ロジスティクス・レビュー

第116号在庫理論の適用方法(2007年1月23日発行)

執筆者 片山 正樹
フットワークエクスプレス株式会社 SCMソリューション事業部
ヴァイスプレジデント
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1992年 上智大学大学院理工学研究科修了
      同年味の素株式会社入社
    • 2002年 DHLジャパン株式会社入社
    • 2005年 佐川急便株式会社入社
    • 2006年 フットワークエクスプレス株式会社入社

目次

1.はじめに

  売れないものをなるべく動かさない無駄の少ないロジスティクスの実現には、必要最小限の在庫を保有したうえで、売れたものだけを補充する在庫管理システムが不可欠である。そして、その基礎となる理論は、需要のばらつきに応じた安全在庫を統計的手法を用いて求めるという在庫理論として、既に50年ほど前から知られている。しかし、ロジスティクスの実現に不可欠な理論であるにも関わらず、実務への適用は限られている。
  その原因の一つとして、需要が季節により大きく変動するいわゆる季節商品には、直近の需要データのみから適正在庫を算出する手法は使えないということがいわれている。世の中の多くの商品は、多かれ少なかれ売れ行きに季節性が存在するため、この問題に対応することは重要である。
  本稿では、従来の在庫理論を広義に捉えることにより季節商品に適用して成功した事例を紹介し、在庫理論の適用方法について考察する。

2.在庫理論の限界

  在庫理論では、定期発注方式での適正な発注量が次式により算出できることが知られている。

  この理論は既に使い古された感があるが、売れ行きの安定した定番品で調達リードタイムが短い場合には抜群の効果を発揮する。また、Microsoft Excelの関数の知識とVisual Basicの知識があれば、日々の需要(出荷)データからシミュレーションを行うことができ、在庫理論に基づいた発注をしていれば指定した欠品率内で出荷が滞りなく行えることをビジュアルに証明することが可能である。図1にその一例を示す。このように過去実績からはっきりとしたシミュレーション結果を示すことができるため、例えその在庫が現実の在庫よりはるかに少なくても、現場から出てくる過少在庫の不安を取り除くことができる。

図1. 在庫理論に基づいた発注を行った場合の在庫推移シミュレーション例

  しかし、この理論だけでは対応できないパターンが存在することも事実である。その一つに、季節により需要が大きく変動する季節商品への対応があげられる。元々この理論は需要に応じて在庫レベルを可変とするところに特長があるため、商品ごとに固定で何ヶ月分の在庫を持つというやり方に比べれば需要変動にロバストに対応できる。しかし、その需要変動が急激な場合には対応できず、需要が何らかの原因で上昇傾向や下降傾向に転じた場合に、それぞれ欠品や在庫過剰が生じるというのが、季節商品に適用できないといわれている理由である。

3.需要予測による対応方法

  この問題に対しては、通常、需要予測を併用することにより対応される。つまり、サイクル在庫を発注サイクルと平均需要の積で求めるのではなく、サイクル期間中の需要を一括で予測した値を用い、一方、安全在庫は需要の標準偏差の代わりに、需要の予測値と実績値の差の標準偏差を用いて計算される。
  しかし、季節商品の需要予測は過去何年か分の需要データから季節性を判断するため、年により需要パターンが変わると対応できない。そのため、消費動向の移り変わりの激しい昨今では、折角高価なシステムを構築したのにも関わらず活用されないというケースもあるようである。

4.簡易的な対応方法

  在庫理論において、サイクル在庫を直近過去の平均需要から求めているということは、次のサイクル期間にも直近過去の需要量が継続すると仮定し未来の需要量を予測しているとみなすことができる。また、安全在庫は平均需要(予測値)からの振れをカバーする在庫量を定量化したものとみなすことができるため、式(1)は次のように解釈できる。
 
発注量 =サイクル在庫+安全在庫-現在庫量  
      =予測需要量+予測外れをカバーする在庫量-現在庫量 (2)  

  在庫理論が季節商品に適用できないといわれるのは、需要トレンドが上昇または下降しているにもかかわらず過去需要の平均で需要予測しているためである。従ってその場合には、単に過去の需要平均を用いるのではなく、過去の需要トレンドを延長することにより次のサイクル期間の需要を予測すればよい。図2に需要トレンドを考慮することによる効果の例を示す。
図2. 需要予測方法の違いによる予測量の差異
(過去1ヶ月のデータから直近10日の需要を予測する場合)

  このアルゴリズムは、Microsoft Excelを用いる場合GROWTH関数を使えば計算できるため、表計算ソフトを使った簡易なシステムでも容易に対応可能である。尚、需要の標準偏差は、従来通りの計算で実用上は問題ないと思われる。

5.適用事例

  卸売会社A社は取扱商品が約300アイテムあり、うち約半数は需要に季節性のあるアイテムである。中には売れる月と売れない月の差が約8倍もあるアイテムも含まれる。それぞれのアイテムにつき、上記のアルゴリズムに基づくシミュレーションを行った結果、季節性の強い商品についても図1に示すような結果が得られ、許容欠品率内で運用できることを確認できた。
  同時に、在庫金額が約60%削減可能であることも確認できた。
  そして、本アルゴリズムを組み込んだ運用システムを、Microsoft Excelで非常に安価に自作することにより、ほぼシミュレーション通りの在庫金額半減が達成されている。

6.考察

  季節商品について、需要予測ソフトを使わなくても、表計算ソフトレベルで可能な簡易的な工夫をすることにより、在庫理論を適用できた事例を紹介した。だからといって需要予測ソフトが使い物にならないといっているのではないことを付け加えておきたい。今回は予測する需要が直近未来のものだったため簡易的な予測手法が使えたが、何ヶ月か先の需要を予測するにはやはり高度な手法が欠かせない。納品リードタイムが何ヶ月もかかるようなケースがそれである。
  しかし、問題の切り分けを行うことにより、在庫理論が使えないと諦めていたケースでも、工夫次第で適用可能なことが以外と多いのではないかと思われる。在庫理論で言わんとしていることは、式(2)に示したように極めて当たり前のことだけである。従って、在庫理論はそれだけでは使えるものではないベース理論だと割り切って、個々のケースに合うようにアレンジしていくことが必要だろう。

以上



(C)2007 Masaki Katayama & Sakata Warehouse, Inc.


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