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ロジスティクス

第22号食品流通における不祥事防止とSCMの欠陥改善-物流・流通における品質管理の在り方を考える-(2002年12月24日発行)

執筆者 野口 英雄
有限会社エルエスオフィス 代表取締役
    執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部へ異動
    • 1985年 同・物流子会社へ出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックスへ出向(コールドライナー事業担当、取締役)
    • 1994年 同・本社物流部へ復職、96年退職(専任部長)
    • 1996年 昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)、98年退職
    • 1999年 株式会社カサイ経営入社
    • 2000年 有限会社エルエスオフィス設立、カサイ経営パートナーコンサルタント
    • 2001年 群馬県立農林学校非常勤講師
      現在に至る。
    所属団体など
    • 日本物流学会会員
    • 日本物流同友会会員
    主要著書・論文
    • 「ロジスティクス・ウエアハウス」(1993年,日本倉庫協会論文賞受賞)
    • 『日刊運輸新聞』に「低温輸送ビジネスを掘り起こす」連載(1999年4月~2000年10月)
    • 低温物流とSCMがロジ・ビジネスの未来を拓く」野口英雄著,プロスパー企画,2001年7月

目次

1.低温流通領域で多発する不祥事

(1) 本書の枠組み

食に対する消費者の信頼が揺らいでおり、いま最大の関心事は安全と品質の確保であろう。多発する事例について、製造段階は物流問題と分けて考えるとして、流通段階とりわけ低温流通において目立っており、鮮度・衛生・品質保持が主な目的であるにも拘らず、何故そこに問題が集中するのかもはや見過ごすことはできない。流通段階で生じている主な事例について、次に列記する。

これらにはもちろん悪意で行われている場合もあるが、基本的にはロジスティクスや品質管理の不備という問題である。特に生鮮流通では流通システムそのものが旧態依然としており、最終顧客としての消費者に対する意識改革も余り進んでいないという背景もある。企業倫理やトップの責任ももちろん重要だが、業務工程としてのシステムや管理が改善されなければ、問題は再発してしまう。

2.食品SCM展開における重大な欠陥

消費者の鮮度や自然食品への回帰ニーズから、食品の低温化傾向が続いている。加工食品は冷蔵や冷凍品が増え、一次産品も多くのものが低温流通によるようになった。外食・中食産業では原料としての通年安定確保や、店内作業省力化等のため調理済長期保存商品としての冷凍品を多用するようになっている。もちろん生鮮素材の比重も大きい。対象領域の生産・売上高と低温物流の市場規模は次の通りである。

低温物流事業としては1兆円規模であり、食品輸送における低温のシェアは約40%程度と推定され、今後も更に拡大すると考えられる。CVSにおける品揃えの約半分がもはや要冷品であり、消費者ニーズが強いことをうかがわせる。外食・中食産業においては、もはや低温ロジスティクスがなくてはならない存在である。今後は医薬や、その食品とのニッチ領域でもニーズは拡大するだろう。
低温化は保存性を良くする手段であるが、いまや消費者ニーズは鮮度・品質保持に大きく傾いており、より新しいものを求める傾向にある。食品SCMは、基本的には鮮度を向上させる管理体系であるとも言える。つまり在庫を極小化し、場合によっては無在庫で新鮮供給を実現させることもある。商品によっては製造日その日に店頭化させることもある。
ところがSCMのもう一つの目的であるローコストオペレーションの実現を急ぐ余り、目先利益追求のみに走り、商品検査や品質管理が後追いになっていることは否めない事実である。一例として、シームレス管理としてのノー検品という行為が行われる。これは出荷側の精度が10万分の1以上という前提が必要と言われているが、流通途上の品質劣化やミス・トラブルのチェックがされないとしたら危険である。また在庫を少なくすれば欠品の確率が高くなり、小売側のペナルティーも厳しいので、つい便宜的かつ安易な方法で回避するという動きが起きているのではないか。鮮度や衛生についての管理状態が把握されているかどうかについても、完全ではないだろう。
いずれにしてもSCMは、決して価格破壊の原資を生み出すためだけの手段ではなく、品質管理面での機能やチェックシステムがもっと重視されるべきである。

