ロジスティクス・レビュー

第145号物流施設のライフサイクルと維持保全(2008年4月8日発行)

執筆者 桑原 慎
東洋ビジネスエンジニアリング株式会社
コンサルタント
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1975年生まれ
    • 2001年 東洋ビジネスエンジニアリング入社
    • 2008年 同社 ビジネスコンサルティング部
      コンサルタント/ビジネスプランナー
    • 現在に至る
    主要著書・論文
    • 『なぜすれ違う?SEとコンサルタント』 日経BP社 2005年8月

目次

1.はじめに

  弊社はITを活用したお客様(製造業、物流業)の課題解決支援のためコンサルティングを行っている。近年、顧客の課題が複雑化しており、それらを解決するITソリューションの適用方法も、個別企業の競争力や特徴と不可分の関係になってきている。ここでは、中量生産と位置づけられる業界の、ロジスティクスに必要なITアーキテクチャーを紹介する。

2.中量生産型企業に求められるロジスティクス

  まず中量生産品を以下のように定義する。

【製品】 基本構造となるプラットフォームとオプション品やソフトウェアの組み合わせ。
【生産方式】 多種少量生産の個別受注生産型と少種多量生産の見込生産型との中間に位置。
【業界】 汎用的な装置設備や機器。工作機械や建設機械、医療機器など。

  これまで大量生産型で生産していた企業が、顧客仕様に合わせた製品によって差別化するため中量生産型へ移行する方向にある。一方、少量生産型の企業は、コスト低減とライフサイクル短縮化に追随するため中量生産型へ移行する方向にある(図1参照)。各企業は全製品を一つの生産方式で製造するのではなく、製品や顧客毎さらに時間によって生産方式を変化させる必要がある。これらを実現するため、幾つかの企業では、業務変革やそれに伴う情報システムの再構築を設計/生産/営業の全プロセスに渡って実行している。

図1 中量生産型への移行

  中量生産型に適応した生産方式への変化に伴い、特にロジスティクスに求められる姿として以下が挙げられる。

【シリアル管理】 個品毎にナンバリングされているシリアル番号単位に在庫・入出荷・物流を管理する。
【トレーサビリティ】 シリアル番号をキーに出荷から最終ユーザーまでをトレースする。
【静脈物流】 販売物流のみならず回収物流までを一元的に管理する。
【補修品管理】 修理品や保守品の在庫・入出荷・物流を管理すると共に、製品の修理履歴や部品のシリアル番号も管理する。

3.現状のシステム課題

  ロジスティクスに求められている要件を満たすための情報システムは、メーカーから販社、代理店までを一気通貫して物流情報を管理すると共に、個品単位という細かいメッシュで制御する必要がある。
  しかし、メーカー/販社/代理店毎のシステム導入が独立して行われたため情報連携されていないことが多々ある。また、シリアル番号単位での受注出荷や個品/包装/パレット単位という階層的な在庫管理が機能的に不足しているソリューションも見受けられる(図2参照)。

図2 現状のシステム課題

  以上のように現時点で企業に導入されている情報システムは、その導入範囲や機能において中量産型の業界にはマッチしていない場合もある。しかし、現在、技術の進展や新たなソリューションの開発により、幾つかの解決策がある。次にその潮流を紹介しながら中量生産型のITアーキテクチャーを考察する。

4.ロジスティクスを支えるITの姿

◆IT技術の潮流

  企業の業務を支えてきた情報システムは、ホストによる大量データ処理からERP(基幹業務システム)によるリアルタイム処理へ進化してきた。しかし、コードの統合化や業務の標準化が前提になっていると同時に、漸次的な情報システム導入が困難で巨額の投資額を必要としてきた。さらに、異なるシステム間でデータ連携する際、採用されているインターフェース方式が各々のシステムに依存しているなど、開発ボリュームや開発期間が必然的に大きくなり柔軟性が少なかった。
  しかし、最近では、ERPではカバーできない業務領域を補うため、実行系ツールが多数そろってきている。一昔前は、実行系ツールと言っても単一拠点の中のWMS(倉庫管理システム)やMES(製造管理システム)であったが、近年では、複数拠点をコントロールし一元的に入出荷や在庫を管理できるソリューションが提供されている。
  また、SOA(Service Oriented Architecture)という新たな技術が進化し、アプリケーション間を連携するミドルウェアによって柔軟性を確保することが可能になりつつある。
  これら2つの技術を用いることで、中量生産型の課題を解決するITアーキテクチャーが可能になる。

◆実行系ツール

  一般的にERPは、組織体系が前提となった業務処理となっている。例えばメーカーと販社は物品の移動に伴い売買を発生させることが通常の業務の流れになっている。しかし、中量産品の機器は工場から設置場所直送というパターンも多く、商流と物流を分離して制御することが必要になる。またシリアル管理などERPより細かなメッシュでの管理が要求される。
  この課題については、ERPとは別階層のアプリケーションの導入が解決策として上げられる。即ち、商流ベースで管理するERP層と、物流ベースで管理する実行系ソリューション層、2つを組み合わせることで中量生産型の企業に柔軟に対応できる(図3参照)。この実行系ソリューションによって企業横断的なトレーサビリティやシリアル管理を実現出来る。

図3 新ソリューションを用いたITアーキテクチャー

◆SOA

  「現状のシステム課題」で述べたように、メーカー、販社、代理店、海外拠点毎に導入されたシステムは異なる場合が多い。これらをつなげるミドルウェアの技術としてSOAが進化・実装レベルまで到達しつつある。SOAの詳細説明は他資料に譲るが、この技術によるメリットを一言でいうと、分断された基幹システムがシームレスにつながり、データ/処理がまるで統合されたかのように見えること、と言える(図4参照)。
  具体的な応用例を挙げよう。次のような業務を行うとする。①受注オーダーが販社に入り、②メーカーが管理する倉庫の在庫を引当する。③その引当に基づき、メーカーが最終ユーザーに直送する。ここでのポイントは、販社がメーカーの在庫に対して仮予約のような在庫の引当が可能になることである。これまでの情報システムでは、メーカー側の在庫情報を販社側へミラーリングしないと実現できなかった。しかし、SOAの技術を用いれば、リアルタイムで販社側からメーカー側の在庫引当サービスを呼び出しDBへアクセス出来ることになる。
  今後、SOA導入方法論や各ミドルウェアベンダーの成熟化によって、中量生産型のニーズにマッチした情報システム構築が可能になっていくだろう。

図4 SOA技術を用いたITアーキテクチャー

  以上のように中量生産型の企業におけるロジスティクスのITの姿を2つ紹介した。前社はアプリケーション層に着目し、後者は情報システムの階層に着目した姿となる。どちらの視点でITアーキテクチャーを選択するかについては、システム再構築の目的やIT技術の成熟度、トレーサビリティ対応の緊急度などによって、企業毎に判断する必要がある。
  如何に自らの業務プロセスと組織体系を最適に進化させるのか、それらを支えるITをどのように活用していくのか、が、今後企業が勝ち残る必要条件になっていくだろう。

以上



(C)2008 Makoto Kuwahara & Sakata Warehouse, Inc.


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