ロジスティクス・レビュー

第227号解題:物流品質と経営品質を考える(後編)(2011年9月8日発行)

執筆者 田中 孝明
(サカタウエアハウス株式会社 代表取締役社長)
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴 大阪市生まれ。
      神戸大学大学院 経営学研究科 博士前期課程修了。
      ACEG (英国・ボーンマス校),オタワ大学ELI修了。
      株式会社住友倉庫を経て,現在,サカタウエアハウス株式会社 代表取締役社長。
      福山平成大学 経営学部 非常勤講師,明治大学 商学部 特別招聘教授,
      文部科学省オープン・リサーチ・センター整備事業 研究分担者,
      神戸大学ビジネススクール MBAフェロー などを歴任/兼任。

*サカタグループ2011年2月08日「第17回ワークショップ」の講演内容をもとに編集しご案内しています。

前編(2011年8月17日発行 第226号)より

目次

5.経営品質とは?(1)

出所:寺本義也ほか 『経営品質の理論』 生産性出版,2003年.

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

 では、次のスライドに参ります。まず「経営品質」と書かれていると思います。あまり耳慣れない言葉ではないかと思います。2行目に赤字で書いておりますが、『経営品質賞』といったアワードが、確か社会経済生産性本部さんが提唱され、賞を授与するといったことを行っていらっしゃったと記憶しています。そこでの定義やそこに述べられているようなことをこのスライドの中で記しています。細かなところはまたの機会に見ていただければと思います。
 一番上の項目になりますが、「経営品質」というのは、組織が提供する製品とかサービスの品質を問題にするだけでなく、それらを提供している組織の活動全体を対象とするものであり、顧客視点からの経営全体の質を問うものであるとあります。そして、一番下の項目に、企業や組織の再生の鍵は持続的な経営品質の向上にあるとあります。こういったことを早稲田大学の寺本先生などが提唱されています。

5.経営品質とは?(2)

  先ほどの話と少し関連するものとして次のスライドに参ります。こちらも「経営品質」とはどういうものかということが解説されています。

出所:寺本義ほか 『経営品質が目指すべき企業価値とは何か』

(http://www.jape.jp/home.nsf/Soukai10Files/$File/2006-1-1.pdf)

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

 こちらも、今日は細かな話は残念ながらできませんが、特に、注目していただきたいのは3つめの項目になります。「現代の企業の価値創造のプロセスというのは、その多くを各種のステークホルダーとの協同的な相互作用に依っている」とあります。ステークホルダーとは、企業に関わる利害関係者といった意味で、一般的に①顧客、②従業員、③関係先、④地域社会、⑤株主といった5つの利害関係者があるといわれております。このようなところに、常に改善された価値を提供していくことによって、企業は自社の存続可能性に貢献していかねばならないといったことを述べてらっしゃいます。前のページと同じく、寺本先生の文献からの引用です。

6.経営品質の向上に資するロジスティクスとは?

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

 ここまでのスライドで、「経営品質」というのをご紹介させていただきました。今日は、広い意味での品質のことを「経営品質」という言い方をさせて頂いていますが、この広い意味での品質を向上させていくために、私たち物流に携わる者はどんなことを考えて何を行っていけばいいのかということをこの後、考えていきたいと思います。
 私が個人的に、重要になると思う点、あるいは着目している事項は主に3つあります。一番目が先ほど少し触れました物流のサービスやロジスティックスサービス、それ自体の品質の向上です。2番目がマネジメントの品質という意味で、サプライチェーンマネジメントの品質の向上。そして、3番目が、これらの根幹になると思われる人材の育成です。この3つが非常に重要になると思っております。私自身、明治大学が文科省から受託した「経営品質科学の研究」というのをプロジェクトに入れて頂いておりますので、この3つについて、企業にインタビューに行かして頂いたり、アンケートに答えて頂いたりして、一生懸命勉強している最中です。
 若干3つの中身に触れておきますと、一番目はロジスティクスサービス品質についてです。サービス品質には5つの基準、次元というのがあるという話を先ほど申し上げました。この基準にそって、まずはロジスティクスのサービス品質の測定をやっていかなければならないのではないかと思います。それを踏まえた上で、今日のゲスト講師をお願いしている日本ロジスティックスシステム協会様が『荷主KPI』というものを提唱されていますが、今後はこういうようなKPIを設定していくことが非常に大事になるのではないかと思っております。次は、グリーンロジスティクスですね。これは皆様方ご存知だと思いますが、地球温暖化ガスの削減などを踏まえたうえでの物流というのも大事です。あと3つ目は、ロジスティクスフレンドリーという言葉がでてきています。インターネットでこのロジスティクスフレンドリーで検索して頂くと、確かアメリカの物流面で、インフラなどのいくつかの面で、物流に優しい都市の名前が出てくると思います。最近、このようなロジスティクスフレンドリーという言葉が、日本でも聞かれるようになってきていると思います。これは企業だけの力では、なかなか向上・実現できないかと思います。国の力、行政の力もお借りしたいと思われることが当然あるかと思います。全体でこのようなロジスティクスサービスの品質を高めていかなければならないと思います。
 二番目のSCMの品質向上。一つ目の項目として”サプライチェーン全体最適のビジョン確立と共有”と、ここに書くのは簡単ですが、これは実現するのは非常に難しいことだと思います。特に、サプライチェーンの中の企業さんには、メーカーさんあるいは卸業さんや小売業さんもありますが、このようなところとの組織間の利害調整等があります。また、全体最適という言葉はよく聞かれますが、しかし、全体最適といったものをどう評価するのかが問題になってくると思います。とにかく、SCMのパフォーマンスとかケイパビリティとかの品質をあげていかなければいけないというのも2点目になるのではないかと思います。
 三番目は人材の育成になります。今日最後のゲスト講師からは、とくにこのあたりを重点的にお話して頂けるのではないかと思いますので、ここでは私からは詳しくはお話をさせて頂きませんのでご諒承ください。

