ロジスティクス・レビュー

第157号 スーパー業界におけるEDIの取り組み~拡大期に入った流通BMS~(2008年10月9日発行)

執筆者 坂本 真人
(財団法人流通システム開発センター 研究開発部 主任研究員)
    執筆者略歴 ▼

  • 略 歴
    • 1964年 2月生まれ。血液型 O型。
    • 1986年 東海大学工学部 卒業。
    • 同年(株)富士通ゼネラルシステムエンジニアリング 入社。
      新人教育終了後、富士通(株)に特別研修生として出向。(1988年より自社に戻り業務を継続)
      POSを中心とした、小売業の店舗システムの開発及びフィールドサポート業務に従事。
      (CVS、GMS、ファッション専門店等)
    • 1996年(財) 流通システム開発センターに研究員として出向。
      流通EDI標準メッセージ”JEDICOS”開発・ECR実証実験(需要予測システム等)等、EDI関連の標準化作業に従事。
    • 2000年 (財)流通システム開発センター[http://www.dsri.jp] 入所。
        ・ 流通標準EDIメッセージ”JEDICOS”開発(国際流通標準EANCOMを基にした可変長メッセージ)
        ・ 流通XML-EDI標準化事業全般・流通業におけるビジネスプロセスモデル標準化事業
        ・ EDIの国際標準仕様策定に関する各種国内会議(ebXML等)に参加
        ・ 日本GCI推進協議会 担当研究員(EDI WG担当)
        ・ 2003-2005年度 経済産業省 流通サプライチェーン全体最適化基盤整備/促進事業(次世代EDI標準の策定など)
        ・ 2006-2008年度 経済産業省 流通システム標準化事業(「流通ビジネスメッセージ標準[流通BMS]Ver1.0」及び「Ver1.1」の開発、関連ガイドライン整備、通信プロトコル・セキュリティの整備、共同実証など)
      等に従事し、現在に至る。

目次

  前回「インターネット型データ交換(XML-EDI)」(2006.02.09)というタイトルで、流通業界の企業間データ交換の新たな流れを紹介してから約2年半が経ちました。2006年度からは、2005年度の標準化活動(前述のレビューで説明)を基に、経済産業省委託の「流通システム標準化事業」として、3カ年計画で”基盤の確立”"実用化”"普及拡大”として事業が行われている。(図表1-1)
  今回は、過去2年間(2006~2007年度)に進めてきた流通システム標準化事業のEDI標準化作業を中心に紹介します。

図表1-1 経済産業省委託「流通システム標準化」事業

1.標準化の基礎固めと実用化検証(2006-2007年度)

  2006年度は、前年度までに整理したメッセージ種のデータ項目内容をさらに精査して、まずはα版メッセージを開発した。このメッセージを使用して、本番運用を前提とした実稼働環境で、メッセージ種及びデータ項目の定義や使用ルールの精査をおこない、適用度や効果を検証するための共同実証を行った。共同実証は、総合スーパー4社(イオン、ダイエー、平和堂、ユニー)と加工食品・日用品の卸9社との間で行われ(図表1-2)、標準メッセージと通信技術面の実用化検証、並びに業務面での想定効果を検証した。その結果を反映し、流通システム標準化事業が目指すEDI基盤整備の対象である「インターネット対応標準EDI」の2006年度までの調査研究成果として、2007年4月1日に「流通ビジネスメッセージ標準(流通BMS)」の名称でバージョン1.0を公開した。このメッセージは、スーパー業界のグロサリー商品を中心としたEDIにおける基本形として、「発注」「出荷案内(伝票形式と梱包形式2パターンの3種類)」「受領」「返品」「請求」「支払」の8メッセージである。

