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グローバル・ロジスティクス

第167号IKEA スウェーデン 家具小売業(2009年3月5日発行)

執筆者 鈴木 準
サン物流開発 代表
1933年9月22日 東京都江東区出生
    執筆者略歴 ▼
  • 学歴
    • 東京経済大学商学部卒業
    • 産業能率短期大学生産管理科卒業
    • 日本電子専門学校電子計算機科卒業
    職歴
    • セーラー万年筆(株)経営企画室主任
    • (株)長崎屋 物流部・電算部部長・システム本部副本部長
    • (株)サン商品センター代表取締役社長
    • (有)サン物流開発代表取締役
    • サン物流開発代表
      現在に至る
    講師
    • 専修大学講師・早稲田大学講師及び早稲田大学アジア太平洋研究センター講師経験
    • JILS 物流現地フォーラムコーディネーター 20年経験
    • 日経ビジネススクール講師
    • 文化ファッションビジネススクール講師
    • 中小企業事業団登録専門指導員経験
    資格・所属団体等
    • 物流管理士、販売士1級、日本物流学会会員、国際物流管理士
    その他
    • 海外物流視察100回、内外合わせて1,000施設視察
    • 2006年 (社)日本ロジスティクスシステム協会 物流功労賞受賞
    連絡先
    • 事務所 〒274-0822千葉県船橋市飯山満町3-1761-105
            TEL.047-467-1077
    • メール sun_logi@nifty.com

目次

  IKEA(イケア)は第一号店開店から50年を超えた。IKEAの名の由来は創業者Ingvar. Kamprad.(イングヴァル・カンプラード)のイニシャルに、彼が育ったElmtaryd農場とAgunnaryd町の頭文字をつなげ合わせたものである。
  1943年、17歳だったイングヴァル・カンプラードが設立した安売り雑貨店が元になっている。この時期に通信販売をやったということで、彼は流通の神童と言えるだろう。創業当時は需要があれば何でも取り扱う雑貨屋であったが、1947年に地元の家具店と契約してディスカウント販売を開始するとこれが大当たりし、1951年以降は家具専門店になった。

青と黄をモチーフにした店舗

フラットパックの発明

  1953年に最初のショールームをオープンし、以後、順調に売り上げを伸ばしていたが、同業他社との深刻な価格競争に巻き込まれることになり、同業組合の圧力によって家具メーカーからの商品供給停止という深刻な状態となる。しかし、こうした事態をバネに、自社で独自のデザイナーを抱え、企画・製造・販売まで全てまかなう、今で言うアパレルのSPAと同じ、製販直結であり、今日のイケアのスタイルを作り上げた。その頃、50年前、イケアの家具の特徴の一つである「フラットパック」が開発された。フラットパックは、できるかぎり薄く小さい梱包をされており、車のトランクに積んで簡単に持ち帰ることができて、しかも、自分で、家で組み立てられる家具である。これは物流合理化の基本と言える。また、自家用車に載らない家具を買った客にトラックを貸して、客が自分で運ぶシステムを考えたのもイケアである。この方式は、アメリカのHOME DEPOTも取り入れている。
  1963年からスウェーデン国外での積極的な展開を開始した。最初は隣国のノルウェーを足がかりにして、スイス、フランス、ドイツ、デンマークなど、ヨーロッパのほぼ全域に出店し、加えて、アメリカやカナダにも出店した。製造コストや物流コストを徹底的に削減しながら、顧客のニーズに合わせた格安の組み立て式家具は、その後ヨーロッパで絶大な人気を誇るようになり、イケアの成長の原動力になった。
  その後、中国やオーストラリアへも進出し、1993年には25カ国で100店舗を達成。2008年4月現在で、世界の36の国と地域に合計278店舗。そのうち24カ国、246店舗が直営店となっている。従業員は世界各国で10万人を超え、売上高は3兆円である。
  スウェーデンは環境と福祉に熱心な国である。イケアは、家具は木材を多く使うことから、森林伐採対策やリサイクルなどに対して非常に関心が高く、1980年代から積極的に環境問題に取り組んでいる。合板に対するホルムアルデヒド放出量の厳格化や、熱帯雨林伐採の木材を使わず、植林によって生み出された木材を使う、あるいは各種梱包材や家具そのもののリサイクルなどの活動を続けている。

