ロジスティクス・レビュー

第211号標準EDI「流通BMS」の最新動向(2011年1月6日発行)

執筆者 坂本 尚登
財団法人 流通システム開発センター 研究開発部長
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴 1979年10月 財団法人 流通システム開発センター入所。
    研究開発部主任研究員、次長を経て
    2006年6月 研究開発部長。
    2009年4月 流通システム標準普及推進協議会部長を兼任。
    現在に至る。

目次

  消費財流通業界の標準EDIとして、2009年10月に完成版がリリースされた「流通BMS」(正式名称は流通ビジネスメッセージ標準)が本格的な普及段階を迎えている。
  先行しているスーパー業界で大手の足並みが揃ってきたほか、中堅以下の小売業にも広がりをみせている。また、スーパー以外の百貨店、ドラッグストア、ホームセンター、生協などにも拡大しており、まさに業種・業態・企業規模を超えた流通EDI標準の名にふさわしい状況になりつつある。

1.JCA手順の後継としてスーパー業界で検討

  消費財流通業界のEDIは1980年以降、JCA(注1)手順/固定長・個別メッセージ方式で行われてきた。1990年代に入ると、国際標準に準拠した高速通信手順(JCA-H手順)と可変長・標準メッセージ(JEDICOS)が制定されたが、普及しないままに終わった。
  2000年以降急速に普及したインターネットはEDIの世界に安価なWeb-EDIをもたらした。Web-EDIは端末側に特別のソフトウエア対応を必要としない点で中小零細企業には便利なツールだが、自社システムとの自動的なデータ連携を望む中堅以上の企業にとっては、新たな多端末(多画面)現象を生む結果となっている。
  老朽化するJCA手順の一方で個別仕様のWeb-EDIの台頭に危機感を抱いた日本チェーンストア協会は2005年8月、日本スーパーマーケット協会と合同で「次世代EDI標準化WG」を立上げ、経済産業省の事業支援を得てメッセージの標準化とグロサリー業界との間で共同実証を行い、2007年4月に流通BMSの最初の版(Ver.1.0)を発表した。流通BMSはその後、業種(アパレル、生鮮等)・業態(百貨店、ドラッグストア、ホームセンター)の拡大を経て2009年10月のVer.1.3リリースによって当面の大きな標準化活動を終えた。(図1)

図1 Ver.1.3の標準メッセージ一覧

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2.ビジネスプロセス改革の実現を目指して

  流通BMSは単にJCA手順(公衆回線/専用回線)をインターネット回線に切り替えるだけでなく、スーパー各社のビジネスプロセスのパターンを整理し、それに対応した標準メッセージが策定された。これによって各社の現行業務が担保され、いつでも流通BMSに切り替えられるようにした。例えば、小売独自仕様の大きな要素であった卸からの納品パターンを下記の6パターンに分け、いずれのパターンでも対応できるようなメッセージ構成とした。このことによって、各社の現行業務が担保され、いつでも流通BMSに切り替えることができるようになった。

•店舗直接納品
•通過型センター(TC)納品(店別仕分納品)
•通過型センター(TC)納品(店別発注-総量納品)
•通過型センター(TC)納品(総量発注-総量納品)
•買取在庫型センター(DC)納品
•預り在庫型センター納品

  JCA手順から流通BMSに切り替えることによって、最も早く効果として表れるのが、データ伝送時間の短縮である。例えば、JCA手順で発注していた小売業では大手取引先との間で数十分かかっていた伝送時間がほんの数分で終わるという時間短縮効果が上がっている。通信時間の短縮は、小売業の発注締め時間の後ろ倒しや、卸・メーカーのリードタイムに余裕が出ることによる物流上のさまざまな効果が報告されている。
  また、時間の短縮を物流センター業務の改革につなげた事例も報告されている。愛知県に本社を置く大手スーパーのユニーでは、2009年3月に立ち上げたドライグロサリーの物流センターで菓子のTC(通過型センター)化を実現、従来の在庫型(専用センター)に比べて商品のロスを大幅に改善した。菓子は当日発注、当日納品のために在庫型センターとしていたが、流通BMSの導入により取引先との間で往復2時間の時間短縮を実現、卸汎用センターからのTC出荷型でも当日納品が可能になった。菓子は新旧の入替が激しい商品だが、TC型になることによって、卸側の商品ロスが軽減し、納品原価の引き下げにつながったという。

