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グローバル・ロジスティクス

第206号Denner AG スイスのディスカウント・スーパーDC(2010年10月19日発行)

執筆者 鈴木 準
サン物流開発 代表
    執筆者略歴 ▼
  • 学歴 東京経済大学商学部卒業
    産業能率短期大学生産管理科卒業
    日本電子専門学校電子計算機科卒業
    職歴 セーラー万年筆(株)経営企画室主任
    (株)長崎屋 物流部・電算部部長・システム本部副本部長
    (株)サン商品センター代表取締役社長
    (有)サン物流開発代表取締役
    サン物流開発代表
    現在に至る
    講師 専修大学講師・早稲田大学講師及び早稲田大学アジア太平洋研究センター講師経験
    JILS 物流現地フォーラムコーディネーター 20年経験
    日経ビジネススクール講師
    文化ファッションビジネススクール講師
    中小企業事業団登録専門指導員経験
    資格・所属団体等 物流管理士、販売士1級、日本物流学会会員、国際物流管理士
    その他 海外物流視察100回、内外合わせて1,000施設視察
    2006年 (社)日本ロジスティクスシステム協会 物流功労賞受賞
    連絡先 事務所 〒274-0822千葉県船橋市飯山満町3-1761-105
    TEL.047-467-1077

目次

訪問日 2010年6月21日10時~13時
所在地 スイス・マーゲビル Steiacherstrasse 3 CH-5506 Magenwil
業 種 ハードディスカウンター
ご案内 Mr.Markus Wiuthrich、LeiterVerteilzentrale

1.スイス第3位のスーパー

  デナー社はスイスのディスカウント・スーパーマーケット・チェーンです。マーケットシェアは11.4%、MigrosとCoop(スイス)に次ぐスイスの3番目に大きいスーパーマーケット・チェーンです。
  創業は1881年、第二次世界大戦のすぐ後にカールSchweriによって創業され、1967年にチューリッヒでスイスの最初のディスカウント店を開店しました。


マーゲビル物流センター

  同社の売上高の75%はプライベートブランドです。デナーは、2007年にスイス大手スーパーMigros(ミグロ)に70%の株式を売却した。この戦略は、ミグロの主導でドイツの同業アルディのスイス進出を阻止することが目的でした。その後、直ぐ、ミグロはデナーの株式の大多数を購入しました。
  スイスの2大スーパー、CoopとMigrosは、スイス市場に参入してきたドイツのAldi(アルディ)に対抗し、自社ブランドの商品を相次いで値下げしました。ディスカウント業態で経営し、ドイツで成功しているアルディは、店内はきわめて質素、商品棚なども必要最低限の設備に抑え、低価格の商品を提供しています。「ディスカウント化するドイツ小売業」と云うアルディを研究した書籍がドイツで出版されています。永年、スイス市場での大部分のシェアは、CoopとMigrosで占められていましたが、アルディがスイス市場に参入してきたことで既存のスーパーに大きな変動を起こしつつあります。

  いずれにしても、こうした価格競争が起きることは消費者にとってはうれしい事で、商品の質を下げずにどこまで戦えるのか注目されると同時にカスタマーサービスの向上にもつながれば何も言う事はありません。
  大手スーパー・ミグロは、2008年の上半期売り上げを前年比約5%増加させています。過去20年間で、最高の売上高と語るのはミグロのコンツェルンシェフ・ボーリンガー氏です。プライベートブランドの強化が功を奏したこともありますが、


自動倉庫

  そのうち1%は市場価格の高騰によるもので、2009年度の予想は3%増を見込んでいます。
  また、ミグロの傘下に入ったDENNERは、7~8%の売り上げ増で、ディスカウントマーケットも好調です。アルディがスイスマーケットへ新規参入したことは価格競争も含め、市場に良い影響を与えたといえるでしょう。

2.会社概要

住 所 Grubenstrasse 10,Zurich,
CH-8045, Switzerland
電  話 (41) 044 455 1111
Web: http://www.denner.ch
従業員 3,500人
年 商 CHF 2.15 billion
($1.76 billion) (2006) 約2千億円
業 態 食品ディスカウントスーパー