IKEA Railでトラック50台分のモーダルシフト

  2002年にはイケア鉄道(IKEA Rail)を設立し、スウェーデン、デンマーク、ドイツで、貨物列車の運行を開始した。これはイケアが製品などを各地に配送する際のトラック輸送に伴う環境負荷を軽減するために、自前の鉄道車両を用意したもので、渋滞による遅延も無く、輸送コストも安く、また環境負荷も少ないという一石三鳥の効果を上げた。このことで一日あたり50台のトラック輸送を貨車にモーダルシフトした。今後、ポーランド、イタリア、ベルギーなどへも路線網を伸ばしてゆくことが計画されている。イケア鉄道は既存の線路を使って貨物列車を運行しているのであり、自前の線路を持っているわけではない。スウェーデンのDCの中には長い引っ込み線が敷かれている。
  イケアのカンブラード社長は数々の社訓というかコンセプトを残しているが、物流に関するコンセプトは見当たらない。しかし、経営には物流の基本が取り込まれ、実行されている。フラットパック、トラックの貸出し、モーダルシフト、店舗展開を考えた物流センター構築、客がピッキングするシステムなどである。経営哲学の中に物流が浸透している。

日本進出は35年前

  日本進出は1974年、大阪の三井物産資材部、湯川家具、チトセ(スチール家具メーカー)および東急百貨店の合弁会社が、イケアスウェーデンと契約し「イケア日本株式会社」を設立した。第1号店は千葉県船橋市のローラースケート場跡に開店し、後日、ショッピングセンター「ららぽーと」内に移動した。第2号店は兵庫県神戸市灘区新在家の国道43号線沿いの「イケアタウン六甲」(現サザンモール六甲の近く)に出店した。しかし、1986年に撤退、イケア日本株式会社のメンバーは、イケア日本の閉鎖と同時に新会社「アクタス」へ移った。
  後に2001年に日本再進出を決定し、2002年7月に日本法人「イケア・ジャパン」を設立。1号店(イケア船橋)が2006年4月24日に、千葉県船橋市にあった屋内スキー場・ららぽーとスキードームSSAWSの跡地の一部を利用してオープンした。この開店は大成功であり、その後、イケアの日本市場制覇の原動力になった。

店舗建設の前に先ずDC

  なお、当初船橋店のオープンは2005年9月を予定していたが、より迅速な在庫管理を行うために、中国上海に大規模物流センターを建設することとなり、延期になっていた。物流システムの確立をしてから店舗を出すところにイケア経営戦略のすごさがある。
  2006年11月15日、愛知県弥富市上野町の弥富地区工業用地27ヘクタールを愛知県企業庁より約100億円で購入し、2007年6月に着工、2008年6月に操業開始した。そのほか、数年以内に関東、関西でそれぞれ最大6店舗ずつの開店を目標にしている。中部地方が選定された理由として、現在店舗が存在する関東地方と新規オープンが予定されている関西地方の中間地点にあたること、また、名古屋港の物流利便性などが決め手になったと伝えられる。ここにもイケアがいかに物流を経営の土台として重視しているかが分かる。

商物分離のイケアの営業戦略

  客にトラックを貸与し、乗用車に載らない家具を自分で持ち帰り、設置し、組み立てることを前提とした販売を行っている。私が知ったのは初めてスウェーデンに行った1980年のことである。
  また、家具の商品代金には配送料が一切含まれておらず、配送や設置、組み立て等のサービスは有料である。しかしながら、DIYの浸透度の低い日本において過去に失敗している経験上、船橋店オープン時には三菱電機ロジスティクスと提携して、クレーンを使った搬入や不要な家具の引き取りまで含め、付帯作業の充実した配送・設置・組み立てのサービスを用意した。しかしながら、1日に配送できる件数に上限があり、週末の配送は予約が一杯になってしまう。
  当初、一回当たりの配送量の上限が事実上無かったが、オープン時の大混雑も含めて配送遅延や大量配送物の発生などで配送サービスがまともに機能しなくなり、港北店オープン時の2006年9月より配送量に最大3個までの上限が設けられ(4個以上はさらに別料金)、また配送料金そのものも値上げされた。現在は配送地域によって値段が異なり、3個までの配送料が4900~7900円で、4個以上からは1個に付き1000円の追加料金がかかる。従来、商品代金込みの無料配達に馴染んだ日本の客には少し不満を感じるが、売り上げが増加しているのは商品の価格と価値に満足しているからだと思う。また、梱包されていない商品は別途梱包料が必要であり、組み立てサービスは近距離の配送に限定されている。組み立てサービスの費用は、船橋店では商品価格の20%となっている。
  一方、港北店、およびポートアイランド店では警備・施工マネジメント(KSM)により商品毎にパンフレットにて「施工価格例」というかたちで費用が示されている。組み立てサービスの金額はあくまでも商品の組み立てのみに関するものであり、壁、床、天井などへの固定については別途もしくは含まれない。日本の場合、配送システムに「手ぶら de ボックス」がある。小口商品の配送用に別途「手ぶら de ボックス」と呼ばれる宅配ボックスが用意されており、全国一律配送料込みの箱が販売されている。自分で梱包し、配送カウンターに持ち込むことで、最大20kg、サイズ400×400×300mmの箱が1,000円で配送してもらえる。日本郵政のEXPAC500と同じである。