図表1-2 2006年度 共同実証参加企業

  メッセージを標準化する過程で検討/精査を行った対象となる業務プロセスモデル、項目の詳細定義、項目にセットする内容の解説なども、新たなEDI導入を容易に行うために運用ガイドラインとしてとりまとめている。
  標準メッセージを送受信するための通信インフラに関しても、国際標準仕様であるAS2とebXML MSについて、異なるベンダー企業が販売する通信ソフトの相互接続性を向上させるため、通信ソフトで設定をおこなう各種パラメータについて、あいまいな解釈が行える部分や標準的に設定すべき値と、取引を行う企業間で取り決めなければいけない事項について精査をおこなった。同時に、インターネットを利用する際に心配されるセキュリティに関しても、国際的にも認められている方式の何を使用していくかを手順ごとに推奨案として取り決め、通信プロトコル・セキュリティガイドラインとしてまとめた。
  2007年度「流通システム標準化事業」のスーパー業界では、実用段階に入った流通BMSを、対象分野拡大、並びに生鮮やアパレルに特有の取引に対応できるメッセージの標準化検討と共同実証がおこなわれた。
  Ver.1.0はグロサリーを中心としたターンアラウンド型取引の基本形を想定して開発したが、その適用範囲をデリカ・日配品等にも拡大するために業務プロセスを整理し、どの商品群まで適用可能であるか、メッセージ種及びデータ項目の追加修正などを必要とする商品群は何かについて検討した。
  また、ターンアラウンド型取引ではあるが、物流センターの運用方式が異なる「預り在庫センター型取引」について、その取引プロセスモデルと必要なメッセージの検討を行っている。
  スーパー業界における青果、食肉、水産物の取引について、前年度までの検討成果を基にさらに詳細な検討を行い、Ver.1.0に対して不足しているメッセージ種及びデータ項目を洗い出し、不定貫商品への対応等について検討をおこなった。
  アパレル商材の取引についても、前年度の検討で残課題とした値札メッセージの作成などを行い、Ver.1.0に対して不足しているメッセージ種の追加とデータ項目内容定義の精査をおこない、値札メッセージの追加開発と、1項目のデータ属性変更(カナ文字使用を可能とする)の改定をおこない流通BMS Ver1.1(図表1-3)として2008年3月に公開をおこなった。

図表1-3 Ver1.1 対象メッセージ(網掛部)

  公開にあたっては2006年度と同様に、検討された標準メッセージの案を実際の取引業務で使用し、複数の小売業と取引先の間で本番稼動を前提とした共同実証(図表1-4)により、実稼動に耐えうるものかの検証/確認をおこなった。共同実証においては、新たな商材への対応により期待される効果などについて検証し評価内容をとりまとめた。2007年度は前年度に策定/公開したVer.1.0からのバージョンアップとなるため、既にVer1.0を使用し運用を開始しているユーザーがどのような対応が必要になるかなどの状況についても整理し今後の普及推進の情報としてまとめている。
  また、新たな標準メッセージの基本形が確立し実用化が進みつつあることから、物流ラベル/帳票、情報共有系メッセージ(POS売上等)の検討および消化取引や商品マスタ交換の未検討業務プロセス・メッセージの検討も開始された。

図表1-4 2007年度 共同実証参加企業

  スーパー業界だけでなく、百貨店業界ではEDIの標準メッセージを2006年度から開始し(15メッセージ策定)、2007年度は百貨店―アパレル・婦人靴業界間メッセージの完成させるために、前年度に策定したメッセージの精度向上、仕入計上・POS売上等の新規EDI標準メッセージの策定、運用における課題検討とガイドラインの作成を行っている。これにくわえ、納品代行業者が介在する場合の業務プロセスモデルの検討及び整理、商品マスタ同期化と流通ビジネスメッセージ標準との関係整理を行い、2008年度以降に百貨店業界として流通BMSを導入していくための検討をおこなっている。
  スーパー業界や百貨店業界(アパレル/婦人靴)におけるEDIの標準化の検討にとどまらず、チェーンドラッグストア業界においても2007年度より標準化検討が開始されている。ドラッグ業界では、2009年から施行される薬事法改定に対応し、消費者への情報提供を確実にそして効率的におこなうため、商品情報の企業間におけるデータ交換と消費者への伝達方式の検討と商取引のEDI標準化の検討をおこなっている。
  2008年度で経済産業省委託の流通システム標準としての事業は終了であるが、J手順という標準仕様を業界として整備してから四半世紀ぶりに複数年かけておこなった大々的に整備したEDIの標準仕様群を維持し、流通業界全般に向けたさらなる業界拡大を今後も継続しておこなうことで、業界の壁がなくなりつつある市場の現状を踏まえた標準仕様の作成を実現していく予定である。今後、直近の予定ではホームセンター業界におけるEDIの標準化を予定しており、その後も、他の業種/商材への拡大を実施していく予定である。(図表1-5)

