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ロジスティクス

第127号再びモーダルシフトの大合唱:低温流通における考察(2007年7月12日発行)

執筆者 野口 英雄
有限会社エルエスオフィス 代表取締役
    執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部へ異動
    • 1985年 同・物流子会社へ出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックスへ出向(コールドライナー事業担当、取締役)
    • 1994年 同・本社物流部へ復職、96年退職(専任部長)
    • 1996年 昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)、98年退職
    • 1999年 株式会社カサイ経営入社
    • 2000年 有限会社エルエスオフィス設立、カサイ経営パートナーコンサルタント
    • 2001年 群馬県立農林学校非常勤講師
      現在に至る
    所属団体など
    • 日本物流学会会員
    • 日本物流同友会会員
    主要著書・論文
    • 「ロジスティクス・ウエアハウス」(1993年,日本倉庫協会論文賞受賞)
    • 『日刊運輸新聞』に「低温輸送ビジネスを掘り起こす」連載(1999年4月~2000年10月)
    • 低温物流とSCMがロジ・ビジネスの未来を拓く」野口英雄著,プロスパー企画,2001年7月

目次

1.旧くて新しい課題への再挑戦

  環境・省エネ対応の切り札として、再び共同配送やモーダルシフトが注目を集めている。低温流通においては冷媒としてのフロンや代替フロンという問題もあり、これは極めて重要な取組みである。しかしこれはまた旧くて新しい課題であり、過去にも幾多の挑戦が行われてきた。そこで問われた基本的な問題にメスが入らない限り、また単なるお題目に終わってしまう危険性がある。
  過去にモーダルシフトを推進すべきという節目は幾つかあった。例えばオイルショックの燃料費高騰であり、そしてバブル期の人手不足等であった。これは現在の状況にも当てはまり、さらに深刻な環境問題である。これらを単に物流の問題としてだけではなく、まさに社会的使命として、腹を据えた取組みに出来るかどうかが問われている。

2.本当にモードをシフトするだけでいいのか

  モーダルシフトとはその言葉通り、トラックという輸送モードを他の手段に置き換えていくことと考えられている。それは主として鉄道であり船舶ということになり、しかもトラックの輸送サイズで代替していく。つまり世の中が小口多頻度対応に翻弄されているのに、大ロット輸送である。海上コンテナでは小口混載という方法もあるが、鉄道つまり通運事業にはこの概念がない。漸く5tコンテナサイズ以下の小さな単位でも行われるようになったが、基本は以前と変わらない。
  モーダルシフトの狙いをここでもう一度考え直してみたい。

(1) より燃料効率がよく、環境負荷が少ない輸送手段にシフトする
(2) 人手不足・就労問題等をふまえ無人輸送体制を確立する
(3) 道路渋滞・交通事故等のリスクを回避させる
(4) 混載による大ロット化で輸送効率を向上させる
(5) 同車両台数削減
(6) 幹線輸送における定時性を活用する

  つまりこれには様々な効用がある。これをもっとアピールし、物流の基幹システムとして位置付けていく必要がある。

3.重要なのは結節点から末端への対応

  SCMが進化し、よりローコスト・在庫極小化を目指す動きがますます加速している。幹線輸送はより太いパイプで効率化を図り、消費に近い末端流通には多頻度小口で対応するという動きは、もはや止めることはできない。特に低温流通においては鮮度が生命であり、勢い無在庫型流通が基本となる。本来は貯蔵性を高めるための冷凍品においても、今や鮮度管理が重要になっている。
  従ってモーダルシフトの結節点において、本来であれば分荷対応が可能で、末端への小口配送が直ちに行われる事が理想である。しかしながら現在の体制ではそこからの牽引車による横持ちが前提であり、時間ロス・高コスト構造も変わらない。重要なのはこの部分であり、横持ち距離を短縮させ、小口配送拠点に短時間でつなぐことである。
  そしてそこからは基本的には小口混載による共同配送を行う。温度帯毎に拠点を使い分けるのではなく、複数温度帯一括物流とすればさらに配送効率を上げることが出来る。幹線輸送の効率化と併せ、重要なのはこの末端への対応である。ロジスティクスによるリテイルサポート機能も重要になる。

