ロジスティクス・レビュー

第21号米谷雅之著『現代製品戦略論』,千倉書房,2001年。(その3)全体のまとめ(2002年12月06日発行)

執筆者 藤田 健
山口大学経済学部助教授
    執筆者略歴 ▼

  • 略歴
    • 1972年 大阪生まれ
    • 1995年 大阪経済大学経営学部経営情報学科卒業
    • 1997年 神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了
    • 1998年 神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程退学
    • 1998年 山口大学経済学部助手
    • 2000年 山口大学経済学部講師
    • 2002年 山口大学経済学部助教授
      現在に至る
    担当科目
    • 流通論,マーケティング論
    研究領域
    • 製販統合,生・販統合システム
    主要論文
    • 「ジャスコ・花王のEDI導入の実証的研究――チャネル・パワー論批判の出発点として――」,第13回電気通信普及財団社会科学学生賞入賞論文,1998年3月。
    • 「定特分離のビジネス・プロセス」石井淳蔵・石原武政編著『マーケティング・インタフェイス』,白桃書房,1998年5月。
    • 「化粧品メーカーにおける生産システムの革新――延期-投機理論の視点による一考察――」『山口経済学雑誌』,第48巻第1号,2000年1月。
    • 「生産と販売の需給調整過程に関する一考察」『山口経済学雑誌』,第50巻第3号, 2002年5月。

目次

本稿は、『現代製品戦略』のまとめとして、第1部から第2部の内容を簡潔に紹介し、第3部の製品戦略のダイナミクスについて概観する。

第1部 マーケティングと製品戦略

(1) 本書の枠組み

 マーケティングは、多くの論者が述べているように、自社の製品(もしくはサービス)の需要を創造し、販売を実現するための企業活動の総称である。その中で、本稿における製品戦略は、流通過程に投入される製品の創出(製品開発)と供給(生産・販売)にかかわる活動を指す。

 マーケティング(ないし製品戦略)はマクロ的には需給の斉合を目指した活動である。ところが、生産と消費は潜在的に対立的性格を持ち、マーケティング(ないし製品戦略)の斉合活動を困難にする。特に販売の困難性の高まった現代市場においては、生産企業は、マーケティングの全活動をとおして消費・需要側に受け入れられる製品を作り出そうとする。そこでは、製品がマーケティングの中核的地位におかれるようになる。つまり、生産企業のマーケティングが仮に価格・広告・流通政策を行う活動だとすると、それらすべてのマーケティング活動が消費者に受け入れられる「製品」を作り出すための活動として認識される。その意味で、広義の製品戦略は、マーケティングと同等の意味を持つとみることができる。

 それでは、個別的・ミクロ的意味での製品戦略において、製品をどのように理解すればよいのであろうか。製品戦略における製品は、(i)需給調整の手段(紐帯)でありつつ、(ii)消費者の知覚の総体であり、(iii)消費者の知覚形成の手段であるとともに、(iv)競争の手段ともなりうるといった多面性を持った存在だと理解できよう。

 生産企業が行う製品戦略に影響を与える要因は3つある。それらは、(1)市場需要、(2)企業が保有する資源(実物的資源と精神的資源)、(3)競争の状態である。企業はこれら3つの要因に規定されながら、製品戦略を計画する。製品戦略の実行はまた、これらの3要因に影響を与えるという意味で、両者の相互関係を生み出す。本書は、製品戦略の形成と展開をこの3つの要因との関連で説明しようとする。

(2) 製品戦略の志向性と変化への対応

 生産・供給の論理と消費・需要の論理の対立的状況を作り出す原因はどこにあるのだろうか。社会的な視点から本質的な原因を突き詰めると、生産者と消費者の品揃え物の齟齬(そご)に行きあたる。生産者は少品種・大量生産を行うが、消費者は必要性に基づいて多品種・少量の品揃えを行うからである。

 生産企業は品揃えの齟齬を個別的に解消するために、製品戦略によって差別化を行おうとする。企業による個別的な差別化は、(i)供給者によって意図的に行われる「生産志向的差別化」(コストリーダーシップ戦略)と、(ii)需要異質性に対応する供給側の「消費志向的差別化」(差別化戦略)という活動に分類できる。

