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物流システム

第185号CSR調達への対応とIT活用~中小トラック事業者の場合~(2009年12月3日発行)

執筆者 吉本 隆一
社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所副所長 主幹研究員
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1980年法政大学大学院博士課程経済学単位終了。経済理論・財政論、PPBSを専攻。
    • 1983年から2005年まで(財)日本システム開発研究所。
    • 2005年から現職。
    主な研究開発実績
    • 公共事業整備に伴う社会経済的影響評価
    • 立体道路整備、道路一体型物流施設整備等の複合的事業手法開発
    • 物流拠点整備・共同配送等、物流効率化・高度化事業手法の調査研究
    • 国際輸送システムの調査研究(基盤整備、パフォーマンス分析)
    • 物流情報システムの標準化・調査研究・技術開発(ITS、AIDC、輸配送システム等)

目次

はじめに

  最近は、マネジメント規格とその認証が、マネのしやすさもあって、多くの分野で策定されている。トラック事業に関連していえば、運輸安全マネジメントを筆頭に、品質、環境および情報セキュリティの4分野はカバーしておく必要があり、その内容に全て対応することは大手でも困難な場合が多い。また、中小トラック会社であって、直接の管理者の設置義務が無くても、その調達先として各種マネジメント規定の遵守が求められる場合が多くなっている。そこで、ここでは、CSR調達の概要をその対応策としてのIT活用の内容と留意点をとりまとめてみた。

1.CSR調達の概要

  CSRは企業の社会的責任(Cooperate Social Responsibility)と訳されている。その説明は本稿の趣旨ではないので割愛するが、日本経団連の企業行動憲章をみると図1のような内容で構成されている(詳細は原文を確認されたい)。

(図1)日本経団連の企業行動憲章10ヵ条の構成

  この基本項目に沿って、CSR調達基準を考えると、図2のようになる。従前からの調達基準の中心にあったQCD(品質・コスト・納期:Quality、Cost、Delivery)に加えて、本来各社の企業倫理に属していた内容を記録し明文化し、積極的に公開することが強く要請されている。このうち、環境への対応は、グリーン調達の表現で一部先行して実施されることも多かった。また、従前、製品品質は荷主の責任として別途位置づけられていたが、食の安全・安心においてトレーサビリティが要請され流通履歴が必要とされるようになってからは、CSR調達基準として物流事業者による対応が要請されるようになっている。

(図2)物流におけるCSR調達基準の基本構成

2.背景としてのマネジメント規格の概要

  このCSR調達に対応する経営方法や組織の基本は、マネジメント規格にみることができる。品質ISO(9000シリーズ)や環境ISO(14000シリーズ)は良く知られているが、今では、図3のように多様な分野でマネジメント規格が策定されている。

(図3)マネジメント規格の例

  これらのマネジメント規格をみると、大半が同じ構成要素で策定されている。そのポイントは5つ有り、図4にみられるように、経営者責任の明確化、責任ある組織の確立・管理責任者の設置、従業員への周知徹底、計画・実行・評価と情報の社内共通・伝達にある。
  ここでの重要なポイントは、経営者責任とCSRの確保が、経営責任の社会的連鎖を生み出していることにある。つまり、会社と従業員の関係にとどまらず、物流事業者の問題が委託した荷主にも波及するし、荷主も製造、卸・小売業の物資の供給連鎖にも連携して、時刻指定、過積載、過労運転の原因が、取引における優越的地位の乱用に関連して評価されることになる。また、物流事業者相互の元請け・下請け関係にも、正社員だけでなく派遣やパート・アルバイトとの関係でも評価されることになっていることにある。インターネットによる内部告発環境をふまえた今日的な社会的連座制になっている。
  実務的には、いままで口頭ですんでいた内容の文書化・記録・評価・改善が必要とされている点が最も作業負荷の重い点であるといえよう。

(図4)マネジメント規格の共通事項

3.中小トラック事業者にできる日常的なCSR活動

  この要請を中小トラック事業者にできる日常的な活動内容に反映させてみると、図5のように整理できる。この図をみるとわかるように、記録・管理部分に少し追加すべき工夫の必要性はあるが、内容の大半は、従前から必要とされている輸送品質の確保であり、誤納・遅納・紛失破損の防止であり、輸送安全規則に沿った適切な運行管理の徹底、交通事故の削減・撲滅である。

