ロジスティクス・レビュー

第124号ロジスティクスにおける環境対応の基礎的考え方(2007年5月22日発行)

執筆者 五関 信之
社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所 研究員
    執筆者略歴 ▼

  • 学歴
    • 1996年 埼玉大学大学院理工学研究科博士前期課程建設基礎工学専攻修了
    • 2006年 多摩大学大学院経営情報学研究科ロジスティクス経営コース修了
    職歴
    • 1996年 株式会社日本能率協会総合研究所 入社
    • 1999年 社団法人日本ロジスティクスシステム協会 入職

目次

1.ロジスティクスと環境

  近年、製品力で他社製品と差別化することが難くなってきている。企業は、この状況を打破するために、イノベーションにより、差別化できる製品の開発・販売により競争優位を構築しようと試みているが、これを一朝一夕に実現することは難しい。したがって、現存の製品で需要を創造し、いかに顧客満足を獲得できるかが競争力を左右する重要なポイントとなる。しかし、これを企業単独で実現することは困難を伴うため、サプライチェーン上の企業と協力しあうことが有効である。つまり、企業経営においてロジスティクスが重要であり、ロジスティクスが競争優位の源泉となっているのである。
  ロジスティクスにより競争優位を構築するための要素として、①品質(顧客の注文に応答して必要な製品を必要な数量、所定の順序で提供できること)、②時間(スピードや応答性)、③コスト、④信憑性(緊急配送、天候や交通渋滞の影響等、不安定な状態においても、顧客の望むサービスを確実に提供できるために管理すること)等があげられ、これらの要素を満たしたロジスティクスサービスが、日々展開されているのである。
  一方で、企業は「地球市民」として、環境問題に正面から取り組まなければならない。ロジスティクス分野においても他人事ではなく、図1に示すように、ロジスティクス活動が多くの環境問題と関わりがあるため、環境負荷の削減が強く求められるのである。したがって、先に述べたロジスティクスにより競争優位を構築するための要素(品質、時間、コスト、信憑性など)に、「環境」を加えることが必要であり、今後は、ロジスティクス環境経営が重要となると言えよう。

図1 物流・ロジスティクス活動と環境問題のかかわり

2.物流コスト削減と環境負荷低減の関係

  輸送コスト削減と二酸化炭素排出量の削減の関係(図2)を例にあげて、物流コスト削減と環境負荷低減の関係について、具体的に説明する。
  企業の目的は、利益を追求し、企業を拡大・成長させていくことである。そのためには、売上を増加させることと、経費を削減することの双方が必要である。売上を増加させるためには、売上単価を上げることや売上個数を増加させることが考えられる。売上個数が増加した場合、これに伴い物流量も増加し、製品を運ぶために必要なトラック台数も増加し、最終的には輸送費用が増加するのである。そして、トラックを走行させるために使用する燃料(燃料使用量)が増加するため、排出される二酸化炭素も増加する。したがって、企業は、売上高増加を望めば、環境負荷が増加してしまうと言う、トレードオフに悩まされることになる。
  一方、利益獲得を経費削減から考える。企業は経費を削減するために、輸送コスト削減策を実施する。例えば、大ロット化することにより1車両あたりの積載量が多くなり、共同輸配送を実施することにより積載率が向上する。これらの輸送コスト削減策の実施により、1回あたりの輸送量が増加し、輸送するために必要となる輸送回数(トラック台数)が減少するのである。これより、必要となる燃料使用量が減少し、輸送費が削減されるとともに、排出される二酸化炭素も削減されるのである。同様に、拠点の見直しにより走行距離が短くなり、エコドライブにより燃費が良くなることから、燃料使用量が削減され、二酸化炭素排出量も削減するのである。
  このように、輸送コスト削減策の実施により、燃料購入費用が削減されると同時に、排出される二酸化炭素も削減されるのである。

図2 輸送コスト削減策と二酸化炭素排出量削減の関係

  ここまで輸送の例を挙げて物流コスト削減と環境負荷低減の関係を説明したが、包装資材についても同様の考え方が成立する。包装資材の購入量(使用量)を削減することにより、包装資材の購入費用が削減される。一方、一度使用された包装資材は最終的には廃棄されるため、購入量が削減されれば廃棄量の削減につながる。これがリデュース活動の効果である。また、排出されたモノをリユース活動やリサイクル活動により、再び資源として再投入することにより、廃棄量を削減できるとともに、購入量の削減にも繋がるのである。
  しかし、トレードオフについても考える必要がある。例えば、包装資材のリデュースを行った場合、確かに包装資材購入費用や環境負荷は削減されるが、製品の品質保持が難しくなり、破損率があがってしまうことが危惧される。このバランスを考慮しつつ、3R活動を積極的に取り組むことが望ましい。
  このように、物流コスト削減策の実行により、環境負荷が低減される関係が見られるが、具体的にどのような環境負荷削減方策があるのだろうか。参考になるツールが経済産業省より作成されている。「環境調和型ロジスティクス推進マニュアル(チェックリスト)*1」である。このチェックリストは、環境報告書やCSRレポートに記載されている、ロジスティクス分野における環境負荷低減の取組事例を収集し、体系的に整理したものである。チェック項目は111項目あり、自社の取り組み状況をチェックすることにより、現況が把握でき、他社の取組状況をベンチマークすることにより、今後の活動の方向性を決定することができる。