 また、企業のマーケティングないし製品戦略は、製品ライフサイクル(PLC)という製品の時間的変化を通して捉えることができる。PLCは、マーケティングの研究と実践において今や最もポピュラーな概念の一つになっているが、多くの曖昧性をもつ概念でもある。そのため、PLCは数々の批判にさらされてきた。本書はPLCモデルを批判的に検討しながら、PLCに代わる新たなモデル(製品進化サイクル)について言及する。

第2部 製品戦略の形態

 第2部は、マーケティングにおける4つの基本的な製品戦略の理論的・実証的分析を行う。本稿で検討された戦略形態は、(i)製品差別化と市場細分化,(ii)計画的陳腐化,(iii)製品多様化,(iv)新製品の開発である。

 第一の製品差別化と市場細分化は似て非なる性質を持つ戦略であり、その異同について多くの議論がなされてきた。ある論者は製品差別化と市場細分化を代替的関係として捉え、別の論者は前者を後者の補完ないし実施手段と捉える。本書は主要な研究を展望しながら、両戦略の特殊性と共通性を析出する。

 第二の計画的陳腐化は、成熟した市場において買い換えや買い増しを促進する更新需要刺激型の戦略である。企業は、製品に対してその時間軸を操作することによって、反復購買の頻度を意識的に高めて更新需要を創造する。そのため、(i)機能的陳腐化、(ii)スタイルないし心理的陳腐化、(iii)構造的陳腐化という手法が採用される。現実的にはこれらの手法が組み合わさり、モデルチェンジとして現れるが、本書は乗用車をケースとしてその実態を明らかにする。

 第三の製品多様化は、企業の成長戦略において既存の製品-市場関係から独立した製品を創出し、当該企業の製品構成における多様性ないしは異質性を高めることである。製品多様化は企業に経済的な優位性をもたらすが、他方で(i)経営資源の拡散、(ii)カニバリゼーションという問題もでている。ここでは最近の動向をふまえながら、製品多様化の問題を考える。

 第四の技術革新と新製品開発を、企業は競争優位を持続するために積極的に行う。技術と市場における変化が急激かつ大きければ、新製品の開発活動はそれだけ活発になる。本書は、わが国企業の新製品開発の実態を明らかにするとともに、技術ポートフォリオ、先発者優位の問題、および新製品開発の成功要因の問題等について考察する。

第3部 製品戦略のダイナミクス

 第3部は、製品互換性(第8章)・システム製品(第9章)といった複数製品に関する製品競争と,戦略的提携(第10章)による製品開発を取り上げ、製品戦略の動態的性格を分析する。ここでは、複雑な論理展開には立ち入らず、その内容を概観するにとどめる。

(1)両購買類型共通の実行枠組

 製品の互換性標準の採用は、(i)市場範囲を拡大し,(ii)消費者を組み合わせ購買に導くことでスイッチング・コストを高め,(iii)企業の技術競争・市場支配力を変化させるなどの影響を企業の競争行動に与える。互換性をめぐる企業間競争は、標準間競争と標準内競争を含む。これら2つのタイプの競争が企業間協調と組み合わさり、互換性の設定から廃棄に至るまでの全過程で複雑に絡み合いながら展開する。

 企業の競争行動を見た場合、革新的な互換性標準の採用は、企業を不確実性に直面させ、社会的には非能率な行動をとらせる。たとえば、優れた技術や標準が市場に登場したとしても、現有の標準を支配する企業が新しい技術や標準の市場浸透を阻止することで、過去の標準を使い続ける「過剰慣性」という行動が生みだされる。あるいは、逆に競争に乗り遅れまいとして過度に新しい標準の採用を進める「過剰推進」という行動が生みだされる。

(2)製品のシステム化と企業間競争

 現代の製品は、単一製品として存在するだけではなく、複数の要素製品(コンポーネント)の組み合わせによるシステム製品として存在する。単一製品とシステム製品とでは、消費者や競争行動に異なる影響を与える。システム製品は、(i)消費外部性効果の影響を受けるとともに、(ii)消費者に多様な製品を組み合わせて利用する機会を提供し、(iii)価格支配をめぐるシステム内とシステム間の二次元での競争をひきおこす。