物流センター

店舗数 直営店450店、フランチャイズ店 300店(サテライト店)
従業員 3,300人

3.デナー社の歴史

1860: Heinrich Reiff-SchwarzはZollikonの町で食料品と衣料品の小売店を開店した。
1917: 創業者Birth of Karl Schweriが誕生
1946: Dennerを買収
1951: Schweri gains control of IGA.
1962: IGAはスーパーマーケットを開いた。これが最初のデナーである。
1967: デナーのディスカウントスーパーマーケットを開店
1969: 社名をDenner SA とする。
1984: Franz Carl Weber toy 玩具チェーン店買収
1993: ハードディスカントストアに業態変更
1998: フィリップGaydoul、Schweriの孫、社長就任
2007: 株式の70%をミグロに売却  その後100%近くを売却
(注) ミグロは生活協同組合から流通企業として発展し、世界40位、年商200億ドル

4.計量検査器つき自走ピッキングカート

*空パレット、破材もピッキング時に回収

  事業の成長で物流センターの拡張の必要が生じました。拡張計画の中心は約1,600SKUのピッキングシステムである。そこで、スイスのマテハン機器メーカーSwisslog (スイスログ)は同社が開発したCaddyPickRシステムを納入した。プロジェクトの主要な問題点は既存センターの業務を止めずに建設工事を進行することであった。
  もう一つの大きな工事は自動倉庫の建設である。自動倉庫は約2万㎡、奥行き170m、高さは17m、保管パレット数は19,300枚である。自動倉庫は、直接既存のビルに隣接して建設した。この設計にはマテリアルフローの短縮に苦心したそうです。自動倉庫の商品は1,600のピッキングステーションに供給されます。ピッキングシステムはSwisslogが開発したCaddyPickRシステムである。CaddyPickRは天井からの駆動装置により自走する台車です。
  このシステムは1983年頃にドイツの出版取次会社バーテルスマン社で、通信販売用に導入されています。それと前後して、ドイツの医薬品卸売業のHAGEDAにP+P社の製品が導入され、これが原点になって日本のピッキングカートが誕生し、成長しました。これが日本のピッキングカートのルーツであります。

*毎時240個のピッキング

  最初にCaddyPickRに2台のロールボックスを載せ、ピッキング情報をダウンロードする。この情報により、CaddyPickRは最初のピッキングステーションに自走して行きます。’pick by light’システムは、商品がどのパレットから取られるべきであるかをモニターに表示し、ピッカーに指示します。なお、ピッキングするパレットは赤い光線で表示され、 ピッキングが正しく終わると赤い光は消えます。
  CaddyPickRは重量計でピッキング結果をチェックし、異常がなければ次のピッキングステーションに移動します。作業の最中に出た破材は分別して収集し、廃棄物回収ステーションで自動的に排出する仕組みです。ピッキングの終了したロールボックスはその店舗に行くトラックバースの近くのステーションで自動的にCaddyPickRから下されローリフトのローダーでトラックに積まれます。
  自動化されたシステムは商品の非常に高いスループットを可能にしている。 このピッキングシステムは毎時240ケース以上ピッキングできる。CaddyPickRシステムは1日8時間で2,400個以上のカートンのピッキングを可能にする。(1時間300個はアメリカとほぼ同じ。)

5.物流センターの概要

  (1)建 物 27,000㎡
  (2)保管量 25,000パレット
  (3)自動倉庫 奥行き170m×幅70m×高さ17m 面積12,000㎡
収容パレット数 19,300枚 1,200×800、600×800、大型の3種あり
スタッカークレーン  12台
  (4)ピッキングシステム
機 種
Swisslog製CaddyPickR トロリー式ロールボックス搬送車 64台
作業指示モニター付き 計量検査装置 破材回収システム
台車搬送レール 2,000m
ピッキングステーション 1,600(SKU)
  (5)物 量 入荷/日 1,900パレット
出荷/日 126,000カートン 最大15トン/日
  (6)配送店数 269店(2010年2月以後)内訳:直営店151店、FC店118店
  (7)SKU 1,600

