ロジスティクス・レビュー

第221号我々は東日本大震災で何ができたのか(2011年6月9日発行)

執筆者 野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴 1943年 生まれ
    1962年 味の素株式会社・中央研究所入所
    1975年 同・本社物流部へ異動
    1985年 同・物流子会社へ出向(大阪)
    1989年 同・株式会社サンミックスへ出向(コールドライナー事業担当、取締役)
    1991年 日本物流大賞受賞:「高密度共配による配送効率の飛躍的向上」
    1994年 同・本社物流部へ復職、96年退職(専任部長)
    1996年 昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)、98年退職
    1999年 株式会社カサイ経営入社 ~パートナーコンサルタント
    2000年 有限会社エルエスオフィス設立
    2001年 群馬県立農林大学校非常勤講師
       日本ロジスティクスシステム協会講師
    2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    保有資格 ●物流技術管理士(第26期)
    ●運行管理者
    ●第1種衛生管理者
    活動領域 ●日本物流学会正会員
    ●日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    主要著書・論文 ●『低温物流とSCMがロジ・ビジネスの未来を拓く』―鮮度管理システムで顧客サービス競争に勝つ
    ●『低温物流の先進企業事例』―生鮮流通の業態・チャネル別戦略モデル
    ●『低温物流の実務マニュアル』―経営戦略・マネジメントとの連動

目次

1.物流とロジスティクスの違い

  メディアにおいて、これだけ物流やロジスティクスという言葉が使われたのは初めてではないだろうか。ハブ&スポークという概念を 語ったキャスターもいた。しかし全般にどこまでその違いについて理解されているかは、甚だ疑問である。道路や鉄道が寸断され、港 湾や空港が使用不能に陥り、物資の供給が止まってしまった。これは物流インフラの話である。もちろん生産工場の被災があり、商品 在庫の損傷や原料供給の停止もある。ロジスティクスでは被災地の状況を把握し、必要な物資を必要な場所に補給する。災害の初期対応にメドがついたら被災地からの要求を把握し、現地で仕分けしやすいように送荷しなければ、現地での作業が混乱してしまう。生鮮食品では在庫をコントロールする必要があり、場合によっては無在庫で日配となる。
  まず緊急物資を構わず送り届けるのは物流段階である。米軍の協力によりいち早く仙台空港の滑走路が再開され、貨物機による輸送が確保されたのは大きかった。一部港湾も小型船の接岸が可能となった。貨物鉄道も迂回路を経由して、郡山や盛岡への緊急輸送が行われたのは特筆に価する。新幹線の延伸に伴い在来線は廃止又は3セク化され、しかも旅客鉄道のレールを借りている心細い状況であるにもかかわらずだ。
  物流は機能としての管理であり、ロジスティクスは体系としての管理、複合機能としての全体最適を目指す活動である。物流管理に加えて、情報を駆使した「計画と統制」という業務が基本になり、その最たるものが需給管理である。現在在庫を把握し、需要を予測して生産量を決定し、その結果としての在庫レベルや配置を管理する。在庫とは資金そのもので金利が発生し、陳腐化すれば更にコストロスになる。欠品となれば販売チャンスロスになり重大な支障を来すばかりか、顧客へのペナルティーにもつながる。これが企業活動の根幹としてどこまで整備され、結果を出しているだろうか。そこに至る前に大幅なアウトソーシングが行われ、物流コスト管理の結果だけでもう卒業と考えているとしたら、大きな間違いである。

図表―1.物流からロジスティクスへ

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

2.SCMの弱点はリスク対策と危機管理

  SCMが広域に亘って、在庫を縮小し過ぎたことが混乱に拍車をかけたという論調もある。ロジスティクスをサプライチェーン全体に展開し、企業間連鎖を図るのは悪い事ではない。そうしなければ、在庫の適正化を部分的にやっても意味がない。しかし在庫レベルが下がるほど業務運用上のリスクは拡大し、そしてこのような大災害における危機管理である。現状でこれまで企業間連携するのは至難の業と言っていいだろう。
  リスク対策は日常業務におけるリスクを想定し、これを未然に防ぐ活動である。現場参加型の活動であることは言うまでもない。残念ながら物流現場でこのような活動が行われている事例は少ない。その理由は業務に追われ、活動の時間がとりにくいからとされている。しかし業務の当事者が、結果から原因に遡るQC活動を行えないのなら、自律型の業務にはとてもならない。不具合のデータを収集し、これを手掛かりに改善活動につなげていくべきである。このリスク対策が不充分であれば、いくら経営が危機管理を叫んでみても機能しない。経営としての迅速な処置はもちろんだが、現場の対応力が弱ければ絵に描いた餅になる。危機管理そのものも、机上シミュレーションや実際のトレーニングがどこまで行われているかが問題だ。紙に書いただけの計画であれば、いざという時の役に立つはずがない。
  此度の大震災で、BCP(事業継続計画)がキチンと機能した事例も伝えられている。もちろんシミュレーションや実際の訓練を何回もやった結果であろう。そこまで行かなくても、今回メーカー間で原材料の融通や生産代替等が行われたという意味も大きい。この危機状態を早く脱却しなければ、我国産業のグローバル・サプライチェーンにおけるプレゼンスがまた低下してしまう。

