ロジスティクス・レビュー

第195号欧米医療業界の情報システムの動向と行政の取り組み(2010年5月6日発行)

執筆者 黒澤 康雄
財団法人流通システム開発センター 研究開発部 次長
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1989年から(財)流通システム開発センターに勤務。
    • (財)流通システム開発センターは、世界の消費財分野の企業番号、バーコード、EDIの国際標準化組織であるGS1(ジーエスワン 世界加盟108カ国・本部ベルギー)に加盟し、国内の医療機器、医薬品業界のシステム化、標準化を推進している公益法人です。2003年からは電子タグの国際標準であるEPCglobal(イーピーシーグローバル)の普及推進も行っています。2005年からはGS1が日米欧の医薬品・医療機器業界の製品識別や電子商取引の標準化を推進するために設立した「GS1ヘルスケア」という協議会にも参加しています。
    • 研究開発としては、物流分野の共通商品バーコードシンボルのJIS原案の作成を担当すると共に、ISO国際標準規格の自動認識についての委員会において、一次元シンボル、二次元シンボルのデータ項目の標準化作業を担当しました。
    • 医療業界とは1990年代前半から、情報化関連の委員会活動に客員、アドバイザ等で参加させていただいております。2006年9月の厚生労働省安全対策課の医療用医薬品のバーコード表示についての通知に関連して、技術仕様について厚労省、日薬連様と共にとりまとめ作業に協力しました。また製薬業界団体の御協力で、業界向けの技術解説書である「医療用医薬品 RSS合成シンボル 運用ガイド」を発刊しております。
    所属 財団法人流通システム開発センター 研究開発部 次長
    黒澤 康雄
     http://www.dsri.jp/
    TEL : 03-5414-8505  FAX : 03-5414-8514
    〒107-0052 東京都港区赤坂7-3-37

    Yasuo Kurosawa, Deputy General Manager,
    International Distribution Standard Dept. GS1 Japan
    Place Canada, 7-3-37 Akasaka, Minato-ku, Tokyo 107-0052, JAPAN
     http://www.gs1jp.org/
    Phone. (81)3-514-8505  facsimile. (81)3-5414-8514

目次

1.調査団の概要

 流通システム開発センターは、日本医療機器産業連合会、(社)日本病院会、(社)日本医薬品卸業連合会、(社)日本自動認識システム協会の後援をいただき、医薬品・医療機器業界の参加者15名による調査団を組織して、8月26日(水)から9月6日(土)まで欧米における医療情報システム実態調査を実施した。団長はNTT東日本関東病院長落合慈之先生、副団長はサクラグローバルホールディングズ㈱松本謙一会長(医機連副会長)が務められた。

 今回の視察先は英国、ドイツ、フランス、米国の計9ヶ所であった。日米欧の各国では医療制度が異なることから、薬剤や医療機器の管理手法に多少の相違がみられたが、どちらの視察先でも利害関係者すべてのミッションは患者安全の確保であることが現場見学を通じて感じられるとともに、管理手法について国内業界との比較分析ができ有意義な調査団となった。欧米の視察先の概要は下記の通りである。また、業界向けの報告会を12月1日に永田町都道府県会館において開催した。冒頭、厚生労働省医政局経済課首席流通指導官日下田敏彦様の御挨拶をいただいた後、落合団長、松本副団長はじめ各団員から約100名の業界関係者に対し報告が行われた。

2.調査団の目的

  • 欧米医療業界の製品サプライチェーンにおける業務の実態、特に医療機関の経営ビジョン、運営方法、院内物流システムやコスト削減策の実態を視察し、国内医療機関の更なる改善、システム化、標準化の基礎資料とする
  • 欧米の行政当局から医療安全に対する具体的施策をヒアリングし、また情報交換を通して、国内業界のシステムモデル作りのための基礎資料とする。
  • 国際標準化機関であるGS1(ジーエスワン)の米国組織(GS1 US)を訪問し、バーコード、電子タグ、E-コマース(電子商取引)、標準データベース等について業界動向を含めたセミナーを受講し、国内業界での標準化資料として活用する。

3.視察先の概要

(1)英国厚生省・NHS(ナショナルヘルスサービス ロンドン・イギリス)

 ナショナルヘルスサービスは、1948年創立のイングランド最大の公的保険支払基金であると共に、傘下の医療機関に対して医療資材の共同発注、納品、支払、製品マスター管理業務を行っている。NHSの運営方法、受発注、物流業務等についてセミナーを受講した。特筆すべきは、NHSが事業予算にもとづき傘下の医療機関の自動化や機械化の企画、導入、運用を積極的に推進していることである。

 現在、イングランド地域の医療機関の薬剤・医療機器の製品データベースの整備を鋭意推進しているとのこと。また、医療機関の現場業務に対しては、システムベンダーがネットワークシステムの導入を推進しており、正確さや迅速性・生産性の向上が期待できるとの見通しである。

(2)チャリングクロス病院 (ロンドン・イギリス)

 NHS所属病院。8割の処方薬は、薬剤部のピッキングロボットによって自動選別、抽出され、搬送コンベアによって外来薬局窓口に運ばれる。また納品薬剤はバーコード読み取りで自動認識されピッキングロボット内部の保管棚に無人自動搬入される。劇薬などの重点管理薬剤も電子保管棚によって安全管理を徹底している。

 院内調合については、調合室内に多関節ロボットを導入し注射剤をディスペンシングし、輸液バックを無人自動製造している。上層の病棟の薬剤管理についても、電子保管棚によって管理している。

