ロジスティクス・レビュー

第154号 ユビキタスネットワーク時代の位置管理(2008年8月19日発行)

執筆者 吉本 隆一
公益社団法人 日本ロジスティクスシステム協会(JILS)
JILS総合研究所 所長 主幹研究員
    執筆者略歴 ▼
  • 略 歴
    • 1980年法政大学大学院博士課程経済学単位終了。経済理論・財政論、PPBSを専攻。
    • 1983年から2005年まで(財)日本システム開発研究所。
    • 2005年から現職。
    情報化関連
    • 1990年から移動体通信や輸配送管理システム、デジタルタコグラフ等、物流分野へのICT/ITS活用方策に関する各種調査研究に従事。
    • 1995年から1999年までITS関連の標準化活動参加。(ISO/TC204/WG6専門委員)
    • 1997年から2000年まで、総合物流施策大綱高度物流情報化関連事業に参加。
    • 1998年から2004年までJILSロジスティクス情報化推進会議、上級システム研究職兼務。
    • 1998年から現在までAIDC(バーコード、RFID等の自動認識システム:ISO/IEC/SC31関連)の標準化国内委員会に委員またはオブザーバ参加。

目次

1.はじめに

最近、ユビキタスネットワーク構築の視点から、企業コードや位置コードの共通基盤構築が話題になっている。直接の契機は、情報通信審議会情報通信政策部会「ICTによる生産性向上に関する検討委員会」(主査:村上輝康株式会社野村総合研究所)は、「ICTによる生産性向上戦略(案)」を作成し、平成20年5月10日(土)から5月31日(土)までの間、意見募集を行い、その結果と同意見をふまえた戦略案が6月23日に情報通信政策部会に報告されたことにある。

関心のある方は、総務省の下記サイトから資料をご確認いただきたい。

http://www.soumu.go.jp/s-news/2008/pdf/080620_4_bs1.pdf

http://www.soumu.go.jp/s-news/2008/pdf/080620_4_bs2.pdf

なお、2003年(平成15年)には、同様の視点から「商品コード」が話題になった。当時の「商品トレーサビリティの向上に関する研究会」の中間報告書は経済産業省の下記サイトからダウンロードできる。

http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0003896/

国が共通基盤として整備する場合には、当然のことであるが、国際標準規格の基本的要件と同様に、業際にわたる共通性、国際性、そして既存コードとの互換性が必要とされる。理想としては、これらが必須の要件であることは納得できる。しかし、各種コードの実際の運用方法に対する課題認識なしに同様の議論が繰り返されると、標準規格と実態が乖離してしまう。このような状況は回避したいものである

ユビキタスネットワークでは、いつでも、どこでも、だれとでもの「でも」3がキーワードになっている。しかし、ビジネスの現場は、常に、ジャストインタイム環境と同様に、必要な時だけに、必要な人に、必要な情報だけが届く「だけ」3のような情報のスクリーニング機能こそが必須の要件になる。

ここでは、1997年4月4日に閣議決定された最初の「総合物流施策大綱」にもとづく高度物流情報化システム開発事業の成果をふまえつつ、特に「位置」情報の古くて新しい基本的課題を改めて紹介したい。

2.ICTによる生産性向上戦略(案)

(1)場所コードの提案内容

同報告書の提案は、ウェブサーバ(SaaS)の活用と、企業ディレクトリの整備、場所コードに関する3点の内容が中心となっている。全体に関わる議論は長くなるので、ここでは、「場所コード」に関する同報告書の提案骨子のみを紹介しておく。

ICTに関わる基本方針としては、これまでの自ら「所有」し、自ら「作る」システム、カスタマイズしたソフトウェアから、「つながり力」(ネットワーク力)を活かして、「利用(共用)」するシステム、自らは「作らない」システム、共用可能なソフトウェアの利用へ変えようとするものである。

場所コードの構築については、「実社会の企業活動をネットワーク上で可視化する」ために、「物流、資産管理、移動支援、広告など、場所の把握が生産性向上に寄与すると期待される業務分野において場所の利用者のニーズに応じた『場所コード』を新たに構築(郵便番号や住所だけで特定できない、公共空間や施設内の場所を特定)」するとしており、2008年度から推進する「ユビキタス特区」事業でメリットを可視化し、国際標準化に向けた取組みを推進するとされている。

同報告書の提案する「場所コード」の意義・内容は以下のように説明されている。

「場所コード」とは、社会経済生活上、意味のある場所を特定するコードをいう。
実社会の企業活動をネットワーク上で再現するためには、利用者のニーズに応じて、一定の場所にあるべき物(居るべき人)、あるべきでない物(居るべきでない人)等をネットワーク上で可視化することが有効である。換言すれば、ここで取り上げる場所コードは、一定の場所を特定することに加えて、そこにあるべき物(居るべき人)、あるべきでない物(居るべきでない人)等の情報が紐付けられた場所コードを想定している。このような場所コードは、企業コードや商品コードと連携し、又はこれらを包摂して活用することも想定される。こうした実際の企業活動をネットワーク上で再現し、管理し、更には自動化するという「つながり」を実現できれば、他の自動化できない業務に人手を回すことができ、企業の生産性の向上に大きく寄与するものと考えられる。
新たなニーズに応える場所コードは、場所の利用者のニーズに応じて、相対的なものであり、郵便番号や住所等に比べ、粒度が一律ではない。新たなニーズに応える場所コードは、自律・分散・協調して管理することが可能であり、インターネットにおけるISPのように、場所コードを提供するプロバイダ業が営利事業として成り立つか否かについても、今後の検討課題の1つとなる。実際の企業活動をネットワーク上で再現し、管理し、更には自動化するという新たなニーズに応えるためには、場所コードに紐付けられる属性情報は、同じ場所であっても、利用者によって異なるという点を認識する必要がある。場所の利用者によって異なる、いわば相対的な属性情報を、いかにして場所コードに紐付けていくかについて、標準化を進めていくことが求められる。
図1 場所コードの体系

