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第165号新しいビジネス・システムと戦略的SCMを考える(前編)(2009年2月3日発行)

執筆者 田中 孝明
サカタウエアハウス株式会社 代表取締役社長
    執筆者略歴 ▼
  • プロフィール
    • 大阪市生まれ。
    • 神戸大学大学院 経営学研究科 博士前期課程修了。
    • ACEG (英国・ボーンマス校),オタワ大学ELI修了。
    • 株式会社住友倉庫を経て,現在,サカタウエアハウス株式会社 代表取締役社長。
    • 福山平成大学 経営学部 非常勤講師,明治大学 商学部 特別招聘教授,
      文部科学省オープン・リサーチ・センター整備事業 研究分担者,
      神戸大学ビジネススクール MBAフェロー などを歴任/兼任。

*サカタグループ2008年5月20日「第13回ワークショップ」の講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回は2回に分けて掲載いたします。

  本日はまず私から、解題と申しますか、この後、諸先生からご講義をいただく前座といたしまして、「新しいビジネス・システムと戦略的SCMを考える」というテーマで、若干お話をさせていただきます。より中身の濃いお話、具体的なお話はこの後3名の方々からご講演をいただけると思いますので、まずは「今日、どういったことを皆様と一緒に考えていきたいか」ということからスタートさせていただきたいと思います。

  本日、皆様と一緒に考えてみたいと思っておりますことは、このスライド『本日皆様と一緒に考えてみたいこと』にあります3点です。

本日皆様と一緒に考えてみたいこと

  まず1点目はSCM/サプライチェーン・マネジメントについてです。近年SCMの導入に取り組んだ企業さん、これはかなり多いと思いますが、実態はどうなのだろうか。あるいは導入に取り組んだ結果、いったいどうだったのか、ということについて最初に考えてみたいと思っています。
  2点目。これからのSCMあるいはロジスティクス戦略というものを、どのように考えていけばよいのかということです。かなり景気も下り坂になってきていると言われているなかで、私たちを取り巻く物流分野でも、先ほど申しましたSCM、またアウトソーシング/3PLの導入、環境問題やグローバル化への対応、情報化の推進、それと品質の問題や人材の育成の問題、こういった様々なテーマが出てきているわけですが、具体的にこれらを”統べる”、なにかしら統合して捉えていく、統一して考えていくにはどうしたらよいのだろうかということを、今日、2点目として考えていきたいと思います。
  3つ目は、本日私が一番お話をしたい点でもありますが、どうも従来とは少し異なった”事業の仕組み”のようなものを生み出した企業では、同時にといいますか、並行してといいますか、その前提としてと申しますか、新しいロジスティクスあるいはSCMを構築しているのではないだろうかということです。トヨタさんとか、セブン・イレブンさんとか、このスライドに企業名が出ておりますけれども、何やらユニークな”事業の仕組み”を生み出していると思われる企業に、私たちは学ぶところがあるのではないか。これらの企業のロジスティクスやSCMに何かヒントはないだろうか。
  本日は、こうした3点について考えてみたいと思っております。

  では本題に入って参ります。次のスライド『ロジスティクス/SCMを取り巻く概念』に移ります。

ロジスティクス/SCMを取り巻く概念

  まずは「ロジスティクスやSCMを取り巻く概念の整理」です。最初のあたりのマーケティングや流通に関しては、この後、講師の諸先生方から、より詳しいお話をいただけると思っておりますし、本日お集まりの皆様方は既にご存知のことが多いと思いますので、私からは詳しくお話する必要がないかと思います。
  ただ、スライドの4つ目の項目の「ロジスティクスとSCM」については、少し補足をさせていただきます。”サプライチェーンは社外のバリューチェーンである”という考え方があります。法政大学の矢作先生などが、著書でこういうことを述べられていたかと思いますが、バリューチェーンとサプライチェーンという概念について、この後のスライドで、少し振り返っておきたいと思っています。
  またサプライチェーン・マネジメント/SCMの概念については、今日この後、講師の原先生などからお話があるかも分かりませんが、研究学派としては5つくらいあると言われています。私の方は実務寄りのお話をしますが、私どもがコンサルティングあるいは情報システムの導入、さらにはアウトソーシング/3PL提案といったビジネスの現場から感じているSCMの側面は、主に6つあるのではないかということです。これも少し、この後でふれてみたいと思っております。

  では次のスライド『バリューチェーンとロジスティクス』です。

バリューチェーンとロジスティクス

  これはもうご存知の方も多いかと思いますが、「バリューチェーンの基本形」と呼ばれるものです。このグリーンの図、これが一つの企業、皆様方の会社というように捉えてください。ハーバード大学のマイケル・ポーター教授-経営戦略の分野では非常に有名な先生ですけども-、この先生が、日本では85年に翻訳されました『競争優位の戦略』という著書の中で、バリューチェーンという概念、価値連鎖という概念について説明をされておられます。詳しい内容については、もし興味があればレジュメの後ろに引用文献を書いておりますので、また後日ご覧になられてはと思います。
  ポーター先生が、何をおっしゃったかというと、ごく簡単に申しますと、企業の中では、この図の中に書かれているように、いろんな活動が行われている。その活動がそれぞれ細切れになっているのではなくて、一つの鎖/チェーンのようにつながっている。そういう状態で、お客さまに対して-皆様方の前のスクリーンの図で申しますと、向かって右手に、お客様/顧客がいるというイメージになるのですが-、顧客/消費者に対して価値をもたらすことができれば、そういう企業は競争優位に立てると、そのようなことを説いておられます。

