ロジスティクス・レビュー

第233号物流情報システムの役割の推移(後編)(2011年12月08日発行)

執筆者 沼本 康明
(情報戦略研究所 所長)
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1964年日本電気入社、情報処理事業部門に配属。予測プログラムの開発・応用、民需分野のマーケティングスタッフを経て、1973年以降流通・サービス業、物流業マーケットに対する情報システムの開発・販売促進・技術指導に従事。
    • 1994年NEC総研出向、コンサルティング統括。2001年NEC復帰、2003年退職。
    • 現在、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)「物流技術管理士講座」「ロジスティクス基礎講座」、日本マーケティング協会「マーケティングマスターコース」等委員及び講師、専修大学非常勤講師(2007年3月までは東洋大学・静岡産業大学も)。
    • 共著で、『ビジネス・キャリア検定試験標準テキストロジスティクス管理3級』(’2011第2版/中央職業能力開発協会)、『同2級』(2007/社会保険研究所)、『基本ロジスティクス用語辞典』(’97初版・’02第2版・’2009第3版/白桃書房)、『2010年小売維新』(’99/中央経済社)、『新物流実務事典』(’05/産業調査会)、『情報システムと物流の改善』(’05/産業能率大学)他流通・物流・情報関係論文多数。

前編(2011年11月22日発行 第232号)より

目次

6.企業間連携の為の情報化(SCM/DCM)
   → サプライチェーンロジスティクスの情報化

  バブルが弾けた後、復活もままならない閉塞感の90年代後半、協働 化、コラボレーションによる製造から流通、消費者への需給連鎖経営,SCM(Supply Chain Management:供給連鎖経営)が唱えられるようになった。欧米では85年からのQR(Quick Response:アパレル業界の垂直的な迅速対応)、92年からのECR(Efficient Consumer Response:食品・日雑業界のQR、効率的消費者対応)、97年からのCPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment:協働計画・予測・補充発注)へと進展した。
 次いで、DCM(Demand Chain Management:需要連鎖経営)がモノでなく、需要・販売・在庫情報等を消費者起点の流通業から製造業への流れとして、そして、モノの流れSCMとの連携が唱えられた。
 物流はSCMのモノの流れを担う中核的な存在であり、サプライチェーンロジスティクス到来の情報化、企業間の在庫、販売、予測データの共有
による需給連鎖である。企業内の生産、販売、物流の統合化であるSCMは我が国でも広がっている。しかし、企業間での連携はこれからである。何故ならば、ITによるSCM/DCM成立の前提、標準化(コード、ラベル、タグ、データ交換等)が不徹底、容易に連結できないからである。
 しかし、昨今,SCMは焦眉の問題となった。大震災を契機としたSCMの見直し、即ち、調達品や輸送手段の多様化、在庫や拠点のあり方(カンバン方式)、情報センターの集中化・二重化など製配販一体の連携が改めて問われている。一方、ITに関しては標準化への歩みが軌道に乗りつつある。2007年制定の流通EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)標準、流通BMS(Business Message Standards)の
普及が緒につき、又、業界連合の「製配販連携協議会」が11年5月立ち上がり,SCM/DCMの拡大に弾みがつきそうだ。物流における、物流業界と荷主を結ぶ物流EDI標準、JTRN(Japan TRaNsport)の一段の普及を期待したい。

