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グローバル・ロジスティクス

第192号KRONANS DROGHANDEL スウェーデン:国営の医薬品小売業を民営化(2010年3月23日発行)

執筆者 鈴木 準
サン物流開発 代表
    執筆者略歴 ▼
  • プロフィール 1933年9月22日 東京都江東区出生
    学歴
    • 東京経済大学商学部卒業
    • 産業能率短期大学生産管理科卒業
    • 日本電子専門学校電子計算機科卒業
    職歴
    • セーラー万年筆(株)経営企画室主任
    • (株)長崎屋 物流部・電算部部長・システム本部副本部長
    • (株)サン商品センター代表取締役社長
    • (有)サン物流開発代表取締役
    • サン物流開発代表 現在に至る
    講師
    • 専修大学講師・早稲田大学講師及び早稲田大学アジア太平洋研究センター講師経験
    • JILS 物流現地フォーラムコーディネーター 20年経験
    • 日経ビジネススクール講師
    • 文化ファッションビジネススクール講師
    • 中小企業事業団登録専門指導員経験
    資格・所属団体等
    • 物流管理士、販売士1級、日本物流学会会員、国際物流管理士
    その他
    • 海外物流視察100回、内外合わせて1,000施設視察
    • 2006年 (社)日本ロジスティクスシステム協会 物流功労賞受賞
    連絡先 事務所 〒274-0822千葉県船橋市飯山満町3-1761-105
    TEL.047-467-1077

目次

Ⅰ.民営化進むスウェーデンの医薬品流通

ヨーロッパは福祉国家のモデルとなるような国がひしめいており、ほとんどの国が医療や福祉の分野に力を入れています。特に、スウェーデンやノルウェーなどの北欧諸国は世界一の福祉レベルを誇ることで知られています。もちろん、そのような医療・福祉制度を実現するには高い税負担は避けられません。しかし、そのような負担をしてでも現在のシステムを維持しようという世論が大多数であるために、ヨーロッパ諸国の医療制度は充実したものとなっています。
ちなみに医師数ではスウェーデン国民340人に医師1名で、日本は国民600人に医師1名である。医学生定員はスウェーデンは国民1万人に対1.2人、日本は国民1万に対し0.6人と医師数も医学生数もスウェーデンが国民1人当たりでは多いです。しかし、収入の面では医師は必ずしも恵まれた職業ではありません。 理想の福祉国スウェーデンにも福祉負担に耐えられなくなり、北風が吹いています。2009年7月から薬局が民営化されます。
日本の健康保険制度も、ヨーロッパの仕組みを真似たものであるため、ヨーロッパ諸国が取る今後の政策は日本の近未来像に対するヒントになるかも知れません。スウェーデンの薬事流通改革実施時期と同じ時期に、日本では2009年6月1日より、「改正薬事法」が施行されました。これにより医薬品の販売が、大きく変わります。コンビニエンスストアやスーパーマーケットでOTC(Over the counter)と呼ばれる医薬品が販売できるようになりました。今回の改正では、大衆薬は3段階に分類された。副作用に注意が必要な度合に応じて 振り分けられたものだが、これによって、より注意が必要とされた第1類に分類された 医薬品は、薬剤師が副作用などの説明をした上でないと販売が認められなくなりました。
スウェーデンは福祉先進国というお国柄を反映して、国家による医薬品流通のへの関与と統制が長い間、続けられていました。薬価は国の決めた公定価格であり、しかも販売は国営薬局です。北欧全般に医薬品流通に対する国の関与は強いが、お隣の国デンマークでは既に民営です。スウェーデン国内の薬局数は約900店、卸売業は2社だけです。その1社が(KRONANS DROGHANDEL(以下KD)です。卸(KD)の顧客は薬局とメーカーです。取扱商品は医薬品の他、医療器具、介護器具、用品です。ヘルスケアと呼ばれるものは除外されています。流動食のようなものはヘルスケアと聞きました。いわゆる医薬部外品でしょうか。日本と定義・分類がちがうかも知れません。
メーカーがお客様ということは、KD(卸)はメーカーの3PL機能を担っていると言えるでしょう。KDの在庫はKDの資産ではなく、メーカーの資産です。KDの在庫管理は預かったメーカーの資産の管理であり、いわゆる市場や生産を対象にした管理ではありません。北欧の医薬品卸の企業数は少ないですが、EUになってから、国境を越えてM&Aが盛んです。KDのライバルのADA社はフィンランドの卸業者に買収されています。
KDの収入は取扱高の3%です。荷受け、保管、ピッキング、梱包などである。薬局への請求はメーカーが行います。北欧の他国は6%と聞いたが、他者の半分で経営が成り立つのかどうか不思議です。流通はシングルチャネルで、同じメーカーの商品は2社では扱えません。また小売の薬局への卸価格はメーカーが決めており、卸に価格決定権はありません。結局、価格は政府が川上から川下まで統制しています。

Ⅱ.民営化で国が株式売却

既に、1970年、KDの株式は株主の国が投資会社に売却しました。KDの競争相手のADA社はフィンランドのTamro社に買収さました。1970年の中頃からはメーカーが小売りの薬局に直売するルートと卸がメーカーと小売りに間に入る二つ流通ルートがありました。

