ロジスティクス・レビュー

第173号物流作業改革で無駄な人件費の削減(2009年6月11日発行)

執筆者 野口 英雄
ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表取締役
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入所
    • 1975年 同・本社物流部へ異動
    • 1985年 同・物流子会社へ出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックスへ出向(コールドライナー事業担当、取締役)
    • 1991年 日本物流大賞受賞:「高密度共配による配送効率の飛躍的向上」
    • 1994年 同・本社物流部へ復職、96年退職(専任部長)
    • 1996年 昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)、98年退職
    • 1999年 株式会社カサイ経営入社 ~パートナーコンサルタント
    • 2000年 有限会社エルエスオフィス設立
    • 2001年 独立し現在に至る
    • 群馬県立農林大学校非常勤講師
    • 日本ロジスティクスシステム協会講師
    保有資格
    • 物流技術管理士(第26期)
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会正会員
    • 日本ロジスティクスシステム協会会員
    • 日本物流技術管理士会会員
    保有資格
    • 『低温物流とSCMがロジ・ビジネスの未来を拓く』
      ―鮮度管理システムで顧客サービス競争に勝つ
    • 『低温物流の先進企業事例』
      ―生鮮流通の業態・チャネル別戦略モデル
    • 『低温物流の実務マニュアル』
      ―経営戦略・マネジメントとの連動

目次

1.経済崩壊で農業に注目が

  もはや景気循環や波動というレベルをはるかに超えて、既存システムが音を立てて崩壊している状況なのであろう。経済が悪化すると食品産業がいいと言われたのはもう過去のことで、ここでも少子高齢化や資源争奪等の構造変化が進行し、苦戦を余儀なくされている。市場構造の変化と政治という二つの側面を見ていかなければ、この難局にますます太刀打ち出来なくなるだろう。
  このような状況下で、農業を一つのビジネスチャンスとする意見が多く出されるようになった。それは法人化や株式会社参入といった流れを加速する、あるいは雇用の受け皿とする等である。農業を食品ビジネスとして考え、活性化することにはもちろん異論はないが、しかしそんなに簡単なものでもない。
  筆者は既に7年前から某農業県の県立農林大学校で、農産物流通論とりわけ低温流通で競争力強化を果たすための授業を続けてきたが、誠に力不足でこれを大きな流れに出来ないでいる。この小文のタイトルが信念であることはいささかも変わるものではないが、ここでもう一度冷静に考えてみたい。

2.農業をロジスティクス視点で再考してみる

  国としての政策もJAとしての経営も、生産を中心に組み立てられていることは間違いない。我国固有の傾斜地の多い山岳地帯、寒冷地を持つ地方等では多くの制約があって、この問題が中心になることは分かる。しかし農業が食品を売るビジネスであって、まずその起点が消費者であり、マーケティングが重要であることが出発点である。
  しかしそれだけではビジネスモデルが完結しない。もう一つ重要なのがロジスティクスである。商品を生産するために必要な膨大な購買品の調達と、手塩にかけた商品をどう流通させ、付加価値を高めるかという活動である。食品は典型的な消費財であり、低価格品の大量流通という宿命があって、流通コストをどう最小化するかという基本命題がある。
  (表―1)にその主な問題点を整理してみたが、まず物流コストは売上高比率で10%を超えており、商品ロス率も野菜では生産歩留まりを含めると30%以上と言われている。
  これではビジネスにならないのは当然である。そしてこれを管理する組織がJAにないことがまず問題である。そしてマーケティングやロジスティクスは、既にグローバルレベルの視点が必要であることは言うまでもない。

(表-1)農業をビジネスモデルとして見た場合の主な問題点

区分 項目 内容
マーケティング 消費者視点欠如、生産中心思考、農協中心経営(金融事業がコア)
(農協は営利団体ではないので利益を出さなくてもいいという考えもある)
ロジスティクス 調達量が多い(肥料、農薬、資材等)、調達と販売が非連動
販売では無在庫型のSCMが出来ていない(特に生鮮品)
商取引 多段階流通、帳合機能中心、手数料固定(規制緩和方向)、SCM経営者不在
流通スピードが遅い、決済サイトは短い
流通関連コスト 物流費レベル高い(売上高比率10%超)、潜在物流費未把握
商品ロス率高い(野菜では生産歩留まりを入れると30%超と言われている)
流通インフラ EDI不充分(花卉以外)、コールドチェーン不備(予冷設備が独立、卸売市場等)
衛生管理が不充分