(注) ヨーロッパではアイテムはピースの意味であり、日本で言うアイテムはSKU(Stock Keeping Unit)と言う。

  (8)出荷精度 週のミス60個/756,000個、8個/10万、0.008%
  (9)特 売 週1回
  (10)従業員数 122人、組織は階層を少なくし単純化している。女性は少ない。
  (11)その他 ネットスーパーは300アイテム
  (12)投資回収 投資65億円、ROI 30年

6.オペレーション

  日本と欧州の物流の違いは日本がピースとボールで、ケースの比率が低いが、欧州はケースとパレットである。そして輸送はパレットかロールボックスである。ロールボックスは日本のスーパーの約2倍の大きさである。そしてパレットはレンタルである。ユニットロードは日本より進んでいる。配送車はフルトレーラーかダブルスである。
  ピッキングは日本のカートピッキングに似ているが、ロールボックスの搭載
ピッキング用のカートはロールボックスを2台積む大きさで自走式である。

広い構内の移動はスケートで
広い構内の移動はスケートで

(1)受 注
商品供給は本部が割りつけるアロケーションシステムと、店の発注がある。この二つの情報をコンピュータで処理して作業計画を立てる。
(2)ピッキング
ピッキングの主力は64台のSwisslog製CaddyPickRである。1台のCaddyPickRに2台のロールボックスを載せる。作業者はCaddyPickRに個人のIDを登録する。

ロールボックスの搭載
ロールボックスの搭載

CaddyPickRの車輪は床に設置しているが天井のレールで牽引される。
CaddyPickRは最初にピッキングする商品のある1,600のピッキングステーションの一つに自走する。
ピッキングステーションに到着すると、赤い光線でピッキングする商品を作業者に知らせる。

Swisslog製CaddyPickR
Swisslog製CaddyPickR

  CaddyPickRのモニターにはピッキングステーションのアドレス、ロールボックスの番号、商品コード、個数、標準作業時間を表示する。作業者はCaddyPickRの指示通りにピッキングし、指定のロールボックスに積む。
  作業者はCaddyPickRのキーボードから一つのSKUのピッキング完了ボタンを押す。
CaddyPickRは自動で計量し、重量検品を行い、ピッキングの正否を作業者に知らせる。

CaddyPickRのモニター
CaddyPickRのモニター

  ピッキングが正しければ、次のピッキングステーションに自走で移動する。作業者はCaddyPickRに伴走し、移動する。計画通りピッキングが完了するとリフトに行き、ロールボックスをリフトに乗せ、1階の出荷場に運び1バッチの作業を終わらせる。なお、CaddyPickRはピッキング作業の他に次の付随作業がある。

①リサイクル
  作業中に発生した包装材(段ボールとポリシートは作業者がCaddyPickRの指定の場所に積むが、廃材の置き場での排出はCaddyPickRが自動で行う。

②空パレットの回収
  空パレットも作業者が取りCaddyPickRのパレット置き場に積むが、パレットを下すのはデパレタイザーのような機械で下ろし、レンタルパレットの検査機に乗せる。

赤い光でピッキング指示
赤い光でピッキング指示

  環境保護に熱心なスイスの特徴が良くわかる。
ピッキングの基本的な方式はガルバニに似ている点があるが、ガルバニより、多くの設備投資がされている。基本的には日本のピースのカートピッキングに良く似ている。
  このシステムの元々の発想はドイツであり、日本のカートピッキングとルーツは一つである。

7.まとめ

  低価格で商品を提供するハードディスカウンターにしては労働装備率が高い。しかし、スイスの労働賃金の高さとスイスの「人に優しい作業」を求めるスイス労働者気質が高い投資をさせているものと思う。派遣やパートに頼る日本の物流、多品種少量、ピースの物流では、Dennerのような発想はできないと思います。


貨車の引き込み線


配 送 車

以上


(C)2010Jun Suzuki & Sakata Warehouse, Inc.

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