7.知的経営・IT経営の為の情報システム(KM/BI)
   → 物流情報力・知識力向上の情報化

  21世紀は発展途上国・新興国が勃興するのに対して、これまでの先進国はそのパワーが弱体化している。一般的なごく当たり前のコモディティ化
した商品はコスト力で劣位にあり、又、高度な商品でも技術移転などで早期に商品化されて後塵を拝する事態に陥っている。残るは、知力のみで ある。
 デビッド・モシェラは『覇者への未来』という著書(訳書97年)で、ITの主役の変遷を70年代大型コンピュータ、(ピーク80年)、80年代パソコン(ピーク95年)、90年代ネットワーク(ピーク10年)、10年代コンテンツ(ピーク20年代以降継続)と著している。コンテンツ(中身・内容:情報・知識)が競争、経営の決め手となることを意味している。これが、知的経営、IT経営(ITを駆使して情報活用力を高め、業務プロセスを変革し、顧客にとって価値ある商品やサービスを生み出す経営)であり競争力の強化に努めることである。
 KM(Knowledge Management:知識管理)やBI(Business Intelligence:蓄積されたデータを検索、分析して意思決定に活用するた
めのツール)への関心が高まっている。
 物流では物流に関する情報力・知識力を高め、それらを活用する経営である。情報力の発揮でまず行うことは、企業の全階層、トップから担当者
まで全員が自分にとって必要な情報は何かを設定し(ドラッカーのいう「情報責任」)、そのコンテンツ内容によって「見える化」を実現し、問題を発見、解決するという経営行動をとることである。必要な情報は各種経営指標として例えばKGI(Key Goal Indicator:主要目標指標),KPI(Key Performance Indicator:主要実績指標)として設定され、各人は自分の役割は何か、その達成率等が見えるようになる。又、全従業員が注目すべき経営指標を決め、簡単に見られるようにすれば経営のベクトルが合致し、問題解決が迅速化する。
 2010年、ある自動車メーカーは生産(工場の生産、在庫状況)、販売(販売店の受注、在庫状況)、物流(輸送中の在庫状況)が一望できる大型電子画面で企業内SCM、製販物一体のリアルタイム経営可視化システムを実現し、刻々の問題解決に実用化している。正に、知的経営、IT経営の証左である。