3.物流・流通過程における品質管理の現状と課題

製造段階での品質管理は、かつて我国の国際競争力を支えた技術として今でも広く根付いているだろう。ところが一たび物流工程に入るとその管理が途切れ、ましてや流通により商品所有権が移転すると、それはかなり難しいというのが実態であろう。消費者の手に渡るまでの品質管理の連続性、責任・機能分担の社会的合意は甚だ不充分な状況である。物流工程における品質管理が何故難しいのか、その背景を次に列記してみる。

物流の前工程としての製造段階、後工程としての顧客との管理の受け渡し、またその前提となる各種管理基準が不明確なままでの運営が行われている。物流工程そのものも充分な管理状態になっているかどうか疑わしい。まず物流は製造の悪さを食い止めるべき企業内最終工程であり、そして実務の多くがアウトソーシングされている状況では、明確な品質要求と管理状態の把握が不可欠であり、これが業務委託側のコア業務である。社外工程としての流通過程に対しては、明確な管理基準と責任の移転を確認する必要がある。物流管理基準の一部は商品外装に表示されるが、これもないがしろにすることはできない。
物流機能のこの管理レベルを向上させない限り、消費者に対し重要な責任を果たすことは難しく、流通インフラとしてのステータスを上げることもできないだろう

4.QC活動とHACCP・ISO認証取得

品質管理を経営が主導して全社レベルで完全に実施していくことについて、公的な認証を取得して対応していけば、その価値は一段と高くなる。米国向けの食品輸出ではHACCPの認証が前提になる場合があり、同様にヨーロッパ向けではISOの取得が必須の要件となる。そこで物流機能が果たす役割も大きい。
HACCPは主として製造段階での危害防止を目的としたもので、物流段階はその延長線上の保管設備として、しかも商品アイテムが限定される。従って物流事業者が独立して、例えば物流センターの認証をとるというものではない。ISOはもちろん独立した物流工程での取得が可能で、これを実現している物流企業も多くなった。この2つの認証は当然重なる部分があり、現在一本化にむけた調整も行われている。
これらの活動で一つの疑問を感じることは、現状の業務をそのまま標準化し、マニュアルのメンテナンスが行われるようにすれば認証取得ができるという側面である。今の仕事をより合理化し、ミスの起きないような仕組みに改善した上での標準化でなければ意味がない。これらの認証を取得した工場での不正やトラブルも発生している。絶対的に正しく、ミスの出ない工程などあり得ないわけであるが、それにより一歩でも近づける努力をしているかどうかである。
認証取得以前にまず為すべきことは、日常業務におけるQC活動である。現状の不具合を定量化し、その原因を追求し、PDCAサイクルを回して管理状態にすることが最低限必要である。この取り組みは一人でもでき、チームでやれば更に効果的である。これを管理者がリードし、一方では経営レベルでの改革が並行していけば理想的である。改善にはトップダウンで行うべき改革的な問題解決と、ボトムアップ的な課題達成の2つの側面が必ずあり、この取り組みを活発化することにより、業務工程を強くしていくわけである。このような活動の実態が作れなければ、認証取得もうまくいかないはずである。

5.消費者の不安解消とSCM進化の動き

許可されていない物質の使用や残留農薬、原産地や商品そのものの偽装等、消費者の不安を募らせる事例は枚挙に暇がない。これを解消する有効なシステムとしてのトレーサビリティーも注目を集めている。しかし情報システムの普及が先にありきではなく、まず消費者に品質を保証する仕事の仕組みが整備されていかなければならない。
製造段階での品質が保証され、さらに物流工程での危害発生を防止し、流通過程でもその管理が維持される状況を作る必要がある。これをSCMの体系に具体的な基準として織り込み、それを実現していくべきである。その重要ポイントは次の通りである。

SCMをより進化させるCPFRという取り組みも始まっている。これは需要予測や商品補充を協働化するという概念だが、流通の主導権を握るところが一方的に構築するものではなく、あくまで対等な立場での機能分担による。物流ビジネスも高品質を武器にここに食い込めなければ、単なる下請けに終わってしまう。
これらの流通変革やグローバル化により、物流はますます消費領域にパラダイムシフトしている。消費者に近づけば近づくほど、物流業務としてのリスクは高くなり、品質管理により一層の厳密さが要求される。これを乗り越える仕組みや管理体制を作ったところが物流企業としての勝ち組であり、結果として高収益事業者として存在している。

以上



(C)2002 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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