  一方、ひとつの企業の中でもこうしたいくつか活動がなされているわけですが、次のスライド『バリューチェーンとサプライチェーン』にありますように、当然、企業活動というのは、自社/単独の会社だけでは、成り立たないケースが大半ではないかと思います。

バリューチェーンとサプライチェーン

  たとえば皆様方から見て図の右端のほうに小売業がありますが、小売業としては当然、卸さんとの関係、メーカーさんとの関係、さらには原材料の供給業者/サプライヤーさんとの関係、こういうものが実際のビジネスの現場では関係しています。そして、最終のお客様に対して価値を提供していくということになりますと、一つの企業の中でのバリューチェーンだけでなく、流通チャネルといいますか、マーケティングチャネルといいますか、流通経路全体がつながっている、チェーンのようになっているというようなことが必要になります。そうでないと、真の意味での競争優位には立てないということになります。そうした意味で”サプライチェーンは社外のバリューチェーンである”、こんな考え方が提唱されているわけです。

  さて、次のスライド『実務におけるSCMの6つの側面(私見)』ですが、アカデミックなSCMの定義は、この後の諸先生からお話があるかと思いますので、私からは詳しくは申しませんが、先ほども申しましたように、弊社のコンサルティングやシステム導入、あるいはアウトソーシング/3PLの受託といった実務の側面でいろんな企業の方とお話をしておりますと、ビジネスの現場では、SCMはここに書いてあるように、概ね6つの側面があるかと思われます。

実務におけるSCMの6つの側面(私見)

  例えば特定の企業の方とお話をしても、その企業のセクションや担当者により、SCMという言葉を使う時の概念、理解の仕方が異なっている。つまりSCMというのは、この図にありますように多面体であり、光の当て方によって、一企業においてもいろんな意味に捉えられている、いろんな位置づけで考えられている、そのような感じがしております。
  ある一つの企業の中でもSCMというのは、物流とかロジスティクスに関することではないか、あるいは生産管理に関するようなテーマではないのか、システム/ICTに関するものではないのか、あるいはマーケティングに関するもの、経営管理に関するもの、経営戦略に関するものではないか、というように個人や部署により捉えられ方が違うように思います。一つないしは複数で理解がなされているように思われます。
  また、企業の方々とお話をしていますと、自社を基準にしたSCM-主として調達寄りになるかと思いますが-、自社自体のSCMと、お客様の視点/エンドユーザーの視点に立って、全体のサプライチェーンの中で、自社のポジションがどこにあるのかを意識して、こうした意味合いでSCMを理解されている方もいらっしゃいます。
  繰り返しになりますが、SCMというのは光の当て方によって、いろんな見え方がする。さらに自社自身、自社を基点にしたSCMの考え方と、顧客基点のSCMの考え方といいますか、見る立ち位置で、違った見え方がします。

  さらに言えば、サプライチェーンは実際にはチェーンではなくて、もっと複雑な形をしているんじゃないかと考えられます。次のスライド『SCMからサプライネットワークマネジメントへ』にありますように、例えば、世界で一番売上高が大きい化粧品・日用品メーカーであるP&Gさんでは、サプライチェーンの新しいビジョンとして”CDSN” (Consumer Driven Supply Network)という言葉をグローバルでお使いになっておられます。CDSNの具体的な中身については、このシートに出ておりますけれども、ここで見ておいていただきたいのは、従来の”チェーン”という言葉に代えて”ネットワーク”という言葉を使い出されているということです。

SCMからサプライネットワークマネジメントへ

  なぜチェーンでなくてネットワークなのかについても、時間の関係で今日は詳しくお話できませんが、この後お話をいただきます明治大学の原先生などとご一緒させていただき、文部科学省より明治大学が受託されました「グローバルe-SCM研究」のプロジェクトというものがございまして、いくつかこのスライド『明治大学Global e-SCM研究PJ(ご参考)-文部科学省 学術フロンティア推進事業-』に出ているように、研究成果としての本が上梓されておりますけれども、この一番右端の『戦略的SCMケイパビリティ』という本の中で、原先生と一緒に私も「P&GジャパンのSC(サプライチェーン)モデル」を書かせていただいています。そこでも少しふれておりますので、ご興味がある方は書店等でご覧いただければと思います。

明治大学Global e-SCM研究PJ(ご参考)
-文部科学省 学術フロンティア推進事業-

※後編(次号)へつづく



(C)2009 Takaaki Tanaka & Sakata Warehouse, Inc.

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