ロジスティクス・レビュー

第163号教科書供給の概要(2009年1月15日発行)

執筆者 五関 信之
社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所 研究員
    執筆者略歴 ▼

  • 学歴
    • 1996年 埼玉大学大学院理工学研究科博士前期課程建設基礎工学専攻修了
    • 2006年 多摩大学大学院経営情報学研究科ロジスティクス経営コース修了
    職歴
    • 1999年 社団法人日本ロジスティクスシステム協会 入職

目次

1.はじめに

  近年、国民の本離れが定着化している。読売新聞社の調査では、過去1ヵ月間に本を読まなかった人の割合は約半数を占めていると報告されている。このような状況ではあるが、毎年、印刷製本され、読まれている本がある。それが「教科書」である。
  教科書とは、教科書の発行に関する臨時措置法において、「小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及びこれらに準ずる学校において、教科課程の構成に応じて組織排列された教科の主たる教材として、教授の用に供せられる児童又は生徒用図書であって、文部科学大臣の検定を経たもの又は文部科学省が著作の名義を有するもの」と定義されている。また、教科書の使用については、学校教育法において、「小学校においては、文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならない」と定められており、この規定は、中学校、高等学校、中等教育学校及び盲学校、聾学校及び養護学校にも準用されている。
  ここでは、主に小中学校の児童生徒が使用する教科書の供給の概要について紹介する。

2.教科書の物量

  憲法第26条では、義務教育無償の理想が掲げられており、これを実現すべき施策として、教科書無償制度が実施され、昭和44年度より、教科書は小中学校の全学年に無償給与されている(児童生徒への供給は「給与」と呼ばれている)。対象となるのは、小中学校や特別支援学校(盲学校・聾学校・養護学校)の児童生徒であり、小中学校には検定済教科書が、特別支援学校には著作教科書が給与されている。
  平成20年度の需要冊数は、小学校用の教科書が約7,188万冊(51種類、293点)、中学校用の教科書が約3,563万冊(72種類、134点)、特別支援学校用教科書が約4.8万冊(21種類、183点)であり、年間約1億7百万冊が春秋の新学期からの使用に間に合うように、製本され供給されている。

3.教科書供給の概要

  教科書の供給経路は図のとおりである。
  供給を担う主な主体は、①発行者(小中学校用の教科書を製造する発行者は19社、全体では56社)、②大取次(教科書の製造は行わないが、発行者から教科書の供給を委託された会社:6社)、③特約供給所(おおむね各都道府県に1ヵ所あり、全国に53社存在する)、④取次供給所(教科書を学校へ直接供給する業者で全国に3,435ヵ所存在する)、⑤小中学校(小学校約2.3万校、中学校約1.1万校)である。
  教科書の発行に関する臨時措置法では、「発行とは、教科書を製造供給することをいい、発行者とは、発行を担当する者をいう」と定めている。さらに、同法において、「発行者は、教科書を各学校に供給するまで、発行の責任を負うものとする」と定めている。しかし、発行者自身が各小中学校へ確実に教科書を供給することは事実上困難であるため、義務を遂行するために、大取次や特約供給所などの民間業者と教科書供給契約を結び、供給が行われている。

図 教科書供給の仕組み

  児童生徒へ教科書が給与される前年度の9月に、必要となる教科書冊数(需要数)が都道府県教育委員会から文部科学省に報告される。また、発行者は、前年の出荷完了数を参考に、調整分の冊数を見込んだ冊数を文部科学省へ報告する。これらの冊数を基に文部科学省は発行者と購入契約を結び、発行すべき教科書の種類と部数を指示する。これを受けて、発行者は教科書を印刷・製本し、春の新学期向けの教科書(前期・通年用教科書)であれば、11月~3月にかけて、大取次、特約供給所、取次供給所へ供給する。
  その後、3月末に各小中学校から報告される確定冊数(納入指示書に記載された冊数)をもとに、取次供給所が受け持つ小中学校への供給冊数を準備し、小中学校が指定する日時、場所に納品する。
  児童生徒への給与後に余り分は返本されている。取次供給所が学校から回収し、特約供給所へ送本する。特約供給所は、児童生徒の転出入等に対応するための必要冊数(常備本)を残し、それ以外を発行者別、教科別、学年別に仕分けして、発行者または大取次へ返送している。
  なお、平成20年度の教科書無償給与の予算は394億円である。この予算内で、義務教育にかかわる教科書は、印刷製本され供給されている。しかし、わが国の財政状況の悪化にともない予算も縮小傾向を示している。