3.生鮮ロジスティクスの構築:無在庫型SCM運営

  食に対する消費者の要求は基本的に安全・安心であり、農産物は究極の自然食品としてのニーズも高いはずだ。鮮度を保ち、生きたままの状態で消費者に提供するのは低温で在庫を持たないSCMの運営ということになる。コールドチェーンとしては、もう何十年も前から予冷施設が国の補助金で整えられてきているが、全体としては完全な状況ではない。
  在庫を持たない運営ということはまず需要予測が重要であり、そして販売施策と連動して商品を売り切ることが不可欠となる。これはまさにマーケティングとロジスティクスの連動そのものであり、これを一体的に運営できるシステムが必要になる。さらに言えば生鮮食品としての衛生管理も不可欠となる。温度管理だけではなく、微生物や異物混入の防止である。
  生産リードタイムが長い農産物を、このような供給システムで運営していく事は極めて難易度の高いSCM構築であるが、ある農協でスーパーマーケットのインショップとしてこの試みを続けている事例がある。まず季節により収穫物が異なっていく年間生産計画とスーパー側の販売計画を連動させ、生育状況をデジカメで画像提供し発注タイミングの判断をする。もちろんEDIが前提で、常に各種情報交換を行っている。
  韓国にこの優れたビジネスモデルがある。(図―1参照)FTAの対策として始められたパプリカの対日輸出である。この商品は日本市場ではそもそもオランダ産が中心であったが、既に70%程度のシェアを獲得し大統領の表彰を受けている。寒冷地故にまず施設園芸としての通年栽培が基本であり、しかも水耕による無農薬栽培である。収穫後直ちに予冷し、それ以降低温トラック・フェリー・鉄道を乗り継いで、東京には3日後に到着する。これでは九州や北海道の産地と立地的に変わらない。何より健康食品としての訴求力がある。

(図-1)韓国の成功事例:パプリカの対日輸出

4.まず物流管理を真摯にやる

  ロジスティクスの出発点は物流管理であり、これをまず真摯にかつ早急にやるべきだ。物流コストがどこでどれだけ掛かっているのかを把握し、これをどう削減するかを考える。調達の物量も膨大であり、これにも多くのコストが掛かっている。JAが既存のホームセンターに比べ売価が安く出来なければ、農協活動の意味がない。
  次に商品の販売物流だ。完全なコールドチェーンが整備できない理由の一つは、低温物流は常温系に比べコストが掛かるという誤解である。旧認可料金の20~30%割増という条項を鵜呑みにして、支払っているケースもある。輸送原価での差は10%以下でしかない。低温物流では稼働時間が長く、単位時間当たりの固定費が低減するからである。
  物流会社へのアウトソーシングも、価格設定等でどこまでイニシャティブがとれているか大いに疑問である。潜在的な物流コストも掛かっている。営農指導にあたるべき人達が物流作業をしているケースも見受けられる。本来の目的があるのに、これをやらざるを得ない状況は早急に改めるべきだ。
  物流管理に携わる人の育成も急務である。農業分野で物流という概念を殆ど持たなかった経緯の中で、いきなり物流管理やロジスティクスをやれと言われてもこれは無理な話であり、走りながら勉強していくしかない。出来れば農業物流のジャンルを纏めるくらいのコンセプトを持ってもらいたい。
  以上はロジスティクスにむけた手掛かりシステムへの取組みでもある。民間企業は血の出るようなSCMを運営しているはずである。農協の金融事業の利益で赤字補填する構造は許されるものではない。

5.対症療法ではなく構造改革に迫る

  経済状況が厳しくなると、またぞろ有無を言わせないコストカットが横行し、物流が真っ先に対象となる。物流管理やロジスティクスの枠組みが整って、そしてマーケティングとの連動も機能している中での見直しであればいいが、そのような基盤がある企業は残念ながら未だごく一握りに過ぎないだろう。
  農業分野においてはそれ以前の状況であり、これを少しでも早く他産業並みに引き上げ、経営の一端として実行出来るようにしなければならない。その根幹は再三述べたようにマーケティングとロジスティクスの連動であり、(図―2参照)これをSCMのレベルに持っていく。世界規模でこれを展開した先端産業でさえこの困難の例外ではないが、産業のインフラ作りとして来るべき春を少しでも近づける努力とすべきである。
  我国のあらゆる競争力が地盤沈下し、国としての存亡も問われかねない現状である。この試練はもう一度社会や経済の仕組み、そして人としての暮らしや生きることを考える上でのいい機会なのかもしれない。

(図-2)マーケティングとロジスティクスの関係

以上


(C)2009 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.


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