(図5)中小トラック事業にできる日常的なCSR活動

4.CSR調達に対応するためのIT活用

  このようなCSR活動に対応して中小トラック事業者が行うべきIT活用のポイントは、第一に、インターネットや携帯電話の活用に関する業務用利用ルールを徹底することであり、第二に、データの記録・保管・分析のためにインターネットを携帯電話という高度で安価な機器をフル活用することである。
  携帯電話の使い勝手の良さを業務用に活かすことは、意外に注目されていない。
  これまで利用されてきたIT機器としては、輸送品質では、バーコードによる入出荷検品や仕分け、ロケーション管理があるし、安全対策や環境対策では、車載機器を活用したデータの収集・解析や運転指導による改善方法がある。
  しかし、こういった機器の利用が難しい場合でも、携帯電話だけでもできる比較的簡単な「業務の見える化」手法がある。
  その一つは、輸送品質の例で、荷受け時や出荷時の荷姿を携帯電話のカメラで撮影しておき、電子メールで送信しておくことである。それだけで、いつ、誰が、どこで行った輸送品質の確認データになる。この方法は国内よりも、国際コンテナ輸送等の国際物流分野で多く利用されているように思われる。船積み時と陸揚げ時の両方でチェックしたり、入出荷の開梱時にチェックすることで輸送途中の品質管理ができ、事業者、船種、海象、担当従業員、関連会社別に集計していくと荷主側では輸送梱包を含め輸送品質の詳細分析が国際的にも集中して実施することができる。
  もう一つの例は、運送状況把握のための利用である。かつて携帯電話でウェブサイトにアクセスして所要データを入力させる実証実験を行った際にドライバー各位のクレームを聞き、誤入力や入力忘れの多い現場の運用環境について考えさせられた時に思いついた簡易手法である。
  その方法は、まず、営業所側で、電子メールで件名欄に、出発、荷卸待ち、渋滞等の営業所側で欲しい作業状況、運送状況報告の代表的内容を書いて、本文は空欄のままドライバーの携帯電話宛に送信する。ドライバーは必要に応じて、メール受信リストを開き、該当する件名をクリックしてそのまま送信(返信)する。ドライバーは一切文字を入力する必要がなく、この方式だと1秒もかからない。営業所側は、一般の電子メールソフトでドライバー別にでも振り分けたメールの受信履歴をみるだけで、各ドライバーの運送状況を確認できる。電子メールを運行管理者の携帯電話に転送しておけば運行管理者がパソコンの前にいなくても状況は確認できる。
  この方式だと、インターネットに接続しているパソコンとその汎用ソフト、携帯電話があれば良くて、追加のソフトは必要ない。受信履歴を利用して立派な運転日報にも使える。
  さらに、ホワイトボードなどに各人の作業状況や運転状況、出退勤状況を表示している場合には、変更時点での画面をデジカメで保存しているだけで、トラブル発生時の過去の作業状況を追跡確認できる。画像をそのまま保存しても、今時のハードディスクは安価で問題を起こすことも少ない。こういった活用方法をもっと工夫することが必要とされている時代である。

(図6)CSR調達に対応するためのIT活用方法

おわりに

  インターネットや携帯電話に加えて、車載機器などを活用する場合に、技術的なようでそうでない大切な留意点は、「時間」やデータの「精度」の扱い方である。
  電子データがまるごと残ることを嫌がる管理者に会うことが多い。しかし、既存の法制度は世界中が株式市場で同期化しているようなインターネット時計の刻みで物事を判断していない。昔ながら毎朝時計の針を合わせるような環境下で法規則が動いている。0.1秒の超過で連続運転や0.1秒単位の速度超過でスピード違反を問われることはない。
  善良なる管理者の誠意ある対応を行えば、自らの責に帰することのできない要因で罰せられることはないのである。インターネットや携帯電話で収集される情報はあくまでも第一次情報として保存し、内容を確認する各種管理者としてのチェックをふまえた報告は、その第一次情報そのままである必要はなく、一定の運用幅は認められていることもCSRの時代だからこそ周知しておく必要がある。
  なお、本稿の内容を若干詳しくまとめたものを輪駆出版(株)の雑誌「運行管理ネットワーク」Vol.1、No.4(8月末発刊予定)にも掲載しているので関心のある方はご参照いただければ幸いです。同雑誌の申し込みは下記サイトで確認してください。

以上



(C)2009 Ryuichi Yoshimoto & Sakata Warehouse, Inc.

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