図表1-5 流通BMSの策定対象 予定業界

  スーパー業界や百貨店業界を含め流通全体に本事業で開発した各種標準仕様を広く普及していくためには、中小企業が容易に導入できるよう対策を考える必要が有る。特に大手企業が導入する際に比べて、各企業における作業やコストの負担を軽減することが必要とされる。標準化した情報交換の基盤は、より多くの場面で複数の企業が利用することでその効果が格段に大きくなる。次世代の標準EDIである「流通BMS Ver1.1」を導入開始している企業は、現在は大手流通業だけであるが、今後、大手流通企業の中で普及し、確立された技術を基に、多くのITベンダーが、使いやすく、安価なソフトウェアなどを提供することにより、中小規模の流通業への普及拡大に拍車をかけることが期待される。
  インターネットを利用したEDIの効果は、大量データを送受信する大手企業間において大きくなるのは明白であるが、情報化に取り組む中小流通業にとって標準化によるメリットを享受するためにも、本事業の成果を積極的に活用していただきたい。そのためには、中小企業をターゲットとした施策が必要であと判断し、中小企業向けの普及策としてVAN/ASPモデルの研究、EDI基盤が確立し実用化に移っていることから関連する物流ラベルの調査研究も開始された。
  VAN/ASPの調査研究とは、地域ごとに接続仕様等が異なるVANシステムが乱立することを避けるためにも、今回の標準EDI対応型サービスのモデルを作り、事業化に意欲を持つネットワーク事業者にガイドラインを示すための調査研究のことである。
(注)調査研究を行う上でのVANとASPの定義
    ●VAN: 小売と取引先の共同利用型ネットワーク・システムを意味し、企業間のデータ交換機能及びそれに関わる通信手順の変換、データフォーマット変換等の機能を有する
    ●ASP: 小売と取引先間のデータ交換を含む業務システムを、システムの運用・運営負担を軽減できるよう、アプリケーション機能毎に共用型でサービスすることで軽微なシステム資産により利用可能にしたシステム。
  物流ラベルの調査研究は、大手企業も含め物流業務で使用するラベルや帳票についても、小売業・物流センターごとに仕様が異なり対応する取引先企業においては課題となっている現状を改善するためにおこなわれた。特に、大手企業に比べ情報システムに対して充てられるコストが少ない中小企業では、できる限り企業ごとに様々な対応をすることなく統一の仕様でシステム化することが必要である。物流業務についても、業務の効率化やコストの削減に期待できる分野であり、現在の状況を詳細に把握し、今後に向けた標準化の基礎調査研究を行っていく事もテーマのひとつである。

  流通BMSで定義された新たなEDIメッセージの仕様や各種ガイドラインは、当センターホームページ内の「経済産業省 流通システム標準化事業」として公開しているので、詳細については、そちらを参照願いたい。

2.今後の標準化事業

  経済産業省事業の最終年度として、2007年度までに整理した内容を基に今年度は、百貨店業界におけるEDI標準メッセージの確立、チェンーンドラッグストア業界における商品マスタ交換及び消費者への情報提供とEDI標準メッセージの確立、スーパー業界における残課題の整理し標準仕様への反映、などを実現するための共同実証と、盛りだくさんの内容を、実ユーザーの方々(利用者)を中心に検討いただき取りまとめて行く予定である。
  本事業で開発及び整理を行った標準仕様や各種ガイドラインの維持管理については、今年度具体的な整理を行い、来年度以降に立ち上げられる予定の”利用者が中心となって、業界間で密接に連携し標準を検討し維持管理する”場で運営推進していく予定である。

  2008年度の事業概要、そして、昨年度までに整理を行った、流通BMSの仕様や各種ガイドラインは、流通システム開発センターのホームページ内で「経済産業省 流通システム標準化事業」として公開しています。http://www.dsri.jp/scmpjt/index.html
  また、流通システム標準化事業の概要や、流通BMSの導入を検討する方向けのセミナーなどの開催日程の告知もありますので、是非一度アクセスし標準化の情報に触れてみていただくとともに、標準化事業に積極的にご参加いただけることを御願いいたします。

以上



(C)2008 Masato Sakamoto & Sakata Warehouse, Inc.


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