資料:上記報告書 p36

同報告書では、「緯度・経度・標高では、例えば売り場、倉庫の棚など、社会経済生活上、意味のある場所を示すには、不適当である。他方、郵便番号や住所は、社会経済生活上、意味のある場所を特定する場所コードと言えるが、特定できる範囲に限界があり、ビルや商業施設の1フロア、工場や倉庫の1区画、建物内の通路、倉庫の棚といった場所を示すことはできないのが実態である」とされている。

表1 「場所コード」と郵便番号や住所との相違点

         新たなニーズに応える場所コード 郵便番号、住所
発行 ○ 場所の利用者が必要に応じて自由に発行することが可能。 ○ 場所の単位(粒度)、発行ルール等が細かく定められている。
発行単位 ○ 必要に応じて、点から大場所まで、単位は自由に設定できる。
○ 同じ場所コードで、点から大きな場所まで同じように管理できる。
○ 場所の階層構造が、同じ場所コードの中で表現可能。
○ 場所の大きさは、目的に応じて揃えられている。
○ 場所の大きさが変わると、コード体系が変わることが多い。
○ 場所の階層構造を1つのコード体系で表現することは難しい。
管理 ○ インターネットのように自律・分散・協調して管理することが可能。 ○ コード管理者は末端まで管理しなければならない。

資料:上記報告書 p37

(2)場所コード構築上の課題

同報告書における「場所コード」構築の前提となる課題については、パブリックコメントの内容でも指摘されているとおり、以下のように点にある。

企業コードも場所コードでも、実際の運用面で多様なコード体系やそのマッチングが業務上の大きな制約になることは少ない。
物流EDI(電子データ交換)の規格でもみられるように、企業や事業所のコードだけでも、利用方法によって意味・役割が異なる。契約に必要な会社の代表者、本社、請求書の送付先、業務用の連絡窓口、実際の荷物の荷受・荷降場所など、用途に応じて同じ会社でも異なるコードが必要になるか、同一コードにすれば異なる属性子を付与することが必要になる。
コード類のデータベースの集中管理や維持更新(具体的な登録・管理方法)は、現実的に不可能であり、分散管理も実際的ではない。
緯度経度と、構内や店舗内の売り場、倉庫の棚などのXYZの位置管理は、運用上全く別のものであって、比較自体に意味が無く、統合的な表示方法を必要としていない。
場所コードは、利用者ニーズに応じて発番されるものとしているが、その場合、属性子は用途に応じて際限なく複雑になり、利用者ニーズ別に異なるものをコード管理機関別に管理するのでは新規整備の意義がない。

3.ロジスティクスにおける「位置」データの現状と課題

現状では、「場所コード」構築以前に、「住所」、「郵便番号」および「市区町村コード」の利用が最も一般的である。また、電子地図のウェブサーバによる活用を含めて、カーナビだけでなく、バックヤードでは、距離計算や位置特定のために緯度経度データも活躍している。さらに、倉庫の棚管理等では、棚番号によるロケーション管理やXYZの座標管理も有効に活用されているが、当該データまで第三者に提供するニーズは、聞いたことがない。

むしろ、実務面から求められている喫緊の課題は、新しい「場所コード」の構築以前に、現在、公共的に無料で提供されるデータとしての「住所」、「郵便番号」および「市区町村コード」に関わる基本的な課題の解決ではないかと考えられるので、ここでは、既往調査成果で提言した基本的課題を紹介しておく。

(1)「住所」の基本的課題

住所表記には、依拠すべき正確な地名表記の「標準」もデータベースもない。市販の有償データベースから町字コードデータの表記を軸足に処理しているだけである。ウェブサイトで注文する際に、自分で自分の住所を間違って記入してもチェック機能はない。それに伴う誤配・遅配やさまよい配送ロスこそ生産性向上の阻害要因ではないだろうか。さらに、「市」の名称でさえ府中市や伊達市のように都道府県が異なれば同一名称があり、町村名や字名では、さらに混乱した状態のまま放置されている。また、町字や番地にいたる表記方法や重複、類似表記の混在(住所表記の階層性と示す「大字・字」と地名としての「大字・字」の混在等)も多く、場所の特定を妨げている。

(2)「市区町村コード」の基本的課題

平成の大合併以降、市区町村コードの体系は崩壊し、大混線状態のままである。現状では、統合前後で異なるエリアになった市区町村が同一コードで示されている。仕分けにあたって、いつの時点の市区町村コードで記入しているかが特定できないと配送不能になる。ICTによる生産性向上を提案するのであれば、このムダな維持管理ロスを発生させているコード管理方法自体を改善することが優先されるべきである。

(3)「郵便番号」の基本的課題

郵便番号は、7桁化によるビルの階層やテナント別コードの機能を混在させた時点で場所特定のユニーク性を失っている。米国のZIP(ZIP+4)コードのような点的なコード付与方法も参考にすべきである。

(4)「緯度経度」の基本的課題

緯度経度は、点的データなので、上記の住所のような面的表示のデータとの関連づけ(市区町村や丁目・字、門・玄関等の代表点の作成方法)を示す共通表記方法が不可欠である。また、一般に利用されるGPSによる測位の場合は、測位精度や座標系・測位系等の測量方法との関連づけ、実際の電子地図との関連づけ方法の共通表記方法が必要になる。

このような改善が図られれば、新規の「場所コード」以前に生産性向上に資するところ大であると考えられる。関係各位のご検討を願いたい。

以上



(C)2008 Ryuichi Yoshimoto & Sakata Warehouse, Inc.


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