ロジスティクス・レビュー

第117号物流センター設計・改善シミュレーションのメリットと課題(2007年2月8日発行)

執筆者 松川 公司
三菱化学エンジニアリング株式会社 プロジェクト第2本部
生産・ロジスティクス事業部 部長代理
    執筆者略歴 ▼
  • 所属 三菱化学エンジニアリング株式会社
    プロジェクト第2本部 生産・ロジスティクス事業部 部長代理
    http://www.i-emu.com/
    経歴   1993年 三菱化成株式会社(現三菱化学)入社
      1995年 三菱化成エンジニアリング株式会社
         (現三菱化学エンジニアリング)へ出向
          化学プラントの設計・建設に従事
      1999年 流通システム事業部(現生産・ロジスティクス事業部)へ異動
          物流・生産拠点の設計及びコンサルティングに従事
      2000年 エミュレーションセンターへ異動
      2006年 生産・ロジスティクス事業部へ移動
      現在に至る
    主な資格 物流技術管理士
    主要著書・論文 ・ 図解 ロジスティクスマネジメント(東洋経済新報社)
    ・ 流通ネットワーキング 2002年8月号「最先端物流センター構築法“エミュレーションエンジニアリング”」
    ・ 流通ネットワーキング 2003年12月号「エミュレーションエンジニアリングを活用した物流センターリニューアル法とその事例」
    ・ 日本OR学会 2005年春季研究発表会,実務者から見た「ロジスティクスネットワーク設計」のニーズと課題
    ・ 流通ネットワーキング 2006年7月号「ロジスティクス・ネットワーク再編」

目次

1.はじめに

  近年、物流センターの設計・改善業務にビジュアルなコンピュータシミュレーションを活用するケースが多くなっている。シミュレーションを用いることにより、アイデアがどの様な結果をもたらすかを事前且つ定量的に想定することができ、意志決定に極めて有効な情報を得ることが出来る。また、計画をビジュアルに確認する事ができ、メンバーとのイメージ共有にも活躍する(図1)。
  しかしその反面、使い方を誤るとミスジャッジを引き起こしかねないため、シミュレーションの特性を良く理解し活用しなければならない。
  このレビューでは、物流センター設計・改善業務に於けるシミュレーション活用のメリットと共に、その効果を最大限に引き出す為の取り組みについて記す。

図1. コンピュータシミュレーションを用いた物流センターの設計・改善例

2.シミュレーションを用いた物流センター設計・改善業務の動向

  私は2000年以降、シミュレーションを活用した物流センター設計業務に携わっているが、ここ数年その取り組みがより一般的になっている。
 その理由は二つ考えられる。
 一つはシミュレーションツール使用環境の改善である。
   ・コンピュータの進化に伴うシミュレーション環境の整備
   ・シミュレーションツールの機能・精度向上
 そして二つ目は使う必要に迫られた結果であると考える。
   ・物流センターオペレーションの緻密・複雑化
   ・物流センター設計・改善計画の失敗が許されない環境
 この二つ目の理由は大変重要な意味合いを持つと考える。これからの物流センター機能は、より付加価値サービス化、組立加工化へと進化すると考えられ、オペレーションは更に緻密・複雑化する事となる。従って、シミュレーションによる事前且つ定量分析は益々不可欠となるであろう。
 また、もう一つの動向としてシミュレーションの対象が「マテハン機器」から「人手作業」へ移行している点があげられる。
 その理由は二つ考えられる。
 一つは近年の物流センター自体がフレキシブル性を求められた結果、作業プロセスが固定化される「マテハン機器」よりも、「人手+情報システム」で構築される傾向が強く、またそれが物流センター全体のパフォーマンスを決定づける要因となっているからである。
 二つ目の理由は、人手作業をシミュレート出来るツールの機能・精度向上に依るものである。人間の動作及びその判断基準は、マテハン機器に比べ遙かに複雑である。従来これを再現するのは技術的に困難とされてきたが、近年これを実現する高度なツールが開発されている。
 この様に、シミュレーションは今後もその重要性を増し、それと共に進化すると思われるが、これはあくまで設計時間の短縮、設計品質の向上、説得力の向上を目的とした設計業務の支援手段であり、本質は今までと何ら変わらない。

3.シミュレーションを用いた設計・改善業務の流れ

  シミュレーションを活用する目的の多くが、物流センター新設・改造、物流センターオペレーションコストの削減、物量・オーダー特性変化時の影響評価、顧客別収益評価、外注委託費評価である。その際の設計・改善の手順は下記の通りである。
   ・あるべき物流センター像をコンピュータ内にモデル化
   ・あるべき物流センターイメージをプロジェクトメンバーと共有する
   ・イメージから異常や問題が無い事を確認する
   ・イメージから新たな改善のヒントを見いだす
   ・あるべき姿の設計効果を定量的に予測する
   ・問題無いことを確認した上で着工する