3.今後の展望

  今後、ロジスティクス分野における環境負荷低減活動を実施するにあたり、以下の点を指摘しておく。

1)改正省エネ法

  2006年4月1日に施行された改正省エネ法において、特定荷主や特定事業者として指定された企業は、2007年より定期報告書及び計画書を提出することになっており、この定期報告書の提出に向けて、多くの企業が、エネルギー使用量の算定に取り組んでいる。
  しかし、多くの企業は、自社の限られた経営資源の中で、算定に関する多くの疑問を抱えつつ、試行錯誤しているのが現状である。
  これをいかに効率的に行うかが重要である。他社の動向を参考にしながら効率的に取り組むためには、JILSのロジスティクス環境会議や、経済産業省と国土交通省が主催するグリーン物流パートナーシップ会議等に積極的に参加することが有効である。特に、ロジスティクス環境会議では、今春、「改正省エネ法対応ヒント集(ver.1)」を作成している。このようなツールの積極的活用が有効である。

2)商取引の見直し、部門間連携

  調達物流では、在庫リスク削減のための多頻度小口納品や緊急納品等を要求しがちである。つまり、自社が着荷主となるため、物流をコントロールし易い立場であると言える。しかし、これは同時に、調達物流(あるいは、取引先の販売物流)の環境負荷低減もコントロールし易い立場であるため、この認識の持ち、取引先と協議し、コスト面と環境面で有効な方策を見つけ出し、実践することが望まれる。
  また、販売物流でも同様であり、メニュープライシング、発注単位の見直し等により、効率的な物流が実現し、環境負荷を低減させる可能性がある。
  このように商取引を見直すことにより、物流が効率化し、環境負荷が低減することが期待できる。しかしこれは、物流部門単独で実現することは難しく、他社や自社内の他部門である調達部門や営業部門等との連携が必要となる。

3)国際物流

  大企業の多くは海外に進出しているため、国外における物流・ロジスティクス活動において積極的に環境負荷低減活動を実践することが重要である。また、環境報告書やCSRレポートには国内の取組事例の記載が多いため、進出先での物流や国際物流における環境負荷低減の取組事例を積極的に公表することが望ましい。

4)人材育成

  CSRの側面から考えても、環境経営や環境対応は継続実施されることが前提となる。そのため、ロジスティクス分野における環境経営、環境関連法令、環境負荷低減施策等を体系的に学び、環境負荷低減の計画・立案・実践ができる人材を育成することが重要であり、急務である。自社のOJTに環境を取り入れること、また、JILSが2007年2月より開講した「グリーン物流基礎コース」や、「グリーンロジスティクスエキスパート講座」等を活用することが有効であると考えられる。

5)グリーンコンシューマーの顕在化

  顧客起点の経営が進展し、顧客満足獲得に向けて、ロジスティクスシステムは発達してきた。この視点から考えると、顧客の考え方や行動が変わった場合、ロジスティクスシステムへの影響は大きいと思われる。
  近頃、新聞やテレビで地球温暖化問題が頻繁に取り上げられている。海面上昇で危機に瀕するツバル、前米副大統領ゴア氏が出演する「不都合な真実」の公開など、消費者は、常に刺激を受けている状況にある。環境省の調査によると、環境に良いことを積極的に実施している人の割合は、まだ低い状況であると報告されているが、消費者の環境問題への意識と行動が伴うようになり、ティッピングポイント*2を超えた時どうなるだろうか。
  環境問題が起因となり、ロジスティクスや物流も大きく変わるのではないだろうか。

【注】

*1

下記ホームページより、ファイルをダウンロードすることが可能である。
http://www.logistics.or.jp/search/chart/lems/index.html

*2

あるアイディアや流行もしくは社会的行動が、敷居を越えて一気に流れ出し、野火のように広がる劇的瞬間のこと。(マルコム・グラッドウェル 高橋啓訳 (2000) 『ティッピング・ポイント』 飛鳥新社。

以上



(C)2007 Nobuyuki Goseki & Sakata Logics, Inc.


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