7.どのように考え、どこから着手するか?

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

 それで、最後のページになります。今日は、色々な大学の先生方や研究者の方々などが提唱されていることをいくつかご紹介させていただきました。私も実務の世界におりますので、物流やロジスティクス、SCMの品質を上げていくには、現実的に、そして具体的に、どのように考えて、どこから着手していくべきかと悩んでいます。今日お話した内容は、皆様方への投げかけにもなりますので、一緒に考えていきたいと思っております。
 スライド左側にあるピンク色の枠内に書かれている内容をご覧ください。やはり物流の分野では従来、主にコストを削減していくというのが大きな目標にあったと思います。具体的には、図に書いてあるような、運賃の値下げや在庫の削減を行うといった施策をとってきたと思います。しかし、これではそろそろ限界にきているのではないかと思います。
 では、これからはどんなふうに考えていけばいいのかという話になります。先に、スライド下のほうに書いておりますが、今後、必要とされる新しい視点としては、広い意味での品質をあげていく、それにより、新しい価値を創造していくといった視点に一回立ってみることが必要ではないのかと思います。例えば、その下にも書いていますが「モノと情報を流す」とあります。流すという言葉に”"(かっこ)をつけさせていただいています。それは、単に流すだけではなく、効率的に流す、あるいは付加価値をつけて流す、という意味をこめて流すという言葉に”"(かっこ)を付けさせていただきます。その下に、「お客様や市場と共同で、新しい価値を創造する」とあります。そのような考え方も中に組み込み、お客様とかあるいは消費者とか、サプライチェーンの中にいる企業さんと一緒に、新しい価値を作りだしていく視点に少し立ってみる必要があると思っています。
 では具体的に何から手をつけていけばいいのだろうかというと、スライド上段右側のブルーの部分です。そこに、いくつか書いてありますが、例えばですが、単なる運賃値下げとかではなく、全体としての輸配送をマネジメントしていく、ロジスティクスネットワークをマネジメントしていく、コストもマネジメントしていくというような観点がいるのではないかと思います。あるいは、在庫も一方的に削減していくと数年前のリーマンショック後のような、一瞬に在庫が消えてしまい生産が若干持ち直してきても在庫が立ち上がらないという状況がまた起きるかもしれません。すると、やはり適正な在庫というものがあるのではないかと思っています。
 在庫削減は従来、基本的にその方向性がよいと思われてきましたが、少し立ち止まって、もう一度、考えたほうがいいかもしれません。また、商物分離については、”分離”ではなくて”融合”させたほうがいいというケースがあるのではないかと思っています。次の、拠点を統廃合して減らしていくというふうな流れがここのところ多かったのですが、これはこれで間違いなく色々な意味でコスト軽減には繋がると思います。しかし、やはり最適な拠点の配置、場合によっては拠点を増やす、分散するといったことも、トータルな意味で結果としてコストコントロールに叶うことになるのではないかと思います。特に、今後、BCPについて考えると、場所をちょっと増やしておく必要があるかもしれないという考え方もあると思います。こういったことをいくつか掲示して書いております。
 後は、そうですね、新しい物流の共同化について触れておきます。従来の共同化は、いわゆる水平統合型とでもいうべきもの、つまりメーカー同士による共同化といった形が主流でしたが、これからは垂直水平型というか、ネットワーク型というか、サプライチェーンの上流と下流との連携も視野にいれた、新しい共同化というものが必要になって来ると思います。複数のメーカー、卸、場合によっては小売りなどが一緒になっての共同化です。既にいくつか模索は始まっているかと思います。
 それで、これらはそれぞれの企業さんの考え、あるいはそれぞれの企業さんの戦略によって、どこからどうやって手をつけていくべきかというのは変わってくるかと思いますので、決してこれが正解というのはないと思います。また、まだまだ、すぐに手をつけていくことができる項目が、我々の分野でも残されているのではないかと思っています。

8.まとめ

  私は、冒頭で申しましたように今日は「解題」という言葉をタイトルにつけさせていただいています。今日の全体のテーマである『物流品質と経営品質』については、このあとお話をいただきますゲストの先生方お二人のご講演の内容もふくめて、皆様方と一緒により深く考えていきたいと考えております。お時間の許す限り、この後どうぞよろしくお付き合いのほどお願い申し上げます。どうもありがとうございました。


以上


(C)2011 Takaaki Tanaka & Sakata Warehouse, Inc.


このページのトップへ戻る