Ⅲ.スウェーデン医薬品物流の特徴

スウェーデンは縦に2千Kmの長さありますが政府で決めたリードタイムは24時間です。仕方なく2か所で良いDCを3か所に持ちます。
薬局はいつでも返品できるため、返品が多い。返品処理を手早く、手間をかけずにやるのがDC管理のポイント。
運送は業者に委託している。1車で15軒から20軒、薬局の要望によっては夜間無人配送もある。

Ⅳ.KDと云う会社

KRONANS DROGHANDEL社(以下KD)は本社をスウェーデン、イエテボリ市のメンリッケにある国営の医薬品卸売業です。現在株主は投資会社で、民営です。年商は10億ユーロ(約150億円)競合は1社、マーケットシェア44%。1907年創業、1990年国営となる。従業員340名(フルタイム換算)1970年代は2桁成長でしたが現在は2~3%です。
同社は1990年代の北欧医薬のハブ化構想に合わせて、収入を増大し、競争に勝ち、生き残るために、フィンランド、ノルウエーにも進出しています。
経費は人件費、建物と設備、運賃及び情報部門の費用であり、人件費と情報費用が全体の60%です。取扱店舗は400店です。

Ⅴ.DCのオペレーション

スウェーデンの医薬品というより、物流は業界を問わず先進的である。KDのシステムは10年以上前に開発されたもので、その時代のシステムが多くの改良を経て、ノウハウが蓄積され、利用されています。最近導入されたのはKNAP社の自動ピッキング装置、Aフレームである。自動倉庫は何と1982年製で、倉庫ごと買い、その後、スタッカークレーンをリニューアルしました。
1日の出荷量は4万9千ライン、315,000ピース、8,800ケース。サービスレベル97.34%、精度99.6%。仕入れ先100社、出荷先約1,000店です。

1.インターネットで顧客の店が在庫検索

受注は毎日15時締切り。薬局がコンピューターにデーターをストレージしておくとKDが一定時間に取り出すポーリングシステムです。95%以上オンライン(EDI)で、DCの在庫は公開されており、薬局はインターネットで在庫を見ることができます。そして2000年代の初めにRFIDを導入しています。
スウェーデンのパレティゼーションは世界で一番先行し、パレットレンタルシステムは100%普及しています。2000年にはASN(Advanced Shipping Notice)が導入されています。ASNデーターと商品を照合し、問題がなければ、入荷ラベルを発行し、パレットに貼ります。パレットに異常がないかチェックして、入荷ラベルのバーコードをスキャンして荷受を完了し、自動倉庫に格納します。倉庫が古いためか、元、紙の倉庫にあったためか、重いものは下部に軽いものは上部に保管する。紙屋で使っていたためかスプリンクラーが沢山付いているのが印象的でした。

2.パレチゼーション・レンタル100%

なお、格納前にパレットを検査します。これは、自動倉庫の安全もあるが、納入業者から悪いパレットを受けないための防御策です。スウェーデンの流通業界は殆どパレット・プール・レンタルシステムに参加しているので、悪いパレットを受けた企業が修理または新品と交換しなければならないのです。
*自動倉庫の仕様
メーカー  :IVAS社製 ユニット式
奥行き   :115m、 高さ26m  荷重700Kg
保管量    :14,300パレット
出庫量   :1日850パレット
コンピュータ: MTH
保管温度  :15~25℃ 上下温度差 5℃
*冷蔵自動倉庫
温度     :8℃~15℃
*自動仕分機
エアシリンダーのプッシャータイプ今時博物館入りだが、呼称は少なく、メンテナンスがやりやすい。

3.ケースピッキング

   ピッキングステーション

 ケースは自動倉庫からピッキングする。自動倉庫からパレットがピッキングステーションに出庫される。ピッキングステーションにはターミナルがあり、ピッキング数と残数が表示される。その近くにパレットを載せるリフトがある。ピッキングステーションからケースを取り、出荷パレットに積む。ケースを1段積むと、パレットを1段分下げる。作業者はいつも同じ姿勢で荷を積めるようになっている。満杯になると、フォークがパレットを掬い、出荷バースに運ぶ。そして空パレットをローディングステーション(リフト付きパレットテーブル)に置き、次の作業に入る。ローディングステーションは6基ある。