図2. シミュレーションを用いた物流センター設計・改善業務の流れ

  この様に、シミュレーションを活用することで、従来よりも多くのメンバーとイメージを共有し、知恵を折り込む事ができ、設計効果を確認した上で着工する事が可能となる。これがもたらすメリットは非常に大きく、私も現在まで多くのプロジェクトで実感している。
 また、設計・改善対象となる課題は「運用問題」と「設備問題」の二つに分けることが出来る。
 運用問題とは、
   ・作業プロセスの変更
   ・作業方法の変更
   ・ 要員数及び配置の変更 等
 であり、設備問題とは、
   ・レイアウトの変更
   ・動線の変更
   ・設備仕様の変更
   ・在庫ロケーションの変更 等
 である。
 これらを評価する指標として、最近のシミュレーションツールは下記の様な結果を算出することが出来る。
   ・作業時間分析
   ・動線分析
   ・移動距離分析
   ・物流ABC(Activity Based Costing)分析
 この様に、シミュレーションを活用することで多くの課題を定量的に比較することが可能となり、意志決定に有効な情報を得ることが出来る。しかし、この結果の取り扱いには幾つか注意すべき事項がある。

4.シミュレーション活用の注意点

  シミュレーションツールはあくまで入力したデータを正として取り扱い、ありのままの計算結果を提供する道具である。従って与えるデータ、モデルのロジックが不適切であれば、当然ながら適切な解は得られず、折角のシミュレーションを十分に活用出来ないのである。
 ここで、シミュレーションの活用メリットを最大限に引き出す為の取り組みを三つ記す。
(1)シミュレーション業務開始前にその条件を明確にすること
 シミュレーション業務を開始する前に、メンバー間や関係部署と下記内容を決定し、意識を統一する必要がある。これらが曖昧であると、見た目には正しくても間違った解を出すことになる。また、これらが途中で変更されると、業務が振り出しに戻り、大幅な工期の延長や費用の増大が発生する事となる。
   ・シミュレーション目的の明確化
   ・シミュレーション評価項目の明確化
   ・制約条件と前提条件の明確化
   ・変更される可能性のあるデータの明確化
   ・モデリングの対象範囲の明確化
   ・必要とされるシミュレーション解の精度の明確化
(2)適正なサンプリングデータを選定すること
 シミュレーション結果はモデルその物よりも、入力するデータの特性に大きく影響を受ける。例えば繁忙期、閑散期、平均期のどのデータを採用するかで結果は全く異なる。シミュレーションの目的に応じ、どのデータをサンプリングすべきかを慎重に決定する必要がある。
(3)シミュレーションを行うことで新たに生じる業務を認識すること
 シミュレーションを行うことで新たに生じる業務を認識しておく必要がある。シミュレーションを行うことで、設計者の作業負荷が軽減されるように思われがちであるが、必ずしもそうとは言えない。特に入力データの収集、編集等の準備作業は実に業務の半分程度を占める。
 また、全てのシミュレーションデータが揃っていることは稀である。欠落した情報を如何にして補間するかが解へも影響を及ぼす。新たに収集する事となれば更に時間を要す。事前にどこまでデータ整備されているかを確認する必要がある。
 更にシミュレーションモデル及びその解の検証と妥当性評価を行う必要がある。私の経験上、この作業が最も労力を要す。未だ設計者に解の信頼性と妥当性を見極める能力が求められ、ここにシミュレーションの難しさがある。

5.最後に

  ここまでシミュレーション活用のメリットと共に、その効果を最大限に引き出す為の取り組みについて記してきた。
 果たしてシミュレーションは今後どのような発展を遂げるのであろうか。一つの方向性として考えられるのが「エンジニアリングツール」から「マネジメントツール」への進化である。設計・改善等のエンジニアリング局面の活用だけでなく、物流センターのパフォーマンスチェック等のマネジメントへの適用が考えられる。弊社のエンジニアリング手法”エミュレーションエンジニアリング”で使用する独自シミュレーションツール”Opt-Emu”では幾つかの画期的手法を開発し、効率的なシミュレーションだけでなくマネジメントツールとしての活用が可能である。
 今後、シミュレーションが物流センターの設計・改善面だけでなく、マネジメント面でも大きな役割を果たすことで、物流業界の更なる発展に寄与する事が出来ると考える。

以上



(C)2007 Masashi Matsukawa & Sakata Warehouse, Inc.


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