3.阪神・淡路大震災の教訓は生かされたのか

  国を中心としたインフラ復旧策は概ね順調に行っているのではないか。ただ原発という思いもよらぬ大事故に今でも翻弄されている。国交省は阪神・淡路大震災の反省から、道路復旧を幹線・枝線・末端の3段階に分けて順次修復していった。当初末端系はかなり苦戦したが、郵便や宅配便のネットワークがカバーされるようになり、この努力も特筆されるべきだ。被災者が避難所から分散されるにつれ、個人レベルへの配送網が確保されたことの意味は誠に大きなものがある。
  筆者は阪神・淡路大震災の時、東京で冷凍食品の供給に携わっていた。生活必需物資として当局の指定を受け、まだガレキの山が残る避難場所等へ奥深く配送して行った。この時、小型車による外食産業向け個店日配網が機能した。温度帯は冷凍・チルド・常温の一括配送である。一方で前進デポへの在庫補充は難渋した。関東から裏日本を迂回する陸路、広島まで内航船で海路輸送し、そこから陸路で東上するルートも有効だった。日頃からトラック・鉄道・船舶等の輸送手段ミックスを確保しておかないと、いざという時のリカバリーが困難であることを思い知らされた。
  これを契機に大都市における停電等についても真剣に考えるようになった。最新の物流センターではコンピューターの非常電源以外に、マテハン等の動力電源をバックアップするために損保会社と契約して、電源車輌を派遣するケースも出現している。これはもちろん今回のような広域災害では機能しないが、日常のリスク対策にはなる。此度の東日本大震災では、被災地に向けたハブとなるべき首都圏の物流機能も大きな影響を受けた。特にマテハンの損傷や商品落下が多発し、とりわけ自動倉庫のリカバリーに多大な時間を要した。耐震強度や停電の問題と合わせ、データベースと現物の照合に要する時間をどう短縮できるかが今後の課題となろう。

4.社会調和型のロジスティクス推進

  ロジスティクスが一企業の最適化を目指す段階から、サプライチェーン・ロジスティクスとしての企業間最適化のレベルに進みつつあり、そして更に社会的な要請を併せ考えなければならない状況になっている。それは消費者の安全安心要求の高まり、セキュリティー確保等から考えても当然の流れである。SCMが単にコスト削減追求だけではなく、その目的に品質・衛生・安全そして環境対応が加えられなければならない。それはまたその原資を生み出す活動であるとも言える。
  原材料調達~生産までの段階では完全な品質管理が行われており、問題はそれ以降の流通段階である。商品所有権が次々と移転し、品質管理責任もそれに合わせて移っていく。まずこの段階での管理基準が共有化されて、それを担当企業が責任を持って管理し、次の企業に伝達する必要がある。しかしここに商物分離や店着バイイング等の商習慣が関連し、責任所在が曖昧になっているのが実状である。循環型物流として物流センターで外装を取り外し、個装単位でリサイクル容器により納品するのも衛生管理としては問題である。異常高温の季節では庫内温度が外気より一段と高くなり、強制換気が必須となる。
  環境対応も個々の技術革新は進んでいくだろうが、基本はやはり共同化である。この旧くて新しいテーマにどこまで踏み込めるかが、今また問われている。顧客の専用システムなのに料金は変動契約を求められ、物流事業者側にリスクが負わされるのも問題である。共同化の前提は料金が個建て制であり、全体の事業効率確保は事業者の責任となり、これなら相互のビジネスになる。

5.ロジスティクスのコアは需給管理

  全ての企業活動は顧客が誰で、何をどの位求めているかを調査し、それを商品というかたちに具現化し市場に供給していく。前者の活動がマーケティングであり、いわば需要を創造する行為である。後者がロジスティクスであり、これは需要を充足する活動である。この二つがビジネスモデルの根幹であり、どちらが上位でどちらが下位という関係ではない。あくまで車の両輪である。所が最近では企業のコアは前者であり、後者はアウトソーシングという風潮である。ロジスティクスの骨格ができてその実務をアウトソーシングするならまだしも、フルアウトソーシングというのは頂けない。
  ロジスティクスは製・配・販の連携であり、物流が商物分離でシステム化を図るのに対し、今度は商物連携である。まず前提になるのは需要予測であり、これは営業部門だけの責任でもなく、まして物流部門だけで出来るはずがない。これと並んでもう一つ重要なのが、在庫のリアルタイム把握である。在庫は各方面に散在し、商品だけではなく原材料・中間製品等も情報として必要になる。これらを総合化して生産量を決定し、その結果としての在庫を各方面に配分する。ロジスティクス部門がこのような中枢機能を果たしているか、そして前述したリスク対策・危機管理まで繋がっているか、大震災を契機に見直してみる必要があるだろう。
  需給管理は食品であれば、商品の鮮度管理レベルにより管理サイクルを縮小していかなければならない。生鮮品では在庫を持たない運営や365日稼動も必要になり、難易度が極めて高くなる。一方で日常消費物資の流通では、食品・医薬品・日雑品等の複合チャネル化が進んでおり、これを統合化する物流センターでは更に幅広いロジスティクス管理が求められている。これらはまさに商品力と流通力の総合化された競争であり、単にモノ作りという話だけではない。そしてサプライチェーンはますますグローバルに展開していることは言うまでもない。

図表ー2.ロジスティクスのコアとしての食品需給管理パターン


以上


(C)2011 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.


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