4.RFID利用のピースピッキング

 コンテナのICチップ  伝票を自動投入  リストピッキング
受注内容で出荷計画を作る。
出荷コンテナ単位のバッチピッキングシステムを作る。
コンテナの底にはRFIDのICチップが埋め込まれている。
出荷伝票がコンテナ単位で印刷され、コンテナに自動投入され、ピッキングリストのIDがICチップに書き込まれる。
コンテナは多頻度出荷の”A”低頻度出荷の”B.C”に分かれて流される。
“A”ラインに入ったコンテナはAフレームに入りピッキングし、出荷仕訳に行くか、”B,C”に回送される。DPSは使っていない。
“B,C”ラインのピッキングは完全マニュアルである。ピッキングリストを見て、ロケーションを探し、指定の個数をピッキングして、コンテナに入れる。複数のピッカーが1ライン入るので、色のついた洗濯はさみでマーキングし、他のピッカーと区別する。RFIDは何だったのか疑問が残る。「最初にRFIDありきの」のような気がする。「見える化」でなく、「見せる化」である。
ピッキングが終了したコンテナは出荷用の時代物の自動仕分機でルート別に仕分けられる。これでは、ミスが出るだろうと思い、検品について聞いたところ、検品はしないそうだ。薬局が検品して間違っていればKDにクレームが来るだけのこと。ミス率は千分の5だそうだ。現代と近代が混在し、頭が混乱する。さて、スウェーデンでは医薬品流通の制度が2009年7月1日より制度改正があり、薬局が民営化すると、お役所仕事に大きな変化が出て、顧客である薬局のKDに対する要求も変わり、強くなるでしょう。特にシングルチャネルが廃止されれば、大きな変化が起こり、卸と小売りの間に紛争を生むかも知れません。

5.Aフレーム

   Aフレーム

 Aフレームとは薬粧品の自動ピースピッキング装置です。KNAP社製である。機械の前から見た形がアルファベットのAの形をしているのでAフレームという。Aの三角の両側に商品を入れるスタッカーがある。Aの下部の―がコンベヤである。オーダーの量により、1オーダーのコンベヤ上に仮想の空間を作る。

   コンテナに投入

 コンテナは容積がら商品の量が計算されピッキング量が決められます。通常バーコードを使って管理し、コンピュータがコントロールする。商品のスタッカーの下部に切り出し装置があり、ダルマ落としのように商品をコンベヤの仮想空間にはじきだす。1ロットのピッキングが終わる前にコンテナがコンベヤの末端に来て、商品を受ける。

  ピッキングが終わったコンテナは出荷場へ行くが、B,Cグループの商品のピッキングがある場合はそのピッキングラインに行く。Aフレームは1970年頃アメリカで開発されエイボン化粧品が最初に導入した。欧米では未だに愛用者が多いが日本で導入しているのは日本アムウエイだけである。
  配送は運送会社に委託している。スウェーデン全域に受注後24時間で配送する。配送のグリーンのコンテナは配送の2日後に回収するルールになっています。回収後洗浄します。

6.薬品流通改革に対するKDの対応

2009年7月1日からスウェーデンの医薬品流通は民営化された。国営卸売業であったKDはどのように対処するのか聞いてみました。

KDは新しい市場を作り出す。
KDは初日からすべての薬局に商品を供給する。
KDは優れた物流力で薬局業界のために尽くす。
KDのロジスティクスサービスを薬局業界に提供する。
KDは新規参入の薬局、従来の薬局、新しいチェーンストアに、分け隔てなく、ロジスティクスのサービスを提供する。
KDは本来の卸売業として発展する。
KDは医薬品以外の新しい商品を開拓し、提供する。

7.入札で薬局を売却

スウェーデンでは高福祉と不況により、財政がきびしくなり、諸々の改革を進めている。医薬品ではサービスの向上を打ち出しているが、実際は経費削減だと思う。薬局の民営化は7月1日から実施され、実質的な移行は10月1日になる。売却方法は規模によりグループを分け、グループごとに入札にする。現在の国営薬局の公務員も入札に参加することができる。1店、10店、100店などの規模で売却する。従って、大手小売業がまとめて買ってチェーン店にする可能性もある。卸売業は実質的に民営化されているが自由化するかどうか私は知らない。

8.マテリアルフロー

Ⅵ.まとめ

20世紀の後半はヨーロッパの物流エンジニアリングは日本を凌駕していましたが21世紀に入ってから、日本はヨーロッパに引き離されています。特に、最近はヨーロッパの背中は遠くなっています。最近は機械化、人間工学、システムでは日本は遅れています。
理由は、日本の労働組合組織率低下、産業の海外移出、派遣の増大による人件費低下などで、相対的貧困率では日本はアメリカに次いで先進国第4位です。これは貧富の差が大きいということです。かって、日本は1億中産階級といわれましたが、今では、派遣、パートの雇用増大と3PLの増大により物流の機械化投資が減少しています。
最近では、日本の物流機器メーカがヨーロッパで良い業績を上げています。KDの物流エンジニアリングの水準はヨーロッパの中では二流だと思います。しかし、物流品質では日本は世界一です。
 *絶対的貧困率
世界銀行の貧困の定義では1日の所得が1米ドル以下に満たない国民の割合の事。
 *相対的貧困率
OECDによる定義は等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯員数の平方根で割った値)が、全国民の等価可処分所得の中央値の半分に満たない国民の割合の事。
2007年の国民生活基礎調査では、日本の2006年の等価可処分所得の中央値(254万円)の半分(127万円)未満が、相対的貧困率の対象となる。これは、単身者では手取り所得が127万円、2人世帯では180万円、3人世帯では224万円、4人世帯では254万円に相当する。

以上



(C)2010 Jun Suzuki & Sakata Warehouse, Inc.

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