双方向型モーダルシフト共配ネットワークのモデル図

4.モーダルシフトと3PLをジョイントさせる

  単に幹線輸送のモーダルシフトだけではなく、これを末端小口配送につなげ、トータルでの物流ネットワークサービスを志向しているのが日本フレッシュロジスティクス協議会(略称:NFL)だ。低温系の荷主や物流事業者が集まり、以前からこの課題に挑戦している。対象商品には野菜・果実等の一次産品も含まれる。いわばモーダルシフトを3PLというコンセプトで運用するもので、今迄の取組みとはひと味違う。もちろんグリーン物流の事業認定も受けている。
  基本的には産地と消費地を鉄道クールコンテナで幹線輸送し、参加物流事業者の共配ネットにつなぐというシステムである。もちろん双方向性を持たせてコンテナ稼働率を上げ、片荷を極力回避させる努力も怠らない。クールコンテナは温度設定が可変であり、チルドから冷凍に至るあらゆる商品の適温に対応出来る。
  ここで言う3PLとは各共配拠点におけるロジスティクス業務運営代行として、調達から配送に至るまで広範囲の業務をカバーする。そのための情報システム開発も行った。これは国土交通省のグリーン物流パートナーシップの補助金も受けた成果である。3PL業務のコアは需給・在庫管理であり、生鮮流通では極めて重要かつ困難な仕事になるが、これが顧客に対する付加価値となる。このようなマーケティングとロジスティクスを連携させた販売支援機能も重要である。

5.NFL-LLPの誕生と期待

  NFLという組織がこの2月にLLP(有限責任事業組合)として新たな段階に入った。つまり単なる任意団体から、新規事業の立上げに効果的と言われるこのかたちへと飛躍した。それは有限責任制・内部自治原則・構成員課税等が特徴であり、組織そのものに課税されないというメリットがある。物流事業におけるアライアンスも旧くて新しい課題であるが、この事業組織はより具体的な企業化への第一歩である。期限を決めて早急に次のステップにつなげることになる。
  日配性が高い低温流通を全国規模で展開するには単独事業者だけではリスクが大きく、これを複数の事業者で機能分担し、業務品質を高めサービスレベルを上げていくことで、この手法は大いに注目される。

NFL-LLPへの参加企業

  3PLによる付加価値化により、単に輸送の利ざやを稼ぐという通運事業の延長からの脱皮を図る。幹線鉄道輸送はJR貨物1社の運営になっているが、実際にはこれに各通運会社がジョイントしている構図は従来と変わっておらず、もちろん混載は行わない。新しい事業形態の会社が、これら旧来の壁を打ち破っていく期待もある。
  もちろんコスト面でトラックに太刀打ち出来なければ競争力がない。その最大のポイントは季節波動対応と、双方向貨物の確保である。これを協議会加盟各社の協力を得て一定の稼働レベルを確保出来れば、その可能性は大いにある。

6.リスク対策と危機管理

  モーダルシフトに大きく踏込めないもう一つの理由はリスクの問題である。JR貨物は各旅客会社からレールの空き時間を借りて事業運営しているという制約はあるものの、もっとこの問題に力を入れるべきである。現在の貨物追跡にしてもどの列車に編成したかということが中心であって、リアルタイムの情報把握はこれからの課題である。
  従って災害や事故時の対応も含め、利用事業者がかなりのリスク管理と、異常事態が発生した場合の危機管理を行わなければならない。クールコンテナは電化された路線でも依然として化石燃料を使ったエンジン方式であり、長時間停止した場合は燃料補給をしなければ温度維持ができないという弱点がある。これもインフラとしての鉄道会社側の問題であり、リーファー(電源)方式による対応は未だ限られた区間だけである。
  船舶のリーファーコンセントも限りがあり、電圧が余り安定しないという問題点もある。こと低温流通について現状を見ると安全安心の問題を含め課題はまだあるが、これらを乗越えた高品位物流システムへの挑戦でもある。

以上



(C)2007 Hideo Noguchi & Sakata Logics, Inc.

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