ロジスティクス・レビュー

第223号物流業から見た「災害とロジスティクス」(後編)(2011年7月7日発行)

執筆者 長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴 1948年 生まれ
    1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    2009年 同社顧問
    保有資格 ●中小企業診断士
    ●物流管理士
    ●運行管理者
    ●第1種衛生管理者
    活動領域 ●日本物流学会理事
    ●(社)中小企業診断協会会員
    ●日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    ●国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    ●(公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著 ●『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    ●『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    ●『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    ●『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

前編(2011年6月21日発行 第222号)より

目次

2.緊急支援物資輸送とサプライチェーンの寸断

(3)想定される荷主の対策

④ 取りに行く物流、あるいは往復輸送契約
 あるいは、物流取引形態を「届け先まで元払い」から「出荷渡し」に変更して、組立メーカーが手配した、より安定した輸送が可能なトラック業者が引取りに行く「取りに行く物流」にシフトするケースも生じよう。
 「取りに行く物流」といえば、従来は「仕入価格と物流費を分離」して、よりローコストを実現する方策として注目されていたが、「安定輸送」というメ リットも生まれつつある。
 これまで、メーカー物流の場合は、製品を地方デポ等に「片道」輸送が多かった。今回の震災で、東北に製品輸送した帰りに部品メーカーに寄って、部品を引取ろうとしたケースもあったが、既に帰り便は他の荷主がついており、急に依頼してもうまく行かなかったようだ。また、復旧・復興の輸送需要もあって、東北方面ではトラック需給がタイトになっている。(1)項で述べたように、供給(車両数)も約7%減っていれば、需給バランスからいっても当然であろう。
 一方、流通業では、予め往復契約して、帰り便にはセンターへの返品や店間移動商品、地方調達商品などを積んでいたので、緊急輸送にも活用できた例がある。
 今後は、他メーカーとの共同運行など含めて、往復輸送契約が増えるのではなかろうか。

3.BCPの策定と見直し

(1)首都直下地震と首都大洪水の危険

 今回の大震災を契機として、東海(M8.0 80%)・東南海(M8.1 60~70%)・南海(M8.4 50%)の大地震の不安が話題になっている(カッコ内は想定マグニチュードと30年以内の発生確率。内閣府ホームページの「防災情報のページ」地震対策」)。1946年の南海地震津波では、房総半島から九州まで、4~6mの津波が来襲した。
 また、首都圏では首都直下地震(同。M7.3 70% 最大震度7 経済被害約112兆円=東日本大震災の約10倍)の危険もある。
 筆者の住む横浜は、今回は震度5だったが、みなとみらい地区の遊歩道や、橋の歩道部分が一部使用できない状況になっており、復旧には時間がかかりそうである。同地区の海上保安庁の海上防災基地はびくともしていないが、基地につながる陸路が震度5で一部被災し、復旧に長期を要するということは、もし、首都直下地震が起きた場合には、どうなるのかが心配である。
 また、首都直下地震と並んで危険性が高いのが、首都大洪水である。1947年9月15~16日に来襲したカスリーン台風(死者・行方不明1,930名)では、利根川・荒川堤防が決壊し、埼玉県東部から東京都23区東部にかけての広い地域で家屋の浸水が発生し、農地や住宅地が長期間水没した。同台風を教訓として、政府は水害による大都市への被害を防ぐ事を目的に、ダムやスーパー堤防を建設して洪水調節に努めてきたが、民主党の事業仕分けで「100年に一度の大洪水ならば不要」とされている。
 同じ内閣府の首都大洪水被害による想定では、浸水面積約530km2、浸水深が3階以上に達するとされている(同「防災情報のページ」 大規模水害対策。東日本大震災の浸水面積は青森県から千葉県までの6県で561km2)。
 もう一度、地盤や防災を点検して各企業ともBCPの策定・見直しが必要なのではないかと思う。

