置を見直すのであれば、現状の物流作業の問題点を羅列し、その原因も解消しないと折角の効果が減少する。物流作業の問題点をあぶり出す視点としては、5つの無駄(「待つ無駄」「考える無駄」「移動する無駄」「探す無駄」「取る無駄」)が無いかどうかを考えて欲しい。1秒でも無駄という感覚があれば、無駄は数十個は見つかるものである。在庫配置に関連するそれぞれいくつかの例を紹介したい。
「待つ無駄」とは、ピッキングリスト出力待ち、ピッキング時棚欠品の補充待ち、がある。在庫配置に関連するものは、通路が狭いためにピッカーがすれ違いができずに待ちが発生、売れ筋品にピッキングが集中してのピッキング待ちがある。
「移動する無駄」とは、伝票の出力順にピッキングをすると行ったり来たりするロスが発生する。(図2)

図2 動線を短くするレイアウト

 また、壁側が袋小路になっており裏側の商品を迂回しなければならない。
「取る無駄」とは、高い場所に商品が置いてあり台を持って来ないと取れない。
これも倉庫スペースを優先するか、作業効率を優先するかである。それぞれを比較して検討をしてもらいたい。

3.物流データの分析

  在庫配置時に考慮しなければならない事がいくつもあることがわかったが、在庫を置く順番は人間の勘ではどうしようもない。良くでる商品と言っても、同じ数量でも、1000個を1回で出荷する場合と20個を50回出荷する場合とでは大きく違うのである。また、10000個でも1ケースの商品もあれば、50ケースの商品もある。それを正確に分析するにはデータ化が必要になる。
コンピュータを使わない簡易分析をする方法としては、倉庫レイアウトを作成し、納品書をめくりながら倉庫レイアウトに「商品のあるエリアに正の字で記入」していき現在の在庫配置が悪いのかを判断する方法も考えられるが、人海戦術になるため長続きしない。何故なら、在庫配置は3カ月毎に見直さないと次第に作業効率が落ちてくるからである。
3カ月毎に見直しをしても、在庫配置を変えるのはせいぜいアイテム数の10%程度であるためご安心頂きたい。私がお薦めするのは、コンピュータで月間入出荷在庫データを抽出し、科学的に分析する方法である。

図3 出荷データ分析

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

図3は出荷件数(商品別月間ピッキング回数)の順位表であり、上位の何アイテムで出荷上位の何%を占めているかをみる。仮に在庫1000中で上位100アイテムで出荷件数の70%を占めるのであれば、100アイテムの在庫配置の方法を考えるだけで大きな効果が変わってくる。これに出荷容積の要素を加えるとまた変わってくる。
よく行う方法としては、1パレットに商品を置いた場合の入り数を商品マスタに登録し、在庫容積や1カ月当りの出荷容積をパレット数で計算をすれば、在庫配置が決まる。在庫保有日数でシミュレーションをして、必要坪数を算出することも可能になる。棚の在庫スペースもパレット換算して算出することも考えて欲しい。
この手順を実行するには勿論プログラムの作成が必要になる。一般的には情報システム担当者は対得意先からの依頼が第一優先になり、半年先まで予定がうまっているということも珍しく無い。しかし、このプログラムは短期間で作成できる。データ抽出だけに絞り込めば今までの最高記録は2時間で作成したシステム開発者もいる。
在庫配置は思考錯誤の繰り返しになると思うが、これをやっているセンターとやっていないセンターでは、作業効率が少なくとも10%以上かわる。是非トライして頂きたい。

以上



(C)2012 Taizo Hirano & Sakata Warehouse, Inc.

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