IKEAのバックルーム


IKEA Distributie Complex (DC)

  アルマホルツのDCはIKEAの中で最も古いものである。建屋内には鉄道のレールが敷かれていて1日に5本の列車が入る。アメリカの物流センターでは30年前には良く見られたが、今ではピギーバックに変わり、DC内のレールは取り外されている。IKEAでは環境保護の観点からモーダルシフトを進め、1日にトラック50台分を列車にシフトている。

アルマホルツのIKEA DC



  IKEAは世界16カ国に31のDCを持っている。
  スウェーデンではヘルシンボリのDCの他にヨーショピンを含め3か所にあり、3DCで40万立方メートルの容積がある。スウェーデンの他に、フィンランド、ノルウエー、デンマーク、ロシア、ポーランド、チェコ、ハンガリー、アジアでは中国と日本にある。

●施設概要

敷地面積 248,000㎡
延床面積 70,000㎡
床高さ 1,300mm
構  造 PC,S造 平屋、一部地下あり
自動倉庫 42,750パレット スタッカークレーン9台
200mL×50mW×23mH
建  設 1979年

<DC概況>
  入荷には鉄道を使っているが、まだ、トラックの方が多い。荷受検収し、入荷ラベルを3面に計3枚貼り、フォークリフトでコンベヤに載せ、自動倉庫に格納する。地下はマニュアル倉庫と配送の荷揃えに使っている。
  中・大物のピッキングはパレットとフォークリフトで行う。ハンディターミナルの情報によってピッキングし、天井から吊るしたカンバンで店またはデポ別に置く。その際、ハンディターミナルに看板のチェックデジット2桁を入力し、個数を確認し、間違いを防止している。パレットに積み上げられた商品はラッピングし、ハンディターミナルと照合しながら商品に荷札を貼付して、出荷場に運び、2時間以内に出荷される。ハンディターミナルは60台保有している。
  比較的小物の商品は固定棚からバッチごとにコンテナに一括ピッキングし、コンベヤのピッキングゾーンに運ぶ。ピッキングした商品を投入するコンテナが上流から流れてくる。コンテナにはピッキングリストが入れてあり、外側にはバーコードラベルが貼ってある。ピッキングゾーンは複数あり、ゾーンごとにモニター付きターミナルが置いてある。作業者のポジションに空コンテナが来ると、モニターにピッキング指示が出る。作業者はモニターを見て、ピッキングし、コンテナに入れる。

  自動倉庫は2,000年に導入したもので、42,750パレット スタッカークレーン9台・サイズは200mL×50mW×23mH、パレットは2000mm×800mm、スタッカークレーンの水平移動は1.5Km/min。1時間に150パレットを入出庫する。サイズチェック装置のある入荷レーンが3ラインある。メーカーはスイスのSwiss Logで、このDCの中核をなしている。ピッキングはオーソドックスで、単純である。

カンバン

<DCの休日>
  IKEAの職員が集まりクリスマスパーティをDCで休日に開催する。2007年のクリスマスには1,700人が参加した。クリスマスパーティでは社員に配るアイスクリームを庫内シャトルで運ぶ。社長は参加者全員と握手することが習わしになっている。
<まとめ>
  DCは水と緑の国スウェーデンらしく素晴らしい環境の中にある。近くには高級リゾートホテルが。DCの近くには店舗と直営のIKEAホテルがある。
  商品特性から細かいエンジニアリングは見られない。中心になるマテハン機器は自動倉庫、これに次ぐのがコンベヤとモニターを使った一種の種まき式オーダーピッキングである。大物家具の単品ピッキングにはハンディターミナルを使い、出荷ミス防止の工夫がみられた。とにかくでかいだけが取り柄の物流センターであった。
  しかし、経営の中に巧みに物流戦略が織り込まれていることに敬服させられた。

以上



(C)2009 Jun Suzuki & Sakata Warehouse, Inc.

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