3.導入に向けて大手スーパーの足並みが揃う

  流通BMS協議会(注2)では2010年11月に、流通BMSの導入済/予定の小売業、卸・メーカーの社名をホームページ上で公開した。そのうち、小売業の企業数を表1に示す。ここに記載された数字は、流通BMS協議会が独自に把握し、企業名公開の承認を取り付けた企業の数字であり、協議会が把握できていない、あるいは把握していても公開できない企業があることをご承知おきいただきたい。
  導入済企業の中には、イオングループ、ユニー、ダイエー、イズミヤ、平和堂、ベイシア、マルエツ、西鉄ストア、成城石井など、導入事例として紹介されてきた企業が多く含まれるが、今回の社名公開では未導入の有力小売業、例えばイトーヨーカ堂、西友、アークス、東急ストア、サミット、ヤオコー、バロー、オークワなどの有力スーパーが名を連ねており、小売業の導入機運に拍車をかけることが期待される。
  スーパー以外では、百貨店、ドラッグストア、ホームセンター、生協、Aコープで導入の動きが見られる。

表1 スーパーの導入状況

(出所)流通BMS協議会が11月初めからホームページ上で公開している一覧より。
スーパー以外にも百貨店、ドラッグストア、ホームセンターを公開している。

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4.さらなる普及に向けた活動

  流通BMS協議会が2009年7月に実施したアンケート調査によると、回答した小売業138社の31%が流通BMSを「導入したいが時期未定」としている。その理由をさらに聞いてみると、「投資対効果が見えない」(60%)、「取引先から要請がない」(50%)などが多く上げられていた。
  このような課題に対して流通BMS協議会では、
•流通BMSの効果を分かりやすく解説した資料の作成
•正会員団体、支援会員企業、サプライヤー企業などあらゆるチャネルによる導入の働きかけ
•導入推進目標の設定
などの活動に取り組んでいる。
  流通BMS導入の決定権を持つ小売業は厳しいコスト削減競争にさらされ、新たなEDIインフラ投資もままならない状況にあるが、基幹システムの更新時には長期的な視点に立って流通BMSにも対応することを検討してほしい。
① コスト削減は自社だけでは限界がある。取引先も含めたコスト削減のためには標準EDI対応は避けて通れない。
② 安全安心な商品情報提供に代表されるように、これからは製配販三層が協働して、より低コストで消費者の満足度向上に向けて取り組む時代となる。その場合、標準EDIという共通のパイプラインを持つことが必須となる。
③ 標準化に対応すれば、IT企業が提供する豊富な商品の中から自社に合ったソフトウエアやASPサービスを選択することができる。流通BMS協議会では、下図のロゴマークを商標登録し、標準仕様に沿った製品・サービスにこのマークを表示することを許諾している。この活動によって、導入を検討する企業に標準仕様に沿った製品・サービスを紹介している。2010年12月現在、31社の55製品・サービスが許諾を受け、カタログなどに表示している。

流通BMSロゴマーク(商標登録済)

  EDIのように、業界が協調して取り組むインフラの選択に当たっては、企業も目先の利益を追求するのではなく、長い目で見た投資判断を求めたい。

以上

【注釈】
(注1)
JCAは日本チェーンストア協会(Japan Chain-stores Association)の略称。
同協会が1980年に制定した取引先オンラインのための標準通信手順をJCA手順と呼んでいる。
(注2)
流通BMS協議会は、流通BMSの標準仕様の維持管理と普及推進を目的に2009年4月、(財)流通システム開発センター内に発足。
業界団体48団体を正会員、IT企業等147社を支援会員として活動している。
(会員数は2010年12月1日現在)


(C)2011 Naoto Sakamoto & Sakata Warehouse, Inc.


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