4.教科書供給の特殊性

  児童生徒数(需要数)は、統計データ等を活用することにより予測が可能であり、さらには、供給経路も供給先も固定的であるため、教科書供給は効率的な供給が可能であると思われがちだが、教科書供給特有の諸条件が存在する。

(1)完全供給の遂行

  供給を担っている業者には、「完全供給」という理念がある。これは、「一冊でも、授業に間に合わないことがあってはならない」というものである。ここまで紹介した新学期に向けた教科書以外にも、学期途中の転校生や帰国子女への供給や、阪神・淡路大震災や中越地震等の大規模自然災害で被災した児童生徒への供給もすみやかに行っている。
  また、学校側からの要求も厳しくなっている。例えば、学校側で教科書の不足が発覚した場合、たとえ1冊であっても、すぐに納品して欲しいと要求されることがある。これは、万一、一部の児童生徒に教科書が届かなかった場合、保護者から抗議を受けること、あるいは、いじめにつながる可能性があること等を教師が懸念しているためである。また、学校側にコスト意識が無いことも原因のひとつと言えよう。
  このような状況であっても、業者は、効率性や採算性を度外視し、確実に間に合わせることを最優先とする使命感を持って、供給を実践している。

(2)付帯業務も通常業務の範囲内

  各小中学校への納品は、軒先渡しではなく、学校側が指定した鍵のかかる部屋(図書室など)への納品である。指定した部屋が仮に校舎の2階以上にあるならば、そこまで納品する必要がある。さらに、納品時に全冊数を教科書担当の教師とともに数える(検品業務)。通常の物流では付帯業務となるこれらの業務は、教科書供給においては通常業務であり、この業務に伴う費用は供給手数料の中に含まれている。
  また、検品後に受領印をもらった後に、転出入生などの影響で過不足が発生した場合には、さらに納品や回収業務が発生する。しかし、学校側から最終の冊数が都道府県教育委員会に報告される(受領証明書の提出)までは、冊数が確定しないため、確定するまでの間に、何回も学校を行き来したとしても、その費用が別枠で払われることはない。これも通常業務なのである。1冊あたりの供給手数料は数十円であることから、取次供給所は採算性が合うはずがなく、特に地方では学校までの距離が長いため顕著であると言えよう。

5.おわりに

  教科書供給には特有の諸条件が存在するが、完全供給という理念を持つ業者により、現在まで実践されてきた。しかし、採択地区の細分化に伴い仕分けが細かくなる、あるいは、少子化に伴い児童生徒数は減少しても学校数はそれほど減少しない等により非効率な供給へと向かっている。さらには、取次供給所の本業は書店であることが多いため、本離れに伴う本業の経営環境の悪化の影響で廃業や供給業務の辞退が増えている。教科書の無償給与の継続にかかわる大きな問題である。
  教科書供給の「完全供給」は、高サービスな物流とも言えるため、これを維持するためには、物流サービスに準じた予算を国が確保することが本筋であるが、日本の財政事情を考慮すると難しい状況である。そのため、まずは、全関係主体が協力し合い、現状の仕組みの中で、ロジスティクスの視点による合理化を検討する必要がある。例えば、納品検品を簡素化する、学校側に緊急納品要求の削減を徹底させる等があげられる。しかし、教師は教育のプロであって、物流のプロではない。物流面の効率化を主張しても解決に至らない可能性が高い。考えられる方法は、緊急納品削減による環境負荷低減度合いを数値で示す等、環境の視点からアプローチすることがあげられる。さらには、最近話題となっている「カーボンフットプリント」が教科書にも表示されるようになった場合には、児童生徒側から教科書供給における環境負荷低減が求められ、教科書の供給方法について学校側でも議論されるかもしれない。
  一方で、政府の教育再生懇談会では、教科書の質や量を充実させることが議論された。その会議資料には、主要教科では教科書のページ数を2倍増するという記述がみられる。ページ数を増やすということは印刷製造費や供給費が大幅に上がることになるため、予算制約の中でこれを達成することは困難であることが容易に予想される。したがって、提案どおりに議論が進むのであれば、予算規模の拡大か、供給のあり方の見直しの議論に発展する可能性があるため、今後の動向に注目したい。

文部科学省ホームページ(教科書制度の概要)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/gaiyou/04060901.htm

以上



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