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第244号物流作業人員のモチベーションと作業効率の関係(2012年5月22日発行)

執筆者 平野 太三
(有限会社SANTA物流コンサルティング 代表取締役社長)
-物流改革コンサルタント Dr.SANTA-

 執筆者略歴 ▼
  • 主な経歴
    • 昭和61年 甲南大学法学部卒業
    • 同年 ユーザックシステム株式会社入社
      物流担当システム営業として100社を超える物流現場分析に携わる。
    • 平成12年 Dr.SANTAのネーミングで物流コンサルティング(物流コスト削減、物流指標の作成、物流サービス向上、物流プロジェクトの運営)を開始。
    • 平成15年にユーザックシステム株式会社を退社後、有限会社SANTA物流コンサルティングを創業。
    • 講演回数年間50回。(講演受講者数10000人突破)
    所属団体
    • 日本物流学会正会員
    主な論文、著作
    • 「3ヶ月で効果が見え始める物流改善【現状把握編】」(㈱プロスパー企画)等
    • 包装タイムス、物流ニッポン、マテリアルフロー等で「Dr.SANTAの物流講座」の連載を行う。

 

目次

1.物流改革が推進されている会社の条件

  物流改革が企業から注目されてから既に20年近くになるが、物流改革を理想的に推進できていない企業はまだまだ多い。私の経験則で申し上げると、99%以上の製造業、卸売業は「物流改革を推進することで売上金額の1%相当の無駄な物流コスト削減ができる」。物流改革を実践する上では、「物流改善の知識習得」「実行力の強化」も勿論重要であるが、「基本教育」も非常に重要である。(図1)

図1 人材教育

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

私は5年ほど前までは、「物流改善プロセス」の指導に力を入れてきた。改善の正しいやり方さえ身につけて頂ければ改善効果が実現できると考えていたからである。しかし、現実はそうでは無かった。いくら良い計画を立案しても実行しなければ何の効果も出てこない。かえって、忙しい中で時間を割いてプロジェクトを行っているため、逆効果の可能性もある。それ以来、基本教育の方法論も考え、「実行可能なプロジェクト」を重点的に指導することにした。
私は過去に物流センターを1000カ所以上見てきたが、物流改革が進んでいる企業には共通点があることがわかった。物流センターの中を初めて見た時に必ずチェックすることは、①物流センターの整理整頓状況、②物流センターに貼りだしてある掲示物、③物流メンバーの挨拶、である。それを確認すれば物流センターのレベルが大体掴むことができる。整理整頓と掲示板で、物流センターでやろうとしている計画、改善目標や改善意識が見えてくるのである。
大多数の企業は毎日の出荷に追われており、「今日も何とか問題なく出荷が完了した」ことで自己満足をしてしまい、明日の準備や将来に効果がでる改善活動が充分にできていないのではないだろうか。できている企業とできてない企業では余裕度も違う。しかし、「挨拶」により一体何がわかるのであろうか。
物流は過去3K(きつい、きたない、くらい)職場として人気が無かったが、昨今は物流現場も見違える様にきれいになってきた。人気度が以前よりも高まったものの、若者の人材難が悩みの種である。無断欠勤、無返事、すぐキレル、活力が無い、行動が遅い等例をあげればきりがない。あまりにもひどいのでメンバーを変えてもそれほどいい人が入ってこないのは非常に残念である。そうなれば今いるメンバーの底上げをしなければならないことになるが、「挨拶」が人材教育の第一歩だと考える。物流センター内で「良い挨拶」ができていれば、①センター内のコミュニケーションが活性化され、②会社で決まったことが守られ、③物流センターの問題点が物流現場からすぐに吸いあがってくる。逆に「挨拶」ができていない企業は、センター内での人間関係の軋轢があり、会社で決まったことも伝わらず、実行がされない。
この「挨拶」は簡単な様で非常に難しい。何十年も学校や家庭内でろくな挨拶をしない人が、会社で急に挨拶ができる様になるかというとこれは難しい。それではどうすれば良いのか? その答えは、「挨拶がかえってこなくても、めげずに明るく挨拶を繰り返し続けること」である。基本教育には近道は無い。毎日挨拶を続けるうちに最初は「頭を少しさげる」ところから始まり、次に「小さな声での挨拶」になり、最終的には「大きな声での挨拶」になる。この状態になるまでには1年以上かかると思うが是非取り組んで欲しい。