(2)BCPの基本

 物流学会の第25全国大会は、2008年9月に東海大学清水キャンパスで「物流とリスク管理」を統一論題として開催した。上述のように静岡県は、東海地震の危険があることから防災対策に熱心であり、静岡県港湾局長の基調講演の後、企業事例が報告され、その一つが鈴与株式会社の「BCP策定の取り組み」であり、たいへん参考になった。
 とくに同社ではBCP策定後に、地方自治体と一緒に、あるいは同社単独で訓練を繰り返し、BCPをブラッシュアップしている。まさにプランだけではなく、BCM(事業継続マネジメント)の段階に至っている。
 BCPの考え方は、各企業の現況の把握と被害想定をしたうえで、
①避難 ②発災報告 ③安否確認 ④被害把握(建物・車両) ⑤社内報告 ⑥社員招集 ⑦関係先連絡(顧客・行政・業界団体。トラ協は指定地方公共機関=ライフライン。災害時の協力協定等) ⑧業務復旧・・・ の順に個々の項目について、「誰が、いつ、どこで」と実行レベルで落とし込んで行くことである。
 また、各企業の防災組織として、 ①総務・経理対策(社員・家族対策、情報・通信対策、資金対策)、②顧客・行政・業界対策、③輸送・保管対策(現場の営業所) などの役割分担や代行順位なども予め定めておく必要がある。中小企業の場合は、資金繰り対策も重要である。荷主等が被災すれば売掛金の回収が滞りがちになるが、燃料費等は「現金払い」が求められる。
 BCPの策定については、東京商工会議所がマニュアルを公表しているので、目次を掲げておく。ぜひ、参考にされたい(日通総研でも新型インフルエンザ・災害対策などのBCP策定のお手伝いをしている)。

 重要なことは、BCPを策定しても、どこかに仕舞い込んで、イザというときに「計画倒れ」にならないことである。上述の鈴与さんのように、身につくまで繰り返し訓練して、日常業務としてのBCMにすることである。
 平時でできないことは、有事には決してできない。

4.おわりに

 以前に、会社の先輩から、仕事を進めるうえで「理論的」「歴史的」「社会的」の3つの観点から考えるように教わった。
 「理論的」アプローチだけではダメなのは、今回の大震災でもハッキリしたのではないだろうか。
 「歴史的」アプローチについて言えば、津波災害は地震災害と異なり「早く逃げれば助かる」。そのことは、表2の過去の津波災害の教訓からも明らかであり、今回の東日本大震災の津波災害は、もっと早く避難すれば多くの人が助かったのにと、残念でならない。
 「社会的アプローチ」は、決して「会社的アプローチ」ではならない。視座はあくまでも「社会」で「会社」ではない。過去のコンプライアンス事例では、これを誤ったばかりに、会社が消えて従業員が路頭に迷うことになったケースも多い。
 日経ビジネス誌の6月6日号で、鈴木敏文セブン&アイ・ホールディングス会長が「緊急時で店員の対応を消費者は絶対に忘れません。親切にされたという思いは、ロイヤルティにつながりますし、その逆もある」と語っている。これは、サービス業である物流業にとっても、災害とロジスティクスにおいて、忘れてはならない言葉ではないだろうか。
 荷主・取引先も従業員も地域社会も、緊急時の企業の対応を絶対に忘れないのである。 (なお、文中、意見に係る部分は、すべて筆者の個人的見解である)


以上






参考資料
1.経済産業省「東日本大震災後の産業実態緊急調査」「サプライチェーンへの影響調査」
2.株式会社日通総合研究所 ロジスティクスレポートNo.15・16
 「”大規模かつ広域的な地震災害”に対応した『震災ロジスティクス』のあり方」
3.日本物流学会関東部会 緊急シンポジウム(1)
 「『災害のロジスティクス』-なぜ救援物資は届かないのか-(速報版)」

※日本物流学会に入会を希望される方は、学会ホームページをご覧下さい。
http://logistics-society.jp/index.html


(C)2011 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.


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