(3)デュッセルドルフ大学病院 (デュッセルドルフ・ドイツ)

 ベッド数1,400、年間入院患者42,000人、年間手術数40,000件、外来患者30万人、病院勤務者47,000人の総合病院。患者安全と業務の効率化のため、当病院は北ドイツの13の大学病院で設立され、計300以上の病院に薬剤や医療機器および食材を供給する共同購買ネットワーク「EK UNICO」を利用している。年間62,000ユニットを処理する中材部門を見学。近隣病院の洗浄滅菌搬送業務も幅広く受託している。また院内の製薬調合設備を見学した。

(4)ロベルト・ブランジェ病院 (パリ・フランス)

 ベッド数650、年間約40万人に医療サービスを提供するインターシティ病院。年間に12万個の滅菌器具、2万個の滅菌コンテナを使用。手術器材のトレーサビリティ・備品管理のために、レーザー方式、ドットピン方式、シール方式を比較評価し、院内でレーザー刻印によるマーキングとトレーサビリティ管理を実施中。中材内部を見学。またコンピュータへのデータ入力は手による入力ではなく、バーコードメニューシートを机上に置き、スキャナでバーコードを読み取り作業を実施。ミス入力の排除およびクリーン度の保持のためキーパッドに触らない方針。病棟の薬剤管理は、電子保管棚によって管理されており、その運用手順を見学した。

(5)ポンピドー・ヨーロッパ病院(パリ・フランス)

 フランス公立病院支援機構によってシラク政権下の2001年に開設された、パリ地区で最も新しく建築デザインに優れた病院。当病院では病棟および薬剤部の電子保管棚による管理システムを見学。時間の関係で中材管理システム、資材購買の見学は実現しなかった。

(6)FDA CDRH(米国食品医薬品局放射線医療機器センター ワシントンDC・米国)

 移転後の新しいFDA放射線医療機器センターオフィスを訪問し、担当専門官より医療機器ユニーク識別情報化の取組みについてセミナー受講した。FDAでは、医療機器(本体を含む)の事故防止、製品回収、トレーサビリティ管理のために「ユニークデバイス識別(Unique Devices Identification)」の法制化を行っており、その運用細則を2010年春に施行する。特に法制化の日程に関して遅延は無いとのことである。

 日本からの米国向け輸出製品もこの義務化の対象となり、国内業界の対応が緊急課題であることに変わりはない。またFDAとしては、米国内の義務化、施行はもちろんのこと、欧州と日本の業界に対するUDIの国際整合確保をGHTF(Global Harmonizaztion Task Force)を中心に進めていくとの表明があった。建物外観、建物内部、ロビー等すべて写真撮影禁止となっていた。

(7)HIGPA米国共同購買機構協会 (ワシントンDC・米国)

  Healthcare Industry Group Purchasing Associationは共同購買組織(GPO)の全国団体。

 GPOは医療機関の資材購買について医療機関の指示により代理者として価格交渉を行う組織である。製品価格と物流費の明細を分化させている。価格交渉においては、仕入先メーカーごとに、また医療機関ごとに事業所・場所識別コードを必要としており、GS1 USとともにグローバルロケーションナンバー(GLN)の利用を医薬品・医療機器メーカーと医療機関に対して推進中である。

(8) GS1US (ジーエスワンユーエス プリンストン・米国)

 米国のコードセンターであり、国際標準化機関GS1のリーダー的存在。GS1USは米保健省、FDA(米国食品医薬品局)、国防総省と連携し、医療業界向けの標準化、システム化活動を推進中。製品識別コードのGTIN、事業所・場所識別コードのGLN、患者識別、物流識別のセミナーを受講した。

(9)アルバートアインシュタイン医科大学附属モンテフォーレ・メディカルセンター(ニューヨーク)

 全米の医療機関患者満足度比較調査において当病院は上位の評価を得ている。アルバートアインシュタイン医科大学の他の二つの附属病院と医療記録ネットワークシステムを稼動。薬剤部と中材現場を視察。薬剤の自動払出装置(ロータリーラック)を導入。調剤包装単位に表示されたGS1RSSバーコードを払出照合に利用。ナースステーションには薬剤の電子保管棚を導入し、緊急時の処置に対応できるとのことである。

4.全体の所感

 中央材料部門、薬剤部門、検査部門、病棟部門など医療現場のシステム化状況、安全対策の取組み状況、情報システム化の課題点、今後の計画などについて、短期間であったが英国、ドイツ、フランス、米国の医療現場を視察した。

 全体所感としては、医薬品や医療機器・材料のGS1標準コードによる体系化、薬剤名称の統一化、調剤包装単位への国際標準バーコード(RSSバーコード)表示の対応については、欧米よりも相対的に日本の業界の方がかなり進んでいると感じた。表示の段階をすでにクリアし、それらの利活用を構築中の日本において、医療機関の現場でさらに業務システムが導入されれば、患者安全やコスト削減の面から欧米業界を含んで世界の手本になるとも考えられる。

 理念や仕組み作りが得意な英独仏等、諸外国に対して、極め細やかな運用を実践できる、また実践している日本が、積極的に海外に向かって情報発信することが、グローバルな観点から大切であるといえよう。また医療技術や学会活動が日米欧で同等であると仮定するなら、国内の医療情報システムの積極的な事例発表、体外発表は現状の緊急課題であると考える。

 欧米医療情報システム実態調査団名簿(順不同)

以上



(C)2010 Yasuo Kurosawa & Sakata Warehouse, Inc.


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