 システム製品をめぐる競争は複雑であり、独自の標準を設定して消費者を囲い込むほうが有利となる場合もある。しかし、独自の標準は消費者にとってのシステム多様性を犠牲にする。その点から考えると、複数の企業による互換性標準にもとづいたシステム製品の提供は、現代の多様な消費者ニーズへの対応を可能にする。また、競争的側面から考えても、システム製品市場での支配力の獲得は、価格面でのパワー、互換性標準、ライバルリー、技術革新の統制をも可能にする。

(3)戦略的提携の動態的性格

 戦略的提携はロジスティクスの効率化だけでなく、製品開発・共同研究開発などの新しいタイプの製品戦略を含んでいる。垂直的な次元での戦略的提携を、製販戦略提携と呼ぶ。製販戦略提携は、ロジスティクスや情報技術導入といった業務特定的な機能的戦略提携だけでなく、商品開発を行う包括的戦略提携も含んでいる。製販戦略提携は一般に機能的戦略提携からはじまり、徐々に戦略性を高めることで包括的戦略提携に至ると言われている。水平次元、垂直次元を問わず、戦略的提携は現代の企業間関係を説明する基軸である。

 戦略的提携は企業の資源と企業間関係という2側面から検討することで、その特質を理解できる。企業の資源という観点から見ると、戦略的提携は、企業の存続と成長に必要な経営資源を確保するための一種の企業間連合である。特に、双方の企業が特定の企業以外から経営資源を入手できないような場合、補完資源を獲得するために両者は相互に結束しようとする。そのため、戦略提的携は、企業の戦略意図を達成するためになされる外部資源の戦略的利用と見なせるのである。

 企業間関係という視点から見ると、戦略的提携は信頼関係をベースとした協働によって双方の企業が優位性を求めて協調する行動である。そうであるがゆえに、相手企業とのパワーバランスや予期しないコンフリクトの発生、あるいは関係特定的投資が埋没費用となるといったリスクに直面する。こうしたリスクを含む関係が、企業間の取引関係にダイナミクスを引き起こす。

(4)製品戦略の進化と発展

 現代製品戦略は、ハイテク化、システム化、ソフト化、ネットワーク化という流れで変化している。しかし、製品戦略が発展したとしても、完全な需給斉合は困難である。そのうえ製品戦略は、ソフト化に対応したブランド管理を必要とするだけでなく、さらに、激しい技術革新や消費需要の変化によって大きな変更を迫られるかもしれない。また、製品戦略によって消費者の欲求を汲み上げた製品を創ったとしても、消費者は製品戦略の意図どおりにそれを知覚するとは限らない。製品戦略はこのような制約や限界を持つにもかかわらず、否、そうであるからこそ、さらに一層の積極的,継続的な展開が要請されるのである。

 本書は以上の3部を通して、現代マーケティングにおける製品戦略の形成と展開を、その動態的な性格に光をあてながら、理論と実証の両面から明らかにする。

以上


【注】
 米谷 雅之(こめたに まさゆき)氏:山口大学 経済学部教授
●経歴
 1941年 福岡県に生まれる
 1964年 山口大学経済学部卒業
 1971年 神戸商科大学大学院経営学研究科修士課程修了
 1971年 山口大学助手(経済学部)
 2001年 博士(商学)(神戸大学)
 現在 山口大学教授(経済学部)
●主要業績
 田村正紀・石原武政編『日本流通研究の展望』,千倉書房,1984年、
 石原武政・小西一彦編『現代流通の動態分析』,千倉書房,1991年、
 田村正紀・石原武政・石井淳蔵編『マーケティング研究の新地平』,千倉書房,1993 年、
 などに分担執筆。
 その他、『山口経済学雑誌』,『東亜経済研究』(山口大学)等に論文多数執筆。


(C)2002 Takeshi Fujita & Sakata Warehouse, Inc.


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