8.社会とのコミュニケーションの為の情報システム(CRM/Web)→ グリーンロジスティクスの情報化

  21世紀初頭の物流として、3つのEが重要という答申が出た(00年12月運輸政策審議会)。Efficient:効率対応、Environment friendly:環境対応、Electronics:情報対応とある。効率対応では生産性の向上が必要である。例えば、物流の労働生産性は米国の半分である(05年)。環境対応はグリーンロジスティクスの実践である。情報対応はITの活用を一層増進させることである。
 IT、情報化の連携範囲は企業、顧客だけでなく、社会全般(ステークホルダー:利害関係者―株主、従業員、取引先、消費者、地域社会、行政機関等)や地球環境へと広がりを持ち、効率対応、環境対応とも深い関連があり、効率化、環境化には情報化が必須である。
 効率対応における情報化は、第1段階から常に情報システムが対処してきたことである。業務単独(OISのO)から業務過程(BPRのP)、供給連鎖(SCMのSC)各々の最適化を経て、21世紀は環境対応で効率化を実現することである。又、ムダを排除し、環境を破壊しない情報システムによる自動化および未来化である。自動化を支援するのは、現時点、具体的には、インターネット、GPS(Global Positioning System:汎地球測定システム)、IC(Integrated Circuit:集積回路)タグである。前2者によって、人の存在場所は即時の自動把握がスマホ(多機能携帯電話)で実用化されている。モノの自動把握にはICタグも必要である。モノの追跡、保全などで部分的には実施(JR貨物のコンテナ、トラック、貨車の所在等)されており、技術的には無限の可能性を期待するが、全体的な構築には幾多の課題を克服しなければならない。物流情報システムはモノと情報の一致・一体化の歴史であり、その鍵を握るのはICタグである。更に、後述するビッグデータに個々のモノのデータ(商品、車両、道路等)が収集されるようになると、その刻々の状況によりそれらの近未来を予測でき、その事前対応が可能になる。
 社会との関わりで注目されるITが00年代後半から急速に普及している。その典型は、Webで世界中に普及しているソーシャルメディア(社交媒体)であり、その仕組みがSNS(Social Network Service:社会の人と人のつながりを促進するサービス)である。ソーシャルメディアの
利用者は個人であり企業である。我が国の流通経路の中心・支配者が企業卸売業→製造業→小売業)から消費者へと変遷し、その消費者・顧客とのコミュニケーションに使える手段が生まれたのである。顧客との関係強化を図るCRM(Customer Relationship Management(顧客関係管理)は発信、収集されたデータ(昨今、ビッグデータという表現で、業務データに加え,非構造化データであるコールセンターの履歴、SNSで交信されている文書、メール、音声、動画、地図、GPSデータ等一切を包括した名称)を分析、活用して顧客のニーズ、評判、満足度等に対応した適切な
対処が可能になる。ただし、ソーシャルメディアはデメリットとしてネットで「炎上」という批判の殺到に見舞われる現象が頻発しており警戒する必要がある。
 データの活用は、70~80年代は基幹系情報システムのデータベースに基づく現状のレポーティング、90年代はBIとDB,DWH(Data WareHouse:生データまで含む目的に応じて整理、統合したDSSに最適化したDB)で多次元分析、データマイニング等を行い現象の原因を追究、00年代は今起きていることを各種指標(KGI、KPI等)で観察、監視するモニタリングである。これからの10年代は業務の効率化(業務・管理データ、Webログ等から)、SCMの進展(取引データ、 実績・予測データ等)、CRMの深化(顧客データ、ソーシャルメディアデータ等)を図ることになる。又、データの取得は刻々となり、データはオンメモリ型DBでリアルタイム処理化、分析も即時化する。ということは、予測の精度は、より近時点のデータで信頼性が高まるということになる。つまり、BIとビッグデータにより現状の「見える化」から近未来の「予測分析」へと進化し、例えば、物流では運送において異常を瞬間に察知すると、渋滞対応、あるいは、モノの鮮度管理の高度化(モノに各種センサーを貼付)など環境化にも貢献する。
 今般の大震災は情報システムほか多くのシステムに大きな衝撃を与えた。システムの破壊、消滅、停電による停止などにより物流機能が果たせなくなった。自動倉庫の停止、崩壊は最も大きな混乱をもたらした。情報システムはデータ、プログラムおよびコンピュータそのものが流失したりして機能不全となった。改めて、日常的にBCP(Business Continuity Program:事業継続計画)の重要性が喚起されたが、ITではハードウェアの復旧対策だけでなく、情報システムの中身、業務システムの重要度・復旧の優先度をレベル分けし、優先度の高いものは早急な復旧時間のシステムにして、日時的に余裕のある業務は手作業で行うなどの振り分けをしておくことが肝要である。
 物流情報システムでは、例えば、重要度、優先度の最も高いのは安否・災害情報の共有、伝達の仕組みであり(数時間以内の復旧)、次に物流業務のWMS,TMSは数日以内とかの目標を設定する。受発注、請求処理等データ交換に基づくような業務は電話等別手段があり復旧までに数日とか、更に手作業でいい給与計算は1ヶ月とかである。いずれにしても物流情報システムは安全・安心対応まで含めての統合的、総合的立場からの見直し、作り直しを配慮しなければならないであろう。
 今後、安全対策上だけでなく、運用上、経済的観点等からも、ITは所有より利用へという情報システムの外部化が徐々に進展する。いわゆる、クラウドコンピューティング(すべてのITの基盤がWeb、Webを中核に情報システムの開発、処理、運用がインターネットで展開されるコンピュータの利用形態)を導入するなどである。物流情報システムでもすでにその利用が進んでいる。しかし、現時点、クラウドコンピューティングの技術は未だ発展途上にあり、競争力の源泉となる業務の開発やデータの保管は自社で行うかなど、慎重な検討が欠かせない。

最後に

  物事の発展には、導入期、成長期、成熟期、衰退期というライフサイクルがあり、種々の情報システムも然りである。図表の左側の流れは、その盛衰の経緯であるが、大きな括りで見た場合物流情報システムは成長期である(個別の企業によっては導入期、成熟期もあるが)。確かに、納品ミス10万分の1はITで支えられている。WMSやTMSの導入も着実に増えている。しかし、企業間SCMの情報化は上述のように前進の兆候はあるが、一向に進んでいない。これは情報システムの所為だけではなく業務やプロセスの標準化、規格化が浸透せず、部分最適は達成しているが、全体最適は成就されていないからである。ビジネスモデル、業務プロセス全般の大胆な改革を行い、企業内、企業間の一気通貫による全体最適が実現されてこそ物流情報システムも成熟する。21世紀はロジスティクス本来の情報化へと移行するであろうし、そうあるべきだと考える。その為にはかつて不発であった,SIS、BPRの復権が望まれる。


以上


(C)2011 Yasuaki Numamoto & Sakata Warehouse, Inc.


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