2.物流改革の意識付け

  基本教育を行うとともに、物流人員の意識付けも同時に必要になる。物流現場では他部署と同様に人の削減を進めてきた。過剰人員の削減であればまだ良いのであるが、必要人数以上に削減してきた企業も多い。その様な環境の中で、「物流改善をしなさい」「整理整頓をしなさい」と会社から指示が出ても、「これ以上もっと仕事をしろと言うのか!」と反発に変わってしまう。こういう時は、総論から始める方が良い。「他社競合と比較し、物流改革を進めている企業と進めていない企業とでは売上の1%の物流コストの差が出てくる。1%の収益を改善できれば、新商品開発、値下げ、販促の強化、給料の増加、優秀な人員の確保、借入金の削減等色々なことに投資ができる。そのためには物流部門だけでなく、全社で協力して物流改革を進めたいと思う。協力して欲しい」という感じである。
人の不足の問題に関しても、「人が足りなければ物流改革を推進する間は人を増加させてもよい」という柔軟な考えをもって欲しい。物流改革の第一STEPはテーマにもよるが3~6カ月で効果が出る。その間はパートを増員しても構わない。一時的な人件費の増加よりも、物流改革による永続的な効果の方がはるかに大きいからである。新規雇用のパートが自分の仕事はできないと主張するかもしれないが、100%特定個人しかできない仕事であるとは思えない。自分の仕事の中で難易度が低い仕事は部下にまかせ、部下も難易度が低い仕事はパートにまかせれば良い。
この様な手順で進め、「物流は1日の作業をこなすことも仕事として重要であるが、物流改革も仕事である」ということを教えることができれば、そこで初めて物流改革が進む環境が整うのである。物流人員は従来から問題意識をもっている人も少なくない。過去提案したが、あれは駄目、これも駄目、と断り続けられモチベーションが低下したという話もよく聞くのである。その人達にきっかけを与えてあげれば、水を得た魚の様にうまく進むことも多い。

3.物流人員の評価制度

しかし、きっかけを与えるだけではうまくいかない。頑張って効果が出れば誉めてあげる仕組みが必要である。営業が個人予算を達成すれば「昇給」「年収増」が約束される。しかし、物流の評価とは何であろうか? 「頑張って働いてる」といって評価するのであれば、物流メンバー内から不平不満が出てくる。頑張って働いているという定義が人それぞれにものさしが違うためである。センター長はえこひいきをしているという目で見られかねない。
そもそも物流部門の大きな目的としては、「物流コストの削減」「物流品質の向上」であったのではないだろうか。そうであれば、物流メンバーがこの目的を達成するために何を行い、どの程度の効果が出たのかを数字で評価できる様になれば基準が決まることになる。これが実現でき、評価基準が公正であれば何の遠慮もなく評価できるのである。
物流メンバーは会社に提案をし、会社はそれを実現できる環境を整え、実行して効果が出れば誉められる。誉められると同時に個人評価も上がり給料も増加する。モチベーションがどんどん上がっていくのが当たり前である。この様な物流センターでは活気が出てくる。
これを実現する第一歩として、物流の仕事の整理が必要である。現在行っている仕事、今後行わなければならない仕事を羅列してみる。(図2)

図2 職務の明確化と評価基準

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

この中には前述した「物流改革の仕事」も入れる。物流テーマに関係するメンバーとの定例会、物流の見える化に必要な現場調査、物流現場メンバーとの改善会議、決めたルールの掲示資料の作成、物流改善進捗状況の貼り出し、等色々やることがある。これを物流通信簿と呼び、階級(課長、係長、主任)別に作成する。毎年1回各個人でチェックし、上長評価後に面接をする。自分ができていない事が明確になれば、今年度何をすべきかが明確になり、的を得たレベルアップが可能となる。
最後にパートの現場メンバーの評価制度も述べたい。図3をご覧頂きたい。

図3 評価制度

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

ピッカーの評価例である。ハンディターミナルでピッキング検品をしている企業では、個人別1時間当りのピッキング回数が出る。バーコードをスキャンするタイミングで時間を取ることができるから、ほぼ正確なデータになる。1時間あたりのピッキング回数により時給を決めることにより、ピッカーのモチベーションが上がるため作業効率は良くなる。
余談になってしまうが、皆様の物流センターでは出荷量が多い日と少ない日で仮に人数を同じにした時、多い日でも少ない日でも終わる時間が同じということが無いだろうか。パートさんは、仕事を早くしても遅くしても時給が同じであれば頑張ることは無い。それであれば、その潜在パワーを活用すべきだと思う。この潜在パワーだけで最低でも20%は作業効率は向上する。これがうまくいっている企業では、ピッカーから倉庫内の改善要望がどんどん出てくる。「棚に行ったがその商品がどこにあるかわかりにくい」「通路幅が狭くすれ違いができないため待ちが発生する」がその例である。それを物流部門で改善すれば、更にスピードが上がるのである。このやり方で2倍にスピードアップした企業もあった。効果が出れば、改善額を想定し昇給額のバランスを考えて行えば良いだけである。
ただ、注意点としては、公正な評価になっているかどうかをよく考えて欲しい。ピッキングリストをよりごのみし、作業が簡単な伝票を取っていく人がいればセンター内の雰囲気が非常に悪くなる。色々なテスト期間を設けて、パートさんの意見を聞いた上で導入して欲しい。上げた時給を下げることはできないので、評価基準をきっちり決めないとうまくいかない。

以上



(C)2012 Taizo Hirano & Sakata Warehouse, Inc.

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